ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

円高・デフレのトラップに嵌まり込む日本  34.じゃ、どうしたらいいの  その18

2012年05月01日 | 資産運用 


   前回は、アメリカの住宅ローンで元本返済を必要としないローンもあると言う例を使い、借金は必ずしも全部をまとめて返す必要はない、ということをお話ししました。企業で言えば、もともと永続性のある組織なのと、業容を拡大していくことができれば当然運転資金も多くなるので、借金を一時期にすべて返済する必要はない、ということを示唆しています。

では国家はどうか?

基本的には国家も成長に見合った借入増加であれば、借換え続けることは困難ではなく、投資家も格付会社も許容します。しかし日本の場合を考えますと、経済成長はマイナスで、債務がどんどん積み上がっています。その積み上がり方は許容範囲を超えつつあり、債務バブルの様相を呈していると私は見ています。


どうして債務バブルなのか?

今回はそのお話をします。

理由その1.収入と利払い額

  元本は返済せずに借換えができたとしても、金利は払い続ける必要があります。金利を払うための原資は、企業で言えばやはりキャッシュフロー(利益)です。しかもキャッシュフローのすべてが金利支払いに消えては不健全です。そこで例えば銀行や格付会社は、企業が金利の何倍のキャッシュフローを生み出せているか金利とキャッシュフローの倍率を常にモニターしていています。その倍率はインタレスト・カバレッジ・レシオと言われます。その比率が下がると、企業はたちまち格付けを下げられたり、銀行の貸出態度が変化します。この倍率は、相当程度借入が多い企業でも、数倍の余裕は必要です。つまり支払い金利の数倍は利益がないと不健全とみなされます。日本の場合、企業のキャッシュフロー・利益にあたる財政の収支は慢性的に赤字ですから、すでに度を超えた債務バブルのレベルに達しているとみてよいでしょう。

理由その2.収入と借金のレベル

  個人の住宅ローンの場合、年間収入の5-6倍が借入の目安だ、と言われています。それは元本を期限内に返済し終わる必要があるためですが、必ずしも全部を返済しなくてもよい国家で危険水域の目安があるのでしょうか。
  実はこの5-6倍という目安は、国の場合でも歴史的には有効です。以前紹介した『国家は破綻する』というタイトルの本にそれが出てきます。約800年間の世界のデフォルトの歴史を検証した本で、統計の残されている90近い国のデフォルトを分析しています。
  その本によると、公的債務のデフォルトが起こった時の歳入と債務総額の比率の平均値はなんと5倍をちょっと下回る4倍台と低いのです。ただしこのデフォルトのほとんどは対外債務のデフォルトです。世界の国のデフォルトの多くは国内債務と対外債務の両方が積み上がった結果で起こることが多いのですが、国内債務だけのデフォルトももちろんあります。

  日本の歳入と債務の比率を見てみましょう。今年度予算での比較では、なんと5倍をはるかに超え、24倍ほどになっています。ちなみに債務が多いと言われるアメリカは6倍程度です。両国とも自国通貨建て債務ですが、両者の差は際立っています。

理由その3.債務とGDPの比率

  最後にもうひとつ重要な指標があります。よく使われる債務全体とGDPを比較した数値です。日本の債務は名目GDPの220%ほどですが、ギリシャが160%であるとか、アメリカは110%ほどだ、と言うお話をいままでさし上げてきました。

  今回はあたらに、「現在の比率は過去のデフォルト時の数字に近付いてきている」という指摘をしておきます。同じく『国家は破綻する』という本には、日本がデフォルトを起こした1944年の国内債務とGDPの比率は237%だったと記載されています。このところの債務の積み上がりは年間50兆円、GDP対比10%程度です。あと2年するとほぼ44年の数値と一致します。3年後の2015年を待たずに過去の数値を超えます。

  2015年は家計の金融資産と国家債務がクロスする可能性のある年であり、また日本の経常収支が赤字に転落する可能性がある年として、私がみなさんにお伝えした年号です。これらの事象は、それぞれが全く別の推計をしているのですが、不気味に同期してしまうようです。こんなことは書きたくないのですが、この2015年あたりが、いわゆる『デッド・クロス』の年にならないことを祈ります。

今回はここまでです。

つづく

(注)デッド・クロスとは、例えば日々の株価が移動平均線を上から下にクロスし、将来の下げを暗示する指標とされています。
コメント (9)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする