ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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インド43~大乗仏教の勃興

2020-01-20 09:32:55 | 心と宗教
●釈迦の超人化・神格化

 釈迦は、ヴェーダの神々を否定することでブラフマンからダルマへという「神から法へ」の転換を行った。だが、釈迦の入滅後、釈迦は単なる人間ではないとして、超人化されるようになった。釈迦の生涯を伝える話には、多くの神話的要素が加えられていった。釈迦は、超人的存在として崇拝され、人々がその慈悲にすがる信仰の対象となり、救済者としての神に似た性格を持つことになった。一種の神格化である。この超人化・神格化によって、今度は「法から神へ」の逆行が起った。
 その兆しとなったのが、仏塔信仰である。

●仏塔信仰

 部派仏教の時代に、在家者の間で、釈迦の遺骨を納めた仏塔を中心とする信仰が起った。釈迦の遺骨は、舎利または仏舎利といわれる。分骨された舎利を収めるため、ストゥーパ(卒塔婆)と呼ばれる塔が、在家者によって造られた。その仏塔を中心として、在家者の集団が生まれた。インド文明では本来、墓を造らない。そうした社会において、釈迦の遺骨を守る信仰が発達したことは、釈迦の超人化・神格化への動きである。
 超人化・神格化が進む中で、釈迦は最初のブッダ(目覚めた人、悟りを得た人)ではなく、彼以前にもブッダが何人か存在したという過去仏の信仰が現れた。やがて釈迦は歴代のブッダのうちの6人目とされた。在家者の中にはヴェーダの宗教から改宗した者たちが少なくなかっただろうから、歴代のブッダへの信仰はヴェーダの宗教の中にあった信仰が仏教に持ち込まれたものかもしれない。
 こうしたことから、仏塔信仰が大乗仏教の起源となったとする見方がある。これを大乗仏塔起源説という。

●新たな経典の出現

 部派仏教の盛んななか、紀元前後の時期から新しい性格を持った経典が現れ出した。その内容は、釈迦が折々に説いた教えを集成したものとは違い、新たな思想を表現したものである。それらの経典のうち、特に古いと考えられているのは、『般舟三昧経』、『阿閦仏国経』、『大阿弥陀経』である。続いて、般若経の経典群、浄土系経典、『法華経』、『華厳経』等が作られた。後代のものになるほど、経典に神話的要素や文学的色彩が目立つようになった。

●大乗仏教の勃興

 一連の新経典が立脚するのは、出家者が個人の解脱を目指す立場ではなく、在家者を中心として大衆の救済を求める立場である。自分が解脱して涅槃寂静に至ることを目指すことを自利、一切衆生の救済を助けることを利他という。自利より利他を尊ぶ立場の信仰運動から興ったのが、大乗仏教である。また、一連の新経典を大乗経典と呼ぶ。
 大乗とはマハー・ヤーナの漢訳で、「大きな乗り物」を意味する。乗り物とは、川のこちら側から向こう岸へと渡る船をイメージしたものであり、迷いの世界である此岸から悟りの世界である彼岸へ行くための手段である。
 大乗に対する小乗はヒーナ・ヤーナの漢訳で、「小さな乗り物」または「劣った乗り物」を意味する。これは、大乗仏教の側から部派仏教を呼んだ蔑称である。現在では、世界宗教会議での合意により、小乗仏教という言葉は使用しない。インド仏教史上では部派仏教と呼ぶ。

●クシャーナ朝における発展

 マウリヤ朝の衰滅後、インドは小国が興亡する分裂時代を経て、紀元後1世紀に、イラン系の遊牧民族クシャーン人がインド北西部に支配を及ぼして統一国家を作り、クシャーナ朝が成立した。彼らを月氏と呼ぶ。月氏の支配はインド南部には及ばなかった。
 2世紀前半、クシャーナ朝のカニシカ王は仏教を篤く保護した。当時の仏教の主流は大乗仏教に替わっていた。クシャーナ朝では、陸路でローマ帝国との交易が盛んに行われた。そのため、ギリシャ=ローマ文明のヘレニズムの影響によって、ガンダーラで多くの仏像彫刻が造られた。
この頃から、大乗仏教はパミールを越え、西域を経てシナ、さらに朝鮮や日本に伝わった。この地域に伝来した仏教を、北伝仏教という。一方、部派仏教のうち保守的で権威のある上座部仏教は、スリランカやビルマ、タイ等に広がったので、その名称で呼ぶか、または南伝仏教という。

 次回に続く。

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