ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

垣間見たフランスとスペイン

2012年07月27日 | 資産運用 
 2週間弱のフランス旅行から戻りました。

  フランス滞在中にユーロがなんと94円台に突入というニュースが流れました。日本からの旅行者にとってはとてもラッキーです。今回は円高満喫ツアーと円高阻止ツアーの側面をもっていたつもりなのですが、我々のようにみやげ物もほとんど買わない観光客は円高阻止には全く貢献できなかったようです(笑)。

  今回の旅行は全くの観光旅行でしたので、フランスやEU経済の状況をうんぬんするほどではありませんが、多少なりとも肌で感じるものがありましたので、感じたままを記してみることにします。

  フランスは夏休み中ということもあり、特段の政治日程もないためかなり平穏でした。オランド大統領も自分の出身地をツール・ド・フランス(世界最大の自転車競技)の一行が通過するのに合わせて地元入りし、それが大きく報じられほどのどかな状況で、危機感を感じさせる様子はありませんでした。

  ユーロ問題は日本での報道のように連日トップの扱いというほどでもなく、一般人の関心は世界最大の自転車レース、ツール・ド・フランスがトップで、次はピレネー山脈の山火事、その後に経済ニュースの中でユーロ問題が出てくる程度です。ただテレビで放映されたユーロ安問題の特集ではスペインが取り上げられ、銀行に対する支援が決まったものの、経済状況は好転していないというトーンでした。

  その中でスペインの人々にインタビューをしていましたが、回答者全員が雇用問題の深刻さを口に出して、仕事がないことを嘆いていました。特に失業率の高い若者は深刻です。

  今年大学を卒後した人へのインタビューで気になったことがありました。それは「スペインでは仕事がないからアメリカに行って、IT系の仕事を探すよ」と言う回答でした。やっと彼らも外国へ出る気になったかということと、EUの自由化は域内の移住を伴う自由もあるはずなのに、ドイツに行くと言わずに、アメリカに行くと言うのです。どうやらこれは言葉の問題がありそうです。

  今スペインでは英語の他にドイツ語の勉強をする若者が相当増えていて、語学学校で生徒が一番増えているのがドイツ語だそうです。今から勉強しても仕事で使えるまでにはしばしかかりそうに思えますが、日本語とドイツ語の差ほどはないので、こうした動きは今後ジワリと効いてくるのでしょう。スペインやギリシャでも仕事も求める若者が本気で移動しだすと、ヨーロッパも統合のメリットが本格的に出てくるのかもしれません。

  旅行の途中、スペイン国境のバスク地方に行ったついでに、スペイン国境を越えてサンセバスチャンという大西洋岸の街に行ってみました。レンタカーで高速道路を走っているといつのまにか国境を越えていました。パスポートの検査もなにもなしです。

  サンセバスチャンという街は中世にはヨーロッパ中のキリスト教巡礼者が集まるところでしたが、今は海辺の国際的リゾートです。失業者があふれるスペインなどという風情は全くありません。街は観光客も多いため活気にあふれ、老人が多いフランスのリゾートより若い人が多く、また地元の子供がどこにでもたくさんいて楽しそうに遊ぶ風景は、財政問題などどこ吹く風という感じでした。

  フランスで訪れたパリやツールーズという地方の大都市でも、EU問題どこ吹く風というのは同じです。ツールーズは航空機メーカー、エアバス社の本拠地です。今回はエアバスの工場見学をすることができました。この会社はもともとヨーロッパ各国が協力し、国際的コンソーシアム(共同プロジェクト)としてアメリカの航空機産業に対抗するため70年代に設立された会社ですが、世界でも抜群の競争力を持っています。この会社のありかたこそ、EUという発想の原点というべき会社で、拠点十数カ所をヨーロッパ中に置き、繁栄を誇っています。

  機体の部品は仏・独・英・伊・蘭・西・日などで分散して作られ、主にツールーズやハンブルグで飛行機に組み立てられています。見学した工場の大きさはサッカー場が22個分も入る大きさとのことで、巨大なエアバスA-380(500人―800人乗り)が3機組みたてられている最中でした。ヨーロッパにおいてハイテク製造業分野で競争力を持つのはエアバスが代表的ですが、今後統合のメリットを活かす産業をさらに生みだすことがEU成功のカギになると思われます。

  そのためには労働力の流動化は不可欠で、最近ユーロに加入しつつある東ヨーロッパの国々からの安い労働力を得れば、統合のメリットを加速することが可能かもしれません。そして財政危機に見舞われ、失業が大問題となっているスペインやギリシャからも労働者が移動してくることで、さらに活性化されるのではないでしょうか。

  EUは統合メリットを打ち出せる前に財政問題のデメリットが突出してしまいました。しかし今回の大波を乗り切れば、再生の可能性は十分にあるということをエアバス社は教えてくたようです。

  エアバス欧州連合の発展とスペインの若者の海外就職、いずれも息の長い話ではありますが、世界経済のためにも是非推進してほしいものです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする