アベチャンの街に待った3本目の矢、成長戦略の概要が出て来ました。株式市場の反応はいまいちで、NY株が上昇しているにも関わらず今日は下落して終わりました。安倍政権発足後半年目で出された3本目の矢には、市場が暴落で応えたのをみなさん覚えていらっしゃるでしょうか。私はその後何度か3本の矢の評価をこのブログで書いてきました。3本目の矢である成長戦略については、政権成立後半年・1年経ってロクなものが出てこないのに、2年半経ったら出てくると思ったら大間違いだと言い続けて来ました。これまで金融・財政の無茶な政策も、3本目の矢が成功することですべては払拭され、メデタシ・メデタシとなるはずでしたが、その矢がまさかのハズレに終わりそうです。この話題は別の機会に譲り、欧州の3回目に入ります。
欧州編第1回目で申し上げたように欧州に関する私の問題意識は、個別の国がどうという話ではなく、以下の様な大きくかつ長期の視点に立ったものです。
・ギリシャ問題を抱える欧州動向は世界の経済・金融市場にどのようなインパクトを与えるか
・ドイツの金利が上昇していることをどう見るか
・通貨ユーロは投資に値する通貨か
2回目ではギリシャ問題を取り上げました。そして私はギリシャとEU欧州連合の問題は、アメリカ財政における議会と大統領のつばぜり合いと同じで、最後まで突っ張り合ったままでもデフォルトに至ることはなく、肩透かし程度の解決になると申し上げました。現時点では6月末にはかなり危機的状況になりそうだと報道されていますが、私の見方は変わっていません。きっと根本解決には至らない何らかの妥協点を見出してやり過ごすことになるだろうと思っています。
それが当たっているとすると、このギリシャ問題はいつまでも幕が下りない悲劇だということになります。国民は緊縮財政による締め付けを嫌っていても、実はEUからの離脱や通貨ユーロから離れることを望んでなどいません。自主独立する実力がないことを分かっていてダダをこねているのです。そのためこの問題は今後も尾を引きます。いっそ離脱でもしてしまえばEUとしては一時的混乱だけであとはすっきりするのですが、そうならないのがこの問題だ、というのが私のギリシャ問題に対する見方です。
ではこれまでたびたび問題児とされてきたイタリア、スペインを見てみます。最近の両国はある程度リカバリーしつつあります。個別の国にはなりますが、欧州の大どころだし、将来の日本の参考にもなるので、やはりちょっと見ておくことにします。
これらの国は09年から始まった欧州危機第一弾では国債金利が暴騰し危機的状況に至りましたが、EUの支援でとりあえず最悪の事態は乗り切ることができました。ギリシャと違うのは、支援側のEUに正面切って逆らうのではなく、言うことを聞き妥協をしながら破綻を回避したことです。
特に失業率が高く、不動産バブルの後遺症に悩んでいたスペインは、13年第4四半期からGDP成長率がプラスの圏内に入り初め、14年は順調に回復。今年の第一四半期もプラス0.9%と欧州の中ではドイツの0.3%やフランスの0.6%よりも高い成長率を示しています。失業率も13年に26%台だったものが、今年の第一四半期には23%台にまでわずか3%とは言え下がりました。しかし若者の失業率は相変わらず50%を超えていて、問題解決には程遠い状態です。
スペインの成長はそれまでの不動産投資主導から経済構造を改革し、個人消費主導に移ったことによります。その裏にはインフレがおさまり、デフレ的になって実質購買力が増したということと、失業率の低下が購買力を増やす好循環が出てきたことによります。しかしデフレは当初はよくとも、今後は逆に経済をスローダウンさせかねないため、まだスペイン病からは回復したとはいえません。金融機関の不良債権も依然残っていますので、かつての日本病にかからないよう注意が必要です。
一方イタリアの成長率は14年中はゼロから若干のマイナスが続いていましたが、15年の第一四半期にやっとプラスの0.3%に浮上しました。失業率はスペインの半分ですが回復は遅れました。厳しい緊縮財政が一因です。しかし財政再建の目途が立ったおかげで、今後はある程度の安定成長が見込まれます。なんといってもそれまでは緊縮一方だった財政が、「増やしてもよい」とEUからお墨付きをもらえるところにまで至ったのです。どこぞの国のように再建が最も必要な財政に目をつぶりバラマキを続けると、国民が国家破綻に備えて防衛行動に走るという悪循環に陥り、抜け出すことができません。元キリギリスだったイタリアは、アリさんドイツの指導のもと財政再建に目途がついてきたのです。
そしてそれを後押ししたのがユーロ安による輸出の回復です。そう、イタリアはブランド王国です。中国のブランドバブル崩壊の影響をかなり受けていたのですが、ユーロ安により全世界に向けた輸出が回復し、貿易収支・経常収支ともに黒字が増えているのです。
改革は財政だけでなく、労働市場でも大きな改革が進展しました。労働者には厳しい改革ですが、それにより失業者が大きく増えるようなことにはなっていません。そして政治の安定もあげておきましょう。少数政党が乱立し政権交代が年中行事であったイタリアに、安定政権の兆しが見えています。
現在の首相レンツィは14年2月に若干39歳でフィレンツェ市長からいきなり首相に指名された人物で、連立政権ながらもかなり安定度が高いと評価されています。あのスキャンダルまみれの富豪ベルルスコーニ元首相などと比べれば天と地ほどの違いがありそうです。
元々イタリアの改革は二人のマリオによって開始されました。イタリアではマリオ・モンティという首相が先頭に立って進めたのですが、このレンツィ首相もその路線を継いでいます。ちなみにもう一人のマリオは、欧州の超緩和政策を推進する欧州中銀のスーパーマリオ、マリオ・ドラギ総裁です。
一方イタリアの野党にはやぶれかぶれではベルルスコーニに引けを取らない「五つ星運動」の党を率いるコメディアンのベッペ・グリッロがいて、緊縮路線を批判し一定の支持を得ています。緊縮拒否グループはいずれの国にもいて、移民拒否の極右政党と連携することもあり、決して侮ることはできません。
にも関わらずイタリア国民が財政緊縮プランをある程度成し遂げたことで自信を深め、今後は経済の本格持ちなおしに進む可能性もでてきています。ドイツなど支援サイドの国は、こうしたEU内での成功事例を持ちだして、ギリシャの説得にかかっています。