prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ(7)

2005年08月08日 | フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ(シナリオ)
73 山本の事務所
山本「…これしかないってはずないだろう」
と、わずかなアンケート用紙を手に仁科を怒っている。
山本「あとはどこに行ったんだ」
仁科「知りません」
相変わらずぶっきらぼうな態度。
ノックの音がする。
見ると、開いたままのドアの外にまた変装した小人と秋月が立っている。
山本「なんの用でしょう」
秋月「ちょっとお話があるのですが」
山本「(出て行け)」
と、仁科を出て行かせる。
小人、ドアを閉めて変装を解く。
山本「おや」
小人「見ましたよ」
秋月「(アンケート用紙を出して)これも見ました」
山本、ばつの悪い顔をしている。
秋月「(見ながら)好評とはいえませんね」
と、山本に用紙を渡す。
山本、目を通し出す。
小人「アイディアはよかったと思いますけどね」
秋月「アメリカ製だという触れ込みを疑った客はほとんどいません。日本人が協力したと推測している人はけっこういます。もっと変な日本を期待していたら、それほどでもなかったという人が何人かいます。怒るにせよ笑うにせよ、どれぐらい勘違いしているのかを期待しているのでしょう」
小人「それにしてもどこからこんなことを考えたのですか」
山本「ああいう映画は実際にあるのさ。アメリカで再編集して台詞も英語に入れ換えてっていうのがね。それに我々の世界じゃ日本のものを舶来だと言って売るのは珍しくない。あのまるで画面に合ってない洋風の音楽を聞いたとき、閃いたね。“そうだ、これを外国映画にしてやろう!”日本映画といったんじゃ、誰もありがたがらないからな。いったん思いつくと、作りのちゃちなのがかえってぴったりに思えてきた」
小人「金が集まらなかったものでして」
山本「やたらとまじめくさって作っていて、そのくせズレているのもね」
小人「手直しはあなたが?」
山本「おい」
と、天井裏に声をかける。
早川の脚だけが長さを強調するように先に見える。
下りてくる早川。
山本「トニー早川。
二世だ」
小人「初めまして、小人です」
早川「(なまりのある日本語で)トニーです」
ナレーションの声だ。
山本「彼は映画好きでね。
一度作る方もやってみたかったって言うんだ」
小人「でしたら、ものは相談ですが、あの映画、もう一度作る気はありませんか」
山本「もう一度?」
小人「やはりありもののフィルムで間に合わせるのには限界がありますからね。
初めからそれらしく撮らないとだめだと思うんですよ」
アンケート用紙を取り返して、 小人「観客は変な日本を求めているんです。
期待に沿えば、絶対当たります」
山本「…うーん」
小人「このままでは中途半端ですよ。
作り直しは私がやります。
もっと徹底的に嘘臭く作ります。
まさかと思うように作った方が、逆に嘘がばれないものです。
代わりに、売上の7割をもらいます」
山本「7割? 冗談じゃない。
普通は劇場が半分取るんだ」
小人「“普通”は考えないでください。
普通の映画をやろうとしているんじゃないんだから。
(早川に)お手伝いしてくださいますね」
早川「え?…ええ」
小人「それはありがたい。
ほら、こちらも協力してくださるそうですし」
山本「…6割」
小人「いいでしょう」

74 小人の事務所
小人「(はしゃいでいる)やったやった」
手には札束がある。
小人「前渡しと、売上の6割だぜ。
あんなゴミにだ。
災い転じて福となすとはこのことだ」
秋月「当たれば、ですけど」
小人「(水をかけられる)…そうだな」
秋月「(手帳をめくりながら)…スタジオの予約ですが、どこもいっぱいで、第6ステージの撮影が早く終わったら空くかもしれないということでした」
小人「よし、それ頼もう」
秋月「空いても一日二日ですよ」
小人「かまわん。
(考えて)それは時代劇か」
秋月「そうです」
小人「だったらセットを壊さないよう頼んでくれ」
秋月「はい」
小人「スタッフは」
秋月「解散させてません」
小人「さすが。
…それから、オーディションの時ちょんまげを結ってきたのは何て言ったかな」

