goo blog サービス終了のお知らせ 

ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

アベノミクス新3本の矢・・・ちょっと待て、私は騙されない その7

2015年10月15日 | 新3本の矢

  アメリカの金利が急低下しています。久々に10年債で2%の大台を割り込みました。アメリカの景気が若干スローダウンしている兆候が小売売上などに出てきたのが原因と解説されています。それに伴って少し円高に動いています。ドル転のタイミングを計っている方にはふたたびチャンスが来ていますが、逆に米国債の投資タイミングは遠のいてしまいましたね。この二つは必ず相反した動きをしますので、円から米国債への投資には時間差が必要です。今後FRBの利上げがどうなるのか、ますます不透明になっているのが気にかかります。


  さてTPPについて、私の考えをまとめることにします。最初に私は「TPPはアベノミクスで唯一評価に値するものだ」と申し上げました。その割には「個別にコメや牛肉を見ていくと本当の自由化などはなく、たいした内容ではない」と矛盾したようなことを言っています。しかしTPPで話題になるコメや牛肉は、合意内容のほんの一部でしかありません。もっと重要なことが多く含まれていて、それこそがより重要なのです。ほかにどんなものが含まれているか、実は大筋合意といいながら内容は公開されていません。そのため交渉の始まる以前に示された大枠をwikipediaからコピペしますので、さっと見てください。それを見ると目的などがぼんやりと見えて来ます。13年に日本が参加する以前の枠組みに関する合意です。

引用

2011年11月12日に拡大交渉は大枠合意に至り、輪郭が発表された。その中で、以下の5つが「重要な特徴」として挙げられている。

  1. 包括的な市場アクセス(関税その他の非関税障壁を撤廃)
  2. 地域全域にまたがる協定(TPP参加国間の生産とサプライチェーンの発展を促進)
  3. 分野横断的な貿易課題(TPPに以下を取り込みAPEC等での作業を発展させる)

     ・規制制度間の整合性:参加国間の貿易を継ぎ目のない効率的なものとする

     ・競争力及びビジネス円滑化:地域の経済統合と雇用を促進する

     ・中小企業:中小企業による国際的な取引の促進と貿易協定利用を支援

     ・開発:TPPの効果的な履行支援等により、参加国の経済発展上の優先課題が前進

  1. 新たな貿易課題:革新的分野の製品・サービスの貿易・投資を促進し、競争的なビジネス環境を確保
  2. 「生きている」協定:将来生じる貿易課題や新規参加国によって生じる新しい課題に対応するため、協定を適切に更新

  同大枠合意に示される以上の交渉内容の詳細については、交渉参加国から公表されていない。

引用終わり

  これで明らかなように、コメや牛肉のことは、1.の市場アクセス(関税)の一部分にすぎません。最重要ポイントは12カ国域内の将来の経済連携プラットフォームを構築するものだということがわかります。そしてそのプラットフォームは世界の経済連携協定の新しいモデルになることを目指しています。

  私なりにさらに突っ込んで解釈すると、中国などの横やりを排除し、『自由主義・解放経済をベースとした世界経済連携の標準モデルで、今後のデファクトスタンダードになりえる』となります。EUというモデルはそれをさらに進め統合にまで至っていますが、TTPは各国が独立・主権を維持しながら連携をすることでお互いに繁栄を目指すものです。

  おもしろくないのは世界で存在感を示したい中国でしょう。自由主義・解放経済とは程遠い独自のモデルを維持し、そのどこが悪いと開き直っています。世界があきれるほど技術やブランドの模倣をし、知的所有権の意識すらない国にスタンダードを作らせてはいけない。そのためには、早期の合意が必要でした。中国版アジア開発銀行であるAIIBはまだしも、為替制限を堂々と行っている国の通貨をSDRの構成通貨に加えるのは、私は反対です。都合が悪くなればあの株式市場の制限同様「今日から人民元の取引はしばらくお休みです」と宣言しかねない通貨は信用できません。通貨の価値は信用のみなのですから、SDRの信用に傷をつけないでほしいのです。

  最後に再度日本との関わりを述べます。TPP問題の初回で私は次のように書いています。TPPは自民党が自らの地盤をあえて崩したと言う意味で、非常に画期的だ」。岩盤規制に多少でもメスを入れた安倍政権の勇気をほめてあげたいと思います。

  これまでいつも外圧でしか自己変革できない日本が、初めて外国と一緒に一歩を踏み出しました。貿易でしか生きていけない国がやっと正しい方向に歩み始めた、それが私の評価です。

  次回から、新3本の矢について書きます。


コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アベノミクス新3本の矢・・・ちょっと待て、私は騙されない その6

