ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

トッドの移民論と日本91

2011-10-30 08:32:06 | 国際関係
●日本を変造する「革命」の書

 坂中氏は『日本型移民国家への道』で、「日本復活に向けて取り組むべき最優先課題は移民国家の確立」「これは移民国家宣言」「移民国家の創建こそ究極の日本改革」「移民1世の国籍取得に際し二重国籍を容認」「日本人は百年かけて純種系民族から雑種系民族へ進化を遂げなければならない」等と述べ、2050年には日本は「アメリカにつぐ世界第2の移民大国」となり、「移民の中から救世主が登場」等と書いている。
 こういう文言に溢れる冊子を使って、坂中氏は日本を「移民国家」にし、日本民族を雑種系民族に変える「革命」を起こそうとしている。そして、この冊子を「日本型移民国家」の創建の担い手となる若者を育成する「坂中塾」のテキストに使うという。坂中氏は「日本の未来を担う若者が移民と手を携えて人類未到の『多民族共生国家』の創造に挑む。これ以上に若者のチャレンジ精神をかきたてるものはない」と言う。そして「日本型移民国家」を創る革命の戦士を育成しようとしている。坂中氏は、この「革命」を「明治維新のような大改革」と呼び、「このような世紀の大事業は、幕末の吉田松陰、坂本龍馬の如き、20代・30代の志士が大役を果たさなければ成就しない」とし、「平成の志士を育てたい」と言う。だが、松陰や龍馬は、白人列強から日本を守るために行動したのであり、日本は天皇を仰ぐ比類ない国と理解し、天皇を中心とした新しい日本を建設しようとした。それゆえ、日本を「移民国家」とし、日本民族を雑種系民族に変える「革命」を、明治維新に例えるのは不適切であり、その「革命」の戦士を育てるのに、松陰や龍馬を持ち出すのは不当である。歴史の知識を欠き、民族の自覚を欠いた若者を惑わすものといえよう。
 そもそも移民国家とは、外国から移住した民族が作る国家をいう。アメリカ合衆国で言えば、インディアンの土地に白人が移住して、白人の国家を創ったのが、移民国家である。オーストラリアで言えば、アボリジニを駆逐して、白人が移民国家を創ったのである。日本の場合であれば、海外から移住してきた民族がそれまでの日本という国とは異なる国家を創るとき、それが移民国家である。
 もともと自生的に発展した自生国家が、移民を多く入れて多民族国家になるとすれば、その国家を移民国家とはいわない。今日のドイツは、ヨーロッパ最 大の多民族国家になったが、由来から見て移民国家ではない。
自生国家が多民族化することを説くのなら、目標は移民国家にならない。移民国家が目標だというのは、坂中氏がこれまでの日本という自生国家を否定して、新たな移民国家を創建しようとしているからである。それが「日本型移民国家」という言葉に示されている。そういう言葉を使うこと自体、馬脚を現しているのである。
 では、坂中氏の「革命」で、日本を否定して創建する移民国家の主体は誰か。移民国家である以上、建国の主体は先住民の日本人ではありえない。海外から日本に渡来する移民が主体となる。具体的には、外国から日本に最も多数流入している中国人ということになるだろう。だから、坂中氏の説く「日本型移民国家」とは、日本を中国の自治区に変え、中国人が多数移住し、中国人が支配する区域に変える動きを誘導しているようなものである。この過程を粉飾して、日本人、及び日本の若者をたぶらかすものなのである。
 私は、冊子『日本型移民国家』に非常に危険なものを感じる。この冊子を読了して感じたのは、この冊子が放つ強いエネルギーである。そのエネルギーは、私がかつて北一輝の『日本改造法案大綱』や太田龍の『辺境最深部に向かって退却せよ』に感じたものと似ている。北の著作は戦前の青年将校たちを過激な行動に駆り立て、太田の著作は戦後の共産主義者や無政府主義者を激烈な闘争に駆り立てた。坂中氏の冊子は、クーデターや爆弾テロを教唆・扇動するものではない。政策の提言であり、理論的かつ戦略的、具体的かつ実際的な書である。国家議員や財界人、官僚等に提案し、既成の秩序のもとに、合法的に日本の変造を行おうとするものである。坂中塾の対象も、政治家の卵や若い官僚、学生・研究者たちだろう。それゆえ、私の連想に対し、奇妙な感じを受ける人が多いかもしれない。だが、私が冊子に感じるのは、人を、ある観念のもとに、変革に駆り立てる独特のエネルギーなのである。このエネルギーを受けて、日本を「移民国家」に変えようと行動する者たちを警戒しなければならない。

●最優先課題は、移民国家ではなく、日本精神の復興

 坂中氏は「日本復活に向けて取り組むべき最優先課題は移民国家の確立」だというが、これがとんでもない妄説であることを私は指摘した。最優先課題は、日本を守り、外国人による移民国家の建設を防ぐことである。
 坂中氏と私は、国家の目標像が異なる。坂中氏は多民族国家を目標とし、細川は国民国家を目標とする。坂中氏は憲法護持による日本変造を図り、私は憲法改正による日本の再建を目指す。また、少子高齢化・人口減少への対処が異なる。坂中氏には少子高齢化への取り組みがほとんどなく、移民増大に頼ろうとする。経済的繁栄を追及するために、「和の精神」という触れ込みで、多民族化を進めようとする。私は脱少子化を推進し、国民国家としての日本の発展を考える。国家安全保障を重視し、日本人の共同性を回復・強化しようとする。
 今日日本人がまず為すべきは、日本精神の復興であり、日本の伝統・文化・国柄の継承・発展である。これをしっかり成し遂げることなく、多文化主義を採り、移民を多く受け入れ、多民族国家に向うと、日本は崩壊する。日本精神の復興、日本の伝統・文化・国柄の継承・発展は、日本人の自覚を高める。日本人として、日本国民として、また日本民族としての意識が回復・発達すると、家族の形成、子育て、勤労、社会貢献等への意欲が高まり、婚姻率・出生率が上がり、生産労働人口が増え、ニートが減るなど、社会が活性化してくる。安易に外国人移民に頼らずとも、日本人自身がもっと能力を発揮するようになる。その結果、移民1000万人計画は不要のものとなる。
 この点は、後に項を改めて書くことにする。

 次回に続く。