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元宣伝部員の述懐

2022年08月19日 | ニュース・コメント

  オリンピックのスポンサー契約を巡りD社の元役員T氏の所業をTVなどのマスコミがこぞって取り上げて非難していますね。

  実は民放TV関係者にとってあの人物こそ、にっくき仇なのですから、ここぞたばかりに痛打を浴びせているのです。何故にっくき仇なのか。それはD社がTVメディア広告シェアー4割を有し圧倒的なため、腹立たしい存在なのです。常日頃スポンサーを見つけてくるD社はTV局にとりオールマイティーで文句ひとつ言えない相手。コマーシャル・フィルムの制作からタレントの起用、宣伝露出の頻度から番組選択まで、常に言いなりと言ってよいほど牛耳られています。なかでも大事なビッグ・スポーツ・イベントを牛耳っているT氏こそ、いつかは仕返ししたい相手に違いない。

  私にとって彼は別ににっくき仇ではありませんが、ああいう人物は社会悪を代表する一人だと思っているので、この際マスコミの尻馬に乗ることにします(笑)。

 

  もう時効なのでD社にかかわる私の実体験を包み隠さずお話し、その手練手管をご披露します。最初にD社と仕事で関係を持ったのは30歳代半ば、86年のことです。私はJALの本社で路線計画を作っていましたがある日突然部長に呼ばれ、「君、NYに転勤しないか」と言われました。その部長を含め本社の中枢にいる営業本部出身のお偉いさんたちにNYの米国本社経験者が多く、NYの面白い話を聞かされていたので、一度は駐在してみたい場所NO.1でしたから、もちろん二つ返事で「はい、行きます」。ポジションは全米のセールス&プロモーションの責任者だと言われ、面白そうだなと思いました。

  するとわずか1週間後から2か月間、本社の宣伝部で修行をすることになりました。宣伝事業は航空事業とは別世界なので、一から教育してくれるのです。同時に最大の宣伝広告エイジェンシーであるD社と大手印刷会社でも様々な教育をしてもらうことになると言われました。仕事を離れて教育してもらうなんて、最高ですよね。しかしこれもD社にとっては美味しい教育活動なのです。

 

  本社の宣伝部に赴任すると初日から、「今晩はD社があいさつしたいというから、あけておいてね」といわれたのですが、それこそがD社の魔の手、その一でした。その日の夜連れて行かれたのは金田中(かねたなか)しんばしという高級料亭でした。

  JALからは宣伝部長と私。先方はJAL担当の役員に、全米を統括する役員が出張で来ているとのことでやはり二人。後で知ったのですが金田中はバブル当時の銀座でもとびきり高級な接待場所の一つでした。

  食事のあとはお決まりの高級クラブ。終わって帰るD社差し回しのハイヤーの中で宣伝部長から言われたのは、「こんな接待を受けたことは誰にも話すなよ」の一言。そうか、宣伝部っておいしい部署なんだとつくづく思ったのを思い出します。

 

  当時のJALは宣伝広告費では御三家と言われていて、資生堂、サントリーの2社と肩を並べていました。D社にはさぞかし美味しいクライアントだったのでしょう。その上当時の資生堂やサントリーと違い、海外拠点でも大きな宣伝費を使っていましたから余計です。中南米も含めた米州地区支配人室に赴任する私が札束に見えたのかもしれません(笑)。

 

  D社を含めた広告宣伝の教育を終えてNYに赴任すると、そこでも待っていたのはやはりD社の接待でした。初日からD社NYのオフィスで教育を受け始め、夜はマンハッタンで一番のステーキハウスに連れて行ってもらい、これぞNYという食事を堪能。

  しかしそのあたりから用心深い私は、あまりいい気にならないほうがよいだろう、と自戒しながら仕事を開始することになりました。もっとも私には一つ得意技があります。それはアルコールがダメなこと。飲めない人間はアルコールの臭いを嗅がされても、ノコノコ付いていくことはしないのです(笑)。それが結果的にはD社への最大の防御になったと思っています。

 

  広告代理店の担当者、アカウントエグゼクティブの一番の仕事は接待で、クライアントを接待漬けにして、思うがままに手繰るのがメインの仕事なのです。きっと現在収監中のT氏もその技に長け、クライアントと内外のオリンピック関係者を手繰っていたに違いない。そして裏金もしっかりと受けていたのでしょう。でなければサラリーマンがいくら出世したとしても運転手付きのベンツのマイバッハに乗れるはずはない。報道では車に乗り降りするT氏の様子が映し出されますが、特徴的なあのマイバッハのマークを私は見逃しませんでした。なにせロールスロイスを押しのける世界一の高級車、1億円はくだらない車なのですから。

  そもそもD社が何故大きなスポーツイベントを牛耳ることができるのか、不思議ですよね。一つはT氏のような手練手管を持つ有力者の存在、もう一つはTVを中心としたマスメディア支配力、そして驚くほどの裏金作りの技だと思います。招致活動には政府から支出できない巨額の裏金が動くことは関係者間で周知の事実ですが、それをひねり出す裏ワザこそD社の力の源泉なのでしょう。

  TVの放映枠を日本で一番抑えているのはD社、次がH社ですが、その差は埋めがたいほど大きく、シェアーでいうとD社37%、H社は19%、あとは細かい数字が並ぶだけで、1社独占にも近い存在なのです。上記の数字は公正取引委員会が調査した16年の実績で、ちょっと古いのですが、ほかに適当な調査が見当たりませんでした。

  ネットが普及を始めた頃、これでD社独占の世界も切り崩されるに違いないと言われました。しかしいまだにTVは大きなメディアで、ネット広告費が19年になってやっとTVを抜き去り、20年の広告費シェアーではTV27%に対し、ネット36%と、差が急拡大しています。

 

  従って、D社の力の源泉もだいぶ浸食されてきてはいますが、スポーツのビッグイベントでは依然として大きな力を持っていると思われます。特にオリンピック、そしてサッカーやラグビーのワールドカップを見るのはTVがメインですから、その世界での独占的地位は動かしがたいものがあります。招致活動にビッグマネーが飛び交い、スポンサー料も大金が動く。その利権のおこぼれにあずかる輩は今後いくらでも出てきそうです。むしろ今回のスキャンダルや過労死問題などでのイメージ悪化が今後はボディーブローとして効いてくるに違いないと私は思っています。

 

「奢れる者久しからず」

以上、元宣伝部員の述懐でした。

でも、「この話、誰にもするなよ」(笑)

コメント (2)
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