今回のななしさんからの素朴なそして正直な疑問は、私のような専門知識を持つ人間が一番思いつかない疑問です。それをぶつけていただくのはたいへんありがたいので、大歓迎です。
>林様ブログが始まって私の記憶では10数年以上。
そうですね。ブログは2011年あの大震災の直後からの開始です。理由はすでに書きましたが、大手出版社の愚かな編集長が、「アメリカなんてリスクがいっぱで危険だ。その部分を削除しろ」と言ったのに対して反発し、「出版はしない」と啖呵を切って、その代わりにブログを始めました。
ではまず米国債についての疑問から。
>ななしは「卵を一つの籠に盛るな」のことわざは林様お薦めの米国債トレジャリーゼロ運用に関しては例外と考えてました。
もちろん例外です。理由を説明します。
「卵を一つの籠に盛るな」という相場の格言は、そのとおりだと思います。ただしこれはそもそも「危ない株式投資への格言」です。一つの銘柄に集中すると、それがこけると全資産を失うので、分散しろということですね。
では米国債はどうか?
私は常々「米国債は世界で一番安全な金融資産だ」、そして「世界のプロの誰もが認めるリスクフリー資産だ」とも言い続けてきました。それに対する反論は最初の著書の出版以来、一度も誰からも聞いたことがありません。反論のしようがないからです。いや待て、あの編集長を除く!
アメリカ発の世界的大暴落、08年の金融危機の時でさえも、世界で唯一買われた金融資産は米国債でした。
よく考えてみましょう。
世界で一番安全な資産の他に分散投資するということは、理論的にはそれより危険な資産に投資するということになります。分散自体が「リスクを取る」ことになってしまい、一つの籠の理論と矛盾します。
つまり米国債だけは「一つの籠に盛るな」の例外なのです。
むしろ逆に、「株などの金融資産に投資するなら、一緒に米国債にも分散投資して、安全を確保しろ」ということです。
ななしさん、次の疑問。
>その頃はデジタル通貨なんて聞いたことも無かったけど、近頃ではIMFが国際CBDCを発表した話や、基軸通貨である米国債離れが地味に進んでる話がネットから耳に入り・・
数年前は「暗号資産?ビットコイン?ふーん」ってな感じでしたが今回ばかりは・・
これまでのように米ドルは基軸通貨であり続けられる?っておっちょこちょいな不安も出てきました。
中央銀行によるデジタル通貨CBDCについてですが、私はビットコインが出てきたころそれらをまとめて「単なるバクチのサイコロの一つだ」とバカにして、「もし中央銀行がデジタル通貨を発行したら、とてもかなわないだろう」とも言っていました。
それが今後本格的に導入されると、どうなるか?
各国通貨建てのデジタル通貨により利便性は高まり、紙の貨幣や金属コインは、少しずつ流通量が減るかもしれません。そしてもちろん仮想通貨の盟主であるビットコインは価値を減らすに違いない。1デジタルドル=1ドルであれば、価値がドルでは上下しなくなるからです。
しかしその導入で円やドルの通貨価値自体は影響を受けませんよね。
円に信頼を置いている人は円貨を保有すればよいし、ドルに信頼を置いている人もしかり。それが現金であろうが預金であろうがデジタルであろうが関係ないと思います。
そしてデジタル通貨により「基軸通貨」であるドルが影響されるとも思いません。全く別の議論です。デジタルドルができれば利便性は高まるし、トレース可能なためマネーローンダリングもできなくなります。
ではドル以外の通貨で基軸通貨になりえる通貨があるでしょうか。中国は一時それを目指しましたが、最近はそんなだいそれたことを広言しなくなりました。ユーロも発足当初は基軸通貨の可能性を指摘するむきもありましたが、やはりしぼんでいます。
逆に中南米などで自国通貨を信用しない人々は、自国政府が台湾と国交を断絶し、中国へなびいてしまっても、国民が資産逃避する先は中国の元ではなく100%米ドルです。元など保有したところで突然中国政府が「元は中国以外では使わせない」と言えばそれまで。専制国家の通貨など、問題外です。
もう一つ議論を追加します。それは「もし米国債が本当にデフォルトする、あるいはしそうだ、という状況になると、世界の金融市場はどうなるでしょう」、という議論です。
まずは米国債自体の暴落もあるでしょうが、次の瞬間世界中の株やその他債券の超大暴落が起ります。日本でも銀行や生保は米国債の大口投資家ですから、その銀行・生保の株式は大暴落します。それに日本政府・財務省は米国債の世界最大の投資家ですから、日本国債も一蓮托生です。そして円も暴落を始めます。円の暴落はイコールドルの暴騰です。一緒に暴落などできません(笑)。
その超大暴落の最中に何が起るか。まずはゴールドが買われ、そして逆説的ですが、結局は米国債への逃避でしょう。
しかし米国債のデフォルトの原因は、政争以外にはたしてあるでしょうか。私はその他のメカニズムは思い当たりません。
政争が原因の場合何度か書きましたが、ボクシングで言う「スリップダウン」で、それはノーカウントです。米国債の暴落が始まれば、政争はすぐ吹き飛んで、合意に達するに違いない。何故ならアメリカ議会の政治家はみな資産家であり、金融市場が崩壊すると自分自身が困るからです。すぐに何事もなかったようになるに違いないのです。
ということで、ななしさんの疑問に回答したつもりですが、いかがでしょうか。