アベノミクス新3本の矢に戻ります。
前回は3本の矢の一つ、名目GDP600兆円について私なりの解説をしました。おさらいしますと、そもそも賃上げの恩恵に浴さない国民が過半数を占めているなかで、インフレで目標が達成されても、それは不幸な人の不幸度を増やすだけだと申し上げました。
現在のGDP500兆円がインフレだけで600兆円になれば、国民は100兆円分貧しくなるだけ。もし実質成長1%、インフレ2%で達成したら、それは国民が66兆円(100兆円の3分の2)貧しくなるだけの話だと計算を示しました。
このところの実質成長率はゼロ近辺なのに、アベチャンはアベノミクスの自画自賛に酔いしれて「アベノミクスが日本を取り戻した。デフレは克服された」と国内でも海外でも盛んに成果を強調しています。我々庶民はしらけるばかりです。その国民の目を逸らすために、南シナ海に自衛隊を派遣させるようなことだけはしないでねと祈りましょう。「シーレーン防衛」とか言い出すと、その日は確実に近くなります。要注意です。
今回は第2の矢としてあげられている「夢をつむぐ子育て支援」についてです。相変わらず内閣府のHPに新3本の矢については何もでていないので、自民党のサイトを引用します。
引用
「夢をつむぐ子育て支援」とは、希望出生率1.8を目指し、待機児童ゼロの実現や幼児教育の無償化の拡大、多子世帯への重点的な支援などによる子育てにやさしい社会を創り上げます。
引用終わり
たいへんけっこうでございます。しかし「希望出生率」といわれても、なんだか「希望小売価格」というイメージ以外になにも沸いてきません。いったい彼は20年までの5年間で、現在1.4の出生率を1.8にできると思っているのでしょうか。希望ということは、絶対不可能がわかっているので、どこぞのメーカーの値札のような表示にしているとしか思えないのです。
先進国で出生率を上げた成功例としてスウェーデンやフランスがよく引用されます。フランスは94年に1.65まで低下した出生率を2006年には2.0まで引き上げに成功しました。12年で3.5ポイントで、まれにみる成功例です。現在の日本の出生率1.42を同様に3.5ポイント上昇させたとしたら1.77と1.8に近付きます。先進国で最も成功したフランスで12年かかっているのを5年は絶対に無理。賃上げの恩恵に浴さない非正規労働者が4割にも達していたら、子供を産むどころか、結婚すら躊躇せざるを得ないのが若い世代の実態でしょう。
私なりにもっと単純に計算すると、「結婚年齢の男女が全員結婚し、どのカップルも2人の子供を持つと2.0になるので、ほぼそれに近い状態を5年で作ることだ」とも言いかえられます。この単純計算が出生率の計算として妥当かどうか、私は知りません。
海外のメディアでも、この「希望出生率1.8」をまともに取り上げている報道はみかけませんでした。子育て世代の方には是非頑張って欲しいと思うのですが、冷やかにコメントすれば「希望」という言葉をたった三つしかない国の政策目標のお題目に使うな、と怒りを込めて申し上げておきます。
つぎ、介護問題です。ふたたび自民党さんにお世話になります。
引用
第3の矢は『安心につながる社会保障』。介護施設の整備や介護人材の育成、在宅介護の負担軽減など仕事と介護が両立できる社会づくりを本格的にスタートさせる一方、意欲ある高齢者が活躍できる「生涯現役社会」構築を目指します。
引用終わり
最初のアベチャンの記者会見にあった「介護離職ゼロ」はもう旗をおろしたみたいです。それはべつとして、標語はこれまたたいへんけっこうですね。
私の年齢は65歳です。周りを見ると介護問題に翻弄される友人ばかりです。およそクラス会の話題というのは就職からスタートし、結婚、子育て、教育、孫自慢、病気自慢と推移するのですが、最近は孫自慢や病気自慢に親の介護が並行して加わっています。
介護が現在もそして将来も非常に重要な問題であることに間違いはありません。それを正面切って取り上げるのは大変けっこうなことだと私も思います。しかし一国の政策としてかかげるのであれば、介護離職ゼロという小さく狭い目標だけで問題を解決するのは無理です。
今年度の国家予算は96兆円ですが、社会保障支出の総額は115兆円で国家予算より大きいのです。このことは今年の3月くらいにシリーズで取り上げました。そのうち社会保険料としてかなりの額を国民が負担しているため国家がすべてを負担するわけではありませんが、それでも国家予算96兆円のうち32兆円が社会保障関係費です。これだけ巨額になってしまった社会保障支出をしっかりと見直さずに介護だけを国家の政策目標に取り上げるのはお門違いもはなはだしいと言わざるを得ません。
社会保障制度全体としていかなる方向を目指すのか。なかでも本質的問題である「現在の保障レベルを維持するため国民に社会保障の負担増加を求めるのか、それとも負担を抑えて給付を抑えるのか」について国民合意が必要だと思います。この正面切った議論を抜きにした「介護離職ゼロ」の目標は空しいだけです。
少しアベちゃんの肩を持ちますと国民自体が
問題の本質を見ようとしない傾向が強いのが問題。
特に識者とかマスコミとかがその傾向が強い。
アベちゃんだけを批判するわけにはいかんでしょう。
代表的なのがそういう恵まれた階層の人は
いまだに日本人は貯蓄好きでお金があるという認識。
実際には無貯蓄世帯が30%程いると言われ、
俗にいう就職氷河期世代の人達は資産形成なんて
夢のまた夢という人も少なくないのですが、いまだに
識者やマスコミは何故か80年代の頃のイメージを
持ち続けています。
代表的なのは若者のクルマ離れというフレーズ
現実にはクルマを保有するだけの経済力がない人が増えてるだけなのですが、
何故か嗜好の変化が起きたように考えて首をかしげるのです。
ここまでくると見たくないものは見ることを拒否してるのではと思いたくなります。
最近ではやっと就職氷河期世代の惨状を雑誌やテレビで注目されはじましたが、
時既に遅しで経済成長に重大な支障が出るほどです。
家計貯蓄率なんかもマスコミではほとんど注目されません。
既に貯蓄しないと言われたアメリカよりも低くくなって十数年が経過しており、
2013年にはマイナス迄に転じてます。銀行などでは
人口減による預金減少時代が近い将来に来ること言われているのに
一般的にはあまり注目されていません。
どうもアベノミクスというのは見たくないものは見ないという
国民側の空気を反映した政策に思えます。
まあ、そういう空気に便乗するアベちゃんの責任も当然大きいと思います。
ただ、そろそろ国民側も古き良き昭和への郷愁は捨てた方がよいと思います。
先日、日銀は追加緩和を見送りましたが、
実は今でも凄い勢いで緩和を拡大し続けています。
だけど市場はそんなことを忘れてるがごとくです。
日銀の出口戦略についても、深く考えている人達は
かなり困難だという認識ですが、多くの市場関係者は
そんなの大して難しくないといった認識です。
どうも市場の現時点の認識と実態が乖離してるように思います。
そして多くの人は市場はリアルタイムで正しい評価をしてるかを疑っていません。
数ヶ月前に中国株は実態からかけ離れていると言われていましたが、
多くの市場関係者は本当に暴落してから慌て出す始末です。
日本のバブル崩壊なんかも同じだったと思います。
どうも市場の値動きは常に正しいという思い込みが
なかなか消えないようです。何度も痛い目にあってるはずなのですが・・・
日本人の異次元緩和や財政問題への驚くべき
無関心と楽観は市場の値動きは常に正しい評価だと
思い込んでるからではないでしょうか。