藤井聡太君の快挙、試合のたびに興奮します。日本中の誰もが次の試合を楽しみにしているので、是非続けてほしいです。でも負けた棋士はちょっとかわいそうです。明らかにハンディを背負っているように思えるからです。藤井君は対局に臨むたびに大勢の報道陣に囲まれフラッシュをたかれることに慣れていますが、対局者のほとんどは初めての経験のはず。
次回は7月2日の日曜日に佐々木勇気棋士との対決ですが、佐々木棋士は藤井君の今回の対局の開始時に報道陣とともに対局室にいて、彼の入室から初手までしっかり見ている様子をカメラがとらえていました。雰囲気にのまれないための予行演習でしょうか。いい心がけですね。二人の勝負、楽しみにしましょう。ちなみに、私が最後に将棋を指したのは、小学生でした(笑)。
本日6月28日の日経新聞朝刊に、「銀行の国債保有 最低に」という見出しで、金融機関の窮状が書かれていました。簡単に要約しますと、
「銀行や農協などの保有国債額は202兆円で、前年比マイナス17%。全体に占める保有割合は18%と5年前の半分になった。それに対して日銀は17%増の427兆円、占める割合は39%に達した。銀行は国債売却による収益に頼っているが、やがて限界が来る。」
一方、私が同じニュースでもう一つ注目したのは、海外投資家の保有比率です。異次元緩和前に8%だったものが、11%になっているというのです。金額的にも3月末で116兆円に達しています。10%を超えてくると、さすがにいっせいに売られるとかなりの激震になり、要注意です。
さて、前回からは異次元緩和の出口戦略の問題に入りました。日銀にはたして出口はあるのか。まず、いよいよ出口を出ようとしているアメリカのケースを見てみましょう。出口を出るには、当座預金に溜まった超過準備の解消が最大の難関になります。
アメリカの場合、超過準備の解消とは全額の解消ではなく、とりあえずは半分程度の解消だという目標を設定しています。そしてそこまでには少なくとも5年はかかるだろうと計算されています。その間に同時並行的に必要となるであろう利上げは、FRBが超過準備に対して付けている金利水準を段階的に引き上げることで行います。
実際にFRBは出口の準備として利上げをすでに3回行っていますが、それは付利の水準の引き上げで行いました。そして今後も行われると予想されています。この秋、あるいは年末には利上げとともに資産圧縮の開始を目指しています。圧縮のやり方は、債券を単純に売ると金利を跳ね上げる恐れがあるので、売却はしません。債券が満期を迎えた時、償還金をもらっても再投資しないという方法を取り、インパクトをやわらげるのです。これまでは償還金を受けるとその分を再投資して、緩和の量的規模を維持してきました。それを今後は再投資せず、満期になった分資産規模を縮小するというやり方を採ります。それを「満期落ち」とも呼びます。
その5年ほどの間に生じる可能性のある問題があります。それは、付利のレベルが保有債券の金利を上回る、つまり「逆ザヤが生じる」ことです。アメリカの場合、FBRの保有債券の金利は3%台と言われますが、それを支えるファイナンスのコスト、つまり当座預金への付利のレベルがそれを超えると、収入より支出が大きくなるため損失が生じる、ということです。1回につき0.25%とすると、まだ7・8回は大丈夫。利上げ回数がさほど多くなければ、大きな影響は出ないでしょう。
FRBはこうした検討をしていることを議事録などですでに何年にもわたり開示してきました。そのため実際の満期落ちが始まっても、市場に与える影響は大きなものにはならず、織り込み済みという形になると思われます。
それだけ前広に開示する理由は、例のバーナンキショックです。13年の5月に起きたもので、その当時のFRB議長のバーナンキが、「緩和策の終了にむけて徐々に資産買い入れ額を圧縮するぞ」と言っただけですが、日本を含め世界中の株式などが大暴落しました。それがいわゆるテーパリングの開始宣言で、バーナンキショックと呼ばれました。
テーパリングはそれまでの緩和策を逆転して引き締めるというものではありません。緩和のペースを落とす、つまり債券買い入れ額を徐々に減らすだけなのです。しかし緩和慣れして弛緩しきった市場には大ショックが走りました。
その経験を踏まえ、イエレンのFRBは資産縮小に向けた議論の開始段階からどんどん開示して、市場にショックが起こらないよう工夫を重ねているのです。このところもイエレンはじめ各理事は、講演会のたびに資産縮小の話をし、市場に牽制球を投げ続けています。
方や日銀は「出口を議論するのは時期尚早」と繰り返し、市場関係者の多くが「説明責任を果たしていない」と指摘し続けています。日銀の考え方は、出口議論は緩和策が成功したあかつきに開始するものだという、いかにも大本営らしい考え方です。南方の戦線では玉砕につぐ玉砕なのに、原爆を落とされるまで絶対に負けを認めずにいたあの大本営を思い起こさせます。
何故FRBのように途中で出口の議論をしないか。はっきり言ってしまえば、それ自体異次元緩和策の失敗を認めたことになると日銀は思っているからです。私の言う日銀の失敗とは、物価2%の約束の達成ができないばかりでなく、日銀財務状況の悪化が信用の崩壊に進み始めることを指します。
国の財政状態が最悪のレベルにあるため、政府は日銀を支援できません。これまで日銀が国債の爆買いで政府を一貫して支援してきたのですから、反対に政府が財務状況の悪化した日銀を支援することなど絶対にできないのは明らかです。
それでも無理して政府が日銀を支援するため救済国債を発行して日銀に引き受けさせ、そのカネで日銀を救うなんていうおバカなことが起こらないことを祈ります(笑)。どこぞの「日本国は破綻しない」論者が言いそうなことではありますが(爆)。
私はこの閉塞状況を脱する唯一の道は、原爆が落ちる前に一刻も早く黒田総裁に責任を取らせてご退場いただき、負けを認めて出口議論をすることだと思っています。もちろん今の政府にできっこありません。政府も一緒に負けを認めなくてはならないからです。
本来、中央銀行は政府から独立し、政府の赤字をファイナンスするなどもってのほかという立場を取るべきです。しかし今の政府日銀は全く一体となって、敗戦に向けまっしぐらに進んでいます。それでも黒田総裁は国債の4割を買っておきながら今の状態は「日銀による財政ファイナンスではない」という大本営発表を繰り返しています。
ついでに言うなら、安倍政権の本質的ヤバさは、三権分立を無視しているところにあると私は見ています。一つ一つの政策がうんぬんなどではありません。そんなものは枝葉末節です。安保法制の議論の中で、正々堂々と内閣が憲法の解釈を勝手に変更しました。三権分立を真っ向から無視したのです。高い支持率を背景にした、とても近代国家とは思えない暴挙です。
日銀は本来であれば四権分立というべき独立性が保証されている主体であるにもかかわらず、今は政府と一心同体になっています。「戦時非常体制」という名のもとに憲法や法律を無視した大本営のやり口と同じです。
そのうち本当に財政問題がヤバくなったあかつきには、「初めから何故もっと真剣に日銀の独立性を確保しておかなかったのか」、とみんなが言い出すにちがいありません。みなさん、ここんとこ、よーく覚えておいてください。
政府はここに至っても財政赤字問題を棚上げにし、2020年でバランスさせるという目標を実質的に放棄し、日銀は出口論議を避けています。
次回はさらに深刻な償却損問題です。国債を償還価格の100を超える価格で買い入れ続けたので、償還時には必ず損が出ます。それによって将来見込まれるのが、償却損問題です。
何故より深刻なのか。
それは「確定している損失」だからです。