ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

アメリカ経済 アップデート

2017年03月31日 | アメリカアップデート

  今回からは久々にアメリカ経済の現状を見ていきます。

 その前にちょっと寄り道。

 「ユニクロ万歳、柳井氏万歳!」です。

  日本企業でもトランプにシッポを振る企業が多い中、ユニクロは「NOと言える」企業でした。昨日の朝日デジタル版から引用します。

 引用

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は29日、トランプ米大統領が個別企業に米国内での生産を求めていることなどを厳しく批判し、「もし直接言われたら、米国から撤退する」と断言した。

 米ニューヨークで朝日新聞などのインタビューに応じた。雇用拡大を目指すトランプ氏は、自動車メーカーなどを名指しして国内生産を迫ったり、輸入品に「国境税」を課す方針を掲げたりしている。柳井氏は「米国の消費者のためにならない。誰が考えても単純明快で、あり得ない話だ」と切り捨てた。

 米国内での生産については「顧客にメリットのあるコストでいい商品ができない」と指摘。「消費者にとっていい決断でないなら、米国で商売をする意味はない」と語り、政権から直接米国での生産を迫られれば店舗を引き揚げることもあり得るとの考えを示した。

引用終わり

  とても痛快です!

  ユニクロのアメリカ進出はまだ端緒についたばかりだし、売り上げや雇用が大きいわけではありません。しかし海外売り上げは全体の37%にも達していて、伸び率も国内の4倍もあり有望な市場と位置付けています。それでも「もし直接言われたら、米国から撤退する」と言い切る柳井氏に賛同します。

  負けるなユニクロ!

  ちなみに私は普段着ばかりでなく、ゴルフやスキーでもウェアの大半はユニクロです。機能的で耐久力があり、とにかく安い。同じような製品でもゴルフウェアやスキー・ウェアと名がつくだけで値段が何倍にもなるので買いません。コロラドの3,500m地点でもマイナス20度で強風の時がありましたが、スキーヤッケの下はユニクロの超極暖肌着とタートルの2枚だけ。それで全然寒くありませんでした。

 

  さて、トランプが勝利して以来、株価の上昇に歩調を合わせドルも上昇。さらにFRBの利上げもあって長期金利が上昇しました。しかしここに来て金融市場は若干の変調が見られます。株価の下落、金利の下落、ドルの下落が進行しつつあります。トランプ相場がご祝儀相場としてはいったん収束したかに見えます。

  政策面ではトランプ政権最大の公約であった「破滅的オバマケア」に対する代替案が、国会に上程される前に取り下げられました。それ以前にもイスラム系7か国からの入国禁止措置が裁判所から阻止され、6か国に変更しても再度阻止されました。

  大事な政権公約がどんどん実現から遠ざかり、さすがのトランプ・ツイッター砲も吠えれば吠えるだけ負け犬の遠吠えになっています。NFTAの一方的破棄宣言も、どうやらそうはなりそうもない妥協案が提出されました。これは注目です。

  負けず嫌いのトランプのこと、まだこれからも吠え続けるでしょう。人類みんなで推し進めてきた「エコ」と「地球温暖化防止」を否定する大統領令にサインをしました。その結末もどうなるか、注目です。

   ギャラップ社の最新の調査では、トランプの支持率はわずか36%に下落。不支持は56%とアメリカ人も見離しつつあります。かれの根拠のないウソのツイッターだけで、果たして相場を持ち直させるだけのインパクトを与えられるでしょうか。株価はトランプの政策実現見通しと実態経済の堅調さの綱引きになっているようです。

   では、トランプですっかりご無沙汰してしまったアメリカ経済のファンダメンタルズを見ておきましょう。

   アメリカ経済は順調です。いや、極めて好調と言っていいほどの好調さを示しています。以前から私は利上げはアメリカの快気祝い、そして「利上げにとって重要なのは物価と雇用だ」と言い続けてきました。失業率が5%を割り続けて失業者が少なくなっているのに、新規雇用者数は相変わらず20万人前後で推移しています。直近2月の統計では、新規雇用者数が23.5万人、失業率は4.7%、時給賃金の対前年上昇率も2.8%と好調で、3月の利上げを後押ししました。

   一方、物価もコア・インフレ率は今年に入って2%台で推移し、利上げを正当化する数字でした。

  ではGDP成長率はどうなっているか。四半期ごとに前期比年率で見ますと、

 

      16年第1四半期  第2四半期  第3四半期  第4四半期

実質GDP     0.8               1.4              3.5           2.0

 

   四半期の数字は振れますが均せばおよそ2%程度で推移。そして今後1年の見通しも17年を通して2%台がコンセンサスです。先進国の中でも好調組に属し、大きな不安材料は見当たりません。

  昨年の今頃原油価格が暴落し、シェール企業の大破綻予想があったことを覚えていらっしゃいますか。私はシェール企業が破たんし、それがジャンクボンド市場の崩壊から大不況へとつながるというシナリオを頭ごなしに否定しました。アメリカの企業破たんの処理方法やシェール企業のマネージの仕方、ジャンクボンドの市場規模などから、シェール産業の崩壊や大不況などありえないと申し上げていました。結果はそのとおりで、あれだけ叫んでいた人たちも今は何も言わなくなっています。

   では現在アメリカ経済に不安材料はないのでしょうか。市場では金利の上昇から個人ローンに頼る住宅販売や自動車販売がマイナスの影響を受け、特に自動車ローンは第2のサブプライム崩壊につながると言う予想が出されています。

  煽り屋さんたちがまたぞろ数字を調べもしないで針小棒大な話をしているので、クギを刺しておきます。

   アメリカは住宅ローンがそうであったように、ローンというローンは証券化されます。そのサイズを見ておきましょう。サブプライム・オートローンのサイズも把握されています。アメリカは統計の国です。Sifmaというサイトに行くと、証券化商品の全体像が示されています。

http://www.sifma.org/research/item.aspx?id=8589959616

 下に掲げた残高全体の統計は15年末の数字までですが、オートローン残高など全体に比べれば取るに足らないことがわかります。ドルを110円で換算します。

 

       オートローン全体 うちサブプライム  住宅抵当証券全体

2015年末    21兆円     4兆円        845兆円

  

  住宅抵当証券にはサブプライムの時に問題になった証券や、政府系のファニーメイやフレディーマックなどのローンの証券化商品も含まれています。住宅分野に比べるとオートローンなどわずか40分の1、サブプライム分はそのまた5分の1のわずか4兆円です。

   オートローン返済の滞りが増えていることは確かで、S&Pが先ごろ発表した17年1月現在、2か月払われなかった延滞の率は5.09%。前年1月の4.66%に比べ増加しています。こう言ってはなんですが、「だからどうした」、というのが数字で見た実態であることがわかると思います。

   ついでに言っておきますが、住宅のサブプライム破綻の場合、回収までには非常に手間暇がかかります。それに比べ自動車などは、差し押さえて売却するのはいとも簡単。それによりローン会社、あるいは回収専門のサービサーはかなりの程度回収できます。それが原因で中古車の価格が下がっていることは確かですが、新車販売を含めたインダストリー全体への影響は大きくありません。

  シェール産業の大破綻騒ぎと言い、サブプライム・オートローンの破綻問題と言い、数字と仕組みがわかっていれば、騒ぎをただの騒ぎだとして高みの見物をしていられるのです。

 つづく

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする