ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

トランプのアメリカに投資しても大丈夫か?

2016年12月02日 | 米国債への投資

   トランプは選挙中も選挙後もツイッターにより世界を右往左往させています。私は彼のそうしたツブヤキなど商売のやり方同様、相手を煙に巻くための、ハッタリ、ウソ、ブラッフなどがほとんどで、まともに相手をしても意味はない、と申し上げてきました。10倍に吹っかけておき、取れなくて元々。1つか2つ取れれば上出来というのが彼のやり口です。

  もっと言えば、彼のツブヤキなどにいちいち反応せず「無視しろ」といいたいのですが、報道しなければならないマスコミや攻撃対象となった人々は無視できません。そうした方々には、「お気の毒に」、と言う以外ありません。

  気まぐれトランプの出現に揺れるアメリカですが株式市場は超楽観的で、トランプの政策のいいとこ取りをして上昇しています。逆に米国債は売られていて、金利が上昇。それに対し私は「チャンス到来」と申し上げました。

  しかしみなさんの中には、トランプ政権が最短でも4年、最長8年も継続したら、アメリカは本当に大丈夫か、と思われる方もいらっしゃると思います。そこで今回から短期展望とともに、ちょっと先の展望もしておきましょう。

  この数か月の短期を展望すると、私はトランプ効果による株高・債券安は、日本におけるアベノミクス宣言と黒田バズーカの域を出るか出ないかがせいぜいだと思っています。

  みなさんは「グレートローテーション」という言葉をご存じでしょうか。アメリカの金融市場で今起こっている、債券から株式への大きな資金シフトを指します。この言葉は13年に言われ始めた言葉で、FRBがテーパリングを終え、つまり国債の買い入れを終了し、その後は利上げもありうるという予想が出た頃の言葉です。その時債券価格は一時大きく下落し、イールドは2%から3%へ、1%くらい高くなりました。その後は債券がまた買われ、今年に入ってからは10年物国債の金利が1%台で定着してしまうほどになってしまいました。今回も金利上昇つまり債券売りと、株高が同時出現し、この言葉が使われ始めています。

  私は今回も本格的かつ長期的グレートローテーションには至らず、アベクロコンビの二の舞プラスアルファがせいぜいだと思っています。

  何故二の舞なのか。トランプの政策は以下に述べるように、実現性が薄いものが多いからです。プラスアルファは、潜在成長力のないままに導入されたアベノミクスと違い、アメリカは依然として潜在成長率が高く、しかも世界のイノベーションをリードする力を保持しているからです。つまりある程度裏付けのある株高・債券安なので、その分がプラスアルファになる可能性があるということです。

  ではまずこれまでにトランプが出した政策のうちの主な経済政策を並べ、順番にコメントします。主な点は3つです。

1. 法人税減税、所得減税

2. 保護主義

3. 財政出動によるインフラ整備

  まず1の減税から。今週財務長官に決まったと報道されたムニューヒン氏も法人税は減税すべきだと言っています。財源のあてなしでどこまでできるのか疑問ですが、実行されれば財政の赤字拡大を通じて、金利上昇に寄与するでしょう。これは大企業優先策で、労働者階級に恩恵はほとんどありません。そして将来の先進国間の減税競争を招きます。

  一方個人の所得減税はどうか。今回のトランプの票集めのポイントは、白人労働者の主張である格差解消でした。1%の高額所得者が18%もの所得を得ているのは不公平だというものです。税制の改正は、それを是正するための最高の材料であるはずが、これまた実は正反対になっています。高額所得者に対する減税幅が低所得者より大きいのです。

  そしてこの減税も税収を減らすため、金利には上昇圧力になります。

  もっともこの所得の格差議論ですが、もし逆にこう書かれていたらどうでしょう。

   「99%の人々が全所得の82%を得ている」

  この言葉にみなさんはどういう印象を持たれるでしょうか。こう書いてあると、「まーちょっと足りないけど、そんなもんか」というのが正直な印象かもしれません。

  それはさておき、この所得格差は最優先で是正しなければいけないはずなのに、トランプはそれで票を集めておきながら高額所得者の税率を最も下げるという、ほとんど詐欺と言えるような公約を掲げて当選しています。私の不安はここにあります。

  トランプ支持者は、これほど明らかな詐欺的政策を吟味もせずに支持する人達ですから、今後トランプのやることにどんなに激しい矛盾が出てウソがばれても、文句ひとつ言わずに妄信し続けることでしょう。それこそが私が最も懸念するところです。

  次は2の保護主義についてです。これはあまり心配していません。TPPはもともと始まっていないので、皮算用がまさに皮算用にすぎなかっただけです。昨年のTPPの議論の時私は、「これが決まって実行されても、日本には大きな影響なし」と申し上げています。理由は関税引き下げの速度があまりにも遅く、率もきわめて小さいからです。そしてTPP交渉で「日本が勝ち取った」ということは、「日本の消費者は負けた」ということだとも申し上げました。何度も申し上げますが、

  「業界の得は消費者の損」

  もっとも全体の方向は自由化するので消費者にとって決して悪いことではありません。そして実は厳しい競争こそ業界の体質強化につながるのです。オレンジの自由化で日本のみかん農家は壊滅どころか、非常に強くなったことを例に挙げました。

  TPP廃棄で残念なのは、中国牽制政策のかなめの一つがなくなり、中国を中心とする協定が支配しかねないことです。

  一方、すでに20年前から実施されているNAFTA、北米自由貿易協定はTPPと違います。これを本当に廃棄しメキシコからの輸入品に彼が言うように35%もの関税をかければ、アメリカの消費者が悲鳴を上げます。しかしこの公約もすでにデイワンの宣言からはずれているので、すぐには廃棄されないでしょう。

  対中国はどうか。為替操作国と認定し、輸入品に45%の関税をかけると言っています。すると衣料品や毎日使う日用品の価格にそのまま上乗せされ、貧困層・低所得者層は、悲鳴どころか干上がってしまいます。これも反貧困層政策です。

  中国がそれに対し「WTOに提訴する」と言えば、トランプは「そんなものは脱退してやる」と吠えるでしょう。

  しかし、もともと共和党は自由貿易主義を標榜している政党なので、トランプの言いなりにはならないでしょう。彼は共和党全体を敵に回してまで戦うことはなく政策を撤回し、選挙民には「自分は悪くない、悪いのは共和党議員団だ」と言い逃れるでしょう。

  こうしてTPPやNAFTA、対中国政策などを見れば、たとえ大統領の裁量だけで実行可能な政策があったとしても、「トランプの保護主義政策のほとんどは、のろしを上げただけで終わる可能性が高い」と私は見ています。

  保護主義と言う名のお門違いの懐古趣味、自国産業優先策、輸入制限と海外移転阻止。メキシコからの輸入品には35%の関税を課し、中国からの輸入には45%の関税を課し、日本の自動車には38%だという、おバカな政策など実行できるはずはないのです。

  数十年も昔にすでに海外に移転した産業を、自国に戻せるはずはありません。先日もグローバリゼーションについて語ろうで述べた通り、鉄鋼業ひとつとっても、アメリカ人の一人当たりGDP56,000ドルを、中国人並みに8.000ドルに下げられるのか。でもそうしなければアメリカ国内で鉄鋼業の全面復活などできっこないのです。

  最後は簡単に4のインフラ投資についてです。

  これまた財政支出を直接増やすため、長期金利の上昇要因です。

  アメリカは日本と違い、国を挙げてのゼネコン国家ではありません。インフラの更新が遅れていて必要なのは確かですが、失業率わずか4.9%の中でどうやって労働力を確保するのか。しかも3Kの代表である建設労働はこれまで白人が避けてきた仕事で、移民が労働者の大半を占めます。移民を排斥する政権が、大々的なインフラ整備を白人労働者に低賃金でやらせることなどできるのでしょうか。極めて疑問です。

つづく

コメント (5)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 安倍首相がトランプに贈った... | トップ | トランプのアメリカに投資し... »

5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (しこ)
2016-12-06 22:15:49
林様 皆様

ご無沙汰しております。
トランプさん、愛想つかれて事故とか事件が起きなきゃ良いけど…

初めて9年もののトレジャリーボンド?を2.2%で500ドル分買いました。理由は15年もの2.4%のストリップ債より相対的に金利が良く、早く償還されるからです。合わせて長期債も少しずつ買っています。

トレジャリーボンド?は初めてで、複利は無いこと税金的に不利なことは承知していますが、手元にドルを持っているだけよりは良いかなと思います。

なんだかんだ初めて、2万ドルくらいになりました。まだまだですが、安全第一で運転していきます。
返信する
Unknown (しこ)
2016-12-06 22:15:48
林様 皆様

ご無沙汰しております。
トランプさん、愛想つかれて事故とか事件が起きなきゃ良いけど…

初めて9年もののトレジャリーボンド?を2.2%で500ドル分買いました。理由は15年もの2.4%のストリップ債より相対的に金利が良く、早く償還されるからです。合わせて長期債も少しずつ買っています。

トレジャリーボンド?は初めてで、複利は無いこと税金的に不利なことは承知していますが、手元にドルを持っているだけよりは良いかなと思います。

なんだかんだ初めて、2万ドルくらいになりました。まだまだですが、安全第一で運転していきます。
返信する
トランプは (ただの個人投資家)
2016-12-05 12:53:40
皆様こんにちは
トランプは廻りをゴールドマンサクス出身を集めたり、金持ちのための資本家のための政治をすんではないかと、、、
ドナルド トランプと言う本を読むと、マスコミ利用は昔からのようですね~
恐ろしい
返信する
そろそろ日本を心配しないと・・・ (Jake Jack)
2016-12-04 03:56:48
アメリカ経済の強さを考えれば、
今の市場も正常の範囲内かも
しれないですね。

仮にトランプが無茶をしようとしても
市場が機能しているアメリカなら
市場にボコボコにされて
おとなしくせざるを得ないでしょうから。

それよりも、日本を心配すべき時期が
近づいてきていると思います。
返信する
Unknown (Owls)
2016-12-03 15:06:13
こんにちは

11月のアメリカの失業率は4.6%
労働力不足の状態じゃないかと思われます
その他経済指標も堅調な数字
確かに株価は過熱気味なのは否めませんが、
トランプは現時点では就任してもいないし
むろん何もしてもいない
どうやら金融政策も正常化の方向なのも確か

それに比べて日本は経済がイマイチな上に
長期金利操作という極めて怪しい金融政策を実施中
素直に経済情勢を比較すればアメリカの方が
評価が高くなるのは当たり前じゃないでしょうか?

むろん、トランプがこれから何をするかで変わってきますが、
現時点での経済の比較では円高にならんのはおかしいとかいうのは
トランプは当選するはずがないと同類の思い込みじゃないかなと思います

私の個人的な予想ではトランプは口ほどなにもしない(できない)と予想しています
そうこうしてる中間選挙で大敗して何もできないに本格移行、
次の選挙では負けて1期四年で終わりかなと思っています

どうみても労働者の味方ではなさそうなので
トランプ当選を後押しした人たちの支持を失うのも
そんなに長い時間はかからないと勝手に予想してます
返信する

コメントを投稿

米国債への投資」カテゴリの最新記事