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ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アメリカ経済 アップデート その3

2017年04月07日 | アメリカアップデート

  予測のできない大統領トランプが、先ほど遂に本領を発揮しましたね。

  「オレは本気を出すと恐いんだぞ」ということを、習近平の前で示しました。

  しかし私には支持率低迷に直面する起死回生の一撃のようにも見えます。

  アメリカのメディアは「今回の一撃は用意周到に準備されていた。それはロシアへの事前通告や、トランプが習近平に会いに行くための大統領専用機内での発言に表れていた」と解説しています。もちろん最近のニュースにあった、あの極右の大統領戦略補佐官、スティーブ・バノンをNSC、国家安全保障会議のメンバーから外したことなども含まれています。

  彼は機内で記者団に対して得意満面で「近々シリアで何かあるぞ」と予言していました。かわいいトランプちゃんは、黙っていられないのです。

  彼は以前、シリアやアサド大統領に対して言っていた「シリアなんて関心ない」という前言を、いとも簡単に翻しました。ロシアとプーチンに対しても同様で、「プーチンは賢い。いい関係を築けるだろう」という前言も、すでに180度翻しています。もちろん北朝鮮の金正恩に対しても同じ。

  私はトランプが世界の独裁者に対して発するラブコールに対し、「英雄並び立たず。きっとすぐ喧嘩が始まる」と申し上げていましたが、全くそのとおりで、サイコパス人間はしょせん敵ばかりを作るが得意なのでしょう。

  アベチャン、要注意ですよ!

  では今回の一撃が世界の金融市場にどの程度の影響を及ぼすか。私の勝手な見立ては、

「たいしたことはない」です。

  理由は、すでにロイターはアメリカ軍の高官が、「今回は1回のみ」と言っていることを伝えているからです。それと彼のやることのほとんどは「ブラッフ」、つまりハッタリだからです。

  トランプによる今回の攻撃に関する声明は、ディナーを一緒にした習近平と別れてすぐに発表されましたが、きっと習近平にも会談中、あるいはディナー中にあらかじめ伝えておいたのでしょう。でないと中国人の一番嫌う「メンツをつぶす」ことになるからです。

  会談直後トランプは習近平と並んで写真を撮らせているとき、(数時間の会談で)「これまで何一つ合意されていない」と笑いながら得意げに述べていました。ということは結構合意されたものはあるとも取れますし、合意してくれない習近平へのブラッフとも取れます。

 

  さて、アメリカ経済の続きです。

  前回私はトランプ政策の実行性について、疑問符がついたと申し上げました。理由は、大統領がやりたいことをいくら大統領令で「やれ」と言っても、実際には議会での承認が必要なことが多く、例えば国境税などは与党の共和党議員も選挙を考えると、簡単には賛成しなからだと申し上げました。

  今回は、それでもなおトランプの経済政策がかなりの程度実現されたらどうなるのか。私なりに分析します。

  トランプの経済政策の重要ポイントは、以下の3点です。

1. 減税・・・法人税、所得税

2. インフラ投資・・・老朽化したインフラの更新投資や新規建設

3. 保護主義・・・国境税の導入や製造業のアメリカ回帰、バイ・アメリカンなど

  1と2は直接的には国内要因です。1の減税が実行されるということは政府収入の減少につながります。2のインフラ投資は政府支出の増加となり、1と2が両建てで政府の債務を増やすことになります。

  しかしトランプの政策目標は、もちろん最終的にそれらが実行されることで経済が活性化し、税収を増やすハズという皮算用です。大胆な減税については、過去のレーガン政権時代に実行されたレーガノミックスの踏襲とみなせます。

   この皮算用が成功すれば、アメリカは万々歳です。

  3の保護主義政策が実行されると世界はどうなるか。アメリカ・ファーストを掲げているのですから、単純に考えればアメリカ経済だけはよくなり、世界はその分悪くなる。

  NHK特集でもグローバリゼーションを肯定する学者は、グローバリゼーションこそが資本主義経済の発展を支えていた。トランプ政策はグローバリゼーションの否定であり、世界を危機的な状況におとしいれる。つまりアメリカが保護主義を前面に打ち出せば、当然他国も報復措置をとり、世界経済を破滅させる。そうした貿易戦争が20世紀の世界大戦の原因になったということを強調していました。

