prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ラブ・アクチュアリー」

2004年03月31日 | 映画
2時間15分もあるのに、登場人物が多彩で役者がうまくて各シーンの切り上げ方がよく音楽の使い方がうまいもので、あまり見応えとか重量感はないが、ほとんど飽きずに見通す。ラストはほとんどつけたりだが、無理にそれぞれのエピソードをつなげようとしないのもこの場合はいい。

ヒュー・グラントが英国首相役というのは軽さを含めて案外似合う。アメリカに対する反発がこうあからさまに描かれるのは珍しい。
(☆☆☆★★)


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「テキサス・チェーンソー」

2004年03月22日 | 映画
オリジナルの「悪魔のいけにえ」は、作ろうとしても作れない、半ば偶然のように生まれてしまった傑作だと思う。低予算ゆえの極端に即物的な描写と無意識過剰な演出が、舞台になるテキサスの田舎のなんともいえない無気味な空気を巧まずして丸ごと捕えてしまっていた。

それをネタが割れた上、贅沢な体制で作り直すというのは本来ムリのある話なのだが、ムリを承知の上で小技に工夫をこらしていて結構見せる。出だしでバンに乗ってくるのをサイコな男から先輩の被害者の女の子に変えて、それがとんでもない行動に出たもので逃げるに逃げられなくなるあたり、若者たちが逃げられるはずなのにうろうろして殺される単細胞スラッシャー・ムービーとは一味違う。大仰な映像と音響はいいかげんこっちもマヒしているのであまりびっくりしない。オープニングとラストは映像のトーンとは裏腹に一種の伝説的なニュアンスを出している。

保安官に「フルメタル・ジャケット」のハートマン軍曹ことE・リー・アーメイを配して、アメリカ保守層のいやぁな感じを出したあたりも考えている。いやらしすぎて不愉快にもなるが。レザーフェイスがちらっと別の仮面をつけるのはいいが、それきりなのはちと雑。あと素顔を見せちゃいけません。

舞台を一軒家に住む一家の話からかなりあちこち広げているのはショー・アップにはなっているが、もともと食肉加工で生計を立てていた一家が景気が悪くなるとともにおかしくなったという“核”の部分を外すことになった。子供には罪がないように描くあたり、いかにもコビてる。そういう欺瞞的なところを含めて、ブッシュの地元という感じ。
(☆☆☆)


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「マスター・アンド・コマンダー」

2004年03月19日 | 映画
18世紀の帆船の生活をさまざまな角度から丹念に再現しているのは見ものだけれど、そこで満足しちゃったみたいで、ナポレオン軍との戦いがメインなのか、船長と船医の友情と確執を描くのか、少年たちと船長のドラマなのか、自然科学の勃興を描くのか、どれも平行して追いかけていて焦点がはっきりしない。航海の最中に描写を絞り切っていて、見事に男しか出てこない。望遠鏡で覗いた映像で、ガラスが歪んでいて像がぐにゃっとしているあたり、芸が細かい。

死んでいるかどうか鼻に針を刺して確かめる云々という台詞があるから、…の死体が出てくるところで何もしないので?と思ったら案の定。だけど、ホラーじゃないのだから、そういうひねりって意味あるのかな。

アカデミー撮影賞・録音賞を受賞しているけれど、ラッセル・ボイドの撮影とすると同じピーター・ウェアーと組んだ「ピクニック・at・ハンギングロック」の方が魅力的だと思った。(余談だが、この映画では「刑事ジョン・ブック」「イングリッシュ・ペイシェント」のジョン・シールがボイドの撮影助手をつとめている)。船のきしみや爆音をクリアに録音した技術は見事。海原の風景美や、バッハやモーツアルトなどのクラシックの使い方はウェアーらしい。
(☆☆★★★)


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「ホテルビーナス」

2004年03月14日 | 映画
モノクロに微妙に着色した画面、台詞は韓国語、ロケはウラジオストック、と無国籍でいて一定の美意識で統一された世界を作っているのはいいのだけれど、登場人物がみんな訳あり風でそういう<>世界にいる人物の過去ってどんなものだろうと思ってしまう。一つ一つ見ていくとどこかで聞いたようなありがちな話ばかり。それぞれのエピソードがさほど絡むわけでもないし。一つの場に色々な人物が集まるドラマって、体裁は整いやすいけれど映画でやると単調になりがちで、まして2時間10分もかけられてはかなりキツい。
(☆☆★★)


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「ドッグヴィル」

2004年03月12日 | 映画
床に見取り図を描いただけの舞台装置のような抽象的なセットで撮っているのにも関わらず、個々のメイクや服装・小道具の類や、光の当て方がリアルという以上に、奇妙なくらいアメリカの<>の生な臭いがした。というより、東京が大いなる田舎というような意味で世界の田舎であるアメリカを描いているようだ、と思っていると、エンドタイトルのバックが貧しいアメリカを撮った写真の連続になっていた。

「ダンサー・イン・ザ・ダーク」はアメリカを舞台にしながらアメリカではまったく撮っていないというが、ワンクッションおきながら、本物よりそれらしい、というか今の世界の構造の中心に迫るような作り。
ワンセットドラマの閉塞感とともに、壁という壁が全部ないのだから、村

人が全員互いに見てみぬふりをしながら、見張っている図になる。いくら抽象化した描き方とはいえ、子供を皆殺しにするのをまともに描くのはこの監督くらいだろう。カメラがかなりぐらぐらしているが、監督自身がオペレートしているため。
(☆☆☆★★)


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「大脱走」

2004年03月12日 | 映画
痛快娯楽巨編、には違いないのだけれど、意外と“戦争の臭い”がする。最初に宣言される脱走の目的自体が後方撹乱という戦争上の任務にあるのだから。そして撹乱自体は成功したわけだが、犠牲者もずいぶん出ているという意味で、通常の戦闘上の作戦と本質的な違いはないと思う。仇役である収容所所長の脚が悪くて、また単純な悪役ではなくドイツ武人としてのプライドを見せるあたりもいい。

見事なくらい女っ気のないキャスティング。女の姿は脱走してから背景に辛うじて写る程度。男ばかりなだけに、見事に脱走という目的一つに人物全員がシステマティックに動く機能美が際立つ。あまりグランドホテル式の人物描写はなく、“ビッグX”“調達屋”“クーラー・キング”など脱獄における役割イコール役全体になっている。

後半、ほとんど台詞がなくなってしまい、ときどき英語以外の台詞があってもいちいち字幕が出ないし、出なくても困らない。それでいて脱走に成功したコバーンを迎えたレジスタンスが、ここはスペインかと聞かれてエスパニョールだとちらっと答えるあたり、芸が細かい。

撃たれて転倒し金網にひっかかったマックイーンが、穴のあいたバイクを撫でてやると、ガソリンがこぼれる音がする。ちょうど、馬が撃たれて出血しているような感覚。風景の切り取り方と空間感覚は、さすがに西部劇仕込みの演出。
(☆☆☆★★)


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「ションヤンの酒家(みせ)」

2004年03月11日 | 映画
下町の淡々とした日常を描くタッチはいやでも昔の成瀬巳喜男作品あたりを思いださせるが、比べてしまうと描写にあれほどのコクはない。「山の郵便配達」みたいに自然が舞台だと淡々とした調子でももつのだけれど、相当に汚い屋台(料理人であるヒロインがしょっちゅう煙草をふかし続けている)の集まりでやられると逆光を生かしてきれいに仕立てたカメラを通しても、なんでもない場面で引き付け続けるというのは難しい。それに考えてみると薬物中毒が出てきたり、結構設定が激しい。今の中国では不思議ないのかもしれないが。
(☆☆☆★)


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「シービスケット」

2004年03月11日 | 映画
人馬が両方ハンデを抱えてともに頑張るという設定の競馬映画は「チャンピオンズ」というのがあったが、作劇でやや違うのは、あれは一人と一頭中心で怪我や病気を抱えるのが割と早くて、変則の闘病ものになっていたのだが、こちらは長い時間にわたって大勢の大不況時代の人と馬がどう生きてきたかを大衆の描写と照らし合わせながら描いていること。

だからフォードの流れ作業による大量生産方式から始まり、ウィリアム・H・メイシー扮するTick Tock MagGlaughlinっていう実在のアナウンサーが効果音つきで大衆を煽る役として大きなウェイトを占めている。なんか「グラディエーター」で大衆を味方につけた者が勝つとオリバー・リードが伝授していた発想みたい。

結果、映画技術の充実やキャスティングの厚みや予算を含めて、色々な意味でアメリカの良さを見せる内容になっていて、それ自体は認めるものの、わずかにひっかかる。ラストで勝たないと格好がつかないからか(もっとも、ラスト勝つところは見せていない)。
(☆☆☆★★)


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「ヘブン・アンド・アース  天地英雄」

2004年03月09日 | 映画
大きなお世話なのだが、どうしても映画そのものよりメイキングの方が面白そうだなあと思ってしまう。
呉越同舟でもっと大きな敵と戦う構図、大がかりなロケ、アクションシーンのスケールと戦法の趣向の凝らし方、などなど優れたところはいくつもあるが、それぞれの要素で及第点プラス程度で止まっている感じ。主役二人がもっぱら協力していて“対決”がついにない、あたりの物足りなさが典型。ワキの描き込みも不足気味。
仏舎利の扱いがまるっきり「レイダース・失われた聖櫃(アーク)」のアークと一緒というのは妙。お釈迦さまはモーゼと違って、奇跡を起こしたりはしてませんよ。
どう考えても、題名は「天地英雄」だけの方が格好良い。
(☆☆☆★)


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「レジェンド・オブ・メキシコ デスペラード」

2004年03月09日 | 映画
理屈をいう映画じゃないのはわかりますけどね。御都合主義的な銃撃戦やクーデターの描き方など、まじめに見てられない。理屈を言わなければ面白くなるってものではないな。監督脚本だけでなく、ギターが自走式の爆弾だったりする小道具の工夫もしているところをわざわざタイトルに名前を出している。それがしたくて監督してるんじゃないか?

バンデラスと女が絡むとこが回想の中だけってとこが物足りない。片手にギター片手に美女っていうのでないとね。
ミッキー・ロークの扱いがしょーもなくて格落ちが明瞭。このあいだインタビューに出てボクシングなんてやるんじゃなかったと愚痴言ってたけれど、自業自得。製作会社の名前がTroublemake studioというのがふざけている。

初めの方で一万ドルが入った箱の蓋にclash of the Titansと書いてある。「タイタンの戦い」の原題だ。「スパイキッズ2」では「アルゴ探検隊の大冒険」のダイナメーションによる骸骨のチャンバラのをCGで再生していたが、ハリーハウゼンのファンなんでしょうね。そういうとこをガキっぼく出して、それが変にウケたりするのがヤなんだが。
(☆☆★★)


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「ウィルバー・ウォント・トゥ・キル・ヒムセルフ」

2004年03月07日 | 映画
自殺を試みては失敗している男が、末期癌の兄とその家族の関わりの中、次第に生きる意思を取り戻していくドラマ。扱いによっては「ハロルドとモード」みたいなブラックコメディになる可能性もある設定だが、女性監督のせいか良くも悪くもマジメな調子。兄の家族を弟が受け継ぐというのは、なんだか前近代的な社会の習慣のようで、高福祉国であるデンマークでこういう映画が作られるとは意外。ただし台詞は英語。
デジタルシネマというのだが、カラートーンの整え方がそれらしいくらいで特に凝った映像処理などは見られない。
(☆☆☆)


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「少女 an adolecent」

2004年03月06日 | 映画
題名からしてロリータものに近いかと思ったら全然違ってた。“少女”を可愛くも愛想よくもなく描いている。調べてみたら、主演の小沢まゆは出演当時20歳を過ぎている。そうでないと倫理上まずいのだろうが、ちゃんと中学生に見えるのだからフシギ。

壁紙が昆虫の柄だったり、車の装飾や道路の落書きがやたら派手(美術・日比野克彦)なところが、重要なモチーフになっている背中の刺青の柄と美的に呼応しているよう。もっとも刺青とか比翼連理とかいうとどうしても普通の日本人には縁のない世界のこと、と思える。

奥田瑛ニの警官というのはいかにもインチキ臭くて、そのうち警官であることを忘れてしまう。銃を素人に撃たせたりして、あれでよく署内で問題にならないもの。田舎の妙にがらんとした街の感じが良く出ている。
(☆☆☆★)


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ヌードが出てこなくても画面に妙な嫌らしさが出ている。粘っこい長回しは、ある程度低予算日本映画の定番になっている映像スタイルで、成功はしているが、通してみると長過ぎる(2時間12分)観は否めない。

「タカダワタル的」

2004年03月02日 | 映画
アタシは、この映画の構成でメインになっている下北沢のライブに行っています。客席で変な顔して写っている。で、はしょられたところで目立つのは、柄本明・ベンガル・蛭子能収といった東京乾電池のゲストメンバーの出番(蛭子能収がヨイトマケを歌うのだ)。他の場所のライブやインタビューなども、ナレーション抜きでとにかく高田渡という人の音楽というよりキャラクターを中心にしている。

ステージの上で酔って寝てしまったという古今亭志ん生みたいなエピソードなど、芸そのものとはちょっと違う困った愛嬌がある。実際、ステージの上で呂律がまわらなくくなって半分寝ているようになっているところもあった。素面の喋りでも酔っぱらっているみたい。

もともと高田渡に対するトリビュートものということで、「ラスト・ラルツ」みたいに一流カメラマンでがちっとライブを撮ってみたらどうかというところから始まったのだが、メンバーからメンバーへ音楽をきっかけでパンで繋いでいくあたり、いいリズム。
(☆☆☆)


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「フルタイム・キラー」

2004年03月02日 | 映画
二人の殺し屋の対決がメインなのだが、それだけで押し切るのは難しいとみえて、女が絡んだり元刑事の語りを入れたりしているのが、なんかまわりくどい。アクション・シーンはいちいちスローモーションを使い過ぎ、もたもたして見える。アンディ・ラウはちょっとナルシーな役づくりが過ぎる感じ。クライマックス、花火が散る中ベートーベンの第九をBGMに対決するという大仰な演出も、ちょっとづつタイミングが外れていて効果は今ひとつ。
(☆☆★★)


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「ふくろう」

2004年03月01日 | 映画
「生きない」みたいに妙に戯画化された演出や鳥の登場、金がかかった「北斎漫画」や「地平線」ですらリアルに見せようとするのを忘れたみたいな美術やメイク、「しとやかな獣」「ユキエ」などのワンセットドラマの手法、「鬼婆」の男を殺して金品を奪う母娘、「わが道」の東北の過疎化などばらばらに見ていくとこれまでも使っていた技法やモチーフなのだが、まとまるとどこか突き抜けたような感じがする。

作家というのは歳とるとフシギな境地に行くみたい。遠慮する必要がなくなるせいか、ずいぶんと好き勝手な作り方。ちっとも“オーソドックス”にしようとしていない。
(☆☆☆★★)


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