先週末のアメリカの雇用統計は、非農業部門雇用者数増加幅がコンセンサス予想の半分と意外なほど低調な結果でした。好調なアメリカの象徴だった雇用統計ですが、数値の上では20万人を上回れば巡航速度、25万人以上なら上出来という感じだったのが、突然12万6千人でした。その他の経済指標もこのところ若干スロー気味の数字が多くなってきているため、今後発表される1-3月期のGDPも弱いと見る向きが多くなっています。もっとも株価はすでにそうした数字を織り込み始めていて、3月初めのピーク18,288ドルからすでに3%ほど下落しています。
経済指標がスローになっている原因はドル高による輸出のダウンと原油安から来るシェール開発など投資のダウンだと説明されています。しかし今後の見通しがこれですっかり下方修正されると見る向きはさほど多くないようです。昨年が予想を上回る好調であったことから、多少のスローダウンはやむなし。私も一服することは逆に好調さを長引かせるためには必要だろうくらいに思っています。もしスローダウンでドルが下押すようでしたら、そこはドル買いのチャンスかもしれません。一方で米国債の利上げ待ちの方には、利上げ時期の遅れの可能性が心配ですね。
さて、日本の財政問題です。前回は「プライマリーバランスとは歳出から利払いなどの国債費を除き、それが歳入とバランスしている状態」ということが定義だと述べました。しかし日本の場合は国債費が歳出総額の4分の1も占めているし、現時点の歳入総額の4割にも達しているので、それを除いてバランスしたなどという議論は意味をなさないという解説をしました。
日本のように巨額の累積赤字を抱えていない国ではプライマリーバランスが達成できればそれでひとまず借金問題は一段落となります。それは何故かを説明します。
プライマリーバランスが達成できると、あとの問題は償還期限の来る債券の借り換えができるか否かと、金利レベルの問題になります。一般的にはプライマリーバランスの達成ができている状態は比較的健全財政だと言う判断が下されるため、借り換えに困難は生じにくいのです。
では金利はどうか。金利はそもそも名目のGDP成長率と連動します。成長により資金需要が増えれば金利は上昇しますが、その時はGDPも増えているので税収が上がり、逆にGDPが低成長の時税収は少ないが金利も低い。だから利払いで財政がひっ迫することはない、というのが理屈です。そこで利払い費が極端な巨額でなければ、プライマリーバランスさえ達成されていれば、金利上昇もあまり心配はいらないとなるのです。
一般的には上の様な解説がなされますが、私はそれだけでは満足しません。何故なら、国債発行時の金利とはその時発行される国債に関わる金利であって、過去の金利レベルを全く考慮していないからです。金利は通常固定金利ですから、例えば10年債を発行し続けていれば、それらが償還されるまでずっと尾を引くのです。過去が高金利だったら、高いレベルの支払いは続きます。プライマリーバランスの一般論はまずこの点をしっかり指摘していません。もっともこの部分は日本には有利に働きます。これまで10数年にわたり超低金利が継続しているので、過去分の債務の金利は低金利だからです。
もう一つ重要なことは、必要とされるGDPの増加とは実質値の増加ではなく、名目値の増加だと言うことです。いくら実質でプラス成長しても、デフレにより名目の成長率がマイナスだったら税収は落ちるのです。消費税を考えれば一目瞭然で、単純に購買数量に変化がなくても物の単価の上昇によって購買額が増えればそれで消費税収は増えます。逆にこれまでバブル崩壊以降の日本で起こっていたことは、実質で成長はしていても物価がマイナスのため税収もマイナスが続いていたということです。
だったら極端な話、財政問題は経済成長などしなくても物価さえ上昇していけば自然に解消に向かうのか?イエスです。インフレ時は借金した者勝ち、の原理です。ただし実質の成長がたとえゼロでもいいから、マイナスにはなっていないことが条件です。
これにはさらに若干の注釈が必要です。それはインフレの昂進は政府の歳出額を増やしてしまう可能性が大きいため、税収増加がそのまま利払いや借金の返済資金にはならないことです。つまり政府が購入したり投資したりする物件の値段は上がるし、公務員の給与も上がり歳出は増えてしまうでしょう。それに加えて実質成長ゼロの時にはたとえインフレになっていても経済全体は好調とは言えず、企業は賃上げをしづらいためまさに不幸の連鎖になる可能性がある。これが現時点の日本経済の姿です。去年は実質成長率が年間でゼロ%でしたが消費増税によりインフレ率は2%以上となり、我々は不幸の連鎖の中にいます。
(注)3月のコアのインフレ率がゼロだったというのは、消費税除きです
つづく