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2021年アメリカの金利動向、さときびさんの質問への回答

2022年01月10日 | アメリカの金融市場

  さときびさんからの質問、「テーパリング、利上げ局面の展開の見方」への回答です。

 

  タイトルにある「テーパリング、利上げ局面の展開の見方」という質問は、そのまま回答するには専門的かつ難しすぎるため、これを「今後の金利動向をどう見るか」に変更させていただきます。たぶん多くの方の関心はこの点にあると思うからです。結論的にはさとうきびさんの見方と同じで、金利は簡単には上がらないだろうと思っています。その根拠をかいつまんで説明します。

  私は従来から金利見通しに重大な影響を及ぼすファクターは、「物価と雇用」だと申し上げてきました。これが最重要であることに変わりはありませんが、現在の局面には債券投資の需給状況というファクターを入れる必要があると思っています。

  21年11月のアメリカの消費者物価上昇率は前年同月比6.8%上昇、変動の大きいエネルギーと食料品を除いたコア指数でも4.9%の上昇と、FRBが利上げに踏み切るには十分な数値でした。レベルとしてCPIは1982年以来の高い数字です。先行きの物価についても、「しばらくすればインフレは収まる」から、「今年は年間を通じて高水準だろう」という見方に変わっています。従来から目標としてきた2%に行くか行かないかの攻防など、どこへ行ってしまったのかというとんでもない水準です。

 

  一方の雇用を見ると、1月の発表数字で失業率は3.9%と非常に低い水準でしたが、指標として重要な非農業部門雇用者数が前月比19万9千人増と、市場予想の40万人増を下回ったため、市場関係者はご不満のようです。

  しかし21年通年でみると増加幅は640万人と、1939年の統計開始以降で最大となり、非常に好調だと言えます。技術的には労働参加率が低いなどと指摘する向きもありますが、そこにはコロナと言う不確定要素もあり増加の多さは経済の強さを十分に反映していると見るべきでしょう。

 

  では「物価と雇用」がいずれもかなりのレベルなのに、何故金利がそれもFRBの操作できる短期ではなく、10年物に代表される長期金利が上昇しないのでしょうか。その答えは私の見るところいわゆる「カネ余り」です。

  コロナ禍の経済的打撃を回復するためFRBがジャブジャブに資金を供給していることもあり、各セクターが莫大な待機資金を抱えているからです。

  まず機関投資家が抱える待機資金を保有MMFで推定すると、3.2兆ドル=約360兆円あります。個人投資家は1.6兆ドル=180兆円。企業の流動資産は69兆ドル=790兆円。このうち企業の流動資産は設備投資などへの待機という面もあるため、すべてが自社株買いや債券投資に向かうわけではありませんが、それにしても巨額の待機資金です。

  これではギャンブル的株式投資は続くでしょうし、一方大きなリスクを取りたがらない向きの債券投資も、金利が上昇すれば投資してくるにちがいないと思われます。

  FRBの金融政策は買い入れを縮小するテーパリングどころか、これまでに買い入れた米国債などの売却=資産縮小すらありうるという姿勢に変化しつつあるため、市場への債券放出はあるでしょうが、買い入れ圧力は非常に高いものがあるのではないでしょうか。

  ちょっと古いのですがNY連銀によるおもしろい予測があるので参考までに紹介します。昨年5月のロイター電です。

引用

ニューヨーク連銀は5月24日、米連邦準備理事会(FRB)の継続的な資産買い入れにより、FRBのバランスシートが2022年末までに9兆ドルに拡大するとの予測を発表した。

民間銀行の準備預金は22年末までに6兆2000億ドルのピークを付ける可能性があり、その後は安定的に減少すると予想。NY連銀の市場チームによる年次報告書に予測が盛り込まれた。

償還国債および政府機関(エージェンシー)保証モーゲージ担保証券(MBS)の再投資を継続した場合、FRBの保有資産は25年まで同じ水準を維持する可能性があると指摘。「その後は、連邦公開市場委員会(FOMC)が金融政策のスタンスを正常化するのに伴い、保有資産についてどのような選択をするかで、道筋が決まる」とした。

月額1200億ドルの債券買い入れを21年末まで継続し、22年末までに緩やかに縮小させゼロに達するとの前提を置いて試算した。NY連銀による市場参加者とプライマリーディーラーの調査に基づき、将来的な資産買い入れと金利に関する前提を立てた。

フェデラルファンド(FF)金利の中央値は23年第3・四半期まで0.125%で推移したあと、26年末には2%強に上昇すると想定。長期的には2.25%に達するとした。

また10年債利回りは長期的に2.5%に、30年固定住宅ローン金利は4.1%に上昇するとした。

FRBが昨年、米経済や企業の資金調達を支援するために金利をゼロ近辺に引き下げ、緊急資金供給を相次ぎ打ち出し、毎月の資産買い入れ規模を増やしたため、バランスシートは膨れ上がった。

先週時点で保有資産は8兆ドル弱となり、2020年初め時点の約4兆1000億ドルから急拡大した。

報告書は、さまざまな状況を想定すると、FRBのバランスシートは2030年まで9兆ドル近くに維持されるか、6兆6000億ドルまで減少する可能性があるとの見通しを示した。

引用終わり

 

  現実はこの予想よりかなり早くテーパリングが完了し、利上げも行われると思われるのですが、それでも待機資金の多さから長期金利の上昇は緩慢なものにならざるを得ないだろうというのが私の見方です。

 

  以上ですが、回答になりましたでしょうか。

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1 コメント

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Unknown (さとうきび)
2022-01-11 00:19:22
林様、私のコメントに対して丁寧にご回答頂き、誠にありがとうございました。林様にご説明いただき、大変勉強になりました。やはり、10年債利回り3%への到達は当面厳しそうですね。それを待つことは機会損失になるようにも思えますし、その前にリセッションやxxショックのような物が起きて、また低金利政策にならないとも限りません。
投資は自己責任とはなりますが、個人的には10年債利回りが2%代に乗ったところから米国債を買って行きたいと思います。
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