prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「塔の上のラプンツェル」

2011年04月30日 | 映画
ラプンツェルの元の話というのを良く覚えていなくて、高い塔の上に閉じ込められていて長い髪を下ろし人を上らせるお姫様という以上のイメージを持っていなかった。
ウィキによるとグリムによって編まれたストーリーとはずいぶん違うし、だいたいグリム版自体数種類あるらしい。

諸星大二郎はラプンツェルをモチーフにして二つのまったく違う短編を書いていたりしていて、要するに上記のイメージ以外のストーリーは大幅に創作・代替可能ということだろう。

そしてこれはいかにもディズニー、それも今のらしいストーリー展開を見せる。塔に侵入するのは王子さまではなくて行動的でワイルドで良く見ると容姿端麗な盗賊、王族なのはラプンツェルの方(貴種流離譚ですな)。
コメディ・リリーフにカメレオンと、気が荒くて鼻のきく馬、粗野だがユーモラスな盗賊たちあたりを置くのはは定石だが、知恵を使ってます。例によってストーリー作りに十人以上のスタッフの名前が見られる。
あと性的な側面が抜かれていますね。

悪い魔女が母親と名乗るあたりや、塔の外に出た時の喜びと、やはり出てはいけなかったのではとくよくよする躁鬱的な揺れ動き方など、昔だったら単純に自由万歳になったところを、ちょっと精神分析的になっている。

ラプンツェルの魔法の髪が光るあたりや、街中から無数の灯りが空に浮かぶあたりの光の表現はCG技術の見せ所。
(☆☆☆★★)


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「トゥルー・グリット」

2011年04月29日 | 映画
ビリング(配役序列)ではともかく、実質主役を担う14歳の(撮影時13歳とか)ヘイリー・スタインフェルドが見事で、レンジャー役がマット・デイモンだとは完全に忘れていて画面を見ていてもわからなかった。
どこの町の法で裁くかでもめたり、町境を越えて法を執行する役目が特に制定されていたりと、昔からアメリカはそうだったのだなと思わせる。

西部劇といっても光の感じが昔のそれみたいにからっと明るくない。
代わりにクライマックスの夜の野山をジェフ・ブリッジスがヘイリーを抱えて走り続ける夜の照明がオープニングと対になる格好で強い印象を残す。ブルーの月あかり一色のなか夜の家からさす暖色の光が、おとぎ話のような感触を出している。

スピルバーグが製作に入っているせいか、割とオーソドックスな西部劇。

オリジナルの「勇気ある追跡」は馬のたずなを口にくわえて二挺拳銃を連射しながら突撃するクライマックスしか覚えていないが、そこはそのまま再現されているみたい。中国人など前作(’69年製作)に出てきただろうか。
(☆☆☆★★)


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「英国王のスピーチ」

2011年04月28日 | 映画
初めにことばありき、と言うが、コトバ特に話し言葉に対する信頼というのが西洋社会でいかに強いかをうかがわせる。敵であるヒットラーの大仰だが内容空虚な演説が悪い方へ人々を動かしたのも含めて。
まずはパーフェクトと思わせる脚本と演技が先に来て、演出は黒子に徹するよりやや「映画」にしようと浮いている感じはする。

それにしても、王室に対するイギリス映画の描き方は相当辛辣ですね。
「226」で脚本の笠原和夫が一行「秩父宮が到着した」とト書きしただけで松竹上層部がびびって浮き足立った日本ではこうはいかない。
(☆☆☆★★★)


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「旭山動物園物語 ペンギンが空をとぶ」

2011年04月26日 | 映画
ペンギンは陸上ではちょこちょこ不器用に歩いているが、水中ならば空を飛ぶようにすいすい泳ぎ回るのを生かして、見上げる位置に水槽をしつらえてペンギンが空を飛ぶように見せるのをクライマックスに置いたのが工夫。というより、ここから逆に全体を組み立てていったのだろう。

動物園が人気がないものでジェットコースターで人を集めようとするあたりの迷走ぶりがありそうで可笑しい。
実話ネタとはいえ、芸達者な役者を揃えて完全に作り物として作っているが、みんな「いつもの」芝居にとどまっている観あり。
(☆☆☆)



「エンジェル ウォーズ」

2011年04月25日 | 映画
ロリッぽい女の子が踊っているうちに、その内容(というのか)が日本風の寺の大魔神みたいな鎧武者やナチス相手のバトルシーンになるのだが、その踊り自体はまるっきり現れない。最近の映画だといかにも人間の肉体が信用されていないのだね。

アクションシーンはゲームをスクリーンに拡大したみたいで、映像も音も派手なことは目いっぱい派手だけれど、展開もゲームそのまんまで、コントローラー抜きで見ているとこちらが介入できない分、何度も似たような場面を繰り返しているうちにだんだん飽きてくる。精神病院と売春宿と妄想の世界を行き来するわけだけれど、アイテムを集めているだけで進展にメリハリがない。作者の妄想が登場人物の妄想になっていないのだね。

ロボトミー手術ってこめかみに穴を開けてへらで前頭葉を削除するものだと思っていたけれど、ここでは何か目に突っ込んでいるみたい(具体的に見えない)。眼球の横から器具を差し込んで脳を破壊するやり方もあったと思ったが、ああいうまっすぐな針みたいなのでできたのだろうか。
(☆☆☆★)


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「ザ・ファイター」

2011年04月24日 | 映画
男兄弟二人以外の女兄弟と母親の女たちがいつもたむろしてだべっているあたり、アメリカのホワイト・トラッシュたちの生活感がすごい。脇の脇まで生活臭を出しているあたり、アメリカの役者は層が厚いと改めて思う。

おフランスの高級な映画がアメリカの田舎町で上映されるなんてこと、あるんかいなと思ったりする。
映画用の創作かもね。

歯が全部折れた頬のこけた顔で登場するクリスチャン・ベールの肉体改造をはじめ、ボクシング・シーンの迫真ぶり、というよりそれが当たり前みたいに描いてみせるのが圧巻。
(☆☆☆★★★)


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「わたしを離さないで」

2011年04月23日 | 映画
ふつうだったら近未来を舞台にしたメロドラマにしそうなモチーフを、近過去を舞台にした端正で古典的なタッチで描いている、ちょっと類を見ない作りの映画。
「あらかじめ生き方が決められてしまっている」人間のかなしさ、という点では「日の名残り」とも共通するとも思え、原作の趣向を早めに明かした脚色も生きた。
主役三人の演技レベルの高さとともに、命とか人間性、魂とは何だろうと問題劇的に考えさせるのではなく、ただありありとその痛ましさを感じさせる。
(☆☆☆★★★)


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「デスカッパ」

2011年04月21日 | 映画
いくらなんでも、五千万円で怪獣映画を作ろうとは無謀というか開き直りを前提としているというか。
突然、アイドルになるのをあきらめたヒロインのMTVが出てきたり、ミニチュアの飛行機に堂々とピアノ線が写っていたりと、なんともいえず妙なサービス精神(というのか)が発揮されている。
カットの割り方がバカ丁寧というかまだるっこいというか。もとより物好き相手の作りなのだろうけれど、それにしても、ね。


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「ピュ~ぴる」

2011年04月20日 | 映画
私は監督の松永大司氏とは旧知で、自主作品・商業ベースの両方で脚本を担当したこともあり、何年か前にこれの一応編集した版を見せられてちょっと意見を述べたことがあって、だから思いがけず「協力」としてクレジットもされている。協力というほど協力しているわけではないが、かなり以前の版と違っているのはわかる。

たとえばピュ~ぴるの兄さんが結婚したためにそれまでのようには協力できなくなるといったくだりが公開版からは削除されている。
とはいえ、そこで完成させず続きを撮ることにしたと言っていたが、その成果は大きい。

