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●漫画・・ 「寄生獣」..(3)

 90年代を代表するSFホラー漫画の傑作、「寄生獣」の物語は、第1巻・巻頭のコマの、このセリフから始まります。「地球上の誰かがふと思った。人間の数が半分になったら幾つの森が焼かれずに済むだろうか。地球上の誰かがふと思った。人間の数が百分の一になったら垂れ流される毒も百分の一になるだろうか。誰かがふと思った。みんな(生物)の未来を守らねば‥」というセリフが、巻頭の幾つかのコマに添えられ、地上に降って来た、ソフトボールの球大の球体がパックリ割れて、気味の悪い芋虫状の幼虫が、街の各家々へと侵入して行く‥。

 物語も終盤に入って、寄生生物パラサイトたちの巣窟となっている、新一の住む街の隣町の市役所の中で、銃装備した機動隊員たちに追い詰められた、パラサイト側の重要人物の一人、市長・広川の言葉。「地球上の誰かがふと思ったのだ。みんな(生物)の未来を守らねばと。環境保護も動物愛護も全ては人間を目安とした歪なものばかりだ。人間一種の繁栄よりも生物全体を考える。そうしてこそ万物の霊長ではないか。正義のためとほざく人間。人間に寄生し生物全体のバランスを保つ役割を担うパラサイトから比べれば、人間どもこそ地球を蝕む寄生虫、いや寄生獣だ」…。

 物語の最初に誰の言葉ともなく語られた説明文と、物語も終盤に入って来て、第一のクライマックスを迎えたとき、市長・広川から語られるこの言葉。これは、この漫画「寄生獣」のテーマそのものを語っていますね。

 パラサイトが人間の脳を乗っ取って自我が芽生えたとき、パラサイトの個性の意識が生まれた最初に、自分の意識にこだまする天からの声は、「この種(人間)を喰い殺せ!」ということだそうですが、パラサイトの中でも唯一ずば抜けて知的な、いや、パラサイト生物で知的な個性はもう一人居て、新一の右手に寄生したミギーもかなり知的な存在ですが、田宮良子/田村玲子は抜群の知的好奇心と向学心を持ち、自分自身や自分の種や人間と人間社会に対して非常に研究熱心で、大学生となって理系や哲学の講義まで受けています。元々、田宮良子の登場は新一の学校の教師としてですから、最初から知的なキャラクターではあった訳ですが。

 敵側パラサイト中唯一と言っていい知的な存在の田村玲子は、試行錯誤を繰り返して自分たちと人間の研究を続けますが、最初は他のパラサイトと同じように人間を狩って食べて自分の栄養源としていたのですが、最終的には田村玲子は人間を食べずに、人間たちと同じように人間の食べている食料品を口に入れて栄養源とし、それでも自分たちパラサイト種も生きていける、ということまで発見している。

 パラサイト側の無敵の戦士、“後藤”を作ったのも田宮良子/田村玲子だ。田宮良子はレアケースとして新一の右手に寄生したミギーを知って、脳部分だけでなく人間のいろいろな器官に寄生が可能と解ったのだろう。物語終盤のクライマックスの重要人物、“後藤”は田宮良子/田村玲子の実験作の一つだ。また、多分、新一とミギーを見て、田村玲子はパラサイトの寄生ではなく、パラサイトと人間の共生についても理解したろう。パラサイトは人間の脳を奪って乗っ取ってしまうのではなく、人体の脳以外の器官に寄生して、“共生”して生きる活路があることを知った。

 パラサイトの巣窟だった、新一の住む街の隣町の市役所が国家警察に寄って一掃され、残った無敵のパラサイト戦士“後藤”も、新一・ミギーに寄り退治された。漫画「寄生獣」の物語では、その後、パラサイトが鳴りを潜めた。ニュースなどパラサイトのことが表面に出なくなった。だが、リアルに考えると、日本の新一たちが住む限られた地域だけで起こった事件ではなく、多分、地球上のあらゆる場所で起きた現象なんだろうから(違うのかな?)、パラサイトは田村玲子や後藤の仲間たちだけではないのだろう。とすれば、パラサイトは地球全土に、でなくとも、日本全国にまだまだいっぱい居る筈である。彼らは本能として「人間が主食」というものを持っている。しかし、市役所パラサイト一掃のニュースは全国規模で大々的に報じられただろうから、他のパラサイトたちも「しょせん、人間には敵わない」と認識して、鳴りを潜めることにしたのかも知れない。