2015年10月14日 | 新3本の矢

  前回のレビューをしておきます。農水省がこれまで伝統的に発表していた食料自給率はカロリー換算で39%だが、実は生産金額ベースでは64%だともう一つの数字を併記するようになった。ちなみに64%は、けっして低くない数字だと言われています。そして食料自給率がとても高く100%を超える国々は、日本の友好国であるオーストラリア、カナダ、アメリカ、フランスなどで、そうした国々を敵に回して戦争をすることなどありえず、現実的に考えれば自給率をこれ以上上げる意味などあまりない、ということを申し上げました。

  いま一つは、TPPの農業分野の合意内容は本当の自由化からは程遠く、コメと牛肉ですら実質的影響はほとんどない内容だとお伝えしました。むしろ日本は黒船が来るという場面になると競争力を強化してきた歴史のある国だともお伝えしています。

  TPPの話の初めのころに、ここからは農業をされている方には耳の痛い話をしますと宣言したのですが、こうして見てくるとそうでもないことを理解いただけると思います。

  では次に、農業問題の核心である政府の補助金についてです。いくら自給率が高いと言っても、政府からの莫大な補助金で高くなっていては、疑問符がつきます。国際的に比較すると、農業への補助金は生産額に対してどの程度の比率になっているのでしょうか。この数字もけっこう様々な数字があるようなので、中立的機関とおぼしきOECDの発表数字でおよそのところを見ておきましょう。OECDのサイトにある14年調査の実績値です。

日本;49.2% アメリカ;9,8% 中国;20.2% オーストラリア;2.3% EU平均18.0%

  この数字を見て、どう思われますか。日本は断トツですね。やはり自給率の高い国は補助金が少なく、日本のように自給率が低いと補助金の率も大きくなるというごく当たり前の結果が見て取れます。ちなみに前回記載した自給率は以下のとおりでした。重なっていなくてすみません。

オーストラリア173%、 カナダ168%、 アメリカ124%、 フランス111%

  ちなみに補助金率2割の中国の自給率は日立総研のレポートによれば、2000年代初めには100%前後だったものが、現在は90%を割るところまできているそうです。このところ私の大好きな「さんま」を中国と台湾漁船が沖合で獲ってしまい、沿岸で獲る日本漁船の水揚げが激減しているというニュースがあります。水産物に異常なほど執念を見せるわけが、このへんにもありそうです。

  さて、私が気になるもう一つの数字は、補助金の累積額はどれほどになっているか、ということです。もちろんそれが財政上の大きな負担になるからです。例えば90年代初頭にまとまった関税引き下げのためのウルグアイ・ラウンドの対策費は当初3兆円くらいといわれましたが、最終的には6兆円も出してしまいました。そして効果はほとんどゼロだったと言う評価が定着しています。競争力アップなどなく、ただのバラマキに終わったとの評価です。今回もTPPには対策費がつきもののはずです。我々はウルグアイ・ラウンドのことを念頭に、しっかりとウォッチする必要があります。

  では補助金のことをコメについて見てみます。例えば非常に長期間に及んでいるコメの買い取り価格維持の施策費はいったいいくらになっているのでしょうか。関税率700%ということは、そのぶん国際価格を上回る額で買い上げているという単純な想定を置くと、700%分すべてが補助金だとも言えます。何故ならもし同じ様なコメを海外から買えるのであれば、我々は8分の1の価格で済む。つまりコメの価格の8分の7は補助金だということです。まるでタバコの話をしているようですね。昔は政府の買い取りと消費者価格が逆ザヤで政府が損しているということもありましたが、いまはほとんど消費者価格に転嫁されています。それを数十年も続けていればコメだけでも莫大な金額です。もちろん消費者はコメを買う時に政府の補助金を補てんしているので、結局はコメとは税金の塊を買っているようなものだとも言えます。

  ここまでコメについて非常に単純化して話をしてきましたが、みなさんもご存知のように実はコメの流通はそのような簡単なものではなく、間に農協が入り市場価格を操作したりできなかったり、自主流通米もあったりと言う複雑な問題もかかえているため、消費者には訳のわからないものになっています。複雑であることは農協と農水省の思う壺です。こころある米作農家の中には農協と政府に反旗を翻す勇敢な農家が現れ、ますます複雑さを増してしまいました。こうした補助金行政こそ、TPPで打ち破る必要のある言わば日本の伏魔殿です。その意味でTPPは評価できるものだと私は思います。

  補助金の話に戻りますと、残念ながら過去の農業補助金の累計がいくらくらいなのか、きちんとした数字を探すことはできませんでした。農業施策は実にさまざまなものが存在し、どこまでが補助金と認定できるか難しいからなのかもしれません。ある農業研究者の文章に、「これまでの補助金の累計は約九十兆円だ」という記載があったことだけみなさんにはお伝えしておきます。これが当たらずも遠からずなら、日本の累積赤字の約10分の1は農業補助金だということになります。

つづく

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アベノミクス新3本の矢・・・ちょっと待て、私は騙されない その5