去勢手術に立ち会うところまでつきあい、しかも現在も撮影し続けているという粘りは驚異的。装飾で全身を覆えば覆うほど自分をさらけだすピューぴるの姿に肉薄しきった。
続きに期待したい。


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「クワイエットルームにようこそ 」

2011年04月05日 | 映画
クワイエットルームというのは精神病棟のことだけれど、一見してリアルな描写を狙っているわけではないし(へたに狙ったらクレームが来そうだ)、かといって映像自体がクレイジーになっているかというと、どうも舞台のリアリティ寄りの誇張に近くて映像のそれとは違う。

原作・脚本・監督・松尾スズキ。
芝居の演出家とで映画で成功する例が欧米では珍しくないのに、日本では皆無といっていいのはどういうわけか。
(☆☆☆)



「トラブル・イン・ハリウッド」

2011年04月04日 | 映画
原作・脚本のアート・リンソンはプロデューサーとして有名でロバート・デ・ニーロとは「アンタッチャブル」「ボーイズ・ライフ」「ヒート」などで組んでいて、今回はデ・ニーロがプロデュースにも参加している。

映画中映画で犬を殺したらやたら反感を買ったり、若い監督がかなり幼児的でやたら意地を張るかと思うと薬に頼ってころっと態度を変えたり、わがままなスターに手を焼いたりといったトラブル続きなわけだけれど、ハリウッドメジャー映画で犬を殺すわけないだろと思わせたりわがままスターがブルース・ウィリスだったりするように、どうも誇張がすぎる現実的すぎるかでぴりっとせず、ウィリスが剃る剃らないでもめた髭みたいな中途半端に終わっている感じがする。

知人がカンヌについて日本で言うなら熱海みたいな盛りを過ぎた保養地と言っていたが、映画祭をやっていない時のカンヌの情景が出てきて、なるほどこれかと思わせる祭りの後(実際は前だが)的な侘びしさを感じさせる。
(☆☆☆)



「ブンミおじさんの森」

2011年04月03日 | 映画
今の主流になっているデジタル技術を駆使した大方のファンタジーは美学的には「くそリアリズム」だが、これは逆に昔の手作り感覚の必ずしもリアルではない技術をあえて採用している。
死んだ人が当たり前のように隣の席に二重露光で現れ(写真↑)、生きている人間がその前に手を伸ばすとその手もバックがだぶって半透明になるなど、技術的なミスと思われかねない「素朴」な技法だ。
猿神のメイクが毛を貼り付けましたというのが丸わかりだったり、ナマズの精が水面に浮かんできてばちゃばちゃやるのが見えそうで見えなかったりするのも同様だが、作り手自身はちっとも「素朴」ではなくて十分西洋的基準でのインテリで、リアリズム(合理主義=西洋にも通じる)離れするために十分計算した上でやっていることだろう。

やはり猿の神が目の光だけが赤く見えるのは「もののけ姫」の猩猩みたいだったり、「天空の城ラピュタ」ののような光る石がいっぱいの洞窟が出てきたり、ちょっと宮崎駿ぽい。ちゃんと時流に目配せしてますという感じ。

共産兵を「虫のように」(というのはこの場合必ずしも軽々しくという意味ではない)殺した、という述懐が出てきたりするのも、合作というばかりでなく西洋の影響とつながりを十分意識しているのだろう。なんだかトライ・アン・ユン(「ノルウェイの森」)あたりと共通する、ヨーロッパのインテリ向けのアジアテイストという気がする。2010年カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作。

本当にシンプルなしかも効果的な技法で作られたファンタジーとしては、インド映画(インド南端のケララ州の映画といった方がいいかもしれないが)、「魔法使いのおじいさん」という大傑作があります。今月24日に川崎ミュージアムでアラヴィンダン監督特集の中で上映されますので、ほかのアラヴィンダン作品とともにぜひどうぞ。
(☆☆☆★)


