菅内閣が就任早々に打ち出した施策のなかでデジタル庁の新設が大きな注目を集めている。コロナウイルス対策のなかで全世帯への給付金配布についてマイナンバーカードの活用が利用しようとの計画もマイナンバーカードの普及がわずか13%程度で全世帯配布に至るまで2カ月も要したことや、コロナウイルス感染者数の把握にFAXが利用されていることが問題視」され、我が国のデジタル化がいかに遅れているかが露呈し、国を挙げてデジタル化に取り組む必要があきらかとなったことから、まず官公庁が率先して取り組もうということになった。それ自体は歓迎すべきことではあるが、ここへきてマイナンバーカードと自動車運転免許証を一体化しよう、との話が持ち上がってくるのに及んであらぬ方向へ進んでいるのではないか、と危惧される事態となってきた。
マイナンバーカードは9月から実施されたマイナポイント事業もあって9月には2469万枚の普及となったが、まだ世帯普及率は20%そこそこにとどまっている。これをさらに高めるために打ち出されたのが今回の自動車運転免許証との一体化であろう、と推察される。しかし、実施が2026年の予定で、6年も先のことである。なぜ6年もかかるのか、理解に苦しむところである。まず、マイナンバーカードと免許証が一体化されて、一体どんな利点があるのだろうか。マイナンバーカードのICチップには免許証のデータ以上に乗せるべき個人情報はいくらでもある。そちらをさておいて、まず免許証データを載せるという理由がわからない。
住民個人が役所へ届け出る書類には戸籍、住民票から始まって確定申告書、パスポート申請書などいっぱいある。こうした各種の書類申請にあたって、マイナンバーカードひとつで用が足せるようにしてほしい、というのが庶民の願いである。これらの申請書類には必ず印鑑を持参しないといけないが、政府は並行して行政改革の一環としてハンコの追放を進めているようだが、マイナンバーカードひとつで済むようにしてもらいたいものである。
それにはまず各官庁で進めているIT化を共通のものとし、全官庁のシステムの統合を進めることが先決である。でないとどこの官庁へ行ってもマイナンバーカードひとつあれば用が済むということにはならない。一応、デジタル庁の発足は2022年となっているようだが、全官庁のシステム統合を以てデジタル庁の発足ということになると、とてもあと2年足らずで完成するというわけにはいかないだろう。だから、マイナンバーカードと免許証の一体化は2026年としているのかもしれないが、世界的にはデジタル化の進展は日進月歩であり、そんな悠長な計画では日本はますますグローバルな動きのなかでと取り残されてしまうことだろう。
あと懸念されるのは仮にマイナンバーカードと免許証が一体化された段階で、交通取り締まりに当たる警察官が交通事故を起こした運転者から提示されたマイナンバーカードから免許証データをどうやって読み取るのか、という問題がある。マインバーカードの表面に運転者データが目視できるようなものが記載されているのか、だとしたら一体化する意味があまりないだろうし、読み取り機でも使って打ち出すような仕組みにするのでは手間がかかって仕方がないだろうし、いずれにしろデジタル化の意味がないこととなりかねない。
こうした問題は今後の展開でいくらでも起きかねる問題である。マインナンバーカードのICに搭載するデータが増えれば増えるほど後処理の問題がひとつづつ増えてくることになる。便利になればなるだけ、仮にマイナンバーカードを落としたり、破損した場合のアフターケアがより複雑になってくる。データを処理する側の論理でけで物事を進めていくと、最終利用者である住民の側の負担も増していくことになる。住民へのサービス向上を図るためにはいいことでもそのためのコストや利用環境を考えると果たしていいことか、わからないこととなってくることもありうる。ここはよく考えてほしいものだ。