ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

中国:社会的焦燥感の行方

2011-08-31 10:05:44 | 時事
 8月13日の日記に中国高速鉄道事故に関する中国メディアの動きについて書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/d/20110813
 今回の事故は、中国の国内で、国民が政府や当局に怒りや不満を表したり、メディアが政府の指示・命令に従わずに、批判的な報道をしたり、これまでにない動きが見られた。このことに関して、石平氏は、産経新聞平成23年8月4日の「石平のChina Watch」に「反旗を翻した中国メディア」と題した記事を書いた。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110804/chn11080408030001-n1.htm
 石氏は、そこで、「当局の人命軽視と政権の報道統制に対し、一部の国内メディアはもはや昔のようにただ屈従するのではなく、むしろ果敢に立ち上がって集団的反乱を試みた。その背景には、人権に対する国民の意識の高まりと、市場経済の中で生きていくために民衆の声を代弁しなければならなくなったメディアの立場の変化があろう。そこから浮かび上がってきたのは『民衆+メディアVS政権』という見事な対立構図である。この対立構図の成立こそが、今後の中国の激変を予感させる画期的な出来事であろうと感じるのである」と述べた。
 中国の民主化について、決して簡単なことのようには述べない石氏が、「今後の中国の激変を予感させる画期的な出来事」と言ったことは注目に値すると私は思った。
 石氏は、18日の「China Watch」に「13億人の社会的焦燥感 激変と混迷の『乱世』突入への前兆」という記事を書いた。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/110818/chn11081811390004-n1.htm
 ここで石氏は、共産党中央党校の呉忠民教授を引く。呉氏は、中国社会について、「現在、焦燥感なるものがこの社会ほとんどすべての構成員に広がっている」「焦燥感がこれほど広がっているのは中国の歴史上でも珍しいケースであり、戦乱の時代以外にはあまり見たことのない深刻な状況である」と述べている。
 石氏は「世界史的に見ても、ある国において、労働者からエリートまでのすべての国民がえたいの知れぬ焦燥感や不安に駆り立てられているような状況はたいてい、革命や動乱がやってくる直前のそれである」と言う。そして、「貧富の格差の拡大や腐敗の蔓延が深刻化して物価も高騰し経済が大変な難局にさしかかっている中、改革開放以来の中国の経済成長路線と社会安定戦略がすでに自らの限界にぶつかって行き詰まりの様相を呈している。それこそが『社会的焦燥感の蔓延』を生み出した深層的原因であろう。もちろん、このような社会的現象の広がりはまた、中国社会が今後において激変と混迷の『乱世』に突入していくことの前兆でもある」と書いている。
 ここのところ、中国では出稼ぎ労働者の大規模暴動、集団的騒乱事件、市民の抗議デモなど、民衆の反乱が全国に広がっている。この状態を石氏は、「中国社会全体はあたかも「革命前夜」のような騒然たる雰囲気となっている」ととらえる。そして、先の中国高速鉄道事故で民衆の不満と反発が爆発寸前にまで高まったとし、「この一件を見ても、13億国民の『社会的焦燥感』がやがて大きなエネルギーと化して急激な変革を引き起こすに至る日はそう遠くない。そう私は確信している。」と述べている。
 8月4日の記事では、「民衆+メディアVS政権」という対立構図の成立が、「今後の中国の激変を予感させる画期的な出来事であろうと感じるのである」と石氏は書いていたが、このたびの記事では、「13億国民の『社会的焦燥感』がやがて大きなエネルギーと化して急激な変革を引き起こすに至る日はそう遠くない」と確信していると書いている。
 ここで注意したいのは、石氏が言う「急激な変革」を、日本人の多くが期待するような民主化ないしジャスミン革命と理解してよいかどうかである。というのは、拙稿「中国の『大逆流』と民主化のゆくえ」に書いたように、石氏の見解は、もともと中国で単純に民主化が実現するというものではない。
http://homepage2.nifty.com/khosokawa/opinion12h.htm
 平成21年に刊行された著書『中国大逆流 絶望の「天安門20年」と戦慄の未来像」(KKベストセラーズ)で、石氏は次のように書いていた。
「国民の多くが『08憲章』の下に集結して民主化の道を開くというシナリオよりも、『毛沢東への先祖返り』としての『革命』が起きてくる可能性はもっと現実的であろう」と。つまり、民主化よりも毛沢東崇拝への逆流が、中国で起こっている。さらに、その逆流は、中国のファッショ化へと進むおそれがある。それが、「中国大逆流」の意味するところである。
 中国経済の崩壊は、共産党の政権基盤を揺るがす。そこで共産党政権は、どう出るか。石氏は次のように予想を述べた。
 「外部的危機を作り出すことによって、国民の目を内部の危機から逸らし、『民族の大義』を掲げることによって国民のウルトラ・ナショナリズム情念を最大限に煽り立て、対外的冒険に走ることによって国内の危機を乗り越えていく」と。
 中国が、来るべき内部の危機を乗り越えていくために、「対外冒険的な軍国化」の道を歩むとすれば、「日本にとって安全保障上の大問題」である石氏は警告する。軍国主義化した中国の共産党政権が対外的な暴走を始めた場合、矛先は台湾海峡か東シナ海がターゲットになる。経済の崩壊、暴動の激発で、中国国内が収拾のつかない大混乱に陥ってしまった場合、「共産党政権は巨大な軍事力をバックにして一気に台湾併合に動き出す可能性が十分あるし、台湾併合の前哨戦として、尖閣諸島進攻を断行するかもしれない」と石氏は予想する。「国内がどれほどの危機的な状況に陥ったとしても、尖閣諸島か台湾を奪うことさえ出来れば、共産党政権は国民からの熱狂的な支持を受け、一気に局面を打開して危機を乗り越えられる」というのが、その理由である。
 そこで石氏は、言う。「今の日本は、中国国内の動向を左右できるほどの力を持たないから、できることはただ一つ、自らの守りを固めていざという時の『危機』に備えていくことではなかろうか」と。「そのためには、アメリカによって押し付けられた『平和憲法』なるものを一日も早く改正して、自衛隊に国防軍としての名誉と法的地位を与えて国防を強化させ、国家体制を固めておかなければならない。そして、国家と民族の存続を断固として守る意思を示した上で、中国共産党政権に対しては、台湾や尖閣諸島、および東シナ海にたいするいかなる侵略的冒険も、日本国としてけっして許さないという強くメッセージを送り続けるべきであろう」。そして、「日本がかくの如く強くなって毅然とした姿勢を取ることによってはじめて、日本と東アジアの平和が保たれるであろう。日本が相応の実力と国家防衛の強い意志を持つことは、中国共産党政権の対外的冒険を思いとどまらせるための大きな抑制力となるからである」と石氏は、『中国大逆流』に書いていた。
 私は、『中国大逆流』における石氏の予想、及び日本の取るべき方策への意見におおむね賛同する。それゆえ、現在中国で広がっている「社会的焦燥感」が「急激な変革」を引き起こす場合においても、そのまま民主化が進むというシナリオは、一つのかなり単純なシナリオでしかない。民主化ではなく、社会主義の第二革命に向うシナリオや、おさまりどころのない混乱が何年も続くというシナリオも考えられる。また、民衆の政府への不満が愛国主義や毛沢東崇拝に吸収されて、中国の「ファッショ化」が進められ、対外的な軍事行動に向う可能性もある。
 わが国は、中国でどういう展開が起ころうとも、しっかりと国を守っていくための備えをしなければならない。