ほそかわ・かずひこの BLOG

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尖閣:中国海警局の新設に対抗策を~山田吉彦氏

2013-05-15 08:44:23 | 尖閣
 5月15日の日記にて櫻井よしこ氏の尖閣問題・国際問題に関する記事を掲載したが、櫻井氏はその記事の中で、東海大学の山田吉彦氏の見解を紹介している。「中国が海軍を投入すれば日米安保条約第5条の適用という事態を招きかねない。海警局の創設は、米軍の介入を回避するために、海軍を出さず、しかし確実に島を奪うための手立てだ」という見解である。本稿は、その山田氏の見解を掲載する。
 去る3月5~17日、中国の全国人民代表大会が開かれ、習近平共産党総書記が国家主席に選出された。これによって、昨年11月の第18回共産党大会で始まった胡錦濤体制からの政権移行が完了した。習氏は、国家主席として初めて行った演説で「中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現」を強調し、国内だけでなく海外にいる「同胞」にも団結を呼びかけた。全人代では、国家海洋局の中に海洋での警察権を行使する部門を統合した「中国海警局」が創設され、習主席の指導下に、「海洋強国化」を推進する態勢が打ち出された。
こうした動きに対し、山田吉彦氏は、産経新聞平成25年3月27日号の「強大な『中国海警局』が牙をむく」という記事で、海洋に関する中国の動きについて警告を発した。
 山田氏によると、このたび新設された海警局は、「人民解放軍とは別個の、行政組織直属の艦隊ともいうべきもの」である。従来、中国の海洋警備機能は、「五龍」と呼ばれる5つの組織に分散されてきた。そのうち4つの海洋警備部門を一本化したものが海警局である。統括する船艇は3000隻を超える、「日本の海上保安庁をはるかに凌ぐアジア最大の海上警備機関」となった。
 これによって、どういう問題が生じるか。山田氏は、大意次のように述べる。
 「海保が恐れるのは海警局による法執行である。尖閣諸島海域に出没する公船が警察権を持つことは今後、日本の漁船が拿捕され漁民が逮捕される事態を予測させる」「それ以上に問題となりそうなのは、海警局部隊が中国漁民を伴ったりして尖閣上陸を強行した場合である」。漁民が先兵として送り込まれて上陸すると、「海保のみでは対応する術はない。海警局が整えた勢力はそれを上回るからだ」。また「軍による侵攻とは違って警察権の行使となり、自衛隊の投入は困難となる」。軍による侵攻ではないから、日米安保第5条の適用外でもある。それゆえ、「中国は、海警局を前面に押し出して海軍を温存することで、中国よりも優位に立つ日米の海軍力を制約できる。海警局の登場は、東シナ海における米国の影響力に歯止めをかけることにもなる」と。
 それゆえ、中国で強大な海警局が創設されたことは、わが国にとって、厳しい状況である。わが国はどのように対抗すべきか。
 山田氏は、次のような対抗策を提案する。
 第一に「日本としては、中国の動きを止めること」。これが先決である。「そのためには、生物多様性条約に基づき、尖閣海域を海洋保護区に設定する旨を宣言し、海洋環境の保全、水産資源の保護という名目で国際的監視下に置くことが有効である」「並行して国内の海洋管理体制の構築を急がなければならない」
 第二に、「省庁間の縦割りを排して、総合的、長期的な観点から海洋戦略を練り短期的な戦術を探る海洋安全保障大綱を作成すべきだ」「大綱には外交戦略、防衛戦略、警備態勢、国境、離島の管理を網羅する必要がある」。
 第三に、「海上自衛隊が海保支援に動ける法整備も必要」である。
 第四に、「現行の海上保安庁法では、他国の公船は領海内でも取り締まりの対象外である。法改正をして、公船も日本国民に危害を及ぼせば犯罪行為として取り締まれるようにし、日本漁船の拿捕を防がなければならない」
 第五に、中国海警局は東シナ海攻略の前に南シナ海の周辺諸国を標的にしてくることも考えられるから、「海洋安全保障態勢の構築が不可欠」である。
 海洋の専門家による傾聴すべき意見である。
 これら五つの提案のうち、尖閣海域を海洋保護区にするという提案は、昨年10月にも同じ産経の紙面で提案したものである。
 以下、山田氏の二つの記事。

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●産経新聞 平成25年3月27日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130327/plc13032703420010-n1.htm
【正論】
東海大学教授・山田吉彦 強大な「中国海警局」が牙をむく
2013.3.27 03:41

 中国は全国人民代表大会で、国家海洋局の中に海洋での警察権を行使する部門を統合した「中国海警局」を創設し、習近平・新国家主席の指導の下、「海洋強国化」を推進する態勢を固めた。海警局は、人民解放軍とは別個の、行政組織直属の艦隊ともいうべきもので、初代局長には武装警察を束ねる公安省の次官が就任した。

《アジア最大の海上警備機関に》
 東シナ海での中国公船の動きはここ数カ月、活発化していた。尖閣諸島周辺の日本領海内への侵入頻度、滞留時間ともに増え、2月には日本漁船が中国公船に追尾される事態まで起き、最新鋭の大型警備船の投入など装備面も強化された。海警局創設への布石を打ち、東シナ海を「核心的利益」と位置付けて計画的、組織的に動いている表れだったとみていい。
 中国の海洋進出は、「世論戦」「心理戦」「法律戦」-の三戦理論に基づき進められてきた。
 世論戦では内に向けて、海洋強国化を宣言し、資源エネルギーや水産資源の確保などを喧伝(けんでん)し、海の重要性を国民に周知している。外に対しては、国連などの舞台を利用して、南シナ海、東シナ海における島々の領有の正当性を勝手な理屈で国際世論に訴えている。日本をはじめベトナム、フィリピンなどに対し領有権争いを挑み、恫喝(どうかつ)外交や貿易規制、国民動員の抗議活動などにより心理的圧迫を加える戦術を展開している。
 法律戦では、領海法、海島保護法などの海洋権益の根拠となる国内法の整備を進め、そうした独善的な法体系を守るために武装警備機関の創設を目指してきた。それが海警局というわけである。
 従来、中国の海洋警備機能は、「五龍」と呼ばれる5つの組織に分散されてきた。海洋調査・管理を担当する「海監」(国家海洋局所属)、海の治安部隊である「海警」(公安省)、漁民と漁場を管轄・管理する「漁政」(農業省)、航行安全を守る「海巡」(交通運輸省)、そして密輸取り締まり船(税関総署)である。
 このうち海巡を除く4つの海洋警備部門を一本化した。統括する船艇は3000隻超と、日本の海上保安庁をはるかに凌ぐアジア最大の海上警備機関となった。

《日本漁船拿捕の事態を防げ》
 海保が恐れるのは海警局による法執行である。尖閣諸島海域に出没する公船が警察権を持つことは今後、日本の漁船が拿捕(だほ)され漁民が逮捕される事態を予測させる。仮に漁船が捕まって中国に連行されでもしたら、日本政府はどのような手を打てるのだろうか。
 北方領土海域では、ロシア(旧ソ連)に拿捕された日本の漁船、漁民は泣き寝入りするほかなかった。韓国が一方的に不法に定めた専管水域、李承晩ラインを越えた多くの漁民も犠牲になった。
 それ以上に問題となりそうなのは、海警局部隊が中国漁民を伴ったりして尖閣上陸を強行した場合である。軍による侵攻とは違って警察権の行使となり、自衛隊の投入は困難となる。当然、日米安全保障条約第5条の適用外だ。
 中国は、海警局を前面に押し出して海軍を温存することで、中国よりも優位に立つ日米の海軍力を制約できる。海警局の登場は、東シナ海における米国の影響力に歯止めをかけることにもなる。
 海保は海警局に対応して尖閣の警備態勢を強化し、巡視船12隻で周辺海域を守る計画だ。だが、漁民が先兵として送り込まれて上陸した場合、海保のみでは対応する術はない。海警局が整えた勢力はそれを上回るからだ。日本が「棚上げ論」などに惑わされて自己規制し、尖閣の守りを疎(おろそ)かにしてきた間に、中国は東シナ海でのプレゼンスを着々と築いてきた。現状はそれらの帰結だといえる。

《海洋安保戦略を練り上げよ》
 日本としては、中国の動きを止めることが先決である。そのためには、生物多様性条約に基づき、尖閣海域を海洋保護区に設定する旨を宣言し、海洋環境の保全、水産資源の保護という名目で国際的監視下に置くことが有効である。並行して国内の海洋管理体制の構築を急がなければならない。
 そのうえで、省庁間の縦割りを排して、総合的、長期的な観点から海洋戦略を練り短期的な戦術を探る「海洋安全保障大綱」を作成すべきだ。周辺諸国の動向をにらみ海上警備態勢を検討する。大綱には外交戦略、防衛戦略、警備態勢、国境、離島の管理を網羅する必要がある。これまでの場当たり的なやり方では、中国の用意周到な海洋戦略に対抗できない。
 海上自衛隊が海保支援に動ける法整備も必要だ。現行の海上保安庁法では、他国の公船は領海内でも取り締まりの対象外である。法改正をして、公船も日本国民に危害を及ぼせば犯罪行為として取り締まれるようにし、日本漁船の拿捕を防がなければならない。
 海洋国日本を守るには、海洋安全保障態勢の構築が不可欠だ。中国海警局は東シナ海攻略の前に南シナ海の周辺諸国を標的にしてくることも考えられる。日本の海洋安全保障戦略は、アジア海域全体の平和にも重要なのである。(やまだ よしひこ)

●産経新聞 平成24年10月25日

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/121025/plc12102503450002-n1.htm
【正論】
尖閣を「海洋保護区」にして守れ 東海大学教授・山田吉彦
2012.10.25 03:44

