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アベノミクス第三の矢

2014年06月26日 | 2014年の資産運用
 このところアベノミクスの進展具合に関してアップデートしていませんでしたので、政府から「成長戦略」が出されたのを機会にアップデートしておきます。

 一昨日6月24日の夕刻、政府はアベノミクス3本目の矢となる「新成長戦略」を閣議決定しました。翌日の日経平均株価はそれを歓迎するはずなのが109円安で引けました。すでに戦略が小出しにされていたため、材料の出尽くしで下げたのかもしれません。日本の市場関係者のコメントは「昨年5月の成長戦略の安倍発言後にはマイナス700円だったので、それよりははるかにマシ」とのこと。

 成長戦略の前にアベノミクス3本の矢について、若干のレビューをしておきましょう。まず今年になっての「アベチャン指数」を見ておきます。

              昨年末   6月25日  対比%
日経平均株価     16,291    15,266    ▲6%
円ドルレート      105円    101年    4%の円高


 昨年1年は株高・円安でアベチャン指数は順風満帆だったのですが、今年の株価はちょっと停滞気味です。円ドルレートもこう着感を強め、ほとんど動いていません。

 ではまず「第一の矢金融政策」ですが、異次元緩和の名のもとにデフレ脱却を目指し1年以上が経過しました。これまでその目標である消費者物価は順調に上昇しています。私は昨年から「賃金上昇の前に物価が上昇してしまうのは『不幸の連鎖』の始まりだ」と申し上げていました。それが実際にはどうなのか、検証します。

・大企業正社員中心の春闘の平均賃金上昇率は、政府の要請を受けたこともあって、2.09%のプラスとなった

・中小を含めたすべての事業所を対象とする毎月勤労統計の給与総額の前年比は1・2月まではマイナス圏だったが、 3月には+0.7%と水面上に浮上した。しかし4月は春闘の妥結額よりはるかに低い+0.9%しか上昇しなかった

・年金生活者の年金支給額は今年度を通じて0.7%のマイナスとなる

消費者物価は対前年比で昨年以来プラスを続けていて3月に+1.6%だったが、消費税値上げ後の4月は+3.4%と急上昇した。


 要するに無理やり物価を先行上昇させ、その上消費税を増税した結果、昨年来国民全体は物価上昇により実質所得が減っているのです。今年の4月にはベースアップなどを含めてリカバーされるはずだったがそうとはいかず、どうやら懸念された不幸の連鎖は継続したままとなっているのです。

 「物価上昇で企業収益が大幅に上昇すれば、賃金も上昇し好循環が始まる」というのがシナリオだったはずですが、一部の大企業を除くといまのところシナリオどおりには進んでいません。

 「第二の矢、機動的な財政出動」はどうか。こればかりは機動的に実行されればされるほど累積財政赤字が悪化する一方なので、素直には喜べません。それでも政府は自画自賛しています。財政出動先は相も変わらず公共投資のため、民間との人材の奪い合いになっていて、何もしないほうが財政赤字もその分増えないのでよかったのかもしれません。

 そして期待された「第三の矢、成長戦略」の概要が出そろいました。あまりにも多くの項目が並んでいて焦点はぼやけているようです。そして項目だけはいつものように上出来です。問題は実行できるかですが、この段階で評価するのは早すぎて意味がないと思いますので、今回は標語のチェックにとどめましょう。

 これまでも成長戦略は「岩盤規制撤廃」「構造改革」「骨太の方針」などという標語とともに、何度となく政府によって出されては消えの繰り返しでした。今回も見事に同じ言葉が並んでいることを私からは指摘しておきます。

 私はついつい批判的に見過ぎるきらいがありますので、ある程度客観性を持ち、かつ利害関係の少ない海外メディアの記事をみなさんに紹介したいと思います。日本のメディアは、例えば日経新聞などは株式市場が賑わえばそれだけメリットが大きくなるため、どうしても「大本営発表を礼賛」しがちなので、気を付ける必要があります。

 ではまず経済ニュースでは代表選手のウォールストリート・ジャーナルから、ポイントをかいつまんで並べます。

<ウォールストリート・ジャーナル>
・多くのエコノミストは合格点をつけている
・女性の活用や法人税の引き下げをはじめ、方向性は正しいし、実行すべきだ
・肝心な実施の詳細はつまっていない
・岩盤をドリルで壊すと言うより、彫刻刀で穴を削る程度だ


<ニューヨーク・タイムズ>
 ・よく書けているが、大胆さには欠けている
 ・投資家は手放しで拍手はしないと思う


<エコノミスト>
 ・本物の矢で的を射るのではなく、ダーツをやっている程度
 ・本格的に改革がなされるとは思えない
 ・例えば農業のように、すでに目標から後退してしまっている分野がある


 このように概して手厳しい批判記事が多くなっています。もちろんメディアの使命として批判的になるのはしかたがない面があるでしょう。実際の評価は参加者の多い市場の動きの方が表しているかもしれません。しかしその株式市場も、アベチャンにかかっては我々の大事な年金(GPIF)を使って官製相場になっている面があるので、要注意です。

 これまで安倍政権は「でかしたアベチャン」と言えるほど国民の大多数のマインドを大きく好転させ、市場もそれを歓迎していたのですが、アベノミクスの一番大事な完結編である第三の矢については、どうも市場の反応は芳しいとは言えません。第一の矢・異次元緩和はポイント・オブ・ノーリターンをとうに超えてしまったので、後戻りも許されません。

 今世界は地政学的リスクに非常に敏感になっています。株式市場や為替市場の静けさがかえって不気味さを醸し出していますが、嵐の前の静けさでないことを祈ります。

 以上、アベノミクスのアップデートでした。

コメント (9)
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