ギリシャ問題がいよいよ大詰めを迎えています。私はこれまで同様、決定的事態には至らず、歩み寄りと先延ばしをしながら妥協案をさぐるに違いないと見ています。
昨日6月22日の欧州首脳会談ではギリシャ側が遂に歩み寄りの姿勢をみせました。これ以上の緊縮策はありえないと豪語していたチプラス首相とバルファキス財務相が譲歩案を出し、それを25日に再討議するとのこと。それを受けて欧州の株は軒並み大幅高となりアメリカ株も上昇し、一山越えたかにみえます。マスコミの報道も危機を煽るだけから変化し、妥協の可能性を報じています。
どうやら「国民が望まないユーロ離脱などできっこない」という私の見通しは正しかったようです。さすがにギリシャ悲劇の主人公達も、国民が銀行から預金を引き出していることに危機感を抱いて、これ以上のハッタリは無意味だし危険だと気付いたのでしょう。ギリシャ国民も威勢のいいチプラス氏に政権を渡したものの、デフォルトの可能性が刻一刻と近づくと、さすがにヤバイということに気が付いたのでしょう。預金の引き出しで政権に牽制球を投げたのです。
こうした中である方から「もし両者が妥協せずにギリシャがデフォルトをしたら、いったい世界の金融情勢はどうなるのか心配だ」という質問をいただきました。心配の理由は09年のギリシャ危機がイタリアやスペインなどに波及したので、今回もそうした波及が心配だとのことです。
その質問が来ることを予想していたわけではありませんが、前回は欧州連合の中では劣等生だったイタリアとスペインの状況を見てみました。かつてPIGSと言われた劣等生仲間でもイタリアとスペインはギリシャと違い、このところだいぶリカバリーに向けて動き出しています。そしてその理由は何と言っても欧州連合の勧告に沿った緊縮策を実行してきたことによるとお伝えしました。イタリア、スペインは09年の時とは決定的に経済財政状況が違うため、今回はギリシャ問題のEU内波及は心配いらないと私は思っています。その証拠にイタリアとスペインの国債金利は落ち着いたままです。
では今日の本題に入ります。まずユーロ圏全体と主要国ドイツ、フランス、それに前回のイタリア、スペインを加えて現状を俯瞰してみます。昨年後半から四半期ごとの成長率を並べてみます。Q=四半期
14年 15年 GDP成長率(%)
Q3 Q4 Q1
ドイツ 0.1 0.7 0.3
フランス 0.2 0.0 0.6
イタリア ▲0.1 ▲0.0 0.3
スペイン 0.5 0.7 0.9
ユーロ圏 0.2 0.3 0.4
こうして見ると盟主ドイツは行ったり来たりしながらもプラス圏を保ち、フランスも行ったり来たりしながら数字はドイツと反対に動いてバランス役を務めています。各国はまちまちに動いているものの、一番下のユーロ圏全体としては昨年の第3四半期から少しずつですが、回復していることがわかります。
その要因として挙げられるのが12年9月に欧州中央銀行ECBにより開始された短期国債の無制限買い入れ策や、14年9月からの大幅利下げと資産担保証券の買入れです。それらにより成長率は徐々に高まったものの、インフレ率の低下に歯止めがかからず、今年の3月からECBはFRBや日銀同様の量的緩和策QEを導入しました。毎月600億ユーロ、約8兆円もの資産を16年9月まで継続購入するという本格的な量的緩和策です。それらにより昨年後半から徐々に回復傾向が出てきています。
では、ECBの政策効果を大事なインフレ率の面から見てみましょう。同じく国別とユーロ圏全体で四半期ごとにみてみます。
14年 15年 インフレ率
Q3 Q4 Q1
ドイツ 0.8 0.4 ▲0.1
フランス 0.5 0.3 ▲0.2
イタリア ▲0.1 0.1 ▲ 0.1
スペイン ▲0.4 ▲0.6 ▲0.1
ユーロ圏 0.4 0.2 ▲0.3
物価は成長率とは違って、徐々に低下してきています。おおどころのドイツとフランスが低下傾向にあり、全体の足を引っ張っています。そのため今年の第一四半期にはユーロ圏全体がマイナス圏に沈みました。経済の低成長もさることながら一番の原因は昨年秋以降の原油価格の下落です。しかし月ごとに追うと4月の物価指数は水面上に浮上しました。今後はQEによるユーロ安も物価にプラスの影響を与えることと、原油がすでに下げ止まっているため、これ以上の物価の低下は防ぐことができそうです。
つづく