prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「一枚のハガキ」

2010年10月31日 | 映画
新藤兼人、98歳の新作。東京映画祭での上映。
戦争で生き残った男が、死んでいった戦友に対する自責からその未亡人のもとを訪ねる、という渥美清が生涯一本だけ製作を兼ねて主演した「ああ声なき友」に似たモチーフだが、悲惨な一方かなりユーモアが入っているのが違うところ。

こちらは大竹しのぶの未亡人が豊川悦司の主人公に「なんであんたは生き残りさったんじゃ」と理不尽な問いをぶつけるところからドラマが動き出して、くじに当たるか当たらないかだけで生死が決まるもっと大きな理不尽に広がっていくのがさまざまな、ときに素っ頓狂とも思える局面を生んでいくのが面白く、シナリオと出演陣の腕を見せる。
歳をとると、独特の大胆さというのが出てくるものなのだろうか。

大杉漣の大竹に懸想する(こういう古い言葉が似合う感じ)男が、いくら好いても相手からは悪い人ではないとは認められても、好かれることはないというあたりに新藤先生の独特の野趣のあるユーモアが出ている。

ラストは「裸の島」と通じる水桶をかつぐ姿で、男が水桶をかつぐこつをつかむ姿が入っているあたり、人間は生きなくてはいけない、生きて働かなくてはならない、という主張が描かれる。
そして上映後の挨拶で登板した車椅子姿の監督自身の姿がそれをまた実践しているのをありありと感じさせる。

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牡丹亭 

2010年10月20日 | 映画
鳩山由紀夫元首相が来てました
VIPルームみたいなところで、誰かと名刺交換してました。国会の会期中だってのに。

玉三郎の蘇州語の発声は信じられないくらい見事(わからないで言うのも変だけれど)。

▲左から牡丹亭で柳夢梅を演じる兪玖林と杜麗娘を演じる坂東玉三郎
本公演は演劇の世界三大ルーツといわれ、600年以上の歴史を持つ中国の伝統芸能「昆劇」の最高傑作といわれる『牡丹亭』を、日本を代表する歌舞伎役者・坂東玉三郎が熟考し、『牡丹亭』の中の6場面を最終選定したもの(原作は全てを上演すると10日(55場)もの時間を要するため、通常はその中からストーリー性の高い場面を抜粋する)。坂東玉三郎は05年より蘇州に渡り、昆劇のレッスンを積み、中国語の中でももっとも難しいとされる蘇州語のせりふと歌を見事に駆使し主人公・杜麗娘(とれいじょう)を作り上げた。08年には日中合同製作として『牡丹亭』を京都・北京の二都市で上演。その後も上演も蘇州、上海と上演を重ね、最初は三場のみの出演が、回を追うごとに登場シーンを増やし、昨年11月の上海公演では主人公・杜麗娘を全場演じるという、玉三郎版『牡丹亭』が完成した。今年の6月10日~13日には上海万博正式招待作品として上演。そして今回、凱旋公演として10月に赤坂ACTシアターにて初の東京公演を行う。本日の記者発表では坂東玉三郎と、杜麗娘が恋をする柳夢梅(りゅうむばい)役を演じる蘇州昆劇院の兪玖林が登壇した。
坂東玉三郎は、昆劇の『牡丹亭』をやろうと思った最初の動機について、20世紀前半に活躍した京劇界の伝説的な女形役者、梅蘭芳(メイランファン)を挙げ、彼にあこがれてそのルーツを探っているうちに昆劇にたどり着いたと語った。また、中国語の中でも難しいとされる蘇州語で上演することについて「最初は日本語で上演することになっていて、昆劇院には音楽の勉強の為に行ったんです。でも、原語でやろうということになって今日に至るわけなんですが、大変難しかったです。最初は3分間くらいのものを覚えるのに一ヶ月かかりました」と稽古を振り返り、今では上演を重ねるごとに歌がなめらかになっているのが実感できるという。坂東玉三郎の演じる杜麗娘の評判は中国メディアでも高く、梅蘭芳の再来とまで評価され、現在までに42公演行い3万8000人を動員、全公演の半数以上が満員だったという。

