prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ(2)

2005年08月09日 | フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ(シナリオ)
11 スタッフルーム
小人「いいんだよ」
納得できない顔の秋月。
小人「原作料を払わなくていいし」

12 神社・境内
テキ屋(金坂)が店を出している。
金坂「さあ、そこのお兄さんお姉さん、お父さんお母さん、よってらっしゃい見てらっしゃい。ここにずらり並べましたる腕時計。たかが腕時計とおっしゃるなかれ、かのスイスはローレックス社特製、舶来の一流品だあ、銀座京橋のデパートで買ったら七万八万は軽くいかれる、給料の三ヶ月分がふっとぶという高級品、これを輸入した神戸のさる貿易会社、景気がいいのに調子に乗り、買い込みすぎて二十万の手形が買い戻せないばっかりに倉庫の中身をうっちゃって夜逃げした。人の恥をさらすのは仁義にもとる、この時計がどういういきさつでここに並ぶに至ったかはさておきまするが、本日は出血大サービス、一つ一万でどうだ、これを逃したら二度と手が出ないよ、あとで後悔しても間に合わないよ…」
と、いった調子でタンカバイをしている。
寅さんとは違って、はっきりとヤクザとわかる目つき顔つき。
前には若い男(吉田)がいて、変なタイミングで、「なるほど」「たいしたもんだ」といった合いの手をいれている。
客の一人(山本三助・55)が時計の一つを取り、裏返す。
吉田「(みとがめて)ちょっと」
山本、時計の裏蓋を回し出す。
吉田「おっさん、何してる」
山本「客が文句つけたら、サクラだってばれちまうじゃないか」
吉田「何ぃ?」
金坂「(吉田に)馬鹿野郎!」
吉田「(とまどい)え?」
金坂「(山本にぺこぺこして)ご苦労さんです」
山本「いくらまがいものを売るにしても」
と、裏蓋を外す。
山本「俺はもっとうまく作ってたぜ」
メMADE IN JAPANモの文字が外したあとに見える。
金坂「へえっ」
山本、時計を投げ出して去る。

13 前線座・前
「ぼくは負けない」
のポスターが剥がされる。
代わりに「世界の夜探訪記」という題の見るからに怪しげな映画のポスターが貼られる。
清水が(許すまじ)とまなじりを決してそのポスターを見ている。
清水、どかどか入場券も買わずに場内に入っていく。

14 同・ロビー
仁科(もぎりのおばさん)「もし、入場券は?」
構わずポスターの裏側にまわり、蓋を開ける。
(蓋の裏にポスターを貼 るようになっている) 仁科「ちょっと」
ポスターを剥がそうとする清水。
仁科「何をするんだ、この人は」
と、組み付いて引き離す。
清水「なんでこんなに番組が変わったのよ」
仁科「ここの持ち主が変わったんですよ」
そう言ったそばから山本がやってくる。
仁科「(山本に)お帰りなさい」
清水「この人が(持ち主)?」
仁科がうなずくより早く、 清水「話があります」
と、また中に入りかける。
仁科、また力づくで叩き出す。
どうも女相撲とりのような大力の持ち主である。
山本「もう少しお客さまは大切に扱いなさい」
と、ぷいと事務所に入る。
清水「(抵抗をやめ、息を整えて)一つ聞きたいんだけど」
仁科「なんでしょう」
清水「『わたしは負けない』って映画、ここでかける予定ある?」
仁科「(面倒臭そうに)いいえ、これからの番組は大体あれ(世界の夜探訪記)と同じ路線でいくはずです」
清水、不審な顔。
その後ろをすうっと入場券を出さないで清水にどんとぶつかり、 「ソーリー」
と言って通り過ぎ、場内に消えた男(トニー早川)。
派手なアロハシャツにサングラス、チューインガムをくちゃくちゃかんでいる無作法な態度。
進駐軍所属の通訳といった雰囲気だ。
清水「誰、あれ」
仁科「さあて、うちの社長のところによく出入りしてるんだけど、何者なのかしらね。
日系二世っていうんだけど」
清水「あの人、いつからここの経営を?」
仁科「つい最近。
(嫌な顔をし)大きな声じゃ言えないんだけどね。
乗っ取ったのよ。
この映画館だけじゃなくて、そんなのが他にもいくつもあるっていうけど」
  清水、顔つきが険しくなってくる。
仁科「余計なこと言っちゃったな」

15 日めくりカレンダー
1月6日。

16 撮影所・第3ステージ
クランクイン直前。
監督の扶桑、撮影監督の宮下、助監督の黒井、美術の佐山ほか、スタッフが準備を進めている。
宮下「なんとかならないのかよ、このセット」
佐山「しょうがないだろう、全部ありあわせなんだから」
宮下「ほこりぐらい払ったらどうだ」
佐山「そんなこと言ってられる余裕なんかあるか。
一週間だぞ」
宮下「(照明の岡本に)おい、そっちのライト消してくれ」
スタッフがちょっと乗ると、ぐらぐらして上からほこりが落ちてくる。

