人に情報を伝えて行動を変えてもらうためには、いくつかのステップがあります。
私はそれを5段階のステップとして、「認知」→「認識」→「共感」→「参加」→「率先」と考えていて、昨年出した本にもそういう一節を書いています。
しかしこれをよくよく見ると、「認識」から「共感」へのギャップがとても大きくて、そこの部分をどう埋めるかということに悩んでいました。
今改めてこれを眺めた時に、これらの間には「関心」というキーワードがあるべきで、「認識」→「関心」→「共感」というステップになるのではないか、と思い始めました。
さらに、「率先」というステージはもはや説得などで達成できるものではありません。
人が使命感を帯びるには、もはや"神に見込まれる"ことが必要なのではないか、と思うと、最後の「率先」はプラスαのできごとではないか、と思い直しました。
そこで、新しい行動変容のための5段階+αのステップとは、「認知」→「認識」→「関心」→「共感」→「参加」(→「率先」)ということになりました。
これで「認識」から「共感」へのギャップが少しは解消されたように思いますが、それにしても「認識」をいかに「関心」に高められるか、また「関心」からいかに「参加」に高められるか、ということに難しさがあることに変わりはありません。
人の行動を変えようと言うことはとても難しいことなのです。
◆ ◆ ◆
さて、そんななか、昨日1月8日(水)にNHKの"クローズアップ現代"という番組で、「シリーズ 未来をひらく(2)“物語”が人を動かす」を見ました。
この番組では今週のシリーズとして、「“つながり力”から、日本に新たな活路を切り開くヒントを探る」という番組作りをしています。
昨夜はそのシリーズ2夜目で、「私たちの暮らし、地域社会が抱える様々な課題を、人と人との『つながり』を広げることで克服しようという試みが始まろうとしている」という問題提起がなされていました。
NHKの番組紹介ホームページでは、「番組のこれまでも市民運動やNPOなどが活動を続けてきたが、より広範で推進力を持つ動きに中々つながらないのが現状だ。こうした中、多様な人々を結びつける市民運動を理論化し『分断されたアメリカを一つにした男』として世界的に知られるマーシャル・ガンツ博士(ハーバード大)が来日。日本各地で活動するNPOの代表ら47名を集めてワークショップが開催された。ガンツ博士が訴えるのは、人々をつなぎ、動かすことのできる『物語』を共有することの重要性だ。カリスマ・リーダーに頼らず、一人一人の当事者意識を高めて社会を変革する可能性を探る」と紹介されていますが、非常に勉強になりました。
番組では、恵まれない子供たちへの寄付を集めようとボランティア活動をしているが、なかなか社会の"関心"と"参加"が得られないと悩む人たちを集めてのガンツ博士が話をしています。
そこで博士は、「人の心を動かすには、感情に訴える物語が必要だ」と言います。
単なる事実ではなく、そこに感情が足された物語が必要なのだ、と。
そしてその物語は、"self(自分)"、"us(私たち)"、"now(今でしょ)"で語られないと行けない、というのです。
まず語り手は自分が何をどう感じ、どう思ったかを話さなくてはならない、伝えなくてはなりません。そしてそれは私だけの物語ではなく、"私たち"の物語なのだ、と訴えましょう。
個人の思いと感情と意思が、伝えられた私たちの思いと感情に繋がるとそこに関心と共感が生まれるというのです。
インタビューされた参加者の一人は、「人に何かを訴える時には、自分のことは話すべきではないと思っていた」と驚きを隠しません。
物語を自分のことから始める、ということは確かに効果的だと思います。
おそらくそこで重要なことは、自分に感動を与えた出来事が普遍的な価値を持っていることだろうと思います。
"自分自身の物語"と言いながらそれが独善や勝手な思い込みであれば、それは"私たちの物語"には昇華しないでしょう。
普遍的な価値を持つ物語を自分の経験した思いや出来事から語る時に初めて人は心を動かされ、それが関心や参加ということに繋がって行くのだと思いました。
あとは話し方や伝え方のスキルやツール論もあるのでしょうけれど、私の5段階のステップを上がるための一つのアプローチとして大変参考になるものでした。
人にものを伝えて行動を変える難しさ。
いろいろな工夫と勉強を重ねたいものです。