日銀は9月22日の政策決定会合でこれまでの政策金利(翌日物の超短期のこと)の据え置きを決めました。つまり短期金利はマイナスのまま。長期金利のイールドカーブ・コントロール=YCCも上限1%を据え置きました。短期金利は99年にゼロ金利を導入して以来、24年もゼロ近辺のままで、我々の預金収入をほぼゼロにし続けています。
一方、148円台に達している為替レートは、この数年日米の10年物金利差に同調して動いていますので、日銀YCCの変更がないと大きくは反応しません。
10月になるとまた多くの物価が上昇を控えていますし、それ以前にガソリン価格も値上がりしたままで、家計は苦しくなる一方です。欧米をはじめとする世界各国はインフレ対策として当然中央銀行が金利を上げ、景気を冷やすことで対処しようとしていますが、日本はそれをせずに20年やってダメだった政策をそれこそ、20年一日のごとく継続したままです。
9月8日の投稿のタイトルは「日本人の窮乏化」でした。それは物価上昇分を差し引いた実質賃金が目減りしているからでした。その時に使用した統計は8月分だったのですが、9月分の統計が出ていますので、その記事を日経ニュースから引用します。
引用
厚生労働省が9月7日に発表した7月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、1人当たりの賃金は物価変動を考慮した実質で前年同月比1.7%減少した。5カ月連続のマイナスとなった。円安や原油高による物価上昇に賃金の伸びが追いついていない。こうした状況が続けば家計の購買力が低下し、景気の下振れ圧力となる。
引用終わり
日銀が景気を回復させるためにやっているつもりのマイナス金利政策が、インフレを通じて実は景気を冷やしている。この厳然たる事実を決して認めようとせず、植田日銀も継続しています。それがいつまで続くのか。エコノミストの大方の見方は、「来年の春闘の賃上げ率が判明するまで日銀は継続する」という見方です。
しかし9月8日の投稿で書いたように、「春闘は日本の一部の人にしかない特権」であることに日銀もエコノミスト達も気が付いていません。連合のカバー率は全労働者の2割に過ぎないし、6,700万人に達する年金受給者は前年比マイナスの年金しかもらっていません。ですので、たとえ春闘の賃上げが3%台であっても、日本人全体の実質所得は物価上昇分を差し引くとマイナスを継続するに違いない。
またボヤいてしまいました。
では今回の本題に入ります。コメント欄に吉田さんからいただいた次の疑問に、答えていきたいと思います。
質問の引用
「日本の危機」とは具体的には何が想定されますか。
①金利を上げることで株価が暴落する
②日本国債を有する金融機関が膨大な評価損益に喘ぐ。場合により破綻
③国債価値が破綻し、日本円も価値が暴落する
こういったことでしょうか。
引用終わり
①の金利を上げることで株価が暴落する
については、「金利を上げる」のは日銀です。本格的暴落が始まったら金利を上げない、もしくは下げるという手段がありますので、株価大暴落による金融危機を起こす原因として決定的ではありません。株価暴落は政策的に金利をいじれる短期金利ではなく、すでに大量に発行され、そのうち半分近くを日銀が保有している長期債金利上昇が原因になる可能性が強いだろうということを指摘しておきます。しかしそれも、現在のように日銀がいつまでも買い続けると、破綻に至るかは定かではありません。
②日本国債を有する金融機関が膨大な評価損に喘ぐ。場合により破綻
これについては、評価損を棚上げするという非常手段が残されています。会計上保有資産は値洗いをして評価損益を決算に反映することになっていますが、評価損失が膨大になることを見込んで日銀・金融庁などが、「償還まで持ち切るのであれば時価評価は不要」だという方針を出せば、決算上の破綻はまぬがれる可能性があります。
それでも海外投資家や格付け会社はごまかせません。日銀を含む国債保有者の財務悪化を株売りや格下げによって厳しく評価するでしょう。すると瞬時の破綻は免れても、銀行であれば預金者による引き出し行動を誘発する可能性があります。預金引き出しは簡単には阻止できないのですが、日銀特融で資金供給する可能性大です。しかしその時には日本人はトイレットペーパーを買い占めながら(笑)、全国の銀行で引き出しに走る国民です。すると大きなインパクトを持ちえます。その場合、ATMを停止させ、窓口では引き出し額の制限などをするでしょう。もちろん商売上の銀行決済取引に支障をきたし、大混乱になりそうです。
③国債価値が破綻し、日本円も価値が暴落する
前半部分は先ほどの議論と重なりますので省略しますが、後半部分の円の暴落は政府が買い支えに入っても、どこまでできるかは疑問です。政府保有の外貨には限りがあるためです。昨年の為替介入は主な相手が投機筋だったので、対処できました。しかし多くの日本の金融機関や事業法人、そして個人までもが一気に円売り=ドル買いに走ると、阻止するのは簡単ではありません。
さらに為替は日本政府の権限範囲外の海外市場でも、先物を含め取引は可能です。日本人が本格的に売れば、海外の投機筋はさらに空売りで拍車を掛けるに違いない。
以上のような要因により日本が国際的信用を失い、株価が暴落し円も暴落すると、ボトムを打つまで海外投資家は背を向けるし、国内投資家も国家より自分の資産ヘッジが大事になるので、経済活動が停止しかねないほどの大きなショックになると思われます。
そして何より、円の暴落は激しいインフレをもたらし、投資家だけの問題では済まず、我々一般消費者は最も大きな影響を受けます。
以上、コメント欄にいただいた質問への回答でした。
次回の解説はこの続きですが、逆に金利上昇が起らず、「日銀によるマイナス金利政策が継続し続けたらどうなるか」について解説することにします。
みなさんはあまり意識していないかもしれませんが、それなりにかなり恐ろしい日本の衰弱死についてです。
最近の米国債金利上昇は嬉しいのですが、ややハイペースに一抹の不安を感じます。
早速のご考察、大変ありがとうございます。
しかしながら、なぜ日本政府、日銀がそのような希望のない政策を取り続けているのか、何故自ら金利を上げることのできない状況に置き続けるのかは甚だ疑問におもえます。
一説には膨大な社会保障費を賄うために、それに対する国債を発行し続けるとあります。では社会保障費をそう簡単に削れるかというと、もちろん国民の生命や治安に直結するために極めて困難であると想像しますが。。
続編のご考察をお待ち申し上げます。
2冊目の書籍、ブログ、皆様のコメント、いつも勉強させて頂いております。
ところで、日本の衰弱死…続きが気になります。(汗)
私の方はあれからアドバイス頂いた通り、少しずつ米国債を買い進め
53万ドルの保有になりました。(満期償還の場合)
このくらいの保有で良いかと思っておりましたが、衰弱死する前に
逃げ切りたいと思っております。
もっとドル転をするべきですね…。
ブログ更新お待ちしています!!