17 同・控え室1
福田、山崎、広瀬の三人娘が着付けを終えて、メイクを整えている。
(衣装担当・栗田、メイク主任は秋山)
福田「…結局主役は誰なの?」
山崎「見たこともない」
広瀬「聞いたこともない」

18 同・控え室2
団が面接に来た時のままの扮装を終えている。
秋山も扮装を終えているが、落ちつかず、狭い部屋の中で竹刀の素振りを始める。
黒井「(顔を出し)…準備できました」

19 同・第3ステージ
団、赤沢がやってくる。
もう三人娘は揃っている。
扶桑「…(いらいらした調子で怒鳴る)主役はどうした」
黒井、とんでいって帰ってくる。
黒井「来ました」
扶桑「よし」
と、来た大平の格好を見て、唖然とする。
何を間違えたのか、白無垢に角隠しの、花嫁衣装だ。
ご丁寧にも左前に着物を着ている。
福田「何あれ、左前じゃない」
山崎「着付けも知らないらしい」
広瀬「馬鹿にしてる」
扶桑「(怒鳴る)衣装係! 何やってるんだ」
栗田「(現れて)今この格好でついたばかりなんです」
扶桑「一人でか」
栗田「あと、運転手が一人。
先生は忙しいので当分来られないとか。
先生って何です」
扶桑「(答えず、栗田に)なんとかならないのか」
栗田、言われるより早く大平の衣装 を点検する。
×   ×
大平の打ち掛けを裏返す。
と、裏地は柄物になっている。
裏返して着付け、なんとか格好をつけようとする衣装係たち。
三人娘、やる気をなくした様子。
小人、やってくる。
小人「何をしてる。
もうクランクインしている時間だろう」
扶桑「(言い訳しようとする)」
小人「言い訳はいい。
いますぐ、始めろ。
とにかく一週間であげるんだ」
扶桑「(ため息をつき)…みんな、位置について」
ばたばたしながら全員位置につく。
大平をとにかくセットの真ん中に据える。
黒井「照明、OK?」
岡本「OK」
黒井「キャメラ、OK?」
宮下「OK」
黒井「ロール」
カメラが回転する。
扶桑「はいっ」
黒井、カチンコを叩く。
カチンコに書いた文字の白墨の粉がぱっと飛ぶ。
宮下、舌打ちしてカメラを止める。
小人「キャメラ、回せ」
宮下、え、という顔。
小人「回せ」
宮下、カメラを回す。
扶桑「カット」
カメラ、止まる。
小人「いいか、NGはなしだ。
全部一発勝負でいけ。
うまくいかなくても気にするな」
×   ×
大平扮する芸者と赤沢扮する手代が 心中する場面。
赤沢「(剃刀を構え、うわずった声で)これもみんな封建社会がいけないんだ」
大平はまるで芝居ができず、ぼーっとして聞いているだけ。
二人のバックで、上からバケツが落ちてきて、がらがらがしゃんと大音 響をたてる。
小人「気にするな。
音もあとで切ればいい」

20 黒井の台本
撮ったシーンが×で消される。

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フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ(3)

2005年08月09日 | フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ(シナリオ)
21 第3ステージ 黒井、食紅を大平の口に含ませる。
扶桑「アクション」
大平、肺病の発作の芝居を始める。
ごほごほせきをする。
芝居でやっているうちに、本当にせきが止まらなくなる。
扶桑「…(目を覆う)」
大きくせきばらいして、やっと止まる。
顔に当てていた手をどけると、食紅が手からついて、顔が赤鬼のように真っ赤になっている。
×   ×
扶桑、(まともに見てられない)という感じでサングラスをかけている。
何か読んでいる大平。
扶桑「…台本なんて読まなくていいから、早くきてくれ」
大平「台本じゃありませんよ」
扶桑「なんだい」
大平、カメラ前に向かいざま、読んでいた本を渡す。
扶桑「(見て)…?」
横文字の本だ。
戸惑うが、すぐ仕事に戻る扶桑。
×   ×
団扮する侍が捕り手に囲まれている場面。
団が次第に傷ついていく。
シリアスにやったら、悲壮美の場面になるところだが、捕り手役が少ないので、切られた奴が横にずっていって立ち上がると、またかかっていく。
しまいには、かかっていく捕り手の方が笑いだしてしまう。
笑いながらかかってくるのを団の方はひたすら大真面目に切り倒す。

22 黒井の台本
×のついたページが増えていく。

23 日めくりカレンダー 一枚一枚めくられていく。

24 撮影所・第3ステージ 芸者姿の三人娘、輪唱するように一斉にあくびする。
スタッフは大平にかかりきりになっている。
ぐだぐだやっているうちに三人の位置が変わってしまう。
黒井「キャメラ、OK?」
宮下「OK」
位置を変えたのに気がつかない。
黒井「ロール」
三人娘、あわてる。
扶桑「はいっ」
そのまま撮ってしまう。
扶桑「カット。
OK」
結局誰も気がつかない。
がっかりする三人。
×   ×
そのままのポーズで、貧乏暮らしに いる姿になる。
(気がくさっているのがそのまま姿 に出た形)

