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不気味なほど静かだった金融市場と平穏無事な経済動向 その7 欧州経済①

2015年06月06日 | ニュース・コメント

  昨日アメリカの雇用統計が発表されました。好調な数字に為替市場がきっちりと反応し、ドル円はNYで125円台後半をつけています。それには目もくれず(笑)、今回から欧州のお話しに移ります。まず私の問題意識から。

   私の欧州に対する問題意識は個別の国や欧州全体の経済動向がどうという一般的話題ではなく、撹乱要因、例えばギリシャ問題やドイツの金利上昇が世界の経済・金融市場にどのようなインパクトを与えるか、そして通貨ユーロは今後投資に値する通貨かというような部分が中心です。

   そして先走るようですが、このシリーズの最後のテーマは私にはちょっと重すぎる感じはしますが、ここまで金融緩和策を取り続けた日米欧3つの経済圏と世界経済が、アメリカの利上げで今後いったいどうなるか、ということを見てみようと思っています。←ほんとにできるか(笑)

   ではまず欧州経済を簡単に概観してみたいと思います。みなさんと一緒に最近の欧州のお勉強からスタートです。

 

  いつもなんとなく使っている「欧州」という用語ですが、本当は分けて考える必要があります。それは「欧州連合(EU)」という28カ国にまたがる大きな経済圏と、その中で通貨ユーロを使用する「ユーロ圏」19カ国です。ほんとはもう少し小さく分かれていて、モナコのように独立国でEUに属さないのにユーロだけはちゃっかり使うという国もあれば、フランス領ですがユーロは使わないニューカレドニアなどの地域もある、という具合です。しかし事が複雑になるし大勢に影響はないので、EUは28カ国、その中でユーロを使っているユーロ圏は19カ国としておきましょう。

   ユーロを使わない代表的な国は英ポンドを使うイギリスや、クローネなどの自国通貨を使用するスウェーデン、デンマークなどの国々です。イギリスはEUには属しながらユーロを使用していません。なのにキャメロン首相はEUに居残るか否かの国民投票を17年に行うと宣言し、先日の選挙の大きな争点にもなっていました。ではいったいユーロを使わないでEUにいるメリットとは何か?また何故離脱を検討しているのか?ちょっとひも解いてみます。

   EUでは域内における人、商品、サービスの移動の自由が保証され、加盟国間の国境という障壁を原則として除去していくことになっています。それは言うまでもなく経済的に大きなメリットがあるからです。また政治的には自国に政府はあるものの、より大きく統合された欧州議会を持ち大統領もいて、域外に対する政治力は国別よりはるかに大きいというメリットがあります。そしてなにより大事なことは欧州の平和を維持するための共通の外交・安全保障体制が組まれています。具体的には欧州連合部隊などいくつかの目的別部隊が編成されています。またNATOは大西洋をまたぎアメリカ・カナダなどが加入している軍事同盟ですが、EUのほとんどの国もNATOの加盟国で、それにより強固な安全保障体制を組んでいます。

   ではイギリスはそれらのメリットを享受しながら、何故ユーロを導入しないのでしょうか。

  それは世界を制覇したかつての基軸通貨であるポンドの栄光を失いたくないというだけではなく、通貨の発行権こそが独立国の独立国たるゆえんだからです。つまりイギリスは独立を放棄したくはないのです。例えばユーロが強くなって競争力を失いかけても、ポンドを保持していれば独自の通貨政策で競争力を維持し、ギリシャの様に苦しまなくてよいかもしれません。

  では逆に政治・経済的メリットも多いEUから何故脱退を検討しているのでしょうか。

  理由のすべてが明示されているわけではありませんが最も大きな問題は「移民問題」です。

  ヨーロッパの中でイギリスは現在経済発展が著しく、また英語圏であることとあいまって、域内移民に人気があるのです。移動の自由があれば必然的に元東欧圏や南欧州の比較的貧しい国からイギリスには人が集まりやすく、それが手厚いと言われるイギリスの社会保障費を増大させるという問題を起こしています。そうしたジレンマを抱えることが反対する右派勢力を刺激しているのです。

  この移民問題は域内だけでなく域外からも増加し、フランスやドイツ、そしてアフリカ難民にイタリアも悩んでいます。このためこの問題は今後の統合欧州の台風の目と言われています。

   ここではまず「欧州連合EU」と「ユーロ圏」の違いを勉強し、イギリスを例に問題点を把握してみました。

つづく

コメント (7)
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