 尖閣の島々は美しかった。透き通るような藍色の海面に、深緑の亜熱帯樹林と白く切り立った岩肌が鮮やかなコントラストを描く魚釣島が浮かぶ。目を南小島に転じれば、岩が教会の尖塔(せんとう)のように海上にそびえ立つ。隣の北小島には全体を覆うように、海鳥が生息する。秋がもう少し深まると、アホウドリも姿を現すという。周辺の海底にはサンゴ礁が広がり、ウミガメも数匹海面を漂っていた。周辺海域は、黒潮が餌となるプランクトンを運ぶため、スジアラやアカマチなど高級魚も多く集まる格好の漁場だ。クロマグロの産卵場としても知られている。

≪生物多様性条約で設定うたう≫
 9月2日に東京都が実施した尖閣諸島海域の調査に同行して分かったのは、尖閣が自然の宝庫であるということだった。だが、ヤギの繁殖で諸島最大の魚釣島の植物が減少し、土壌が崩落するといった問題も明らかになった。流れ出たその土砂が、周辺のサンゴ礁を破壊する危険性がある。日中中間線付近では、日中漁業協定で操業を認められた中国漁船による乱獲も進む。このままでは、いずれ漁業資源は枯渇してしまう。埋蔵量豊富とされる周辺海底油田の開発にも、時間を要しよう。
 したがって、尖閣周辺海域で我が国がまず行うべきは、海洋環境の保全と水産資源の保護である。その目的のために国家が海洋を管理するという考え方に立ち、1992年のリオデジャネイロの国連環境開発会議(地球サミット)で調印された生物多様性条約では、締約国に国家管理の「海洋保護区」を設けるよう求めた。
これを受けて、我が国は、海洋基本法で海洋保護区の設定を推進することとし、そのあり方をまとめた。しかし、明確な指定制度はなく、国立公園などの環境保全地域に指定した海域、あるいは、海洋生物保護のため漁協や漁業者が定める漁業規制海域などが、それに相当する程度である。ややもすると、規制が前面に出過ぎて、海底資源開発など公共の利益を阻害しかねない状況である。

≪米国のモデルに安保の意義≫
 モデルケースがある。
 2006年、ジョージ・W・ブッシュ米大統領は、北西太平洋に全長1931キロに及ぶ世界最大級の海洋保護区「北西ハワイ諸島海洋ナショナルモニュメント」(現パパハナウモクアケア海洋ナショナルモニュメント)を設けた。これは、許可なくして船舶が通航し、観光や商業活動が行われ、動植物が捕獲されることに制限を課すのが狙いだった。
 広大な海域を海洋保護区にすることで、管理が行き届いていなかった遠隔離島を、国家が直接、管理する態勢を整えたという、海洋安全保障上の意味合いが大きい。この保護区は自然、文化両面の価値を認められ、現在、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産に登録されている。
 9月11日に日本政府が尖閣諸島を国有化して以来、中国による尖閣海域への攻勢は激しさを増す。が、日本の対応は、専ら海上保安庁に頼って領海警備を続けるだけだ。そのために割かれる海保の人員や装備にも限界があり、予想される長期戦に持ちこたえるとなると大変だ。国有化された先の魚釣島、南小島、北小島の3つの島も海保の管轄下に入った。
今こそ、速やかに尖閣諸島の管理態勢を充実させなければならない。そのためには、統合的な海洋管理施策を尖閣海域に導入する必要がある。遠隔離島の管理には、ブッシュ政権が打った海洋保護区設定という手が有効だ。

≪保護目的で船舶接近を阻止≫
 2010年に愛知県で開催された生物多様性条約第10回締約国会議では、20年までに世界の海域の10%を保護区にするという目標が掲げられた。その中で我が国はより広い海域に海洋保護区を設定するよう要請されている。
 日本政府は条約に則(のっと)って、尖閣海域に海洋保護区を設定し、日本が尖閣を管理する正当性を国際社会に改めて訴えるとともに、国際機関と協力して海域の生物多様性維持に乗り出すべきである。手始めに生態系の調査や、ヤギの駆除などの島の環境保全活動を国際的機関と一緒に進めることだ。
 さらに生態系を保全し水産資源を確保するため、海保による入域船舶の管理を徹底して行い、中国の船舶の領海への接近を阻む。海洋保護区の設定を、日中漁業協定見直しの根拠としても利用し、乱獲に歯止めをかけるのである。
 最終的には、天然資源保護、漁業と公共の利益などの諸要素の間でバランスを取る、日本型海洋保護区の構築を目指してはどうか。日本の場合、海洋保護区の管轄官庁は現在、環境省と水産庁に分かれている。だが、安全保障をも視野に入れて、防衛省や海保の協力も得て内閣官房総合海洋政策本部に一元化すべきだろう。
 東シナ海の平和を守るため、尖閣海域に海洋保護区を設定すること、そして、そこに国際社会を取り込んだ、しかし、中国、台湾は嘴(くちばし)を挟めない、堅固な管理態勢を築くことが急務である。(やまだ よしひこ)
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