prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「イン・アメリカ 三つの小さな贈り物」

2004年01月31日 | 映画
ジム・シェリダン監督の作品としては、子供を主人公にしている分、一番親しみやすい。役の姉妹が本物の姉妹だと後で知り、なるほどと思う。

死んだ男の子のフランキーが下の子が描いた絵の中では、なぜかスカートをはいていたみたい。穿って考えると、両性具有の妖精ってニュアンスもあるのではないか。エンド・タイトルで“フランキーの思い出に”と献辞が出るが、実際には子供ではなく監督の死んだ弟だという。

初めの方から満月を割と目立つように撮っているな、と思って見ていると劇中映画で「E.T.」の満月の前を自転車が飛ぶ有名なカットが出てきて、ラストもどーんと満月のアップ。これも子供の語りという形式とともにファンタジックなニュアンスを出している。

一方でビンボーリアリズムも堂に入っている。小金や借金の話が多いのは、ちょっと成瀬己喜男みたい。劇中映画とすると、もう一つ「怒りの葡萄」がテレビで流れている。アイルランドにこだわったジョン・フォードの作品ということと、貧乏人の一家の物語という共通点からだろう。
シェリダンも相変わらずアイルランドにこだわっていて、全編ニューヨークの話だというのにダブリンのスタジオでも撮っている。
(☆☆☆★★)


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「コンフィデンス」

2004年01月29日 | 映画
毎度のことだけど、どんでん返しがあるって宣伝されたらどんなのかわかってしまいますよ。必ずしもひっかけを目的にしているようではないので、適切な売り方だったかも疑問。時制を交錯させる語り口は、不必要に話をわかりにくくしている観。

ダスティン・ホフマンやアンディ・ガルシアといったスターは特別出演的な出方で、なぜか両方とも鬚もじゃにしている。ファン・ルイス・アンチアの撮影は、例によって原色の使い方が独特。画面のつなぎ方など懸命にスタイリッシュ風にしている。
(☆☆★★)


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「着信アリ」

2004年01月26日 | 映画
後になって考えてみると、心霊写真的な幽霊の見せ方、都市伝説の要素、ビデオや携帯などの最新機器が中身がブラックボックスになっていることから来る薄気味悪さ、日本的な血縁関係から来るおどろおどろしさ、さらにどんでん返し的趣向まで入れているところなど、いちいち比べると「リング」とずいぶん良く似ているのだが、あまり気にさせない。

「リング」のいわば源流であるビデオ版「ほんとにあった怖い話」以来の、いわゆる小中(千昭)理論からすると、実際の人間が演じている幽霊からいかに実在感を剥ぎ取って見せるか、実在していないはずなのに写っているという感じを出すために、実際の心霊写真から色々な技法を取り込んでいる(顔の歪め方、像のぼやかしかた、などなど)わけで、その中に「幽霊の見た目」というのはありえない、というのがあるのだが、それをここではもろに、というよりあからさまに強調してやっている。
(☆☆☆)


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幽霊の正体見たり枯れ尾花というが、画面自体が怖いと思っている人の主観に即して細部を組み立てて人間を幽霊に見せてしまう、という方法からすると、幽霊の方が見る主観に立ってはおかしいということになる。ヒロインが去った後の空間に幽霊がいるのを改めて見せるというのも、ピン送りで背後の幽霊に焦点が合うというのも、それぞれ変。

ここでの幽霊はかなりはっきり肉体を持っている感じで、西洋のポルターガイストもあまりやらないような力技を見せたりする(デジタル他の技術の進歩の貢献、大)。男優陣が妙に劇画的な芝居をしているのとともに、監督の体質か、と思ったりする。ある程度確立された方法を繰り返しながら、他と違おうとするのではなく、少し違ったものが出てしまい、破綻には至らずむしろパワーの要素が加わった観。(後註・三池崇史監督はホラーは
「悪魔のいけにえ」しか見たことないと言っているそう。ホントかね)
ただ、ラストの思わせぶりの意味は何? 幼児虐待も、見たいものではない。

岸谷五郎が登場する時、両手をお岩さま風にだらりと前にたらしているのが可笑しい。
出てくる携帯の種類は、NTTドコモ、vodafone、auと一通り揃っているよう。

「バレットモンク」

2004年01月25日 | 映画
人を殺さないヒーローっていうのは結構。チベットが出てくるから中国が悪役になるかと思ったが、それだと東洋人ばかりが出てくることになってマズいか。
しかし、弟子役の若者、よく考えてみるとこれといった修行積んでいない。それで後継者になれるというのは、なんか「マトリックス」みたいに只の若者がいきなり救世主になるみたいな<>を感じる。
(☆☆★★)


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「リクルート」

2004年01月24日 | 映画
註・多少ネタバレあり。
ストーリーはよくひねりがきいているのだが、なんか演出が平板で、先読みできてしまったり逆に腑に落ちないところがかなりある。会話シーンはずっとアップのカットバック、不安定な感じを出すのにカメラをずうっと傾けっぱなし、というのではね。

アル・パチーノの役のアヤシゲな感じを出すのにもっぱら演技に頼っている感じで、演出のフォローが足りない。 CIAの内部にロケできるわけがないのだが、考証はもっともらしくできている。しかし、PCからデータを持ち出すのにUSBカードを使って、それを警戒しないってことあるかなあ。(☆☆★★)


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「ミスティック・リバー」

2004年01月21日 | 映画
たとえば少年時代の性的暴行によるトラウマといったモチーフは、凡庸なミステリだったら犯罪の動機といった位置付けにもっともらしく置かれるのだが、ここではそれと核になる殺人事件と関係ありそうで関係なく、しかし関係あると<>ことで、次の展開を生んでいく、という奇妙に歪んだつながり方をしている。

犯人が捕まれば解決、という具合にいったん崩れたバランスが回復されて終わるのではなく、一つの暴力が玉突き式に取り返しようもなく発展していく迫力は、「許されざる者」を思わせる。警察がちゃんとやるべきことをしているのに問題は解決していないというのも、あからさまな暴力こそ目立たないが無法地帯じみている。

名前だけしか出てこない人物が重要だったりするので、ストーリーを追うのは少し難渋する。同じ名前の人物が何人もいて、幼馴染みがまだ近くに住んでいるなど、コミューンの狭さを感じさせる。
オープニングで車の中の男の指輪に描かれた十字架と、ショーン・ペンの
背中に彫られた十字架の対応。(ペンの二の腕には“刀”という字の刺青が彫られているみたい)
ペンは終盤かつてのセルフイメージだった「ワル」の面影を再生させ、ティム・ロビンスがこれまで何度か見せていた童顔の下の歪みを覗かせるといった、これまでのイメージを巧みに織り込んでいる。
冒頭、子供たちがホッケーをやっていてボールを下水に落としてしまい、後で成長したロビンスが下水に無数のボールが浮いている、という奇妙なイメージを語るくだりは、スティーブン・キングの「IT」で下水に住む“IT”を思わせる(広告ではキング原作の「スタンド・バイ・ミー」と比較していたが)。あれも少年時代とその喪失がモチーフだった。喪失を固まったコンクリートの上に残る書きかけの名前で見せた工夫がうまい。
イーストウッド作品では、鉄拳がしばしばカメラに向かって飛んでくるな、と思う。

劇中のテレビでジョン・カーペンターの「ヴァンパイア・最後の聖戦」が出てくるのは、妙な組み合わせ。

スタント・コーディネーターがバディ・ヴァン・ホーン。「ダーティファイター」と、その続編の監督。キャリアからすると逆戻りみたいだが、いずれにしてもイーストウッドがボスで、雇われ監督もスタントもさほど変わりないということか。
(☆☆☆★★★)


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「ハリウッド的殺人事件」

2004年01月20日 | 映画
考えてみると、主役二人のキャラクターは別々に設定されて別々に動いているのであって、仕事上の協力以外に互いに関わりあうことってないのだね。だからドラマとするとずいぶん食い足りない。そのくせアクション・シーンはラストに思いだしたように長々とあるだけで、喋っているシーンがずっと続く。悪役が大して憎々しくないので、やっつけ方がやり過ぎに見える。ジョシュ・ハートネットはおよそ「欲望という名の電車」のスタンレーという柄じゃないのは、ハズしているつもりなのだろうか。結局、ハリソン・フォードは何で儲けていたのだか、よくわからない。
カメオ出演がロバート・ワグナー(意外と老けてない)とか、フランク・シナトラ・jrというのは、シケた感じ。カーチェイスの最中、フォードが運転を代わって走りだす時はシートベルトをしていないのに、ぶつけてエアバッグが膨らんでいるところでは絞めている。

「ミシェル・ヴァイヨン」

2004年01月19日 | 映画
「フィフス・エレメント」はリュック・ベッソンが中学生の時書いたSFが元だったというが、SFではないがこれもそんな感じ。レースの最中の人物のすりかわりなど、推理小説を読み過ぎた子供じみた創作。原作はマンガだというが。悪役の描き方の安っぽいこと。そのくせ撮影技術はやたらめったらと高いのだな。変なの。

「ガキンチョ☆ROCK」

2004年01月19日 | 映画
初めのうち、おそろしく金がかかってないなあ、と思って見ていた。小道具や調度などまるで自主映画みたいなのだが、違うのが編集のうまさ。MTV式にムダにセンセーショナルにつながないで、きれいに構成されてリズムが出ている。なんと大阪の街で踊りだしてしまい、それがミュージカル風でなくミュージカルになっている。写っている連中、うまいへたではなくて(というより演技以前)、とにかく照れないで思いきって歌って踊って喚いているので、ノれる。全国区のテレビに出てくるようなつるっとした顔とは違う、ごつごつした<>という感じの顔ばっか出てくる。歯並びの悪い奴、多し。

「サイコ」から「卒業」から、色々な洋画ネタが入っているが、大阪の味付けだとまた違う感覚。といっても、一般の大阪の印象よりさっぱりしている。犬がバナナを食べるところを完全にフレームから外して撮ったり、人間が道路を引きづられるところを堂々と人形を使ったり、安くあげるところは安くあげ、細かく気にしていられないところは気にしないで通りすぎている。高級ホテルのスイートルームが自動ロックではないなんてこと、あるか。マンガ調でがちゃがちゃやっているかと思うと、要所要所はきちっと決めている。気持ちよし。

「油断大敵」

2004年01月18日 | 映画
子供の病気と事件発生がかち合うオープニングから、やたら間が悪い、あるいはツイストのきいた展開がずっと手をかえ品をかえて連続するのが、単純な喜劇味やストーリーを面白くするひねりという以上に、刑事は泥棒のことをよく知らないといい刑事になれないし、だからといって馴れ合ってはいけないという全体の一種のねじれた構造にまで一貫している。役所広司の娘が海外でボランティアをしたいと親から独立しようとするのと、柄本明が子供の時田舎から出ていくために金を盗むのと、やり方は合法非合法と正反対でも“羽ばたく”ため、という点では通じているように。その上でさらに役所を外さず(自分は)羽ばたけなかった、と独語する姿を加えているのが、細かい。

役所が夏川結衣を夜道送っていくところで、途中でカメラが祭の鳴りものの練習のところで止まり、主役そっちのけで一曲終わるまで撮っているのが、役所の胸が高まっているのを表現しているようなしていないような、人をからかっているようなセンス。

ビール一本から中身と瓶の両方を使って始まる、中身で酔って笛代わりに瓶を吹くのに口をとんがらしてキスする支度をしているようなところからラブシーンに入る組み立ての面白さ。そうするのに子供をだしにするところも(子供の時、ああやって笛代わりに瓶吹いた覚え、あるぞ)。

