ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

トランプでアメリカは大丈夫か11 18年前半戦終了

2018年06月16日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

  

  前回のタイトルのナンバー9が前々回と重なっていたので、今回は11回目としました。


  さて、今年もすでに半年が経とうとしています。年初には恒例として、ユーラシア・グループ代表の政治学者イアン・ブレマー氏の世界の十大リスクを話題にしました。半年を経たところで、ちょっとレビューをしておきましょう。

ブレマー氏が上げた10大リスクは以下の通りでした。

18年の10大リスク

1.真空を愛する中国

2.アクシデント

3.世界的なテクノロジー冷戦

4.メキシコ

5.アメリカとイランの関係

6.機関・機構の衰退

7.保護主義2.0

8.イギリス

9.南アジアの独自政治

10.アフリカの安全

  私はそれに対して、こう指摘しました。「今年のリスク予想の最大のポイントは、「トランプリスクが消えたこと」です。去年は第一番に掲げ最大のリスクだと言明していたトランプリスクが、少なくとも10項目のタイトルからは消えています。昨年の第1番目のリスクは「我道を行くアメリカ」というタイトルで、トランプのアメリカが世界のリーダーシップを取らなくなるリスクを上げていました。今年のリストにもトランプリスクとおぼしき項目もあることはあります。「アメリカとイランの関係」、「保護主義2.0」などですが、脇役扱いです。」

  しかしはっきり言って今年もこここまでの半年は徹底的にトランプに振り回された半年でした。きっと残る半年もそうでしょう。彼は世界中で放火をしまくって歩いています。たとえばエルサレムへのアメリカ大使館移転、イランの6か国合意からの離脱、世界を相手にした貿易戦争などです。世界の混乱の中心、最大のリスクは間違いなくトランプです。

  一方、十大リスクとは別に年初に私が記事にしたのは、やはりイアン・ブレマー氏の以下のご託宣でした。

引用

「北朝鮮がアメリカを攻撃するはずもなく、アメリカも先制攻撃を行わない」

このご託宣は、18年1月1日にNHKのBSで放映された大越キャスターの「激動の世界を行く」で大越氏がイアン・ブレマー氏にインタビューし、その中で語られた言葉です。

引用終わり

  北朝鮮問題はまさにブレマー氏のご託宣通り、戦争になどならず、それどころか直接対話にまで至りました。

  ここで、私がなぜ政治の話題であるトランプ問題にこだわって頻繁に話題にするのか、一言説明しておきます。

  それはこのシリーズのタイトルである「トランプでアメリカは大丈夫か」を見極めるためです。そもそもアメリカ国債を「世界で最も信用のおける安全な資産だ」と言っているのですから、アメリカという国の先行きを見通さないわけにいきません。これまででしたら経済・金融問題を扱っていればよかったのですが、トランプ以降はそうはいきません。今後10年、20年、30年という長期に渡ってアメリカに投資しようとする読者のみなさんに、すくなくとも私の見解を届けるべきだとの使命感からトランプ政権の見通しを書いています。

  アメリカは一人の大統領でダメになるようなヤワな国ではありませんが、これほどまでに世界を相手に争い続けパンチの応酬をやり合うと、政治的にズタズタでも経済は無事というわけにはいきません。貿易戦争の行方を見極めようとする動きは、長期の投資行動に出ています。

  例えば日本の自動車産業はアメリカと周辺国であるメキシコ・カナダなどとの間でサプライチェーンを築いていますが、トランプの不安定な政策を嫌気して、今後の投資先を決めかね、投資をストップさせています。設備投資は非常に足の長い先を見た決断ですが、それをストップして様子見に入っている、もしくは委縮していると言ってよいかもしれません。

  一方短期的な動きはこのところの株式相場に出ていると私は思っています。先週は北朝鮮との直接対話、G7、FOMCなど、大きな政治・金融のイベントが目白押しで、それぞれある程度の結論が出たにも関わらず、株式市場も為替市場もほとんど反応していません。商いもいつもより薄い状況が続いています。これも投資家が米中貿易戦争や米欧貿易戦争の行く先を不安視して、委縮している証左と言えるでしょう。

  前々回の記事ではそもそも貿易でメリット受けているのは黒字の中国だけでなく、アメリカの消費者もだと申し上げました。「高性能で耐久力のあるしかも安い商品」が買えるのですから。また対中、対欧州、対日の追加関税は誰から徴収するのでしょう。海外の業界ですか?いいえ、最後に払うのはアメリカの消費者です。

  そのためアメリカの小売業協会や商工会議所もトランプに反発しています。6月16日の日経新聞から引用します。

「トランプ政権が中国製品に25%の関税を掛ける制裁の発動を決めたことに対し米産業界で15日、反発の声が上がった。中国も報復関税を課すと発表し、米国産の大豆や牛肉など農産物の対中輸出が落ち込む懸念が出ている。米小売業界団体は、『消費者の家計が圧迫される』と懸念を表明した。米商工会議所もアメリカの鋼材価格は1月に比べ4割も上昇したと指摘し、追加関税の対象からはずすよう政府に要望した」

  天に向かってつばを吐くおバカなトランプちゃんに、遂にアメリカでも業界を上げて反対ののろしが上がり始めました。

つづく

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする