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トランプでアメリカは大丈夫か、2  そして誰もいなくなった第7幕

2018年03月18日 | トランプでアメリカは大丈夫か?

  トランプ劇場、「そして誰もいなくなった」はいよいよ終幕に近づいています。第6幕は国家経済委員会議長ゲーリー・コーンの辞任でしたが、すぐ続いて最重要閣僚の一人国務長官ティラーソンがトランプに撃たれました。国務長官がどれほど重要な閣僚かを表すのは、大統領の継承順位です。大統領に何かあると引き継ぐ順位は、副大統領、上院議長、下院議長、そして次が国務長官なのです。その大事な国務長官を相変わらずツイッターで解任する、なんとも失礼極まりない先進国の大統領とは思えないやり方です。そしてどうやらマクマスター国家安全保障担当補佐官や最側近であるケリー大統領首席補佐官の辞任もささやかれています。

  アガサクリスティーの原作では、10人しかいない孤島で、10人が殺害されて終わります。9人の殺害を実行した犯人が最後は10人目として自分を殺害にみせかけた自殺をすることになっています。トランプは刻一刻とそのシナリオの終幕に近づいているように見えます。大統領のこうしたバカげた殺人劇に付き合うアメリカのマスコミや一般のアメリカ人たちは何を思っているのでしょうか。私の友人のアメリカ人達はあまりのバカバカしさに、ただただあきれるだけだと言っています。

  先週のもう一つの大きな、そしてより重要な出来事はペンシルベニア州の下院補欠選挙です。鉄鋼産業のメッカであるピッツバーグを抱えるペンシルベニア州はトランプ大統領誕生のカギを握ったとされる州です。歴史的に民主党が強かったにもかかわらず、大統領選挙ではトランプが20ポイント差で勝利しました。それを失ってはならないと、先々週からトランプが必死で応援に立ち、叫び始めたのが鉄鋼輸入への関税強化策で、その発表タイミングも、この補欠選挙にぶつけたものと言われています。この州での勝敗は今年の秋の中間選挙の前哨戦とも位置づけられ重要な選挙でした。それがどうも民主党候補の勝利になりそうなのです。現状の得票数は民主党候補対共和党候補は5分5分で、最終結果は26日以降と言われていますが、大事なことは鉄鋼産業保護政策の発表にもかかわらず、共和党が大統領選での20ポイントもの大差を民主党に詰められてしまったという点です。トランプとしては中間選挙に向けてのシナリオが大きく狂ったのです。

  私はそうした敗北の事実だけでなく、今後の影響を心配しています。11月の中間選挙に向けてトランプが焦れば焦るほど、保護主義的政策に限らずとんでもない政策を採用するに違いないからです。中国や日本などをターゲットにした経済的制裁はしょせん経済に限定された問題ですが、軍事的作戦となるとほってはおけません。

  ブッシュジュニア大統領は支持率低下に対する起死回生を中東での軍事侵攻に託し、支持率は大きく回復しました。今後ペンシルバニアで支持者が離反したような事態が各地で予想されれば、トランプは死に物狂いになります。中間選挙で上院は民主党の改選議員が多いため、民主党が議席を伸ばすのは難しいと言われていますが、下院選挙は全員が改選されるため、共和党は少数派に転落する可能性があります。マイノリティに転落すれば、トランプはその後の2年の任期はレームダックと言われるでしょう。中間選挙がトランプの今後を決めるため、死に物狂いで選挙向けの政策を連発するに違いありません。選挙民に向けた政策とは、すなわち対外的強硬策となります。それがもっとも手っ取り早い人気取り政策だからです。

  独裁者トランプは絶対的自信をもって同じ独裁者金正恩と5月までに会談を行うことになっていますが、極めつけのオレ様同士で即和平につながる合意ができるとは思えません。お互いにこれが今回の獲物だと言えるものがないと支持率の低下はまぬがれません。アメリカの国務省は北朝鮮の専門官が先日辞任し、アジア全般をみる責任者も依然として不在。とにかく政治任用されるはずの150あまりのポストのうち、60人程度しか任用できていません。つまり6割が空席で、はっきり言って国務省は機能していないのです。その上新国務長官は金正恩の斬首作戦を強行すべきと言ってはばからないポンペイオですから会談は物別れになる可能性は大きく、その後の結果もかなり心配されるのです。物別れは斬首作戦のいい口実になりかねません。

  トランプ政権は政治的に苦しくなればなるほど経済的強硬策を出してくる。それに対して貿易相手国も報復措置を取ってくることになります。先週、EUはアメリカのIT企業に向けたデジタル課税と呼ばれる税の導入を検討しているというニュースが流れました。必ずしも報復措置とは言われてはいませんが、このタイミングでの発表は、アメリカへの牽制に間違いありません。政治が経済へ影響する経路で、報復合戦が心配されます。

  日米とも政権側が揺れに揺れているため、経済的な課題より自己保身に動いてばかりで有効な手を打てないでいます。次回は経済に焦点を当てて、トランプのアメリカをみていくことにします。

コメント (13)
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