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大英帝国よ、さようなら

2019年12月15日 | ニュース・コメント

   「BREXITの是非を問う選挙」が終わりました。保守党はBREXITを明確に掲げて戦い、労働党は是非を明確にしなかったため、実は「BREXITの是非を問う選挙」にはなっていませんでした。旗幟鮮明な主張を掲げなかった労働党にしょせん勝ち目はなかった、と言うのが私の感想です。

   ではこの選挙、マスコミの見出しのように本当に保守党の圧勝だったのでしょうか。それについて私は疑問を感じています。簡単に数字で分析します。

   全国レベルの投票率はたった67.3%でした。何故「たった」なのか。それは前回メイ首相が党首として戦った選挙の投票率より、今回の投票率は1.5ポイント低かったからです。雌雄を決する国民投票的選挙なのに、投票率が低いなんて、なんとしらけた選挙だったのでしょう。騒いでいたのはジョンソンと世界中のマスコミでした。では国民全体のBREXITの信任率はどれだけなのか、単純計算をしてみます。

  選挙民投票率67.3% X うち保守党得票率43.6% = 選挙民の保守党支持率29.3%

   数字の上では選挙民全体の3割にも満たない賛成票でBREXITを決めたのです。議会制民主主義の生みの親であるイギリス人も、今回は相当しらけていますよね。しかしもちろんこれが民主主義制度、勝ちは勝ちです。ちなみにBREXITだけを掲げて臨んだ新党のBREXIT党は獲得議席数ゼロでした。つまり、何がしたいのか訳のわからない労働党への投票者を含め、国民の7割の人は「どうでもいい」という選択をしたのです。

   今一つ特筆すべきことは、地方政党スコットランド国民党の得票結果です。前回の得票率より0.8ポイント増加させて3.9%となっています。議席数は35から48に大躍進しています。全国レベルでの得票率は少ないですが、スコットランドでは大勝利でした。彼らのメインテーマはBREXITではなく、スコットランドの独立です。これが今回のタイトルである「大英帝国よ、さようなら」へつながります。

   16年のBREXITを決めた全国民による国民投票でも、スコットランドでは62%の人が残留を支持しました。今後イギリスがEUから離脱すると自動的にスコットランドも離脱しますが、もし離脱したイギリスがうまくいかないと見ると、スコットランドでは独立に加えてEU残留、あるいは新加入もついでに目指す運動が本格化するに違いありません。

   独立の是非を問うスコットランド独自の住民投票は2014年に行われましたが、その時は独立できたとしてもEUへの加入見込みが立たなかったため賛成しかねた人が多く、結果は44対55で否決されています。独立してもEUへの加盟条件は加盟国の100%が賛成することなので、イギリスがEUにいた当時は絶対に無理でした。イギリスがEUを離脱したあとは邪魔者がいなくなりますので、独立とEU加盟を目指すことになるでしょう。


   では今後イギリスとEUとの離脱交渉はどうなっていくのでしょう。あまり深く細かいことには立ち入らず、大きな目で見てみましょう。今回のBREXITとは出ることを決めただけで、離脱後のイギリスとEUの関係が決まったわけではありません。イギリスにとって離脱後もっともだいじなことは、いままで同様自由かつ関税なしの貿易ができる状況を保つことです。もし関税交渉や国境管理、金融規制などの交渉がうまくいかないと、1年後にはノーディールブレグジットとなり、大混乱に陥ります。

   EUはイギリスにEU加盟国並み、あるいはそれ以上の好条件を与えるでしょうか。もちろんノーです。何故ノーとはっきり言えるのでしょう。理由は簡単です。EUは加盟国減少への波及を望んでいないからです。

   EUを離脱し協力金を払わなくても同じメリットを得て、難民を受け入れずに済むのであれば、今でも離脱を目指しているポーランドやオーストリアをはじめ、ジョンソン同様のポピュリスト政権をいただく東欧諸国などが雪崩を打って離脱に走ることになりかねません。

  従って、ジョンソンの掲げるいいとこ取りの離脱など絶対にありえないということを示すのがEUの確固たる方針であることは明らかなのです。だから好条件での離脱はありえないと私は断定するのです。

   かたやジョンソンは現状よりよくなることを約束して首相になり選挙で勝った。好条件を取れなければ離脱の意味がなくなる。しかしEUはそんな好条件を非メンバーに与えることは絶対にありえない。

   なので、交渉は難航しイギリスの漂流は続く。そしてその後に待ち受けるのは、スコットランドのいない小英帝国への道、それが私の見立てです。

コメント (1)
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