 新一とミギーの関係は寄生ではなく、正しく共生だった訳で、知的で頭が良く無敵なくらい強いミギーは、新一に取っての「ドラえもん」と言えなくもない。物語中、新一はたびたびミギーに助けられている。この漫画「寄生獣」の読者の中には、自分の右手を失ってもミギーのような相棒が欲しいな、とミギーに憧れた人もいっぱい居たと思う。右手を失ったと言っても、ミギーが眠ってるときやミギーが意志を持ってないとき、新一はこれまで通り右手を自由に使えてたのだから。ミギーは相棒としては非常に心強い友達だ。

 もし本当にパラサイト寄生生物が現れて、脳を奪われるのは嫌だが、どちらかの手に寄生するというのなら、喜んで片手を差し出す人は多分、けっこう多いと思う。そこらの人間に比べても頭の良いミギーは、万能の相棒にさえ見える。

 前回言ったように、パラサイトは一回きり生物だ。こんなことありえない。地球生物史上、一回きりで出現した生き物なんて一つも無いだろう。地球上に現れた生物の目的はみんな、種族繁栄だ。漫画「寄生獣」の物語上、パラサイトが出現したのは、パラサイトの卵が天から降って来た一回きりだ。人間の身体を使っている以上、当然老化が起こり、いつか肉体が滅びる。脳部分というか頭部を乗っ取ったパラサイトの肉体的寿命がどれくらいあるのか?だよね。乗っ取った肉体が老化で動かなくなったら、他の若い肉体に移動する、という方法もある訳だし。いずれにしろ、次世代が生み出せない、というのは生物としてどうしようもない欠陥だよね。放っといても、今の一代が滅びればパラサイトは終わる。それとも新たにまた、天から卵が降って来るのか?

 最初に言ったように、漫画「寄生獣」全編の中では、パラサイトは全滅した訳じゃないから、続編を描こうと思えば続編は描けるのだろう。物語の最後の最後、ミギーは半永久的に眠りに落ちるみたいだけど。もし、パラサイト側がもう一度、人間に対して宣戦布告でもすればミギーも目を覚ましてまた新一と共に人間側として戦うのかも知れない。ただ物語中、ミギーが仲間であるパラサイトを殺していたのは、自分自身と寄生本体である新一の命と肉体を守るため、というエゴだった訳だけどね。何も人類を守るなんて大義名分を持って、仲間である他のパラサイトと戦っていた訳ではない。

 そういえば宇田さんはどうしたんだろう? 宇田さんの顔の下部から首、胸の上の方らへんまでは、ジョーと呼んでいるパラサイトが寄生していた。宇田さんのエピソードは終盤には出て来なかったよな。物語中、ミギー以外で唯一、人間の脳が残った寄生生物。リアルに考えると、ミギーやジョーのようなケースはかなりレアだけど、他にもありうることかも知れないし。まあ、パラサイトは人間側の反撃が怖くなって、鳴りを潜めているんだろうが、田村玲子が証明して見せたように、人間と同じ食料品を食べて生きてるのかも知れないが、彼らには「この種(人間)を食い殺せ!」という本能があるから、本能を抑えて日々過ごすのは大変なことだろう。まあ、漫画の話ですが。続編を描けば描けるが、この物語の驚き部分はもう出尽くしちゃってるし、再び続編をとなると、またよっぽど新鮮な驚きエピソードを作って物語編んで行かないと、人気を出すのは大変だろうな。多分、「寄生獣」原作物語の作者はもう、続編描こうとは思ってはいないんだろうけど。

◆漫画・・「寄生獣」..(1)[2014-10/31]

◆漫画・・「寄生獣」..(2)[2015-02/27]

◆漫画・・「寄生獣」..(3)[2015-03/23]

 

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