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航空需要の枯渇と航空会社の先行き

2020年07月10日 | コロナショック

  元JALの私としては、JALだけでなくすべての航空会社の存続が危ぶまれる現状をとても憂慮しています。コロナショックは様々な産業分野に幅広く影響していますが、旅行業界ほどひどい影響を受けている業界はないのではないでしょうか。

  航空需要は武漢でコロナウイス感染が爆発的に広がってからわずか一か月余りで、ほぼ枯渇してしまうほどになって、その後現在に至るまで回復の兆しはありません。もちろん航空会社とともに、ホテル業界、旅行代理店業界も同様な状況が継続しています。

  世界の航空会社の8割、が加盟するIATAという国際的組織のまとめた報告書を6月9日の日経ニュースから見てみましょう。原文ではドル額ですが、107円で円建てに直しています。

 

引用

国際航空運送協会(IATA)は9日、新型コロナウイルスの影響で2020年の世界の航空会社の最終損益が約9兆円の赤字になるとの見通しを発表した。売上高が19年の半分に落ち込むのに対し、費用の減少が追いつかないためだ。21年は改善するものの、1兆7千億円の赤字が残る見通しだ。

20年の旅客需要は19年比半減の22億5千万人と06年並みの水準になるとみており、売上高は448兆円になる。燃料費などのコストは減るが乗客1人あたりの費用は増え、全体では35%しか減らない。固定費に加え、航空券の払戻費用も重なり4~6月期だけで65兆円の資金が消失する。

危機を乗り切るため航空各社はこれまでに各国政府の支援で132兆円を手当てした。だが、このうちの半分以上は返済する必要がある。民間からの借り入れなどを合わせた負債額は20年末で558兆円を見込む。積み上がる負債が航空会社の経営を圧迫するおそれもある。

IATAのアレクサンドル・ド・ジュニアック事務総長は声明で「20年は航空史上で最悪の年だ。1日に246億円ずつ損失が膨らんでいる」と述べた。一方で「(新型コロナ感染の)第2の波が来ないという前提で、需要落ち込みの最悪期は脱した」と今後の回復に期待を示した。

 

引用終わり

 

  数字が大きすぎて実感をともないませんね。では簡単に要約しますと、全世界で航空需要が半減するのにコストは全体で35%しか減らないので、20年の赤字は9兆円にもなる。21年になってもまだ1.8兆円の赤字が残るだろうという見通しです。しかし最後の「最悪期は脱した」は楽観的過ぎると思います。世界の感染はアメリカがしっかりとリードして、ますます増加するに違いないからです。特に発展途上国のように医療体制が整っていない国の感染拡大はこれからです。

  日本の航空会社では4月以降、国際線の旅客数は約9割、国内線でも6割近く減少しています。海外からの観光客は99%減ですから、さもありなんです。両社は便数もそれに合わせて同様に減らしていますが、なにせ機材・設備・人件費などの固定費が重く、毎月数百億円の赤字を出し続けています。

  それに対し政府も支援策を打ち出していますが、個別企業への直接的援助は難しいため、金融機関を通じた資金供給などを行っています。しかし供給された資金はいずれも返済する必要があるため、今後も長い長いトンネルが続くことになりそうです。

  では今後長い目で見た航空需要はどうなのでしょうか。先ほども指摘しましたが、コロナの本格感染はまだまだこれからです。私もこの記事を書くタイミングをピークが見えたらと思っていたのですが、それは全く見えないため、見切り発車しています。比較的うまくコロナの影響を抑えていたとみられていた日本ですら、昨日は東京が4月の最ピークの感染者数を超えてしまいました。1週間前7月3日、私は「小池都知事はいったいなにをためらっているのか」と言う指摘を私的なサイバーサロンで行いました。その指摘が当たってしまうという望まない結果になりつつあります。

  ブラジルではボルソナロがトランプと文字通り愚かさを競い自身もコロナに感染し、感染者数は予定通り世界ランクで2位に浮上。1位のアメリカをうかがうところに至っています。いくらトランプやボルソナロが経済優先を叫ぼうが、賢い人々はそれに踊らされるようなことはなく、遊びの旅行需要などとても回復は見込めません。しかもウィズコロナの時代ではリモートワークが普及し、仕事での出張者は増えるわけもない。

うちの家内のキャットシッターの仕事は飼い主が旅行や出張の留守中、ネコちゃんの世話をするのですが、3・4・5月はゼロ件と如実に数字に表れています。解除後の6月末にわずかな件数がありましたが、7月も超スローな状態が続いています。

  欧米の航空会社では大量の一時解雇者が増加し、ユナイテッド航空は昨日従業員の4割にあたる3.6万人を10月から削減する可能性に言及しています。航空会社が本当に苦しくなるのはこれからでしょうから、私としてはとても心配です。いつまで航空会社がもつのか、全く見通しなど持てません。

  以下に7月3日に私がサイバーサロンに投稿した内容を、みなさんにも見ていただくことにします。

 

緊急投稿;小池都知事はいったい何をためらっているのか

  東京の感染者数は2日続けて100人を超え、一桁だった先月に比べると明らかに急な上昇カーブを描いています。国全体の感染者数の約半数を東京が占め、埼玉・神奈川・千葉を含めた一都三県としてみると、全国の6-7割を占めています。そして東京の感染者の約7割を30歳以下の若者が占め、ホストクラブやキャバクラなど夜の街が主な感染源になっています。

  この時点でも東京都は独自の緊急事態宣言どころか休業要請や営業自粛の要請も行っていません。何も夜の街全部とはいいません。ホストクラブとキャバクラだけでも狙い撃ちにしたらどうでしょう。

  大阪では3月にライブハウスでクラスターが発生して、ライブハウスやスポーツジムを限定的ターゲットにした休業要請を実施し、抑え込みに成功しました。

  小池都知事はいったいなにをちゅうちょしているのでしょうか。まさか選挙をにらんでの我慢じゃないでしょうね。もし今週末の選挙が終わって月曜日になって要請が出るようだと疑わざるを得ません。

  小池知事は本日7月3日の会見で、「休業要請は感染者数の推移と経済的ダメージの双方を考慮にいれる必要がある。再度の休業要請は国の緊急事態宣言があったら。」と発言していますが、遅すぎです。これまでの経験を無視しているとしか思えません。

  北海道の様に独自の緊急事態宣言は出せるし、飲食業全体ではなく大阪のようにクラスターの発生業態に限定することもできるはずです。そうすれば国に依存する必要もないし、経済的ダメージもかなり限定できるはずです。

  せっかく感染者数も死亡者数も低いのですから、このまま中途半端に緩んだままにせず、是非限定的休業要請を早急にすべきだと思います。

林 敬一

 

 

 

 

 

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