淡路恵子の女将がそれまで物を読んでいたところを店に客が来ると、二重になっている眼鏡のレンズの一枚を素早く抜いて客に応対する体勢になるので、かなりいろいろあった感じの女将だなと思うと、後でさもあらんと思わせる、など細かいところが丹念で、しかも全体につながっている。
主役二人については、堪能させていただきました、としか言えない。

「パリ・ルーブル美術館の秘密」

2004年01月17日 | 映画
ナレーションなし、音楽もほとんどなし。淡々としていて、ちょっと眠くなるところはあるが、楽屋裏を見る楽しみはたっぷり。バカでかい絵画を運ぶところなど、普段は平面としてしか意識しない絵の物体としての重さ、扱いにくさをありありと感じさせる。

「ファインディング・ニモ」

2004年01月15日 | 映画
オープニングでニモの母親と大半の卵が食べられてしまう(画面には出さないが)というのは、けっこうショッキング。潜水艦や機雷が錆びているのに機能は生きていて爆発する無気味さ。CGで人間を描くとしばしばグロくなるのだが、ストーリーの上でも人間は仇役ぎみ。悪ガキが歯にブレースをしているというのは、「トイ・ストーリー」でもやっていた。

水の透明感や差し込んでくる光の表現が見事。次から次へと立ち塞がる障害を乗り越えていく知恵の絞り方、ストーリーとキャラクターの練り方など、アメリカ映画の良さが出た。ただ、父子ともにそれほど性格が途中で変化するわけではないので、キャラクターの立体感は乏しい。

日本語吹き替え版で見たのだが、文字は全部日本語にしないで、英語をかなり残している。
出てくるサメの名前が“ブルース”というのは、もちろん「ジョーズ」の撮影に使われた機械仕掛けのサメからとったものだろう(さらに元をただせばスピルバーグの弁護士の名前)。「サイコ」の音楽の断片が出てくるが、ちゃんとエンドタイトルに記載されている。

併映のCG短編「ニック・ナック」のエンドタイトルに“この映画はすべてロケーションで作られました”とつく洒落。

「フル・フロンタル」

2004年01月13日 | 映画
どうもこの監督(ソダーバーグ)、衒いが鼻についていけない。デジタルカメラで撮影したりとか、出演者に撮影現場まで自分で車運転させて来させたりとかといった話題はあるが、それがどの程度表現に結びついているのか。それほどリアルな迫力で出ているわけでもないし。表面的なライフスタイルの人種だからいいってことか? そんなことないだろう。こっちが聞いてもどうかと思うくらい台詞のヴォキャブラリーが乏しいキャラクターが目立つ。わざとやっているのかもしれないが、人物まで貧しく見える。

「おいしい生活」

2004年01月12日 | 映画
監督第一作の「泥棒野郎」のリメークみたい(その前に日本映画「国際諜報局・鍵の鍵」をまったく違う台詞に吹き替えたイタズラ映画‘What's up tiger lily?’があるが)。ただ、今の偉くなったアレンだとアホには見えないので、ドジばかりなのがなんかわざとらしい。
(☆☆☆)


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「サウンド・オブ・サイレンス」

2004年01月11日 | 映画
20人もの精神科医の目をくぐって精神病患者のふりをしつづけるなんてこと、できるのかなあという疑問は抱かせるが、脚を折って動けない妻をどこから監視しているのかというのを初め「裏窓」の真似かと思わせてひねったところや、物語の鍵になる6桁の数字が何を意味するのかとか、その数字を文字通り裏返すところなど、細かいところに色々アイデアが入っているのはいい。記憶の中で左右が逆転しているという現象は、こちらにも覚えあり。

身元不明の遺体を埋葬しているハート島の風景というのは、棺を運び込むところまでは「聖者の眠る街」で描かれていたが、中にまで踏み込んだのはこれが初めてではないか。
(☆☆☆)


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