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円高・デフレのトラップに嵌まり込む日本  39.じゃ、どうしたらいいの  その23

2012年06月16日 | 資産運用 

前回まではちょっと横道にそれて、現在の世界経済の私の見方と、コメントでいただいた資産運用のQ&Aをみなさんにも見ていただきました。

  「世界経済は、言われているほど悪くない」というのが、私の見方でした。経済の実態は多少スローになっても成長は続けていて、金融市場の示す相場と経済実態は別なのに、報道は相場に振り回されている。

   私は日本経済には悲観的ですが、世界経済をさほど悲観的には見ていません。ヨーロッパ経済はだめでも、アメリカと新興国は成長しているし、ヨーロッパの金融危機が世界の金融危機や大恐慌にはつながらないからです。


   では先日お約束した「デフレは克服できるか」ということに戻ります。

   私のブログの現在のシリーズのタイトルは、はじめ「円高トラップに嵌まり込む日本」でしたが、途中から「円高・デフレのトラップに嵌まり込む日本」に変更しました。それは、どちらもトラップに嵌まり込んでいるので事なきを得ているが、トラップから出たら最後、そこには地獄が待っているからという解説をしてきました。

   しかし最近はますます「デフレの脱却」が政府の最大の目標であり、経済界のたっての願いになっていますし、政治家も含めみんなで日銀に向かって大合唱をしています。それは果たして可能でしょうか。私ははっきり言ってムリだと思っています。その理由を説明しましょう。

   端的に言えば、「日銀のデフレ克服策はすでにやりつくし、効果はなかった」という結論が出ているからです。つまり、金利は2000年代のはじめにこれ以上下がらないところまで低下させたし、「資金供給はいくらでもします」と言い続けてきた。しかし実際には借りる企業はない。そして資金供給のため銀行などの機関投資家に「国債はいくらでも買います」と言っても、銀行から国債が出てこないのです。最近の日銀による国債買入れ入札は、買い取り目標額に売り手が応じてこない、札割れを起こしているのです。

   今年のバレンタインデー、日銀は大合唱に応えてプレゼントを配りました。インフレターゲットの設定、とは言いませんでしたが、「1%をインフレの目途とする」とのありがたいお言葉です。それに目がくらんだ市場は株価を押し上げ、ドルを押し上げましたが、実は相場上昇はNY株式相場の上昇に引っ張られただけで、NYの下げとともに下落し、プレゼントが錯覚だったことがわかりました。
   ここへきて合唱隊はさらにボリュームを上げています。しかしインフレ「目途」の次が「目標」であろうが「ターゲット」であろうが、効果がないのを市場はすでにお見通しです。

  では何故効果がないのか、私の分析です。

1. 日本の物価水準は国際標準から見てまだ高い
2. 国内で消費需要・投資需要がないのに、資金需要だけが出ることなどありえない。
つまり、賃金が伸びないので消費は伸びないし、消費が伸びないので設備投資はしない

    企業の資金需要のなさは、統計の取りやすい上場企業ばかりでないことが、最近になってよくわかってきました。みなさんにお伝えしているように、私は最近、日本経営合理化協会さんの仕事をするようになって、中小企業の最近の実情がわかってきました。中小企業の経営者たちは、自己防衛のためにひたすら手元資金を溜めこんで、需要の見込めない中で新規投資をしないのです。自己資本比率が70%を超えていてもさらに積み増すような企業がある、というお話を伺いました。いまでも資金需要がある企業とは、そろそろ退出すべきゾンビ企業で、後ろ向き資金需要のみ。利益を出していて、本来であれば投資をすべき企業が、需要の弱さから投資をしない。それがどうやら大企業から中小企業までの実態です。

    90年代、不況の克服を目標に建設省の前で「もっと公共投資を」の大合唱がありました。それが現在の政府債務膨張の基礎をしっかりと固めてくれました。さすがにそのトーンは弱くなりましたが、今度は日銀の前で「インフレにしろ」の大合唱です(笑)。

   日銀は打ち出の小槌を持っていると錯覚されていますが、小判を拾う人がいないと、実は日銀の小槌は振ってもお金が出てこないのです。それが合唱隊のみなさんには理解できていません。

   さらに言うと、バーナンキはその昔「日銀はヘリコプターでカネを撒け」と言いましたが、拾っても貯めこんで使わなければこれまた効果はありません。自国が成長していて楽観的なアメリカ人なら使うでしょう。でも自国がシュリンクして先行きに悲観的な日本人は使えないのです。

    日銀が小判を銀行に撒いて銀行が拾っても、今は日銀の当座預金に預けるだけ。へリコプターで撒いても、みんなタンスにしまいこむだけ。迫りくる日本の大激震、財政破綻や年金破綻に備えて蓄えをするのは、常識的人間の当たり前の行動です。日銀や政治家がいくら「使えー、使えー」と合唱しても、その言葉を聞けば聞くほど恐ろしくなって防衛するのが人情です。自己資本比率が7割を超えても中小企業の社長さんはひたすらその日に備えて貯めこむのです。

つづく
コメント
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