26日は東京・初台の新国立劇場で、英国人テレンス・ラティガン作の演劇「ウィンズロー・ボーイ」を観賞した。この9日から公演していた演劇で、公演の最終日とあってか、満員の盛況ぶりで見る前から期待を抱かせた。特に演劇で千秋楽にあたる最終日に観劇するのは初めてのことで、なにかあるのか、と思って見ていたが、カーテンコールで出演者全員が3度現れ、主演の俳優2人が手を振って観衆の拍手に応えていたくらいで、これといったシーンはお目にかかれなかった。演じている方にすれば、何回もあることなので、淡々と臨んだということなのだろう。それにしても3時間の演劇であったが、十分に見応えのある演劇ではあった。
「ウィンズロー・ボーイ」は英国の中流家庭ウィンズロー家の少年といったタイトルで、日本流にいえば”田中家の少年”というありふれたタイトルで、これだけでは一体何のことを描いたものであるか、という予測はつかない。舞台は20世紀初頭の第1次世界大戦の前の英国のロンドン郊外のウインズロー家の居間に海軍兵学校に寄宿していたはずの次男、ロニーが突然、家に帰ってきて、家政婦に迎えられるが、何か事情があるのか、父母や兄、姉に会いたがらない雰囲気であるところから始まる。その日はたまたま姉キャサリンの結婚が決まる日で、父母はそのために婿を待ち構えている。その婿が型通りの挨拶をしてめでたく結婚が決まった後に家族で乾杯をすることになり、家政婦がロニーが帰省していることを口を滑らせてしまう。
あおれを聞いた父のアーサーは烈火の如く怒り、即刻ロニーを呼んで問い質す。で、ロニーは海軍兵学校で5シリングを盗み、退学となった事実を打ち明けるが、汚名を着せられたものだ、と主張する。それを聞いたアーサーは即座に敏腕の弁護士に頼み、海軍に異議を申し立てることを決意し、行動を起こすに至る。ところが、それがことは海軍のみならず、政府にまで盾を突くことに発展し、英国議会にまで影響を及ぼすことになり、以後長い間にわたり新聞紙上のみならず世間を騒がすこととなり、ウィンズロー家に大きな影響をもたらすこととなる。
ひつつには訴訟費用の負担が大きくのしかかり、キャサリンの婚礼のみならず兄ディッキーの学業生活も断念しなければならないこととなる。さらには世間のウィンズロー家に対する見方が豹変し、あの問題のウィンズロー家との言い方をされるようになる。ウィンズロー・ボーイとはそうした意味が込められている、というわけである。それで父アーサーも訴訟の行方にはすっかり弱気となるが、最後は姉キャサリンの意向で当初の目論み通り、最後まで行くこととなる。
で、最後は相手側が非を認め、ウィンズロー家の申し立ては全面的に認められることとなり、めでたしめでたしというこおtになるが、それにしてもウィンズロー家の払った犠牲は大きく、よかったといって喜んでいいものかどうか考えさせる結末となり、観ていた観客に考えさせるものとなった。
あと全体にコメディ的な要素が随所に盛り込まれていて、どこかで笑いを誘うような場面が結構あったが、そのせいか主人公の奥さん、グレイスを務めた竹下景子がそれほどシリアスなセリフがなかったせいか、コメディ的な役回りをさせられていたのが気になった。出演者のほとんどがそれほど有名な役者がいなかっただけにちょっと気の毒な感じがしたのは鈍想愚感子だけだったのだろうか。