prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

2007年12月に読んだ本

2007年12月31日 | 
prisoner's books
2007年12月
アイテム数:20
雪が降るまえに
アルセーニー タルコフスキー
12月02日{book[' rank' ]
土星の徴しの下に
スーザン ソンタグ
12月02日{book[' rank' ]
武満徹:ジェモー
東京都交響楽団
12月02日{book[' rank' ]
クルターク:カフカ断章
ケラー(アンドラーシュ) バンゼ(ユリアーネ),バンゼ(ユリアーネ)
12月02日{book[' rank' ]
現象学の理念
E. フッサール
12月11日{book[' rank' ]
ボクの満州―漫画家たちの敗戦体験
赤塚 不二夫,北見 けんいち,ちば てつや,上田 トシコ,高井 研一郎
12月11日{book[' rank' ]
トンデモ本の世界U
と学会
12月11日{book[' rank' ]
トンデモ本の世界V
と学会
12月11日{book[' rank' ]
危ないお仕事! (新潮文庫)
北尾 トロ
12月11日{book[' rank' ]
黒木和雄とその時代
佐藤 忠男
12月14日{book[' rank' ]
朗読者 (新潮クレスト・ブックス)
ベルンハルト シュリンク
12月22日{book[' rank' ]
伊福部昭:シンフォニア・タプカーラ
ロシア・フィルハーモニー管弦楽団
12月22日{book[' rank' ]
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「深紅」

2007年12月29日 | 映画

ヒロインの少女時代を掘北真希、成長してからを内山理名を演じていて、これを過去と現在のシーンで必ずしもきちんと使い分けず、過去と現在とか交錯するとともに現在のシーンに過去の姿で出たりする凝った技巧が面白い。
もう一人のヒロインである水川あさみがまた、内山理名の分身的存在で、乱反射するようにイメージが展開していくといいのだけれど、「謎解き」の場面にヒロインたちがあまり絡まない(絡んだら殺されているわけだが)こともあってちょっと足踏みしている観。女同士のキスが逆に過去との訣別にもなっているラストはちょっといいけれど。
(☆☆☆)

「魍魎の匣」

2007年12月28日 | 映画
中国の話だと思っていて、それにしては「第三の男」のポスターが日本語なのはなんでだろうと不思議に思っていたら、上海ロケを昭和20年代の東京に見立てていたのね。
ところどころであの映画で使われていたツィターの音が聞こえてくるのだけれど、時代色を出すというのとも違うし、パッチワーク的にどこの国でもない「東京」のイメージを作るというにしても、地平線の広さが全然違いますからね。なんだか落ちつかない。

膨大なセリフが役者・演出ともにこなれているのはいいけれど、その割りに全体像がきちっと焦点が合わない。人体組織が機械群と対応しているというのはアタマでそんなものですかねと思うにとどまって、物自体が生き物みたいに見えてくるとか、あるいはその逆といったフェチ度が薄い。
(☆☆☆)


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「中国の植物学者の娘たち」

2007年12月26日 | 映画
植物が繁茂している中にレズビアン二人を置く、という図はなんだか「血とバラ」みたいだが、植物も女たちも今ひとつ美しさとか官能性が足りない。
中国本土では撮れずベトナムで撮ったり、ヒロインの一人が中国人とロシア人とのハーフという設定だったりと、フランス在住の中国人であるダイ・シジエ監督は半身離れて母国を描いている感じ。「中国、わがいたみ」「小さな中国のお針子」と全部タイトルに「中国」が入ってますね。

同性愛自体が法律で罪ということになっているのか、単に道徳的反発をかったから法律関係なしに死刑になったのか、よくわからないけれど、後者みたい。

中国だと死刑に使った銃弾の代金を遺族に請求するとは聞いていたが、(ヒロインが頼んだとはいえ)孤児院の院長に請求するのだからちょっとすごい。七元八角ということは、一応一元=十角=三十円換算で、234円。
「植物学者」というより、漢方薬の原料を栽培している庭師みたい。
(☆☆☆)


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よみがえる伊丹十三・ヒットメーカーの知られざる素顔

2007年12月25日 | 映画
なんで自殺したのか、という突っ込みはまったくなし。遺族がぴんぴんして記念館まで作っている状況でできるわけもないが。
もっぱらヒットメーカーとしての面に焦点を当てていたけれど、当人にしてみればそういう「型にはめられる」こと自体が相当なプレッシャーになったのではないか。一番そういうのを嫌うタイプの人に思える。
今の邦画のヒット作の作り方がもっぱらテレビでの極端に型にはめて単純化された話題作りが主導しているのにも(あまりいい意味でなく)先駆けているみたい。

周防正行監督のインタビューで「君は描きたい題材を描きたい時に描けばいい」と言われたとあるけれど、実践しているな。


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熊井啓 戦後日本の闇に挑む

2007年12月24日 | 映画
熊井啓が助監督についた田坂具隆監督の「土と兵隊」の抜粋につけられた解説を聞いて、手榴弾を放り込んだあとの敵のトーチカに乗り込んだ日本兵が見たものの意味がやっとわかる。足に鎖をつけられた中国兵だったのね。同作を見ていたにも関わらず、わからなかったのだから、何見ていたのだか。
逃げられないように、というのはとうぜん日本兵にも通じたものだったろう。もともと不思議なくらい「敵」の姿が描かれない映画なのだが、敵と見せて鏡に写った自分の姿を見ようとしていたのかも。

「地の群れ」の抜粋に、はっきり「ブラク」という言葉が出てくる。おっ、NHKの番組に出てきたぞ。

次回作が吉村昭原作の「破獄」で、主役は渡辺謙に決まった、その二日後に亡くなったという。実現したらよかったなあ、と今更だが思う。どちらもぴったり。


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肉眼夢記 ~実相寺昭雄・異界への招待~

2007年12月24日 | 映画
京極夏彦がメトロン星人とちゃぶ台をはさんでテレビで放映されているパネル・ディスカッション(寺田農・清水祟・山崎バニラ・唐沢俊一)を見ながらそれぞれの次元で実相寺昭雄について語り、そのまた撮り方が実相寺作品を模していると(制作は実相寺が在籍していた事務所であるコダイ)いうやたらと凝った作り。

「東京幻夢」や「春への憧れ」などあまり見られない作品の断片が見られたが、ほとんど前に天王洲アイルで特集上映されていた時に見ていたのを思い出す。その時はそれほど客は来ていなかったが。

子供用の塗り絵を実相寺が塗ったものが出てきたけれど、ちょっと普通想像つかないような塗り方をしていた。ちらっと楳図かずおのマンガに出てきそうと思ったくらい。
切った爪をコレクションしていたというのに呆れる。
「歌麿」に出た堀内正美があんまり位置を厳密に指示されたものだから、レントゲン撮るみたいに息とめて動けな
くなったと語る。

別に一周忌ということで、blue-radio.comで以前やっていた実相寺インタビューを再放送していた。ショスタコーヴィッチのおよそ誰も知らないような映画音楽などについて語っている。


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吉永小百合と山田洋次・日本の母に挑む 「2人の映画“母べえ”への思い」

2007年12月23日 | 映画
山田洋次+吉永小百合という組み合わせだと、優等生的な受け答えになるだろうなと思わせて、実際かなりそういう感じでちと物足りない。晩年の渥美清だとときどきはみ出たところを見せていたと思うが。
撮影の合間に子供たち役の子と一緒に過ごす情景がいい。

熊井啓が昔のキネマ旬報「忍ぶ川」で吉永小百合主演で撮りかけて栗原小巻主演になったのは、吉永小百合の父親の干渉のせい(初夜のシーンを削れとか、主題歌を歌わせろとかいった要求があった)として、怒りの手記を書いているが、その中にその父親が戦前の内務省の紙の配給係(つまり、新聞・雑誌に紙を配給するかどうか決める権限がある=報道管制できる)だったという記述がある。
それと知っていると「母べえ」で戦時中の当局がどう描かれるか、ちょっと意地の悪い見方になりそう。



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「上海特急」

2007年12月23日 | 映画

全部セットで作られた動乱期の中国っていうのも、今では望みようのない昔の映画(1932)でしかありえない完全な作り物の風景で、群集がもそもそ動いて別れると列車が現れるが、レールに牛が突っ立っていて通せんぼされて止まってしまうなんてシーンなど、ややインドとごっちゃにしている気もするが面白い。

もっとも、汽車の中のシーンが多くて出演者も西洋人が多くてエキゾチズムは案外に希薄。これが完全に現地人を外した視点でまとめられていたら、アガサ・クリスティのトラベル・ミステリーものみたいなるのかなと思わせる。
ディートリッヒをいかに美しく撮るかという監督の執念という点では、「西班牙狂詩曲」ほど脱線した迫力はなくてちょっと物足りない。
(☆☆☆)


「女はみんな生きている」

2007年12月22日 | 映画
「赤ちゃんに乾杯!」のコリーヌ・セロー監督らしく、フランスだろうがアルジェリアだろうが国も世代も問わない男どものバカさ加減、自分勝手ぶりの描写が辛辣だが、演出タッチそのものは軽やかで笑わせる。
アルジェリア人娼婦役のラシダ・ブラクニがボコボコに殴られて植物人間みたいになっている前半から、回復して悪びれず色仕掛けも含めて反撃に出るのが、哀れなだけでも逞しいだけでもなくて、綺麗になっていくのが女性監督の感覚か。

フラッシュバックでなぜ殴られるに至ったかといういきさつが語られるシーンがずいぶん長くて丁寧。
今のイスラム文化圏での女性の扱い(実質的な人身売買が堂々と行われる)のを徹底的に批判しているのも、大胆。
(☆☆☆★)


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「魅惑の巴里」

2007年12月21日 | 映画
ジーン・ケリーの振付師と公私ともに組んでいた三人組のダンサーの一人が後年、自叙伝を出して他から訴えられて裁判になり、それぞれ証言台に立ち、証言の内容が本筋になるのだが、その言い分がいちいち食い違う、という「羅生門」風の趣向。

ただ三人の扇の要に位置するのがケリーみたいに裏表のないパーソナリティだとそんなにエピソードによる違いはなくて、ミュージカルなのだから悪く凝るよりいいけれど、長々と見せてこれでおしまいかいと思わせる。
歌と踊りの大半が舞台の上でやっているのを撮っている設定なので、ミュージカルらしく人物の感情が高まって歌や踊りに移行するわけではないのがちょっと物足りない。
(☆☆☆)


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「めぐり逢い(1957)」

2007年12月20日 | 映画

トム・ハンクス、メグ・ライアン主演の「めぐり逢えたら」はエンパイア・ステートビルの再会を約束するところをはじめとして、これの本歌取りみたいなもの。ところが、この本家のラストはエンパイア・ステートビルの再会ではないのね。びっくり。
さらにこの「めぐり逢い」自体、同じレオ・マッケリー監督の「邂逅」のリメークなのだから、ややこしい。

ケイリー・グラント、デボラ・カーのどちらも食うに困らない身分の二人(出会うのが豪華客船の上だ)が船を下りて自力で生きていくのにそれぞれ絵と子供たちの音楽指導を職にするけれど、意地悪く見ればどちらもいいご身分でないとできない。
指導される子供たちのうち、踊る役目の二人だけが黒人というのが目立つ。

前半、南フランスで一時下船してグラントの祖母(キャスリーン・ネスビット)に会いに行くシーンが、ネスビットの品格と、肖像画と音楽の使い方が巧くて出色。

二人が最初にキスするシーン、階段を降りかけてくる途中で止まり、上半身が見えない状態のままでカーの手すりに置かれた手の芝居だけでキスしているだろうことを暗示している演出がなかなか良い。
後半、それぞれ結婚するはずの相手が別に悪いわけではないので話の進め方がちょっと強引な感じになる。
オリジナルの「邂逅」は87分、これは119分だから、かなり緩くなっているのではないか。
(☆☆☆★)


「ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた」

2007年12月19日 | 映画
エンド・タイトルに「この映画をエイドリアン・シェリーの思い出に捧げる」と出たので、誰かと思うとなんとこの映画の監督・脚本で、メガネをかけたウエイトレス役で出演もしている人だとわかって仰天。
調べてみると、自宅に泥棒に入った19歳のエクアドル人違法労働者を見つけて殺されたらしい。なんてことだ。

アメリカの田舎町のウエイトレスというと、横暴な夫と低賃金がつきものイメージだが、まったくそのまんま。低賃金の方はおとぎ話的な展開になるが、夫役のジェレミー・シスコが幼児性から抜けられない自分勝手で暴力的で、ヒロインを閉じ込める生きている牢獄みたいな役を、一方でこういう奴いるよなあと思わせるように演じている。女性の作者でないと、ここまでどうしようもない男は描かない気はする。
こういう夫が妻が男とうっかり話でもしようものならどれほど嫉妬するかわからないが、産婦人科医ならいくらなんでも会ってもとりあえずおかしくないというお話の設定がうまいところ。

この夫が自分の子供を妊娠した妻をつかまえて、赤ん坊が生まれても自分より愛してはいけないなどと言うのには呆れてしまうが、この男の幼児性が本物の子供が生まれると、底が見えてしまう展開が鮮やかで、ラストのカタルシスはなかなか。
それだけに、作り手の運命には無常を感じてしまう。
(☆☆☆★)



「転々」

2007年12月18日 | 映画
転々、って行きあたりばったりってことかいな。笑ったり、ぐらっと眠くなったり、両方。
バディ・フィルムやロードムービーっていう「型」に決め付けられない作りで、平気で小ネタに脱線するかと思うと、意外と人物のよって来るところが細かく書き込んであったりする。
借金が80万円、報酬が100万円という数字が多すぎず、かといって右から左に用意できる金額でないのがいい。

当人役で出てくる役者が岸辺一徳というセレクションが微妙。「マルコビッチの穴」のジョン・マルコビッチと似て知名度があるけれど大スター過ぎず、テレビタレント的にお馴染みさんではないところ。
(☆☆☆)