prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ(5)

2005年08月08日 | フジヤマ・ゲイシャ・ハラキリ(シナリオ)
43 同・場内
空の客席に小人、扶桑、山本、秋月がつく。
暗くなり、幕が開く。
映写機が動き出す。
上映が始まる。

44 同・スクリーン
タイトルが流れていく。
音がところどころにしかついていないプリントなので、ひどく静か。

45 同・客席
扶桑、そっと山本のようすをうかがう。
むっとした顔をしている山本。
扶桑「…(身の置きどころがない感じで、前に向き直る)」

46 同・スクリーン

46―1 百姓屋(白黒)
しきりとめそめそしている貧しい姿の大平。
ちゃりん、とその前に小判が投げ出される。
女買いの声「よし、これであんたはうちの女郎だ」

47 前線座・客席
いきなり、けたたましい笑い声が少し離れた客席から響く。
扶桑、驚いてスクリーンと見比べる。
笑ったのは早川だ。
扶桑、(笑うようなところか?)と首をひねる。
すましている小人。
秋月、はらはらしながら、早川の方を(何者だろう?)というように一 瞥する。

48 同・出入口
仁科、はなはだ機嫌が悪く、しきりと腕時計を見ている。
清水がそっと仁科の隙をうかがっている。

49 同・スクリーン

49―1 水車小屋(白黒)
団扮する用心棒が、大平の遊女と赤沢の手代の逢い引きの現場に踏み込んだところ。
団「わしは何も見ていない」
と、いいながら見逃す腹芸を見せている。
大平「(涙ながらに)ありがとうございます」
赤沢「ありがとうございます」

50 客席
また早川が笑う。

51 出入口
清水、また仁科に引きずり出されている。

52 客席
また早川が笑う。
扶桑が爆発寸前。
突然、スピーカーから林が勝手に入れていたロックンロールが流れ出す。
びっくりする一同。
秋月、思わず笑ってしまう。
扶桑「あの馬鹿野郎! 曲を入れっぱなしにしやがって」
扉が半開きになる。
清水が仁科を振り切って入場しようとしているのだ。
清水、一瞬スクリーンの団の大写しを見、ロックンロールを聞くが、仁科を振り切るのに夢中で気にとめない。
やっと振り切り、ばーんと扉を開いて、清水が飛び込む。
清水「(叫ぶ)説明しなさいっ!」
山本、立って映写室に合図する。
映写は中断され、明かりがつく。
仁科、清水をまた引きずり出そうしするのを制止する山本。
清水、興奮していて、小人しか目に入っていない。
清水「(小人に)あなた、完成したらこの劇場で上映するから問題はない。
そう言ったわね。
だからこっちも自主上映の用意も何もいないでいたけど、最近この劇場の持ち主が変わったっていうじゃない」
山本、きょとんとした顔でまくしたている清水の顔を眺めている。
清水「その持ち主って、ヤクザだそうじゃない」
ヤクザと言われた(実際そうだが)山本、なおも清水の顔をきょとんと眺めている。
むしろ秋月の方が慌てる。
清水「ヤクザがあたしたちの映画をかけると思う?」
秋月、一生懸命身振り手振りで(今あんたの横にいるのがその持ち主だ)と教えようとするが、 清水「何。
何が言いたいの」
と、まるで鈍い。
その間、山本のもとに早川が呼ばれ何ごとか相談している。
山本、何か乗り気になったらしく、すっと清水の前に出る。
早川、ちょっと席を外す。
山本「失礼ですが」
清水「はい?」
山本の顔を見る。
清水「あっ」
絶句する。
秋月、肩をすくめる。
山本「ご安心下さい」
清水「え?」
山本「この映画、買わせていただきます」
清水「えっ」
というのが霞むような大声で、 「えっっ!」
と叫んだのがいる。
小人だ。
秋月「えって…(なんで驚くんですか)」
扶桑も怪訝そうに小人の顔を見ている。
小人「(ごまかすように)いやいや…」
山本「この場で買い上げさせていただいてもいい」
小人「そんな…」
清水、山本の前に出る。
山本「何か…」
清水、山本の手を握る。
清水「ごめんなさい」
山本「は?」
清水「わたし、誤解してました」
山本「はあ…」
早川が鞄を持って帰ってくる。
開けると、現金が詰まっている。
清水「(圧倒される)」
山本「即金で、いかがですか」
小人「ちょっと、考えさせて下さい」
清水「何を考えることがあるんですか」
清水の方が興奮して乗っている。
扶桑「買い取りっておっしゃいましたが、ご覧の通りまだ完成しておりませんが」
山本「それは結構です。
それもこちらで善処します」
扶桑「しかし…」
清水「いいじゃありませんか」
小人「申し訳ありませんが、もう少し考えないと」
扶桑「(考えが変わる)考えることないんじゃありませんか」
小人「(戸惑い)監督がそんなこと言っちゃいけないな」
扶桑「(小声で)ここで気を変えられたらこんなもの二度と売れませんよ…(山本に)わかりました」
清水「(安心する)よかった」
まだ何か言いそうな小人。
秋月「(小人に耳打ちする)…どういう事情が存じませんが、ここで断ると疑われますよ」
小人、説得される。
小人「…監督がいいというのなら」
扶桑「…(皮肉がわかった顔)」

53 小人の事務所(深夜) 小人と秋月が戻っている。
秋月「…社長」
小人「(考え込んでいたのが、やっくりと秋月の方を見る)」
秋月「会社をつぶす気でしたね」
小人「(図星)」
秋月「お金を集められるだけ集めて、絶対売れない映画を作り、売れなかったからと会社をつぶして残ったお金を持って逃げるつもりだったんでしょう。
やたら金払いが良いと思ったけど、後腐れがないようにですね」
小人「珍しいことじゃない。
私が前いた会社でもやっていた。
しかし、まさかあのヤクザが買うとは思わなかった。
あんな…」
秋月「良心作を?」
小人「くそまじめで暗い映画をだ」
秋月「同じことでしょう」
小人「絶対売れない自信があったんだ」
秋月「私もそう思いました」
小人「そうだろう」
秋月「でも売れたら利益が出ませんか」
小人「こんな額じゃ全然足りない。
なまじ売れるとかえって損するんだ」
秋月「でも、利益が出るほどの値段で売れるわけはありませんが」
小人「もちろんそうだ。
…なんであんなのが売れたんだ」
秋月「見ながら大笑いしているのがいましたけどね」
小人「誰だ、あれは」
秋月「調べます」
小人「もう一つ調べてくれ」
秋月「調べます」
小人「?」
秋月「あの映画を買い取ってどうするつもりなのか」
小人「…君の月給を上げないとな」

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