ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

円高トラップに嵌まり込む日本 その16.じゃ、結局どうなるの?

2012年01月16日 | 資産運用 


 前回はちょっと横道にそれて、リスクオン・リスクオフという最近よく言われる議論に、私なりのコメントを加えてみました。
 
 今回から元の議論、「じゃ、今後円レートはどうなるの?」に戻ります。
ここまで述べてきたのは、

 「貿易収支の赤字が定着しつつあり、それが所得収支の黒字も飲込んでしまう可能性が出てきている。経産省の見通しでは2015年くらいが経常収支赤字転換の目安と見ている」というものでした。それが現実の問題として認識され始めると、当然ドル円レートは赤字になる前に動き出す可能性があります。

 2015年前後は、実はもう一つ非常に大事な時期でもあります。それは家計の金融資産と財政の累積赤字がクロスする時期と計算されるからです。累積赤字は12年度末(2013年3月末)に予算ベースでは937兆円とされていて、この10年間年率3%で増加しています。一方、家計の金融資産は11年9月末で1,470兆円程度ですが最近はあまり増加していません。1,470兆円のうち株式などの投資分を除いた額は約1千兆円です。このままの増加ペースだと、累積赤字は2015年3月にちょうど1千兆円程度となり、家計の資産分とクロスするのです。その間に、団塊の世代が預貯金をそのまま使わずにお国のために残してくれたとしてのお話です。また消費税の10%への値上げは、社会保障などの増分と国債費の増分でほぼ消えます。財政のプライマリーバランスの実現など夢のまた夢、消費税35%でやっとです。

 (注)プライマリーバランス;税収と支出が収支トントンになることです。大本営はこれでバランスが取れると発表していますが、日本の場合プライマリーバランスが実現しても赤字の累増は止まりません。国債の利子が計算から除外されているからです。日本の国債の利子支払いは来年度予算でも10兆円を少し超え税収の4分の1が消えますが、その分をノーカウントにしての話です。政府の支出のうち国債費全体(金利プラス一部償還)はなんと税収の半分を占めています。


 経常収支の赤字化と、国債の国内消化の限界が同じ様な時期に来そうだというのは、とてもシンドイ話です。為替レートの決定は、1国、つまり日本の状況のみでなく、相手の状況も把握する必要がありますので、すこし米国の最近の様子に触れます。

1.米国債金利
  昨年8月、米国債がダウングレードを受けて株式相場が大暴落したとき、私は米国債はビクともしないだろうと申し上げました。その時の10年債の金利は2%程度で、ビクともしませんでした。その後、欧州問題が世界に激震を走らせた秋から年末にかけてもビクともせず、今は1.9%くらいまで低下し、世界の金融資産の中での安定性は際立っています。

2.米国債のCDSスプレッド
(米国債の保険料率)
やはりダウングレードのときに、ピクリとだけした米国債のCDSスプレッドは、先週12日に49bpと非常に低く、日本の152bpやドイツの101bpには比べようもありません。ちなみにフランスは210bp、イタリアは492bpと危機的レベルです。

3.米国の財政、日本との比較

GDPに対する債務残高の比率;日本 2.1倍、米国 1.0倍
ここで言うGDPは名目です。何故実質GDPでなく名目なのかといいますと、税収の源泉は名目のGDPだからです。消費税はインフレ率込の名目価格の5%です。デフレの日本の税収は、この意味でも伸びません。アメリカは健全なインフレ率を保っているので、実質GDPが伸びなくても税収は伸びます。
年間税収に対する債務残高の比率;日本 24倍、 米国 6倍
消費者金融の限度は、年収の3割まで。
家を担保にした住宅ローンでも限度は年収の5-6倍までが目途。
アメリカはその範囲に収まりますが、日本は絶望的です。

実はこの税収に対する債務の比率というのは非常に大切で、格付会社が見ているのは
第一に収入と金利支払いの比較(カバレッジレシオと言います)
第二に収入と累積債務の比較
  という具合です。

 米国財政はひっ迫しているというニュースばかりが流れますが、実際の数字をちょっと比較しただけでも日本との差は際立って安定しています。逆に、日本国債はいつ格付会社から打たれてもおかしくない状況だということがわかります。

つづく
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする