前回は「新3本の矢」の前に、「旧3本の矢」がどうなったのか、しっかりとレビューすべきだと申し上げました。それが責任ある政府のやりかたのはずです。
しかし安倍政権は政治面では安保法制では違憲立法をし、経済面ではデフレを克服したと国連などで高々と宣言している割に物価はマイナスに落ち込み、GDPも前期比ではマイナス領域に至ってしまいました。いったいこのガバメントのガバナンスはどうなっているのでしょう(笑)。
では政府になり替わり、3本の矢の最終目標であるGDPの数値をきちんとレビューしておきましょう。
まず12年末に発足した安倍政権の開始第1期目である13年1-3月期のGDPの大きさと、2年と3カ月経った直近15年4-6月期の大きさを比較します。名目と実質の二つで比較し、GDP全体の数字に加え、家計の消費支出額も実質と名目で示します。比較は2年3カ月分を単純に割り算で比較します。年率ではありません。
兆円 13年1-3月期 15年4-6月期 比較 ( )内は家計
名目GDP 478(家計284) 500(家計285) 104.6%(家計100.4%)
実質GDP 524(家計304) 529(家計299) 101.0%(家計98.4%)
名目GDPは2年と3カ月で4.6%伸びましたが、実質ではわずかに1.0%しか伸びていません。その原因は、GDPの構成で6割近くを占める最大項目の家計消費の伸びが鈍いためです。名目ではほとんどゼロに近い0.4%、実質ではなんと1.6%減少しているのです。
家計の中身をさらに分解し、収入の伸びを見てみましょう。私がこれまで申し上げてきた「アベノミクスは不幸の連鎖だ」ということが如実に表れてきます。
厚労省の出している毎月勤労統計によりますと、決まって支給される給与(賞与除き)の対前年比は25年で前年比マイナス0.6%、26年でやっとプラス0.3%と非常に低迷しています。これでは家計消費が伸びるわけはありません。それでも、必要な物は物価が上がってしまっても買わざるを得ないので、先ほどの名目の家計消費はプラス0.4%になっていますが、実は物価上昇により吸い取られているため、実質=量は減らさざるを得なかった。それが実質ではマイナス1.6%と消費が減少してしまった理由です。
一方、アベノミクスは経済にプラスの効果ももたらしています。アベチャンは自画自賛の演説では必ず雇用の伸びに触れます。「雇用は100万人増加しました」と自慢します。それは事実で、13年1月に比べ15年7月の雇用者数は137万人増加し、失業率も低下しています。就任当初の失業率は4.2%でしたが、直近の8月では3.4%と完全雇用と言えるレベルに至りました。ちなみにアメリカでは完全雇用失業率と言われる失業率は5%台前半、日本では3%台前半で、現在は両者ともほぼ完全雇用です。
では雇用がタイトな中で賃金の伸びはどうか。厚労省発表の毎月勤労統計が7月分まで公表されています。従業員1人当たり平均の現金給与総額(名目賃金)は前年比0.6%増の36万7551円でした。そして物価上昇分を差し引いた実質賃金も2年3カ月ぶりにプラスで、0.3%の上昇となりました。
えっ、実質賃金の上昇は2年3カ月ぶり?
そうです。先行した物価上昇に賃上げが追い付けなかった、これこそが「アベノミクスは不幸の連鎖だ」の実態なのです。たとえやっと追いつけたとしても、わずかプラス0.3%では、GDPの消費項目は伸びるわけがありません。
またさらに重要なことを付け加えます。それはいったい日本の人口の何割の人が賃上げの恩恵に浴しているのかということです。それを知らなければ、この賃上げ議論の意味がありません。厚労省はもちろんこの数字もつかんでいます。まず15歳以上の総人口の中で就労者の占める割合ですが、ちょうど6割です。そして新聞が大々的に報道するベースアップや定期昇給があるのはほとんどが大企業と中企業に勤める勤労者ですが、それは就労者の中の4割です。つまり賃金上昇の恩恵にあずかっているのは全体の6割のそのまた4割ですから、24%、約4分の1の人達にすぎません。反対に総労働力人口の4分の3の人達は賃金上昇から取り残されている人達、つまり中小企業従業員、自営業者、失業者、年金暮らしの高齢者、生活保護を受けたりしている人達です。もちろん15歳から20歳くらいの未就労者も一部含まれます。
もう一度まとめます。ニュースでは大々的にベースアップや定昇があって賃金が上昇したことになっていますが、実質賃金はアベノミクスが始まっても最近までマイナスだった。そして賃金上昇の恩恵にあずかっているのは、全労働力人口のわずか4分の1にすぎない。
これではGDPの中で最も大事な「消費」が伸びないのは当然だと言えます。
つづく
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