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大丈夫か日本財政17年版 その19 日銀保有の国債はどうなる 15

2017年09月14日 | 大丈夫か日本財政

  トランプ対金正恩のチキンレース、今回は金正恩の勝ちでした。まあ、プーチンの勝ちと言ってもいいかもしれません。前に申し上げたとおり、プーチンは自分に対し制裁を課しているトランプに、「制裁に参加しろと言われる筋合いはない」、と言っていましたが、アメリカはロシアと中国に妥協し、たいした制裁にはなりませんでした。もっともトランプに言わせれば、それも計算通りだと強弁するのでしょう。

   国連の北朝鮮に対する制裁合意の内容はおおかたの予想通り、石油の全面禁輸はなく、金正恩の個人口座も凍結されず、北朝鮮船舶の臨検もなしでした。つまり金正恩が本気で反撃する口実になるような制裁は発動されず、いつものようにアリバイとしての制裁に終わる可能性が強いものばかりです。

   それでも今回は中国が本気でやる気を表明していることなど、ある程度効果を上げるだろうと評価している向きが多いのですが、私はそうは単純に事は運ばないだろうと思っています。金正恩は核やミサイルの開発をやめるはずもなく、石油製品のある程度の輸出制限も、誰が実効ある見張りをするかといえば、当事者としての中国です。とても本気でやるとは思えないのです。

   ドル円相場は国連の合意をもって思い切りリバウンドしましたね。アメリカ株は最高値を更新し、市場参加者はめでたしめでたし。ではこれでおしまいかというと、そうとは言えないのがトランプと金正恩というサイコパス同士の争いです。今後もミサイルは打ち続けるし、核実験も行うでしょう。それに対しトランプはとんでもない反応をしかねませんので、まだまだ目が離せません。

 

  では本題です。前回は日本の今後を概観してみました。要点はオリンピックを迎える前、19年あたりに景気も株価もピークを付ける可能性が強い。日銀による国債の爆買いも、国債自体の枯渇から限界を迎えるのが19年あたりと見込まれる、というものでした。

   しかしコメント欄で、

2019年ですかー、すぐですね。

というコメントに対し私は、

「うーん、19年という示唆をしていますが、結論はちょっと早いと思います。」

 と返しました。

  実は19年の秋にはもう一つ大きなマイナスの要素、消費税値上げまであります。従って確かに19年から20年にかけては大きなヤマ場を迎えると思うのですが、それでもそのまま大幅な円安・金利上昇からインフレが昂進し、実質財政破綻に進む可能性は5分5分くらいだと私は考えています。

  その理由を示します。

 理由その1.国債の枯渇に対して日銀は買い入れ額の減少で延命をはかる

   日銀はもちろんこうした国債の枯渇シミュレーションをしていないはずはありません。単純な計算ですから。その証拠が16年9月の「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)」と「オーバーシュート型コミットメント」、あるいは「長短金利操作付き量的・質的緩和策」の導入です。

   長たらしくわかりづらい名前なのは、苦しい言い訳をしているからです(笑)。エコノミスト達はこれを物知り顔で様々に解説していますが、私がクロちゃんの代わりに平たく言いなおしますと、

 「異次元緩和策の旗を降ろしたわけじゃないんだが、限界が見えてきし、162月に導入したマイナス金利の評判悪いので、ちょっと煙に巻いたのさ」

   これで毎年80兆円の爆買いが細って60兆円になろうが40兆円になろうが、「それはあらかじめわかっていたさ。だから長短金利・・・を導入したのさ」と言い訳をするのです。

   問題はこうしたミエミエの言い訳を市場がどう評価するかです。「ない袖は振れない、しかたないな」としてしまうか、「黒田を降ろせ」になるか、はたまた日銀の信頼性喪失までいくかです。

   一昨日日経新聞が安倍首相にインタビューしました。大きなニュースとなっていませんが非常に大切なことに言及しているので記事を引用します。

来春任期が切れる日銀の黒田東彦総裁については『実体経済で非常に成果を出しているし、デフレではないという状況を作り出してくれた。手腕を全面的に信頼している』と評価した。」

  たしかに日本経済は雇用をみれば非常に好調ですし、企業業績も好調で株価も上昇しています。それをもってデフレではない状況と言っているのでしょう。安倍首相は少しでも失敗のレッテルを貼りたくないので、自分をプロテクトする意味でも黒田氏をはずせないのです。そのため2%の物価目標についても堅持する」と述べています。

   こうしたことから、安倍首相が政権を担当する限り黒田氏が総裁を続け、二人は苦しい言い訳をしながらも崩壊の芽を必死に摘み取ろうとするでしょう。


 理由その2.経常黒字が継続している

   日本の経常収支はひところよりかなり黒字幅が大きくなり改善しています。2010年以降を2年ごとに振り返りますと、いったんは毎年黒字が減少を続け、およそ6分の1まで激減しましたが、14年をボトムに回復しています。数字を並べます。

 10年;2,210億ドル 12年;597億ドル 14年;365億ドル 16年;1,910億ドル

  そして17年の推定値は2,025億ドルの黒字です。

   このことはドルに対する円のサポート要因になります。経常収支の中身を貿易収支とサービス収支、それに所得収支に分解すると、サービス収支は常に小さな赤字。所得収支はコンスタントに大きな黒字。それに対して貿易収支だけが赤字になったり黒字になったりで大きく振れ、それら3つの合計数値である経常収支を左右しています。

   貿易収支が大きく振れる最大の要因は石油価格とドル円レートです。このところの石油価格低下と円高傾向が、貿易収支の黒字化に寄与しています。しかしいわゆるモノもサービスも輸出競争力が長期低落傾向にあることは確かで、ひとたび石油価格などで逆風が吹くと経常収支の黒字も怪しくなります。

   そうした経済ファンダメンタルズに対してマイナスのインパクトを与える要素は、短期的には19年10月に予定されている消費税値上げ、長期的には高齢化に伴うモノとサービスに対する需要の鈍化です。

   このうち消費税値上げについては前回の3%に対して今回は2%ですが、所得の伸びが見込めない高齢者の比率が大きくなっているため3%の時と同じくらい、つまりGDPが大きくマイナスに落ち込むほどのインパクトがあると私は見ています。

  それに対して政府は刹那的な対策を打つでしょうから若干は緩和されますが、高齢者は年金額が上がらない限り合計5%のマイナスインパクトを長期に受け続けるのです。

   みなさんもご自分のこととして考えてみてください。1千円のものを買うと100円、1万円の物に対しては1千円、10万円には1万円もの税金が課されます。私のような年金生活者にはとても大きな負担になり、その分他の買い物を減らさざるを得ません。若い方で賃金上昇の恩恵を受けたとしても、買い物をちゅうちょすることが多くなると思います。このことは間違いなく日本経済のファンダメンタルズを弱める方向に作用します。

   ここまで日本に関して様々な要素を見てきましたが、財政状況と金融政策は限界に達してしまうのは間違いないのですが、経常収支に代表されるファンダメンタルズ、つまり経済力はそれを必死に食い止める可能性を残しているというのが私の見立てです。

つづく

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