  そのような極端なところにまで至らないとすると、アメリカの保護主義は短期的にはアメリカ経済を押し上げる方向に働きそうです。しかし将来は世界経済の停滞を通じ、アメリカにもマイナスの影響が及ぶに違いありません。

  と、ここまで、「トランプ政策が奏功しなくても、アメリカはびくともしない。奏功したらしたで、短期的にはアメリカにはプラスだ」と申し上げました。もちろんこれは非常に簡略化した見方ではありますが、全くお門違いの議論ではありません。

  ちなみにNHK特集では、グローバリゼーションを否定的にとらえている学者に将来の世界経済活性化策のシナリオがあったかと申しますと、こうすべきだというシナリオ提言は全くありませんでした。

 

  では、アメリカ国債への長期的投資をお考えのみなさんへ

・トランプは短命だと4年の任期中に終わりを迎える

・そうでなくとも最悪8年。

  米国債への長期投資にとっては、しょせん一場の雑音でしかないと思っていて間違いないのです。もちろんその裏には、グローバリゼーションこそが世界経済を発展させることへの確信があるからです。

  では、格差問題はどうするのか。

  何度も申し上げますが、それはこれまで以上に格差解消の政策手段、累進税などを強めることで解決すべきであって、グローバリゼーションの否定からは何も生まれないことを理解すべきなのです。

 

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アメリカ経済 アップデート その2

2017年04月04日 | アメリカアップデート

  アメリカ経済の現状の続きです。前回は、経済指標のなかでも雇用が絶好調で、賃金上昇率も堅調なため、それがFRBによる利上げを後押ししたと指摘しました。そして経済の総合評価であるGDP成長率も16年の平均はおよそ2%と順調で、今年度も同程度が見込まれている。また、バブル崩壊の兆しをサブプライム・オートローンに見出そうとしている人もいるが、規模からみてたいしたことにならないと結論付けました。

  では他にリスクがあるとしたらどこなのかを見ていきましょう。

  経済に内在するリスクより、政治的、あるいは地政学上のリスクのほうがが大きいと私は見ています。経済に内在するリスクは、単なる景気循環の域を出ないとみておけば間違いないでしょう。09年からの景気拡大が8年にも及ぶため、そろそろ息切れしても当然です。

  昨日発表されたアメリカの製造業景況指数や自動車販売などの経済指標も、若干スローダウンの兆しを示していました。もっとも、たった1か月、あるいは1四半期の指標で景気の方向を判断するのは危険です。これまでも数年の間にいくどとなくそうした局面がありました。アメリカ国債への投資を考えている方にとって、景気のスローダウンなど深刻に考える必要はありません。金利低下からドルが安く買える、という程度の話ですので。

  一方、地政学上のリスクともいえるトランプ大統領の存在は、無視できません。

  週末のNHKスペシャルでは、「シリーズ・資本主義の未来、マネー・ワールド」で、トランプの保護主義的政策が歴史的にみてグローバル資本主義の未来を変えうるか、というテーマに取り組んでいました。

  これまでもこのシリーズは興味あるテーマを提供してくれていました。今回もご覧になった方がいらっしゃると思います。なにより私が興味深く見るポイントは、世界の経済学者や歴史学者の長期展望です。

  彼らの一貫した対立点はグローバリゼーション、是か非かです。是とする方はグローバリゼーションこそが今日の世界の繁栄を築いたという立場で今後もそれを支持し、非の方はそれが格差を生んだのだから、これ以上のグローバリゼーションは阻止すべきだ、あるいは資本主義に限界が来たという立場です。限界説の代表は今回も歴史学者のエマニュエル・トッドでした。

  今回はそこにトランプが保護主義という一石を投じようとしているため、いったい資本主義の将来はどうなるか。つまり新たなブレークスルーとなるのか、はたまた破たんへの端緒となるのかを経済学者などが論じていました。日本の経済学者3人のうち2人は、トランプ政策は矛盾だらけで破滅への道だとして批判的。1人は功を奏する可能性ありということで対立させていました。

トランプ政策を論じる場合、いつものことながらトランプ政策の反対者は矛盾を突いた論理的説明をしますが、賛同者は矛盾を突かれてもまともには返答できずに逃げます。今回も同様で、賛同者は理路整然とした説明はできませんでした。その図式はトランプ政権を周辺で支える人たちも同じで、説明に窮すると逃げの一手のため、議論がしっかりとは噛み合いません。

  ではトランプの経済政策がうまくいかない場合、いったアメリカ経済はどうなるのか、私の考えを述べていきます。

  結論はもちろん「全然問題なし」です。というよりも、理不尽極まりない保護主義政策など実行できない、というのが私の見方です。

  トランプが勝利して以来、株価は金融やエネルギー関連を中心に大きく上昇しました。その理由は彼の政策の重点が偏っているからです。

  金融株が上昇したのは、「規制緩和」を推し進めるから。エネルギー関連株が上昇したのはシェールなどへの規制緩和、プラス環境破壊政策を推進すると宣言しているからです。

  その反面、ハイテクのナスダック銘柄は出遅れました。彼が製造業にばかり力点を置き、ハイテクを支える海外からの人材受け入れを拒否する政策を打ち出したからです。

  ところが、このところの株価反落局面では、その巻き返しが起こっていて、アップルなどのハイテク銘柄が史上最高値を更新する中、金融やエネルギー関連株は反落しています。理由はもちろんトランプが最も声高に主張していた政策の実現がどんどん遠のいて、政権の力量に赤信号がともったからです。

  友人が「アメリカ議会を見ていると、3権分立が機能している」と言っていましたが、全くそのとおりで、いくら大統領と取り巻きが吠えても、議会を自由にはたぐれません。支持率も3割台と、すでにレームダック化に片足を突っ込んでいるのが現状でしょう。

  では何故彼の例えば保護主義など実現できないと言い切れるのか。

  保護主義のさえたるものは国境税など物価に直結する保護主義政策です。アメリカのスーパーに置いてあるものの7割が中国などからの輸入品です。よく引き合いに出されるウォールマートストアに限れば、中国などからの輸入品は販売品の8割に達します。それに30%や40%の関税をかけた場合、もろに物価が上昇し、低所得層を直撃します。いや中間所得層も直撃するはずです。

  アメリカは大統領選挙の2年後には中間選挙があり、そこで選挙民から見放されれば議員は落選します。選挙民は各議員がどの法律に賛成・反対したのか、一目でわかるようになっています。そのため議員にしてみればトランプ支持より選挙での勝利を優先します。ですのでトランプのオバマケアの代替案など、党や大統領に逆らって真っ向から反対するのです。日本の政党のように党議拘束などありません。

  保護主義的政策をいくら連発したところで、選挙民を窮乏化させることなど議員には絶対にできないのです。

つづく

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アメリカ経済 アップデート

2017年03月31日 | アメリカアップデート

  今回からは久々にアメリカ経済の現状を見ていきます。

 その前にちょっと寄り道。

 「ユニクロ万歳、柳井氏万歳!」です。

  日本企業でもトランプにシッポを振る企業が多い中、ユニクロは「NOと言える」企業でした。昨日の朝日デジタル版から引用します。

 引用

ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は29日、トランプ米大統領が個別企業に米国内での生産を求めていることなどを厳しく批判し、「もし直接言われたら、米国から撤退する」と断言した。

 米ニューヨークで朝日新聞などのインタビューに応じた。雇用拡大を目指すトランプ氏は、自動車メーカーなどを名指しして国内生産を迫ったり、輸入品に「国境税」を課す方針を掲げたりしている。柳井氏は「米国の消費者のためにならない。誰が考えても単純明快で、あり得ない話だ」と切り捨てた。

 米国内での生産については「顧客にメリットのあるコストでいい商品ができない」と指摘。「消費者にとっていい決断でないなら、米国で商売をする意味はない」と語り、政権から直接米国での生産を迫られれば店舗を引き揚げることもあり得るとの考えを示した。

引用終わり

  とても痛快です!

  ユニクロのアメリカ進出はまだ端緒についたばかりだし、売り上げや雇用が大きいわけではありません。しかし海外売り上げは全体の37%にも達していて、伸び率も国内の4倍もあり有望な市場と位置付けています。それでも「もし直接言われたら、米国から撤退する」と言い切る柳井氏に賛同します。

  負けるなユニクロ!

  ちなみに私は普段着ばかりでなく、ゴルフやスキーでもウェアの大半はユニクロです。機能的で耐久力があり、とにかく安い。同じような製品でもゴルフウェアやスキー・ウェアと名がつくだけで値段が何倍にもなるので買いません。コロラドの3,500m地点でもマイナス20度で強風の時がありましたが、スキーヤッケの下はユニクロの超極暖肌着とタートルの2枚だけ。それで全然寒くありませんでした。

 

  さて、トランプが勝利して以来、株価の上昇に歩調を合わせドルも上昇。さらにFRBの利上げもあって長期金利が上昇しました。しかしここに来て金融市場は若干の変調が見られます。株価の下落、金利の下落、ドルの下落が進行しつつあります。トランプ相場がご祝儀相場としてはいったん収束したかに見えます。

  政策面ではトランプ政権最大の公約であった「破滅的オバマケア」に対する代替案が、国会に上程される前に取り下げられました。それ以前にもイスラム系7か国からの入国禁止措置が裁判所から阻止され、6か国に変更しても再度阻止されました。

  大事な政権公約がどんどん実現から遠ざかり、さすがのトランプ・ツイッター砲も吠えれば吠えるだけ負け犬の遠吠えになっています。NFTAの一方的破棄宣言も、どうやらそうはなりそうもない妥協案が提出されました。これは注目です。

  負けず嫌いのトランプのこと、まだこれからも吠え続けるでしょう。人類みんなで推し進めてきた「エコ」と「地球温暖化防止」を否定する大統領令にサインをしました。その結末もどうなるか、注目です。

   ギャラップ社の最新の調査では、トランプの支持率はわずか36%に下落。不支持は56%とアメリカ人も見離しつつあります。かれの根拠のないウソのツイッターだけで、果たして相場を持ち直させるだけのインパクトを与えられるでしょうか。株価はトランプの政策実現見通しと実態経済の堅調さの綱引きになっているようです。

   では、トランプですっかりご無沙汰してしまったアメリカ経済のファンダメンタルズを見ておきましょう。

   アメリカ経済は順調です。いや、極めて好調と言っていいほどの好調さを示しています。以前から私は利上げはアメリカの快気祝い、そして「利上げにとって重要なのは物価と雇用だ」と言い続けてきました。失業率が5%を割り続けて失業者が少なくなっているのに、新規雇用者数は相変わらず20万人前後で推移しています。直近2月の統計では、新規雇用者数が23.5万人、失業率は4.7%、時給賃金の対前年上昇率も2.8%と好調で、3月の利上げを後押ししました。

   一方、物価もコア・インフレ率は今年に入って2%台で推移し、利上げを正当化する数字でした。

  ではGDP成長率はどうなっているか。四半期ごとに前期比年率で見ますと、

 

      16年第1四半期  第2四半期  第3四半期  第4四半期

実質GDP     0.8               1.4              3.5           2.0

 

   四半期の数字は振れますが均せばおよそ2%程度で推移。そして今後1年の見通しも17年を通して2%台がコンセンサスです。先進国の中でも好調組に属し、大きな不安材料は見当たりません。

  昨年の今頃原油価格が暴落し、シェール企業の大破綻予想があったことを覚えていらっしゃいますか。私はシェール企業が破たんし、それがジャンクボンド市場の崩壊から大不況へとつながるというシナリオを頭ごなしに否定しました。アメリカの企業破たんの処理方法やシェール企業のマネージの仕方、ジャンクボンドの市場規模などから、シェール産業の崩壊や大不況などありえないと申し上げていました。結果はそのとおりで、あれだけ叫んでいた人たちも今は何も言わなくなっています。

   では現在アメリカ経済に不安材料はないのでしょうか。市場では金利の上昇から個人ローンに頼る住宅販売や自動車販売がマイナスの影響を受け、特に自動車ローンは第2のサブプライム崩壊につながると言う予想が出されています。

  煽り屋さんたちがまたぞろ数字を調べもしないで針小棒大な話をしているので、クギを刺しておきます。

   アメリカは住宅ローンがそうであったように、ローンというローンは証券化されます。そのサイズを見ておきましょう。サブプライム・オートローンのサイズも把握されています。アメリカは統計の国です。Sifmaというサイトに行くと、証券化商品の全体像が示されています。

http://www.sifma.org/research/item.aspx?id=8589959616

 下に掲げた残高全体の統計は15年末の数字までですが、オートローン残高など全体に比べれば取るに足らないことがわかります。ドルを110円で換算します。

 

       オートローン全体 うちサブプライム  住宅抵当証券全体

2015年末    21兆円     4兆円        845兆円

  

  住宅抵当証券にはサブプライムの時に問題になった証券や、政府系のファニーメイやフレディーマックなどのローンの証券化商品も含まれています。住宅分野に比べるとオートローンなどわずか40分の1、サブプライム分はそのまた5分の1のわずか4兆円です。

   オートローン返済の滞りが増えていることは確かで、S&Pが先ごろ発表した17年1月現在、2か月払われなかった延滞の率は5.09%。前年1月の4.66%に比べ増加しています。こう言ってはなんですが、「だからどうした」、というのが数字で見た実態であることがわかると思います。

   ついでに言っておきますが、住宅のサブプライム破綻の場合、回収までには非常に手間暇がかかります。それに比べ自動車などは、差し押さえて売却するのはいとも簡単。それによりローン会社、あるいは回収専門のサービサーはかなりの程度回収できます。それが原因で中古車の価格が下がっていることは確かですが、新車販売を含めたインダストリー全体への影響は大きくありません。

  シェール産業の大破綻騒ぎと言い、サブプライム・オートローンの破綻問題と言い、数字と仕組みがわかっていれば、騒ぎをただの騒ぎだとして高みの見物をしていられるのです。

 つづく

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アメリカ大統領選挙後のみなさんのコメントへのまとめ返信

2016年11月18日 | アメリカアップデート

  大統領選の開票のあった11月9日から10日にかけて多くのコメントをいただきました。また前回の記事にもいくつかのコメントをいただいています。やっと時間的余裕が出てきたので、これまで返事をできずに気になっていたみなさんからのコメントに、まとめて返事を書かせていただきます。


ぽんぬきさんへ

>林先生のご著書に沿った指南は今後も有効であるのか?長期スパンで見ればむしろ円高が外国株や米国債買いのチャンスとなり得るのか?

これは円安方向に行ってしまったので、瞬間風速で過ぎ去りましたね。果たしてチャンスをつかまえた方、いらっしゃるでしょうか。

>不透明度が増した今後の日本と世界経済の成り行きについて、林先生の想像される範囲でご意見を聞かせて下さい。

はい、今後しっかりとブログの本文でフォローしていきます。

おちょこちょいのななしさんへの返事でも申し上げましたが、アメリカ国債を資産運用の中心に据える超安全運用に、全くゆらぎはありません。

トランプが4年大統領をやろうが8年やろうが、米国債の本質的安全性に変化などありません。米国債の金利上昇については、今後さらに本文の中で私の見解をお示しします。


トサカさんへ

>米国と英国が音頭をとってすすめてきた、グローバリゼーション、超資本主義の巻き戻しであると理解します。両者はおよそ世界を席巻し、その恩恵を広くもたらすとともに、多くの後遺症を残しました。

多くの識者の見解もその点にあるようですね。私もそれを否定しません。ただ忘れてならないのは、どこの国も国民も、そのおかげでこれほどの繁栄を享受してきたことです。だからと言ってそのことで満足はしないでしょうが。

私はそうした不満を持つ側にも人間の貪欲さを感じます。強欲資本主義で直接メリットを受ける推進側ももちろんですが・・・

>今回の大統領選がなんらかのアクシデントではなく、いずれ訪れる潮目の変化であったと理解するべきであることは、先のイギリスのEU脱退も同様の理屈によって説明可能であることからも妥当でしょう。過去の延長、集積した知見からの演繹で未来を見通すほかに無いのですから、林さんの分析と見通しは至極まっとうであったと思います。そうした至極まっとうな理屈が裏切られるような事態(潮目の変化)が起きていることこそ、今回私達がまず確認すべきことではないでしょうか。

そのとおりでしょうね。

私はそれらの現象を一つの「地政学上のリスク」ととらえ、講演会の内容にあるように、「同時多発ポピュリズム現象」と表現しました。ただしトランプを除外していましたが(笑)


 シーサイド親父さんへ

小黒一正氏の新著 「預金封鎖に備えよ、マイナス金利の先にある危機」の紹介とレビュー、ありがとうございます。相変わらず新刊への即時対応はすごいですね!

ところで、レビューの文章をどこに投稿されたのですか?

審査するのは誰ですか?

もう一つ、「日本国債が暴落する日は来るのか?」の紹介もありがとうございます。

遂に榊原氏も現実に目覚めたのでしょうか。それとも本音を出したのでしょうか。

彼は財務省退官後も政府に近いところにいたり、様々な諮問委員会にお声がかかるあいだは、言いたいこともいえなかったのかもしれませんね。

諮問委員会は、ヨイショデない声こそ大事なのに、そうした方々は決して委員には選ばれません。いつも大政翼賛会によるアリバイ作りに終わります。去年の年末、増税先延ばしの時に、海外から権威と言われる先生方を大勢招いたのも、まさにアリバイ作りでした。

さらにもうひとつ

>萱野稔人さんが著書「成長なき時代のナショナリズム」のなかで、日本におけるナショナリズムの台頭の原因は外国人嫌いや排外主義でなく日本社会における「パイの縮小」に対する危機感であると核心を突いています。
今回のトランプショックの原因の一つにもなっているような気がします。

これまたそのとおりでしょうね。

日本の場合、それに加えて中国の進出がさらに迫ってくると、右旋回が強くなるかもしれません。

もっともそこまで果たして国民、それも特に若者に旋回させるだけの政治的エネルギーがあるかはかなり疑問ですが。

>女性が社会で台頭する時代は、みなは食糧を分かち合い平和が長く続く、それを”雌時”、逆にパイが少なくなると男が奪い合い戦争が増える、それを”雄時”と言うと聞いたことがあります。

面白い見方ですね。

平和主義者の私としては、雌時の時代に生きていたいですが、昨今の政権のやり口は自ら雄時を宣言して危険な道を歩んでいるように見えます。

  以上ですが、今回返事をつけることができなかった方々を含め、みなさん、コメントどうもありがとうございました。今後も活発に議論していきましょう。


  なお、「アメリカはトランプで大丈夫か」については、さらにシリーズでしっかりと書いていくようにします。


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大統領選挙の戦後処理

2016年10月26日 | アメリカアップデート

  私がNYに住んでいたのは80年代後半で、87年の大統領選挙を現地で経験しました。選挙は共和党の父ブッシュと民主党のデュカキス候補の戦いでした。うちの二人の子供たちは当時11歳と8歳でしたが、小学校で「お前はどっち支持だ」というのがあいさつがわりだったそうで、教室でも先生が大統領選挙を日常的に話題にし、生徒間でも議論させていたそうです。

    今回の選挙の争点の一つであるトランプの女性問題を、いったい小学校、中学校、そして高校などで先生がどう取り上げているのか、とても心配だし興味があります。テレビで毎日、毎時この問題が取り上げられているため、学校でも避けて通ることはできないと思われます。さぞかし困っていることでしょう。

  さて、CNNはすでにポスト選挙の問題を取り上げ始め、上の子供たちの問題などを真剣に議論しています。一国の大統領候補が放送禁止用語を連発している様子が何百回と放映され、それを常識ある著名人などが非難しても彼は意に介しません。相変わらず「9人の女はすべてウソつきだ。選挙後に訴えてやる」。「アメリカのメディアはすべて偏向し、オレ様を降ろそうとしている。こいつらも訴えてやる」と息巻いています。そして挙句の果てに「オレが勝ったら選挙は公正。負けたらインチキだ」

  このあまりのひどさにニューヨークタイムズは遂に、彼がこれまでにツイッターで行った他人などへの侮辱的発言を見開き2ページで全部掲載しました。なんとその数は6,000件に上っています。

  そして「トランプ・パレス」などと名の付いたコンドミニアムに住む人たちが、名前を外せという運動を始めました。これも戦後処理の一つになるでしょう。


   では、今回の選挙後の大事だと思われる後遺症問題を私なりにいくつか取り上げてみます。

後遺症に関する主な点は以下の3つです。

1. アメリカの分断をどう修復していくか

2. トランプ支持者の精神的後遺症にどう対処するか

3. 共和党は党の分断をどう修復するか

  それぞれに対してもう少し解説します。

1.アメリカ国内の分断をどう修復していくか

これと同様の問題はすでにドゥテルテ問題で取り上げていますが、アメリカでもポピュリズムが今後も最大の政治課題として継続します。今回トランプは「反既存政治」という打ち出しで支持を勝ち取っています。この問題は選挙で負けて終わりではないため、今後政策的な対応をする必要があるでしょう。トランプがあれだけ支持された理由は、数年前のウォールストリート占拠運動から表面化し始めた格差問題で、対処は簡単ではありません。

2.トランプ支持者の精神的後遺症にどう対処するか

CNNでは、イラク戦争後の帰還兵士のPTSD、心的外傷後ストレス障害問題にも似た症状が、トランプ支持者やこのニュースを毎日浴びさせられていた子供たちにも表れるとして、精神科医とセラピストをスタジオに呼び、今後の治療について議論を開始しています。この期に及んでもなおトランプの遊説で熱狂的に沸き返っている人々の敗戦後のケアーを真剣に議論しているのです。

そして、より個人的問題としてはトランプを支持して先頭に立っていた、ニュージャージー州知事のクリス・クリスティーや、元NY市長のルドルフ・ジュリアーニなども同じです。ジュリアーニはNY市の犯罪撲滅に貢献し、9・11の時の市長で、冷静な対処が称賛されました。しかし今回の選挙では一貫してトランプを支持しています。2か月ほど前にCNNのキャスターとの1時間に及ぶ1対1の対談で、驚くほどCNN非難を行い、キャスターがそのあまりの非道ぶりに遂に本気で怒ってしまったことがありました。テレビ放映中であるにも関わらず、彼の話ぶりはトランプどころかドゥテルテもびっくりするほどのひどい言葉の連発でした。元市長ともあろうものが、いったいどうしたというのでしょうか。

ジュリアーニのように、著名人でトランプに篭絡され選挙後もマインドコントロールの解けない人たちは、選挙後はきっと社会的に葬り去られるでしょう。しかし、アメリカ国民の何割かがトランプ後遺症に悩むとしたら大問題です。

3.共和党は党の分断をどう修復するのか

共和党は修復不能に近いところまで深々と分断され、民主党もクリントンとサンダースで同じ問題に直面していました。もっとも民主党の場合、サンダースはプライマリー選挙敗北後にクリントン支持に回ったため、表面上分裂はしていません。しかし共和党はそうはいきません。政策論争での対立であればある意味しかたないのですが、トランプを支持する支持しないは、その人の人間性が問われる事柄です。党分裂の危機を今後どう克服するかが見ものです。

   大統領選挙といつも同時進行で、上院・下院の入れ替え選挙も行われます。上院は3分の1、下院は任期2年のため全員の改選です。共和党は現在上下両院で過半数を占めていますが、トランプの悪影響のため、特に下院で多数が怪しくなっています。

以上、すでに始まっている戦後処理についてでした。

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