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「トム・ヤム・クン」

2011年04月02日 | 映画
香港映画が身体を張ったアクション(場合によっては人権無視ともいう)が引っ込めてきた印象の中、タイ映画「マッハ!」でトリックなしCGなしを売り物に殴りこんできたトニー・ジャーの主演作だけれど、主人公が奪われた象を取り戻しにタイからオーストラリアに来るあたりで都会が舞台になった分、香港製クンフー活劇とそれほど変わらなくなる。
「トム・ヤム・クン」というタイトル(英語題?でもある)は内容とはまるで関係なく、タイ製だということはすぐわかるのにね。

巨大なビルの階段を駆け上りながら何十人もの相手を倒す四分間ワンカットの立ち回りなど相変わらず身体を張っているのは立派だけれど、やたらサイズのでかい大男たちとの対決などもどうしても今まで見た(「死亡遊戯」とか)感じがしてしまう。
それと子象を危ない真似や痛い目に合わせるというのは良い印象はもてないし、もとが真面目なせいなのか、全体にちょっとシリアスになりすぎている。
(☆☆☆)



2011年3月に読んだ本

2011年04月01日 | 
prisoner's books2011年03月アイテム数:14
心の砂時計遠藤 周作読了日:03月11日
天の向こう側 (ハヤカワ文庫SF)アーサー・C. クラーク読了日:03月11日{book['  rank'  ]
愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)リチャード ブローティガン読了日:03月14日{book['  rank'  ]
白痴・二流の人 (角川文庫)坂口 安吾読了日:03月14日{book['  rank'  ]
11の物語 (ハヤカワ・ミステリ文庫)パトリシア ハイスミス読了日:03月14日{book['  rank'  ]
本をつんだ小舟 (文春文庫)宮本 輝読了日:03月14日{book['  rank'  ]
新幹線がなかったら (朝日文庫)山之内 秀一郎読了日:03月14日{book['  rank'  ]
もんもんシティー (文春文庫)内田 春菊読了日:03月14日{book['  rank'  ]
走って、ころんで、さあ大変 (文春文庫)阿川 佐和子読了日:03月14日{book['  rank'  ]
永遠の0 (講談社文庫)百田 尚樹読了日:03月19日{book['  rank'  ]
さらば愛しき女よ (ハヤカワ・ミステリ文庫 (HM 7-2))レイモンド・チャンドラー読了日:03月29日{book['  rank'  ]
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「毎日かあさん」

2011年04月01日 | 映画
旦那のアル中の傍迷惑ぶりは「「西原理恵子月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気」に詳しく、もともとテレビアニメと連動しているせいもあってか、ここでの描写はかなりおとなしい。
未見だが、旦那の方の原作とその映画化「酔いがさめたら、うちに帰ろう」ではどうなっているのだろう。

ただ酒飲んでアル中になりましたというのではなくて戦場カメラマンとしての戦場で見た惨劇のストレスがところどころに入ってくるのも、キャラクターに同情できる作りになっている。
サイバラも相当に飲むのだが、アル中になるかどうかは元の体質(酵素を持っているかどうか)がかなり関係しているらしい。
アル中を相手にしている医者がこの「毎日かあさん」を見てばかに感激していたが、アル中をどんな目で見ているのか。

いくらで買ったのか、かなり立派な家なのだけれど、子供、特に男の子がどたばた遊びまわったらすぐどろどろに汚れてしまい、しかも亭主が子供がそのまま大きくなったみたいな人なので男の子二人が暴れているみたいなのが笑わせる。
母親たちがたくましく、男どもがだらしなく、子供が手がかかるのはどこの家も同じみたいと思わせる。

小泉今日子、永瀬正敏の本物の元夫婦が夫婦役をやっている効果はかなり大。ただし芝居そのものがしっかりしているから成立している話。
エンドタイトルに出てくる子役の写真は永瀬正敏が撮ったものだとタイトルに出るけれど、うまく撮れてますね。
(☆☆☆★★)


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