共演の蘇州昆劇院・兪玖林は坂東玉三郎について「日本の国宝級の芸術家である玉三郎先生とご一緒できて大変嬉しいです。何回かの公演を通じて玉三郎先生から伝統芸能の中での表現とか技術など、とても多くのことを学びました。そしてもう一つ、玉三郎先生の学ぶ姿勢、私もこれからは玉三郎先生のように積極的な姿勢で学んでいきたいと思いました。実は私は女形の男性と共演するのは初めてだったので、どうやって接すればいいのか分からなかったのですが、稽古が始まったらそんな心配は吹き飛びました。玉三郎先生は女性より女性らしく、細やかな仕草とか動作をされるんです。男性であることを忘れ、とても意気のあった共演が出来たと思っています」と語り、坂東玉三郎が演じる杜麗娘も裕福な家庭で育った伝統的な女性をよく表現していると感銘を受けたようだ。

最後に初の東京公演に向けて心待ちにしている観客に対し坂東玉三郎は「本当に夢のようなこの『牡丹亭』の東京公演を大変嬉しく思っております。ぜひ皆さま劇場にいらして頂いて、私もめいいっぱいお努めいたしますので宜しくお願い致します」とメッセージを送った。中国の伝統芸能である昆劇が日本の歌舞伎の立女形によって新しい命を得た『牡丹亭』をぜひご覧いただきたい!

『牡丹亭』は10月6日(水)~28日(木)まで赤坂ACTシアターにて上演される。

坂東玉三郎 特別公演『牡丹亭』

「ブロンド少女は過激に美しく」

2010年10月18日 | 映画
列車の中で男が同席した他の客に向かって話す話の内容が本筋になるという枠物語式の語りは、ブニュエルの「欲望のあいまいな対象」ばりで、通りを隔てた部屋の窓の中のブロンド少女に一目惚れしてずうっと見つめ続ける空間設定はヒッチコックの「裏窓」ばり、と思わせて100歳の監督は次第にそらっとぼけた顔で脱線していく。

オープニングのタイトルバック、車掌が検札しているのをずうっと据えっぱなしの長まわしで撮っていて、車掌が画面奥に消えて、それから普通なら入れ違いに誰か入ってくるか、客の一人が立つなりする(つまりそうしないとそこまで長く撮っていることに意味がない)のだが、何もなしにぶちっと次のカットにつないでしまう。
これが「売り」に対しては「買い」がなくてはならない、あるいはその逆というこちらの思い込みあるいは慣習を平気でスルーするラストのくくりかたにもつながってくる。枠物語のはずが、枠の片方が欠けて平気でいるのです。

あるいは男が女を見つめ続ける設定で押し切るのかと思うと、妙な具合に男の視点ではないアングルが混ざって来たかと思うと、真逆の女の部屋から空の男のいた部屋を見つめ返すアングルのカットに変換してしまう。

トシをとると、何やっても文句言う人間がいなくなるみたい。
(☆☆☆★★)


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「瞳の奥の秘密」

2010年10月16日 | 映画
言葉の表現と言葉にならない表現とがせめぎあっている。
主人公が小説という形で描く回想と実際の出来事との間に齟齬があるようでもあり、描くことで改めて過去が立ち上がってくるわけでもある。

「A」の文字が打てないタイプライターの、その「A」の文字がどんな収まり方をするか、アル中の同僚が収集する詩的な表現、手紙の中に混ざる意味不明の人名から意味を汲み出すプロセス、などのシーンに見られるここにないものをあらしめる言葉の力。

一方で写真に写った被害者を見つめる男の視線から犯人の目星をつけるのがストーリーのエンジンになる(主人公とヒロインである上司の女性判事とが一緒に写った写真で、主人公がヒロインを見つめていたりもする)。
満員のサッカー場の客席から藁の山から針一本を探すより難しいと思われる捜索シーン(ここのカメラワークは神業がかっている)の一方、物的証拠のない中で犯人の視線の読み取りから言葉一つで追い込んでいく検事の手口。

死刑を廃止した社会でどういうことがありうるか、という考察的な面もあり、日本で死刑廃止論が広まらないひとつの理由ともつながっている(ミステリでもあるので曖昧な言い方になります)。

老けのメイクが見事で、なじみのない役者陣の演技も見事。
(☆☆☆★★★)



「悪人」

2010年10月13日 | 映画
すぐれた作品であることを認めた上で言うけれど、よく考えてみると、妻夫木聡が満島ひかりを殺す描写は迂回した描き方をしていて、その前に道端に投げ出した 岡田将生の描写の方が印象が強い。誰が悪いのか、という価値判断(というよりマスコミ的な決め付け)があいまいであることが描けているのは確かだが、悪そのものを正面から描かないのは意地悪く見ると一種の逃げではないか。
その分クライマックスの飛躍がかえってきかなくなっている

ロケ効果・方言の起用など、ローカルカラーがよく出ている。
(☆☆☆★★)


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「十三人の刺客」

2010年10月10日 | 映画
予想されたことだけれど、爆薬を使ったり宿場の仕掛けに凝ったりして、オリジナルに比べて全般に派手、あるいはどぎつくなっている。じらしにじらしてクライマックスで爆発するオリジナルの構成に比べて派手な分かえって平板なのは今風。
稲垣吾郎のキ××イ殿様の造形が今風なのは割りとうまくいっている。
いくらなんでも十三対三百というのはムチャではないかと思わせて、リアリズム風なのと齟齬がある。

原作者が池宮彰一郎名になっている。が、オリジナルの脚本(池宮彰一郎こと池上金男)はもともとそのまま映画化したら四時間かかる長さなのを削りに削って二時間にしたものらしく、そのせいか脇のキャラクターが実はそれほど描きこまれていない。その他いくつか穴がある分、逆に工夫のしようもあって山の民とか四肢切断とかは、新作の脚本の天願大介の趣味っぽい(聞かなくちゃわかりませんけどね)。

あと、「四十七人の刺客」の基本的な構想がこれと同じなのもわかる。大勢が入り乱れているようで、実は一対一の知恵比べと対決なのです。

伊原剛志がガタイの良さと居合の腕を見せて剣の達人の役を好演。
松方弘樹が一人だけ昔の東映風の芝居をしている。
(☆☆☆★)


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「ノートルダムの鐘」

2010年10月06日 | 映画
カジモドの醜いのはわかるようにしてあるけれどグロテスクには感じないキャラクターデザインがなかなかよくできていて、なんだかピカソの人物を立体化したみたいな観。
エスメラルダのエキゾチックな美貌もパターンそのまんまだがよく描けている。セリフに堂々と「ジプシー」と出てくるけれど、「ロマ」っていっても何だかわからないでしょうね。

悪役がよく見るとオバさん顔。ああいう圧倒的に人を支配下に置こうとするキャラだから女性的にしたのかも。
(☆☆☆)



「オカンの嫁入り」

2010年10月05日 | 映画
出だしで宮崎あおいが亡父の仏壇に閼伽(あか・水)を新しく汲んでいって供えるのに、あれ、ふだんは供えてないの、と思った。水を「取り替える」のではないから。
コジュウトみたいな小うるさい見方だと思うけど、ここに限らず料理を作るところでどんな手順なのかわからなかったり(再婚相手は元板前ですよ)、描写の細かいところがちょっとづつゆるい。
うまいのはわかりきっている役者陣におんぶしている感。
(☆☆☆)



「エバン・オールマイティ」

2010年10月04日 | 映画

新人下院議員のもとに箱舟キットが送りつけられ、ノアのように箱舟をつけて動物を一つがいづつ乗せろと神に命じられる。頼みもしないのに、どんどん各種の動物や鳥が押しかけてくるあたりが動物パニック映画のパロディみたい。

だけど、モーガン・フリーマンのお茶目な神さまのキャラクターでなんとなく見てしまうが、ノアの箱舟の話ってノアの一家以外をみんな洪水で滅ぼしてしまうわけで、そっちの方をオミットしてアメリカ映画定番の家族の再生だけ強調しておしまいっていうのは片手落ち気味。
なんで下院議員が選ばれたのかもよくわからないし。

鳥の大群や洪水のスペクタクルは一応見せるが、作り物っぽい。
(☆☆☆)

「終着駅-トルストイ最後の旅-」

2010年10月03日 | 映画
製作総指揮がアンドレイ・コンチャロフスキー。父親も祖父も大物文学者、弟は監督のニキータ・ミハルコフという旧ソ連の名門の出の映画監督で、タルコフスキーの映画大学の同級生、アメリカに渡って「マリアの恋人」「暴走機関車」からスタローン主演の「デッドフォール」まで撮りまくった、よくわからない作品暦の人。

だからといって、ロシアを舞台にしてロシア人の登場人物を英語圏の俳優が英語で演じる英語圏映画のごく一般的な作りに何も変わりはない。昔からうまく西側にとけこんでいましたからね。
役者はみんなうまいけれどロシア人には見えない。ヘレン・ミレンはロシア系だが、何しろイギリスの活動が長いからあまりそういう感じしない。

トルストイ自身が「私はトルストイ主義者ではない」と言うのが可笑しい。だいたい、伯爵で大地主なのですからねえ。根本的に矛盾している。

偉い人を利用しようとする周囲の人間同士の確執の、現代にも十分通じる一種典型的なドラマ。利用というのも必ずしもあたらないので、みんな敬愛しているのには違いない同じ土俵の上で忠誠比べみたいな面もある。
(☆☆☆★★)


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「借りぐらしのアリエッティ」

2010年10月02日 | 映画
小人の世界ではサイズが相対的に大きくなる分、水滴がぶよぶよした果実のように描かれていたりする一方で、小人たちの体重の表現が人間とあまり違いないのはどんなものか。長さ・高さに比べて重さは比較的ずっと小さくなるはず。
小人の世界で人間の世界の音を聞くと音が大きく聞こえるのだが、音の高さの方がちがって聞こえるのではないか。意識的なのだろうが世界観にやや統一感を欠く。ファンタジーだからといってしまえば、それまでだが。

病弱な少年が読んでいる本が横文字だったり「秘密の花園」の翻訳版だったりと、ちゃんぽんなのはどんな意図なのか。
少年が小人の存在を知ってもまるでびっくりしないあたりは、「トトロ」のお父さんみたい。

冒頭の自動車のカーブしたり坂を上り下りしてりする動きが手描きっぽい。今だったらCGで処理しそうなものだが。

手伝いのおばさんが途中から悪役っぽくなるのはとってつけたよう。

相対的に巨大化して見える虫の表現がリアルな割りにグロすれすれでパスしている。
(☆☆☆★)


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2010年9月に読んだ本

2010年10月01日 | Weblog
prisoner's books2010年09月アイテム数:11
ヴィヨンの妻 (新潮文庫)太宰 治読了日:09月02日{book['rank']

絹と明察 (新潮文庫)三島 由紀夫読了日:09月04日{book['rank']

ワンス・ウォリアーズ (文春文庫)アラン・ダフ読了日:09月09日{book['rank']

新聞消滅大国アメリカ (幻冬舎新書)鈴木 伸元読了日:09月10日{book['rank']

マルコムX (岩波新書)荒 このみ読了日:09月12日{book['rank']

フランケンシュタイン (角川文庫)メアリー シェリー,Mary Shelley,山本 政喜読了日:09月12日{book['rank']

2011年新聞・テレビ消滅 (文春新書)佐々木 俊尚読了日:09月30日{book['rank']

赤目四十八瀧心中未遂車谷 長吉読了日:09月30日{book['rank']

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