25 日めくりカレンダー
1月13日になる。

26 黒井の台本
ほとんど×で埋められているが、まだ残っているところもいくらかある。
小人の声「撮らなくていい。
終わりだ」

27 小人の事務所
電話している小人。
秋月、傍らで事務をとっている。
小人「スケジュールの変更はしない。
撮れなかったら、撮らなくていい」
その大声に、秋月がちょっと小人の方を見る。
小人「命令だ」
電話を切り、開けてあった金庫の扉を脚で閉める。
一瞬金庫の中の札束が見える。

28 撮影所・正門
キャデラックがゆっくりと乗り付ける。
浅間(運転手)「(窓を開けて、受付に)扶桑組の見学に来ました」
毛利(受付)「あそこの撮影はもう終わりましたよ」
田中「終わりぃ?(後部座席で、きょとんとしている)」
丁度そこに黒井に送られて大平が来る。
浅間、いともいんぎんにすっと降りてきて、後部座席の扉を開く。
そして小さな足拭きを地面に敷く。
大平、ちょっと足を拭いてすっと乗り込む。
浅間、さっさと運転席に戻って車を出す。
あくまで流麗な動き。
田中「(まだきょとんとしている)」
電話の呼出音。
出る音。

29 小人の事務所
秋月「…(小人に聞かれないようにしながら電話している)」

30 同・スタッフルーム
秋月の声「…まだ解散しないでおいて下さい」
不完全燃焼といった感じで撮影スタッフたちが休んでいる。

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フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ(4)

2005年08月09日 | フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ(シナリオ)
31 ダビングスタジオ・外景

32 同・中
ダビングスタッフの一人、林が一人で初期のロックンロールを聞いている。
完全にはまっているようす。
扶桑「おい」
林「(聞いてない)」
扶桑「おいっ」
やっと気づき、しぶしぶ来る。
×   ×
荒つなぎされた白黒のプリントが上映される。

33 同・スクリーン
(以下、映画中映画のシーンNoには―が入る)

33―1 女郎屋の裏手(白黒)
大平が血を吐く。
血を吐く。
血を吐く。
いくつものテイクをみんなつなげたのだ。
スプラッタムービーと間違えそう。

34 同・中
林「(あまりのしつこさにうんざりして)なんだよ、これは」
小人「(扶桑に)NGを出すなって言ったろう」

35 同・スクリーン

35―1 女郎屋・座敷(白黒) 畳をかきむしって慟哭している赤沢。
ものすごく下手な芝居。
音はついていない。
バックの障子にすうっとスタッフの影が写る。
(いけねえ)という感じであわてて出ていく。

36 同・中
扶桑「(ふてくされたように)ほら、こんなのだってNGは出してませんよ」
林「なんでこんな気が滅入る場面ばかり続くんですか」

37 同・スクリーン

37―1 女郎屋・座敷(白黒)
三人娘が泣き女のようにめそめそしている場面。
福田「あたしたちがいけなかったのよ」
山崎「あたしたちが話を聞いてあげていたら」
広瀬「許してちょうだい」
団「(いきなり現れ、うって変わって威勢よく)泣いていないで、立ち上がって戦うんだ」
いきなり、ロックンロールの音が鳴り響く。
まったくのミスマッチ。

38 同・中
扶桑「おい、なんだ」
林「音楽だけでも威勢よくしないと、見てられませんよ」
言い争いが始まる。
それをよそに、小人が所員に呼び出されて出ていく。

39 同・スクリーン

39―1 白い塀の前(白黒)
今たんかをきったばかりの団が捕り手にぼろぼろに切り刻まれている。
音楽はあくまでロックンロール。

40 山本の事務所
電話をかけている山本。
「ああ、うちのコヤにかけたいっていうシャシンだけど、できた? まあ、前のオーナーの約束だけど、あたしは義理堅いから、ほんとよ…仁義守りますよ…そう、だったら見たいんだけどね。
すぐ? ああ、早い方がいいけど。
じゃ、開けとく」
言いながら金勘定している。

41 ダビングルーム
小人「(入ってくるなり宣言口調で)これからプリントを映画館の持ち主に見せる」
扶桑「…いいんですか」
小人「いいんだよ。
支度しろ」
扶桑「このまま持っていくんですか」
小人「批評家に見せるんじゃない」
まったく自信のない扶桑の表情。
映写機が止まる。
林「ちょっと、まずいですよ、それには」
その困った顔を断ち切って、

42 前線座・出入口
終映後。
客がぞろぞろ出ていく。
頭を下げるでもなく傲然とそれを見送っている仁科。
代わりに入っていく小人。
ちょっと遅れて秋月がフィルムの缶を手押し車に乗せて入ってくる。
仁科「きょうはもう終わりです」
小人「支配人と約束があるんですが」
山本「(現れて)できたの?」
小人「はい。
初めまして」
と、名刺を出しかけるのを無視し、 山本「ああ、初めまして。
(秋月が持ってきたフィルムを一瞥して)あれ?」
なんとも横柄な態度。
山本「(仁科に)じゃ、あれを映写室に持って行って」
仁科「きょうは終わりじゃないんですか」
山本「(聞いていない)映写中は誰も入れるなよ」

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