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中国リスクについて  その5

2014年04月08日 | ニュース・コメント
 東京はさくらの花が散り、道路がはなびらで覆われています。いよいよ全国的に春本番ですね。

 さて、中国のバブル崩壊についての話に戻ります。前回、中国は地方政府をめぐるバブルの崩壊の恐れがある不良債権規模はGDP対比では2割程度の可能性があり、日本のバブル後の不良債権が1割程度であったことと比べると2倍に上るというお話を差し上げました。

 バブルが生じ崩壊すると、例えば個人がアパートに投資して高値をつかみ、不動産の暴落で苦しんだり、株式の暴落で損をするというようなこともあるのですが、そうしたものは数量的な把握が難しいのと、対外的な影響がさほど大きくないことから、ここでは取り上げません。一国の金融システム全体が影響を受けたり、政府が救済に乗り出す必要が生じたり、また国際的に影響が大きい問題を対象に議論したいと思います。

 数字がかなりの程度見えている中国の地方政府の不良債権が顕在化し崩壊した場合、中国国内と世界経済にどのような影響を与える可能性があるか、私の見解をお示ししたいと思います。私は預言者ではないので、将来を予言することはできません。そこで過去の例と比較しながら議論を進めます。

1.日本のバブルとの比較・・・その1
 日本がバブル崩壊でどん底だった97年時点の一人当たりGDPは3万1千ドル程度で世界トップクラスの成熟国で、すでに成長は曲がり角に来ていました。(ちなみに現在はここにきての円安で20位にも入っていない可能性があります。)中国の現在の一人当たりGDPは6千ドル程度で、1万ドルクラブにも入会していない発展途上国のレベルです。
 従って長い目で見た衝撃の吸収力は、成長余力のある中国のほうがはるかにあります。GDP対比では2倍もある崩壊も、吸収力を加味すればインパクトは日本の2倍とはならずに済みそうです。

2.世界の実態経済への影響度

 中国経済が世界ともっとも緊密に繋がっているのは、「世界の工場」であるという地位です。この工場の具体的立地はほとんどが沿海地域の大都市とその周辺です。北は大連・天津から始まり、上海・南京、そして広州・香港に至ります。バブル崩壊がもっともひどいと予想されるのは内陸の地方都市で、工業などの立地が進んでいない所です。沿海の大都市でもこれまで不動産の高騰・下落があり、ミニバブルが崩壊したりしていますが、なにせ需要がある場所のため、深刻な不況には至っていません。
 従って、地方政府債務バブルの崩壊で沿海地域にある世界の工場が停止に至るということは考えづらいのです。中国の競争力にとっての脅威は、むしろより新興国のインドネシア・インド・バングラデッシュ・ミャンマーなどです。そしてそれらの国に代替されること自体は世界にとっては新たな供給基地ができるので、大問題にはなりません。

3.世界の金融市場への影響度、日本との比較・・・その2
 日本のバブル崩壊が世界の金融・不動産市場に与えた影響は非常に低いものでした。それは世界から日本への投資があまりなかったことと、日本が世界の金融市場にあまり投資をしていなかったためです。日本株の海外投資家保有シェアーは90年でも5%程度で、逆に日本人投資家も海外株をほとんど買っていなっかったので、相互依存が極めて薄かったのです。せいぜい日本人買いでバブっていたNYやロスの不動産の買い手が消えたことで、そこのバブルが正常値に戻った程度のことで終わっています。

 では中国の場合はどうか。中国人は世界の不動産、資源、金融市場に大いに投資をしていますが、海外から中国市場への投資はすべてが制限されているので、世界が損をかぶることはあまりありません。

 では中国人投資家が世界から投資マネーを引き上げるか。これもさほど多くないでしょう。中国政府の米国債保有は日本と並びトップクラスで、1割近いシェア―を持つのですが、これが売りに回っても米国債は崩壊などしません。チャイナショックで世界に激震が走れば、結局世界の投資家のオカネが逃避する先はいつもと同じ米国債だからです。

 また中国の個人の大金持ちは自分の一族と資産の大半を海外に避難させているのですが、こちらも影響は大きくありません。大金持は政治的崩壊のリスクと経済バブル崩壊のリスクヘッジをすでに十分進めています。特に私腹を肥やした党幹部や政府の官僚は「裸官」と呼ばれるまでに至っています。自分だけが身一つで中国にいて、家族には海外国籍を取らせ資産も大半を海外に避難させているので「裸官」と呼ばれているのです。そうした金持ちは海外資産を売ることなどありえません。
 ということで、世界の金融市場への影響も、深刻なものではないと思われます。唯一気を付けるべきは、バブル崩壊の心理的効果です。

4.中国バブル崩壊の心理的効果・・・リーマンショックとの比較
 世界2位の規模を誇る中国のバブルが思いっきり崩壊した場合はどうなるでしょう。金融市場の世界連携は非常に強まっていますので、相当な激震が走ることは間違いありません。報道がそれに拍車をかけるでしょう。やれ中国政府が米国債を売るだとか、国家の投資マネーが世界の株を売るだとか、中国の金融システムが崩壊し貿易決済ができなくなるとか、理由はいくらでも見出せます。

 それでも私はリーマンショックほどではないと思います。理由は、リーマン前夜は日本を含め、世界の大部分がアメリカの好景気の恩恵を受け、バブル状態にあり、世界中で株・不動産が沸き立っていたからです。

 例えばその後遺症に苦しむギリシャ、スペイン、ポルトガル、イタリアなどを表すPIGSという言葉を覚えている方も多いと思います。日本でも日経平均株価は1万8千円を超え、大都市の不動産もミニバブルの様相を呈していました。こうした日本やヨーロッパを含め世界が一斉にバブル崩壊に見舞われたため、リーマンショックは伝搬力が強かったのです。

 中国の場合はそうした世界的バブルの気配はいまのところありません。いままだしばらくリーマンショックの回復期にあるからでしょう。

つづく



コメント (2)
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