ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

よくぞ引いた貧乏クジ

2023年02月15日 | 日本の金融政策

  日銀総裁がほぼ決まりましたね。生粋のセントラルバンカーである雨宮氏でもなく中曾氏でもない、誰もが予想外の経済学者、植田和男氏でした。マスコミの噂話としては日銀出身の二人に固辞され、初めて学者先生に決まったようです。すでに関心は植田氏の過去の言動に移っていますが、私は固辞したと言われるお二人さんにもクレームを言いたいと思います。

  その理由はもちろん、お二人ともこれまで黒田氏を支える2本柱であったのに、今後予想される非常に困難な撤退作戦の指揮官を避け、敵前逃亡したからです。自分では落とし前もつけられない政策を、よくぞ何年も支持しつづけたものです。

  逆に植田先生はよくぞ貧乏くじを自ら引いたものだと感心せざるを得ません。スキャンダラスな過去もまたぞろ出てくるでしょうに。

  ではいったい今後植田氏によってどのような政策が行われるのでしょうか。彼は先週10日、記者からの問いに対してフライイングを犯し以下のように言っていました。

「金融政策は景気と物価の現状と見通しにもとづいて運営しなければいけない。そうした観点から現在の日本銀行の政策は適切であると思います。現状では金融緩和の継続が必要であると考えています」。

  この言葉、彼の信念から出た本音なのか、はたまたすでに後継候補を承諾してしまった次期総裁として市場に投げかけた牽制球なのか、ちょっと探ってみましょう。

  今朝の金融ニュース番組モーニングサテライトで、私が折に触れて注目するコメンテーターである北野一氏が面白い指摘をしていました。それは植田氏の日銀審議委員時代の言動です。日銀審議委員とは、日銀が政策を決定する最重要会議のメンバーで、民間人も登用します。彼は1998年から2005年までメンバーの一人でした。北野氏は2001年の決定会合での植田氏の発言を引用していました。期待インフレ率を上げるための緩和策を継続する政策に対する発言です。

「その後予想される道筋は、景気もよくならず場合によっては物価も下がり続ける。期待インフレ率が上がり景気が良くなればいいが、ならないと地獄になる」。

さらにその緩和政策には「出口となるストラテジーがない」とまで言い切っていたというのです。誠にお見事な分析です。

  つまり先週記者に言った言葉、「現在の日本銀行の政策は適切である」が本音かどうかへの回答は、「本音などではない」なのです。

  もちろんこの2005年時点では、自分が将来地獄で骨を拾う役割を担うなどとは思ってもみなかったことでしょう。だからこそ、本音を言えたのだと思います。

  日本最高峰の頭脳を持つ人々の集まりでも、10年にわたる一人の独走を止めることはできなかったし、それどころか提灯を持ってクロちゃんの先を走ることしかできなかったツケを今後どう払っていくのか、注目していきましょう。

 

  ちなみにこうした日本政府・日銀の行動に対して、ノーベル賞受賞者である海外の学者先生達がどう見ていたか、参考までに見ておきます。日経ニュース、2月13日の引用です。

引用

2000年前後の日銀は、バーナンキ氏やポール・クルーグマン氏ら主流派経済学者から「日本がデフレから脱却できないのは、日銀がインフレ目標も設定せず、大量の資金供給もしないからだ」などと手厳しい批判を浴びた。その主張は日本の政界の日銀批判に発展して、雨宮氏ら日銀執行部は深く苦悩することになる。

黒田体制での異次元緩和は、米国の主流派経済学者の主張をそっくり採り入れて始まった。もっとも「大量の資金供給でインフレ期待に働きかける」という異次元緩和の理論はうまく機能せず、バーナンキ氏もクルーグマン氏も今ではかつての日銀批判を修正している。現在のパウエルFRB議長とラガルドECB総裁は、ともに法律専門家でありエコノミストではない。08年の金融危機を予見できなかった主流派経済学者は力を落としており、米欧中銀にはエコノミスト偏重の組織運営に見直し機運がある。

引用終わり

  学者先生も政策にコメントするとあとで痛い目に遭うことがあるし、ましてや政策決定に携わると、もっと痛い目に遭うかもしれません。

  今の日本の地獄のような戦場からの撤退を、果たして植田氏が完遂できるのか、今後もしっかりと見ていきましょう。

 そしてその危うさに気づいた方は、10年もの金利がまた3.75%にも達している米国債でも買って、寝て暮らしましょう(笑)。

コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする