ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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円高トラップに嵌まり込む日本 その15.「リスクオン、リスクオフ」と為替変動

2012年01月10日 | 資産運用 

 
最近よく聞く言葉に、「リスクオン・リスクオフ」と言う言葉があります。

この言葉が為替変動に対して持つ意味は?

という質問をある方から受けましたので、今回はちょっと議論が戻るようですが、その質問に私なりの回答をしたいと思います。

リスクオン;投資家が積・極的にリスクを取る投資を行っている状態
リスクオフ;投資家がリスク資産から離れて消極的になっている状態


この言葉は一般的には次のように使われます。
「ユーロ危機で世界がリスクオフの状態にあり、円とドルの両通貨が買われる」
という具合です。

(注)この言葉、FXトレーダーの使い方を見ていると、自分がリスクを取っている状態、つまり相場を張っている状態をリスクオン、リスクから離れている状態、つまり相場を張っていない状態をリスクオフと使ったりしています。それはポジションを取った状態か、はずした状態かを指しているだけで、最近使われている意味合いとは違います。私の説明は上記のように使われている場合の説明です、念のため。

 この言葉が為替相場の説明で使われるのは、

リスクオン状態;円とドルが売られる
リスクオフ状態;円とドルが買われる


というように使われます。
何故そうなるのかを、もうすこし説明しますと

・円とドルは、世界の中ではもっともリスクの少ない通貨と考えられている。

・リスクオン状態では投資家は積極的にリスク資産に投資を行う。

・リスク資産とは為替で言えば円とドル以外、つまり新興国通貨やポンド、そして最近はユーロ。また株式全般や新興国債券、そして商品などリスクの大きい資産を指す。

・要するに投資環境が明るく多くの相場が上昇するとき、マネーは安全資産である円やドルから離れてリスク資産に回るため、円とドルが売られる。

・反対にリスク資産の相場が荒れたり低迷したりしていると円とドルが買われる。



 ではこの考え方がどの程度普遍性を持つか、見てみましょう。この10年程度の推移はどうだったかを大きな流れで検証してみますと、

・01年にITバブルの崩壊後に世界の株式相場はボトムを付け、リーマンショックまで上昇を続けリスクオン状態にあった。商品相場も大相場となった。その間に円とドルは売られるはずだが、実際にはドルは円に対して大きく買われ、01年の100円台から07年には120円台半ばをつけた。

・08年のリーマンショック後世界はリスクオフ状態になり、円とドルは買われるはずだが、その後一貫してドルは円に対して売られた。

・09年から10年には株式や商品相場もかなりの程度の戻りがあり、新興国の株や債券も買われリスクオン状態になって円とドルは売られるはずだが、その間も円はドルに対して買われ続けて11年には75円台まで円高になった。


こうして見て行くと、どうもこの説明は円ドルレートに対する説明にはなっていないようです。

もっともこのリスクオン・オフの説明はユーロが危機の状態にあると、比較的有効性を持っているように聞こえます。つまり初めに示したように「ユーロ危機で世界がリスクオフの状態にあり円とドルの両通貨が買われる」というようにです。


 もちろん為替相場は円とドルのみの世界ではなく、ユーロもあればポンドもあり、その他の通貨も多くあるため、円であれば円以外の他通貨全体に対する、ドルであればドル以外の他通貨全体に対する実効為替レートを見る必要があるのですが、円とドルの占める割合が大きいことから、実効レートもさほど円ドルレートの推移と大きく変わらないようです。

 さらに私に言わせればこのリスクオン・リスクオフの議論は、いろいろあいまいな点が多くて、いまいちクリアーな説明になっていないように感じます。例えば、

・リスクオン・リスクオフと言っても、相場が一様に強くなったり弱くなったりするのは実は10年レンジで見ればほんの1-2年のことで、あとはそれぞれの相場はまちまちに動き、オンとオフの境目がわからない

・リスクアセットの定義に例えば金(ゴールド)は入るのか入らないのかなど、範囲を決めることも難しい

・円とドルをけっこうマチマチに動くので、同時並行させて説明するのは、無理がある

などの理由から、つい厳密さを求める私の性には合わないのかもしれません。

 以上がちょっと長くなりましたが、最近のはやり言葉「リスクオン・リスクオフ」が為替に与える影響は?に対する私なりの回答です。
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円高トラップに嵌まり込む日本 その14.今後円レートはどうなるのか

2012年01月04日 | 資産運用 

  私の話は常に長期スパンで物事を見ているために、今年の円レートはこうなる、というような回答を欲しい方には向いていません。どれくらいを短期・中期・長期としているかといいますと、債券の定義とおよそ同様です。債券では1・2年までを短期、3年は短期だったり中期だったり、5年は中期、10年は長期、というくらいの区分けになります。

  これまで円高の確固たる要因は経常黒字だ、と解説してきました。ですのでもちろん経常黒字が継続している限り円高傾向はなかなか崩れないと思います。スイスのようにフラン高に対して何が何でも介入をするというのであれば、相場が一定水準で張りつくことはあるでしょう。

じゃ、経常収支はどうなるの?

  すでに貿易収支がトントンから赤字になりつつあることを説明しました。しかしそれを所得収支が補って、経常収支は黒字基調が継続しているのが現在の状況です。今後をどう見ているかと申しますと、日本企業は円高による競争力の低下を、海外投資によって補うようになっています。工場の立地を海外に求め、主力工場から協力企業の工場までが本格的に海外移転を強めています。そのことがブーメラン効果をもたらしそうです。

  もともとブーメラン効果と言う言葉は、30年も前から先進国が途上国に技術移転をすると、それがブーメランのように製品輸入で帰ってきてしまう、ということで使われていた言葉でした。私の言う現在のブーメランも基本は同じですが、きっかけは技術移転でなく円高による製造業の海外移転です。投資を伴うため、投資のリターン(配当・利子)もあれば、製品の逆輸入もあります。配当・利子などの所得収入は、もうかった分、いわば上前だけの分ですが、製品の逆輸入の本格化は、上前だけでなく根っこからの支払いを海外にすることになりますから、額は極めて大きくなる可能性があります。

  もう一つ貿易収支を悪化させる要因が、エネルギー問題です。原発による発電量が減る分を当面は火力などで補うとなると、その分の石油・天然ガスなどの輸入は確実に増加します。それを数字的に推定するのは私の個人的力では無理です。

  ブーメランとエネルギー、両者のインパクトの計算を行っていそうなのが経産省です。経産省は11年11月に「日本再生に向けた検討課題について」という大臣名のプレゼンテーション資料を出しています。URLは以下です。

http://www.meti.go.jp/committee/sankoushin/shinsangyou/004_02_00.pdf

この資料によりますと、日本は15年には経常赤字になるとされています。経産省が大臣名で出しているため、根拠のない推定だとは思えませんので、ブーメラン効果とエネルギー輸入の増加分くらいの推定計算はしていると思われます。この計算の誤差が前後1年程度とすれば、早いと14年には経常赤字に陥り、ドル売りの通奏低音が実需面で反転する恐れが出てきます。

つづく
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あけましておめでとうございます

2012年01月02日 | 資産運用 


  新しい年に向けての思いは、ただただ「平穏な一年になりますように」です。

自然災害、金融・経済の混乱、政治の混迷、どれをとっても激しさは増すばかりです。

私のブログは、そうした大波を皆様が無事乗り切るための一助になれば、という思いで書いています。

 今年もどうぞよろしくお願いいたします。




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