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米国債は買い時か?

2021年03月02日 | 米国債への投資

 アメリカの長期金利高騰が日米の株式相場を崩しましたね。その後若干巻き戻しているので、株式投資をされている方は、ほっと一息というところでしょう。

 

  この長期金利の高騰を見て私が抱いたことは、「アメリカは健全だな」ということです。金利が高騰すれば株式は暴落するのはある意味当然です。日本は日銀が金利という大事な警報装置である体温計を壊してしまったので、金融市場も経済もまっとうさを失ってしまいました。そして株式市場も日銀が日本最大の機関投資家として買一方のために相場は歪められ、血圧計としての役目が狂ってしまっています。

  そのことはさておき、米国債の10年物金利が先週1.6%まで一気に上昇したのは世界の株式投資家には衝撃的だったことでしょう。株式投資に対する超楽観論が支配していたのに水を掛ける形になりました。

 

  このところアメリカの景気が回復しつつあり物価が若干上昇。先行きの物価見通しを占う指標である期待インフレ率も上昇しているため、金利の上昇は当たり前と言えば当たり前なのです。しかし相場は投資家のポジションにより大きく振れることがあります。例のゲームストップ株は空売りポジションが溜まっていたため踏み上げ相場を作ってしまいました。金利も先物の空売りポジションが大きいとそうした急激な上昇はありえます。今回も1.6%に急上昇した過程では、オプション取引が貢献したと言われています。しかし米国債の先物市場とゲームストップ株には根本的な違いがあります。それはロビンフッドの記事で解説した「流動性の差」です。世界の投資対象証券の中でも米国債市場は先物も現物もオプションも、世界で一番流動性が高い投資対象のため、ストップ高が何日も続くなどということはあり得ません。その証拠に1.6%台を一瞬付けても、あっと言う間に1.4%台まで戻しています。

  では金利に関していただいている質問の回答に移ります。

  ブログのコメント欄、そして私と個人的に相談されている複数の方々から「今の金利レベルは買いでしょうか」というご質問をいただきました。なんの条件も考慮にいれずに最も単純な回答をさせていただくと、

 

「このレベルは買い時ではありません」となります。

 

  長い間1%を下回る時期が続いていたため、今日現在の1.4%台でも魅力的に見えてしまうのは事実です。しかし1.4 %ではコンスタントな金利を得るためのインカムゲイン投資としてはあまりに少ないリターンです。1千万円投資したとしても年間税込み14万円です。もちろんゼロクーポン債として長期の投資によるリターンを狙うにしても、この金利は低すぎると思います。

  本来であれば当然その方の全資産額、年齢、投資目的などを確認しながらアドバイスを差し上げるべきですが、それを確認するまでもなく「まだです」と回答します。

  ではどれくらいのレベルであればゴーサインを出せるのでしょうか。個人の資産構成など無視しても、2%台は最低限とみています。これまで私は時々「買いのゴーサイン」を出しましたが、その時はいずれも3%近辺でした。

  では3%台は実現するのでしょうか。コロナ禍という未曽有の事態が起きている中での到達は当分困難だと思われます。しかしその中でも感染度合いが薄れるにつれて経済が回復し、原油や銅価格など原材料価格の上昇から物価が上昇し始めています。そして感染拡大が昨年前半に収まった中国やオーストラリアなどに景気回復の芽が出てきています。そして大どころのアメリカもワクチン接種は順調に進み、それとは異なる要因で感染者数は下降線をたどっていますので、今後も景気は持続的回復を期待できそうです。

 

  米国債投資に当たっては金利に加えて考慮すべきはドル円為替です。米国金利の上昇につれてドル高に動きますので、円高局面ではドルを手当てするべきでしょう。今のレベルで申し上げますと、105円を切ったらドルへの打診買いを始め、100円に接近したら本格的に買いを入れ、100円を切るような局面では腰を入れて買う、というのが私の考えるお勧めの買い方です。

 

  では、今後長期的に見てアメリカの強さは続くのでしょうか。それに関しては、全く問題なしと回答させていただきます。今回の株式相場のけん引役はほぼアメリカ、それもハイテク産業の株高が全体の牽引役でした。先月のブログ記事でも私は日米を数字で比較しながらアメリカの相対的優位性を確認しました。それは人口増加とITを中心とした生産性の高さから「潜在成長力に揺るぎはない」ことの確認でした。そして今後4年間という中期展望でも、バイデン政権という常識を持った政権がアメリカを率いていくことの安心感です。アメリカファーストなどという自分勝手な振る舞いで世界の地政学上のリスクを増大させ、世界の自由貿易を否定するような振る舞いをしなくなったアメリカは予想可能な範囲内で行動します。

  一方、バイデン政権の200兆円にのぼる巨額の財政支出が下院で承認されたことに懸念を抱く方もいらっしゃると思います。それらを見込んでもGDPとの比較において日米の政府債務比率は2倍以上も開きがありますし、世界の機関投資家は米国債金利が上昇したらいつでも買いたいと待機しています。米国株式が高値をどんどん更新し続ければなおさら安全資産への乗り換え時期を探るようになります。

  一方、日本の経済と財政における不安定さは増すばかりです。それが当然日本の人々の不安感を醸成し、老いも若きもとてもじゃないが消費に力など入らない状況は続くと思われます。

 

  従って最初の質問に戻りますと、

 

「今の金利レベルは買いでしょうか」というご質問への回答は、

 

「このレベルは買い時ではありません」となります。

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6 コメント

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為替について (tanaka)
2021-03-02 13:03:32
こんにちわ。いつも勉強させてもらっています。
ドル円に関して、
「105円を切ったらドルへの打診買いを始め、100円に接近したら本格的に買いを入れ、100円を切るような局面では腰を入れて買う、というのが私の考えるお勧めの買い方です。」
との点に関してですが、今後円高方面に向かう局面もあるとお考えということでしょうか。アメリカの政治的リスクの後退と景気回復の兆しに対し、日本の低金利政策やと成長力の低さを考えると、円高に進むシナリオの想定が難しいと考えております。
先生のご意見をいただけると幸いです。
返信する
Unknown (テル)
2021-03-02 13:47:52
林先生、

とてもわかりすい解説ありがとうございました。
まだ購入するべきではない事、よくわかりました。 勉強になります。参考にさせていただきます。
返信する
tanakaさんへ (林 敬一)
2021-03-02 14:29:19
私のこの記事では円高方向を示すつもりはありませんでした。

ただ最近数年のトレンドで見た場合の買いのレベル感だけを示しています。

分かりずらくてすみません。

私は日米のファンダメンタルズの違いから、将来的には円安だと思っています。
ただ日本の経常収支はいまのところプラスですので、急激な円安にはなりにくいと思います。
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為替について (tanaka)
2021-03-02 22:10:57
お返事ありがとうございます。
今後のドル転の参考にさせていただきます。
ありがとうございました。
返信する
Unknown (吉田)
2021-03-04 19:48:50
先生お久しぶりです。
毎回、貴重な見識ありがとうございます。株の自称専門家はゴマンとおられますが、債権に詳しく方はほぼおられません。今回も参考にさせていただきます。ありがとうございます。
返信する
吉田さん (林 敬一)
2021-03-05 10:11:01
コメント、ありがとうございます。

投資とは株が日本人の常識!

投資とは常識を疑うこと!
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