ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アベノミクス評価

2022年07月11日 | 日本の金融政策

  今の日本でVIPが凶弾に倒れるとは、思ってもみない出来事でした。あってはならないことで、安倍さんとご家族には心からお悔やみ申し上げます。

 

安倍氏の評価を政治面から行っても議論百出。あまり実りはないと思われますので、私は経済面、それも数字で推し量れる事実関係のみに焦点を当てた評価を試みます。

 

  安倍総理の在任は12年12月から20年9月の8年あまりでした。ではまずその間に日本はどれだけ成長したか、GDPで計ってみましょう。

 

  12年名目GDP500兆円

  20年 同GDP538兆円   8年間の合計成長率は7.6%。

 

しかしこれを年率に直すとわずか0.92%と1%に満たない数字です。アベノミクスの目標成長率は3%でしたから、実態はその3分の1に満たない数字でした。

 

しかも就任してすぐ年明けの13年4月には日銀総裁を黒田氏に替え、日本中にオカネがいきわたるハズの超緩和策を導入しています。そして黒田氏はいまだにその政策を続けています。その間に日銀が国債を買いまくった総量は400兆円とGDP全体に近い莫大な数字です。その結果いい気になった政府の累積赤字は昨年度末で1,212兆円に上っています。GDPの2倍を超えました。それだけ投じても我々の手元にオカネは届かず、日本は成長できなかったというのが日本経済の実態です。

 

一方、日銀は株も買いまくっています。その総量は50兆円、その他にGPIFと言われる我々の年金基金を使った日本株投資金額は推定25兆円。日銀とGPIFで75兆円です。

 

ではその結果、株価はどうなったか。日経平均株価を見てみます。

12年12月末;1万 400円程度

22年 6月末;2万6,400円程度  254%と非常に伸びています。

 

その間のドル円レートはどうだったか、

12年12月末 86円

22年 6月末137円   59%の円安

 

では総括すると、「株価だけが突出して伸びたものの、成長はほとんど誤差程度で、円はかなり安くなった」、ということになります。という数字だけの比較であれば誰でも簡単にできる総括です。しかしもちろん私の分析はここからです。

 

いつも申し上げているように、世界の投資基準も評価基準もベースはドル建てです。たとえば一人当たりGDPの比較でも世界との比較はドル建てですから、次のようになります。

 

 12年名目GDP500兆円  ・・・ドルでは5.8兆ドル @86円

 20年 同GDP538兆円  ・・・ドルでは3.9兆ドル @137円

 

率に直すとなんと33%もの縮小です。一人当たりGDPで韓国に抜かれるわけです。

 

一方株価も同様にドル建てで計算すると、

12年12月末;1万 400円程度 ドル建てでは121ドル

22年 6月末;2万6,400円程度 ドル建てでは190ドル

 

円建てでは254%の上昇でしたが、ドル建てでは57%の上昇です。といってもこれも日銀と年金が株価つり上げのため買いまくった結果で、クリーンな株価上昇とは言えません。もちろん他の国でこんなおバカな中央銀行も政府もいません。

 

どうです、国際標準で見るとすっかり景色は違って見えますよね。

 

アベノミクスは海外投資家に対して次のような言葉で開始されました。

「Buy My Abenomics!」

 

開始当初は海外投資家が大いに日本株を買いまくりました。初年度はなんと15兆円もの買い越しでした。海外投資家の保有比率を見ますと、12年末が28%でスタートし、14年末には34%まで上昇、しかし現在は30%と、アベノミクス開始前とさほど変わらないレベルまで低下しています。その間、海外投資家の年間投資額は初年度の15兆円分をどんどん売り越していったということになります。

ということで円だけの狭い見方ですとアベノミクスは成功したように見えるのですが、世界標準の見方では成功などしていません。むしろこの政策のツケとして残された日銀のバランスシートにため込まれた日本国債が今後いつ爆発するか、海外投資家はかたずをのんで見守っています。

 

では日本の家計はアベノミクスをどう評価したか。もちろん最初から最後まで冷ややかに見ています。その何よりの証拠が家計にため込まれた金融資産2,000兆円です。しかもそのうちの半分1,000兆円が現預金で、海外投資家のようにアベノミクスに踊らされることもなく、ひたすら危うい政策をさめた目で「見てるだけー」でした。

 

ほんの一部の賢い方が私のお勧めに乗って米国債に投資し、大いに儲かっています。(笑)

 

そうでない方の円資産は、ドルの世界から見ると6割も減っています。それを決して忘れないように。

 

日本は貿易赤字が当たり前になり、経常収支でさえ赤字が近づいています。財政赤字と経常収支赤字は相乗効果をもって日本全体を襲うことになるので、みなさんも是非指をくわえて見てるだけでなく、金利を稼げる米国債をしっかりと買って、ストレスフリーの世界で寝て暮らしましょう(笑)

 

林 敬一

コメント (1)
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