75 撮影所・スタッフルーム スタッフ、キャスト一同が集まっている。
早川を連れて小人が入ってくる。
小人「…皆さん、お待たせしました。
一時中断していた撮影が、今回無事再開の運びになったのを、まず皆さんと一緒に喜びたいと思います」
メ皆さんモは別に喜んでいない。
わけがわからないでいる。
小人「再開にあたって、脚本を大幅に書き直しました。
詳しくは彼(早川)から聞いてください」
早川、追加撮影部分の台本を配る。
ざわざわしながら読む一同。
小人「新しく撮る分はカラーにします」
宮下「どうこれまでの分とつなげるんです」
赤沢「(手を挙げ)あの、話がどう変わったのか、よくわからないんですが」
早川「まず、主人公は幕末に日本に来たアメリカ人になります」
ざわつき、一層大きくなる。
早川「彼が日本で知り合った芸者から聞いた話が、これまで撮った分になるわけです。
彼の出演場面をこれから撮り足してつなげて、現在がカラーで回想が白黒という芸術的な趣向にします」
赤沢「…どう話がつながるんです」
早川「あなた、海外版の『ゴジラ』を見ましたか」
赤沢「海外版?」
早川「あるんですよ。
日本で作られたのとは全然別の版が。
それだと、アメリカの通信社の記者が日本に来てゴジラの大暴れをリポートする話になってました。
もとの『ゴジラ』に、アメリカ人の出番をはさんでいって、そういう風に再構成したのです」
赤沢「なんで、そんな風に変えるんです。
輸出用に作り直すってことですか」
早川「…(ちょっと答に窮する)」
赤沢「そうなんですか」
(そうらしい)という雰囲気になってくる。
小人「(扉を開け)入りたまえ」
メイクアップを済ませた団が入ってくる。
西洋人から見たステレオタイプの日本人そのままのメイクと服装。
吊り目に眼鏡、出っ歯に茶筅まげのでき損ないのようなちょんまげ。
ステテコに包まれた脚はひどいがにまたで、裸足に下駄をはいている。
上半身は素肌に葵の紋所が入った印半纒をじかに羽織り、手にはドジョウすくいに使うようなザルを抱えている。
一同、しばらく唖然としている。
赤沢「(口火を切る)…なんですか、これは」
小人「見本だよ」
団、相撲まがいにザルから塩を出して撒く。
赤沢「(怒り出す)我々は、映画をやるんですか、プロレスをやるんですか」
小人、答える代わりに団にちょっとした額の金を渡す。
小人「ボーナスだ」
ぴたりと反発が治まる。
小人、一同の方を見る。
小人「我々は、商売をやるんだ」

76 ポーズをとる団
何枚もの扮装済みの団の写真が撮影される。

77 ビラが印刷される

78 うたごえ喫茶・「白樺」
店の一隅で数人がロシア民謡を歌っている。
秋月、こっそりと出ていく。
その後にはあちこちのテーブルの上にビラが乗っている。
団の写真を乗せた安っぽい印刷のビラだ。
「謎の国辱映画、日本上陸か」
「作者不明、映画史に埋もれた幻の映画」
「日米関係悪化を恐れGHQが輸入禁止」
あきれる者、笑う者、無視する者。
無視するのが一番多い。
いきなり、テーブルの上のビラをひったくった奴がいる。
清水だ。
清水「(ビラのメイクした団の顔を見て、どこかで見たような)」
と、首を傾げる。

79 撮影所・第6ステージ
前の組が使っていたセットが、壊されかけて残っている。
小人「少し壊されてるなあ…使えるのは正味一日か」
秋月「一日と一晩です…では、ちょっと事務所にお金取りに行ってきます」
と、去る。
代わりにぼちぼち集まってくるスタッフ、キャスト。
扶桑がセットを見ている。
座敷の一部の畳が外され、ぽっかり穴が空いている。
扶桑「どうします、この穴」
小人「(黒井に)おーい、お湯とドライアイス持ってきてくれ」
赤沢が入ってくる。
金髪のかつらを被り、青いコンタクトを入れ、つけ鼻をして、片目鏡を かけている。
つまり、赤毛芝居のような西洋人の扮装をしている。
扶桑「何やってんだ、おまえ」
赤沢「外人の役があるんでしょう」
扶桑「あるけど」
赤沢「主役でしょう」
扶桑「そうだけど」
そこに、早川がやってくる。
早川「(小人に)探してきました」
本物の外国人を連れてきたのだ。
早川「(英語で外人に)ビリー、彼がプロデューサーの小人だ」
と、ビリーと呼ばれた外人に耳打ちする。
よく事情が分からず、戸惑っている様子。
小人「よし、さっそく着替えさせてくれ」
黒井が湯とドライアイスを持ってくる。
扶桑「(黒井に)彼に合う服を見繕ってやってくれ」
休む間もなく、ビリーを連れていく黒井。
まだ馬鹿のように外人の格好をしてつっ立っている赤沢。
扶桑「おまえも着替えてこい」

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