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それでも米国債は買いだ

2022年06月18日 | 米国債への投資

  日銀は昨日までの2日間行われた政策決定会合で、超緩和策の維持を決定しました。するとドル円は少し高値から戻していたのが、また一気に円安方向に振れてしまいました。日銀のスタンスだけでなく、今週はアメリカFRBによる利上げが0.75%と27年ぶりの大幅だったことや、5月の日本の貿易収支が2兆3847億円もの大幅赤字だったことなど、円安要因が目白押しだったことが挙げられます。

  一方、アメリカ国債の10年物長期金利は3.23%とピークの3.5%には及びませんが、少し高くなっています。

  私は4月20日の記事では、「ドル円レートが129円、10年金利が2.9%でも米国債は買いだ」と書いています。

 

  では今の金利3.23%と円レート134円ではどうか。

どこまで耐えられるかを単純計算します。3.23%の金利を10年もらいつづけると、

3.23% X 10年 = 32.3%

134円の32.3%安とは、134円 X (1-0.32)% = 91円  

つまり3.23%の米国債を買って10年後にドルが91円になってもブレーク・イーブン、損はしないという計算になります。逆に行けば大いに儲かります。

 なのでもちろん「現時点でも米国債10年物は買い」です。ドル円は134円と高くなっていますが、金利も高くなっているからです。

  では金利の先行きはどうか、占ってみます。

  アメリカのインフレ率は8%台後半に入りつつあるため、短期の政策金利はさらに高くなる可能性があります。FRBは今後半年以上利上げを続ける可能性を示唆しています。であれば長期金利もさらに上昇する可能性はあるのですが、政策金利に歩調を合わせて上昇する可能性が大いにあるとまでは言えません。その理由は、より長期の米国債金利が示しています。

  現在30年物金利は3.28%と、10年物の3.23%に比べてわずか0.05%しか高くありません。20年という期間の差に対して0.05%しかもらえないというのは、20年のリスクを取るに値せずという僅差です。私はこれが先の金利動向を示唆していると見ています。

 

  今回のFOMCで示された22年末の翌日物政策金利の見通しは3.4%で、現在からさらに1.75%引き上げる可能性を示しています。もしそうなると今の30年物金利を翌日物が上回ってしまいます。

  それでも30年物の現物が3.28%に留まったことが、私の先行き見通しに影響を与えているのです。つまり「今後長期債投資のチャンスを年末まで待ったとしても、短期の政策金利にスライドするほどの長期金利上昇は見込めないだろう」という見通しです。

 

 いつも申し上げているように、為替や金利の予想は簡単ではありません。そこで投資金額の全部をここで一気に投資するのではなく、年末に向かって徐々に買い進めることをお勧めします。徐々にという意味は、現時点で投資し、それより金利が上昇すれば買い進めるが、そうでなければ見送るという慎重な買い方をすべきだという意味で申し上げています。

  何故年末までとしているかの理由は、今後FRBがインフレ退治のために利上げにプラスして、QTと呼ばれる量的引き締め策を同時進行させると、さすがに景気の足を引っ張ることになり、大きな金利上昇は見込めなくなるだろうとの見通しからです。QTとは、Quantitative Tightning の略で、量的引き締めと訳されます。QE、量的緩和の逆です。実際にはFRBが市場から買った米国債を徐々に売却していく、あるいは買いの手を止めることで手持ちの米国債が償還を迎えFRBのバランスシートが縮小に向かう、ということを表す言葉です。

  さて現在の状況ですが、雇用はひっ迫したままなのですが、インフレが消費の足を引っ張っています。5月の小売売上は前月比でマイナスとなりました。ガソリンの高騰で、他の商品に回す家計の余裕がなくなっているのです。

  また住宅部門も新規、中古住宅販売ともに金利上昇を受けて、前年比でマイナスを続けています。

  というように、景気減速が続く見通しがあり、長期金利の上昇には限度があるだろうと見ているため、年末を目途に買い進めるべきだと進言しているのです。市場関係者も来年のリセッション入りを予想する人が増えています。

  米国債投資をゼロから行うには、金利に加えて為替の動向も織り交ぜ考慮する必要があるのですが、話が複雑になるため、今回は避けます。

 

  以上、「それでも米国債は買いだ」でした。

 

コメント (12)
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