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1円を削りだせ! 青学の原監督

2023年04月25日 | 社債投資の心得

  クレディスイスのAT1債に関しては、まだ話題が続いていますね。日本国内でも財務省の発表によれば約1,400億円が富裕層を中心に販売されていたとのこと。特に三菱UFJモルガンスタンレー証券はそのうち3分の2の950億円も販売したことを発表しています。

  そんな中衝撃を持って報道されたのは、青山学院駅伝部監督の原晋さんのニュースでした。ネット上のニュースを引用します。

 

引用

『青山学院の原監督は「老後に年1回の旅行を楽しみたい」と少しずつ貯めた貯金で日本の証券会社から債券を購入していたが、「ハイリスクのものという説明はなかった」と主張。「日本のサラリーマンの平均年収のウン倍が紙切れになった」「クレディ・スイスは倒産していないのにどうしてお金が戻ってこないのか」と嘆く。

あえて自身の失敗を語ったのは「安易な気持ちで投資に乗り出したら私みたいな被害にあって人生を台無しにする。同じ失敗をしてほしくないからです」と訴える。』

引用終わり

  

  箱根駅伝で原監督は「1秒を削りだせ」と常々おっしゃっている割には、お金には鷹揚な方のようですので、私から「喝」を入れます。駅伝なら一度くらい転んでも、途中棄権はしませんよね。今回もまだまだ挽回の可能性はいくらでもあります。

  どのニュースを見ても、原さんが証券会社からリスクについて十分な説明を受けていなかったと報道されていて、本人もこう語っています。

 

「ハイリスクのものという説明はなかった」

 

  そもそも日本で販売に従事している証券会社が債券の販売にあたり目論見書を投資家に配布しているのを聞いたことがありません。社債などを買ったみなさんのケースではいかがでしょう。投資家に目論見書を配布し、内容を説明するのは証券会社の義務です。しかし専門家として言っておきますが、外国銀行が発行する劣後債の英文目論見書などシロウトが見ても理解できません。いや、相当な専門家でもない限り、日本語への翻訳も困難を極めるでしょう。専門用語のオンパレード、かつそもそも銀行が国内当局や世界的銀行の監督機関である国際決済銀行BISの資本に関する要求内容を理解していなかったら、とても翻訳などできません。

  それを配布もせずその上高リスクであると口頭でも説明がなかったのであれば、次の一手は、原さん自身が三菱UFJモルガンスタンレー証券を訴えるのです。

 

  この事件で発行体であるクレディ・スイスを訴えても負けます。何故なら倒産時の返済順位は株式よりこの債券のほうが下位だと目論見書に書いてあるからです。しかし販売に当たる証券会社は、そのことを説明する責任と義務があります。セールスの担当者は普段から目論見書など見ず、説明もせずにセールスをしていますので、原さんはそれを盾に100%の賠償金を三菱UFJモルガンスタンレー証券に求めるのです。

 

  アメリカでもより巨額な損失を被っている個人や巨大ファンドなどが、すでに訴訟を準備しています。ロイターなどで英文ニュースを探ると、投資家らは債券の目論見書の中身を熟知した上で投資しているため、説明不足を指摘するのではなく、破綻処理の方法論から発行体銀行や政府の処理方法を攻めようとしています。金額も大きいため非常に大掛かりな訴訟を準備しているようです。

 

  しかし私は日本ではもっと初歩的な攻め口があると思います。それは先ほど書いた通り、説明をしなかった証券会社を攻めるのです。

  と思って日本語でネットを検索すると、すでに該当する投資家を募ろうとしている法律事務所を見つけました。この場で具体名は避けますが、私のアドバイスは

 

「原さん、あきらめるのはまだ早い、1円を削りだせ!」

 

  その事務所に出向き、訴訟に参加することで返済の可能性は大いにあると思われます。その法律事務所のフィーの条件はわかりませんが、この手の訴訟の多くは成功報酬で行われることが多いのです。つまり入り口での支払いは求められず、成功報酬のみを目指しているだろうと思われます。要は投資家を多く集め、回収金額を多くして、大きな儲けを出すことが彼らのインセンティブなのです。

  成功報酬の率は、おおむね30%程度になりますが、原さんが例えば3千万円の損を出しているとして、手間暇かからず7掛けの2,100万円が還ってくれば、十分じゃないですか。法律事務所は集めた投資家の投資額が300億円であれば、100億円も手にできるのです。

以上、「原さん、1円を削りだせ!」でした。

 

  そして再度皆さんに申しあげます。「金利の見た目に釣られて劣後債などには絶対に手を出さないようにしましょう」

コメント (7)
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