2015年10月10日 | 新3本の矢

  アベノミクス第3の矢に関してほとんど何も新しいものが出なかった中、TPPは唯一評価できる項目だと申し上げました。その中で最大ともいうべきコメの問題を取り上げ、もっと早くからせめて牛肉程度の輸入をして多少でも競争させていたら、700%もの関税をかける必要はなかったはずだ。700%の関税とは、日本のコメの価格が国際標準の8倍もすることの証左だとも指摘しました。

  今回は「私は騙されない」の真骨頂、食糧自給率のお話です。前回の最後に「食料安保」という農水族と農協の合言葉を書きました。日本は自給率が39%と低いのでアブナイ、という例の合言葉です。この自給率は農水省の発表する数字です。つまり大本営発表です。

   これに対しては昔からある逆説的反論の一つに、戦争で石油の輸入が止まったら、食料安保もなにもあったもんじゃない、という反論があります。それはもちろん私もそう思います。しかしもっと冷静に考えましょう。世界で食料生産が自給率100%を上回る有力国とその国の自給率数字を並べますと、騙す側の農水省の資料ですが(笑)、

オーストラリア173%、 カナダ168%、 アメリカ124%、 フランス111%

  国際紛争が起きた時、こうした余裕のある国々がすべて日本の敵にまわることなど全く考えられません。石油や食料の輸入が完全にストップするとは思えません。食料安保問題とはこの程度のことだということ、みなさんも騙されないようにしましょう。

  一般的議論とは別に、私は別の観点からも見てみました。

  この2年くらいで大本営農水省の内部が大きく変化したのをみなさんはご存知でしょうか。どの程度の変化だったかと申しますと、農水省のHPに行くと「食料生産額ベースの自給率は64%だ」と書いてあるのです。生産金額ベースでの自給率を使って日本の自給率を「64%」だと書くとインパクトがないので、カロリー換算して「39%しかない、アブナイ」と書いていたのです。

  えっ?と思いませんか。長年の大本営発表の自給率39%とはカロリーベースの自給率で、そのような指標は国際的には使用されていない指標なのだそうです。私はこれをある方から聞いて、早速農水省のHPを見てみました。するとこの数字が確かに書いてあり、さらにとても大事そうな「食料・農業・農村基本計画・・・これからの10年」と題された平成27年4月発表の計画書にもしっかりと書いてありました。

  実は大本営はカロリー自給率が国際的に通用しない数字だったためか、自ら新たなより客観的とも言える指標を導入していたのです。この話、私は初耳だったのですが、専門家の間ではすでに知られていて、用いられていたのかもしれません。

  では二つの数字の差は何かと申しますと、例えばレタス畑と小麦畑を比べます。レタスは穀類よりカロリーはぐっと低い数字が出ます。レタス畑に小麦を植えると、きっとカロリーは何十倍にもなり大きく改善する。それが39%と64%のカラクリなのだそうです。

  「私は騙されない」、みなさんも騙されないようにしましょう。

  ではTPPによるインパクトがどの程度あるのか。私は専門家ではないので数字を使ってしっかりした話はできません。しかしこれまでの報道や専門家の話を総合しますと、実は目に見えるほどのインパクトはほとんどないに等しいと私には見えるのです。その理由を2つだけ並べますと、

1. TPPの元々の目標である関税の完全撤廃など、今回の合意内容ではほとんどない

2. 大事なコメと牛肉の合意内容は、ほぼ無視できるほどの自由化

NHKニュースのサイトから引用します。

コメ;日本とアメリカのコメの輸入拡大については、日本はこれまでの関税700%は維持する一方、新しい輸入枠として年間7万トンの枠を設けることで合意しました。新たな輸入枠は、協定の発効時は年間5万トンで、13年目以降、7万トンまで増やします。一方、日本はオーストラリアとも主食用のコメの輸入枠を設定することになり、発効時は年間6000トンで13年目以降、年間8400トンとすることになりました。

林コメント・・・700%を維持した上にこんな微々たる輸入などでは微風も吹かないし、13年後など誰も覚えていない。ちなみに日本のコメの生産量は800万トンで、13年後でも輸入は1%にもならない。

牛肉;関税は現在38.5%ですが、協定発効時に27.5%にまで引き下げることになりました。関税率は段階的に引き下げ、協定発効から10年で20%に、16年目以降は9%にすることになりました。

林コメント・・・コメよりましだが、10年後だの16年後だのみんながすっかり忘れたころだし、完全撤廃でもない。

 

  私が一応アベノミクスの成長戦略で唯一評価できると書いた内容は、実はこの程度の内容です。

   ある程度お年の方であれば、その昔オレンジの自由化問題で日本中が揺れたほどの議論があったことを覚えていらっしゃると思います。黒船上陸にも例えられ、日本のみかん農家は壊滅すると言われました。しかし現実はどうでしょう。スーパーにオレンジは並んでいるし、グレープ・フルーツも並んでいますが、ミカンのシーズンになれば、おいしいミカンが圧倒します。それはサクランボでも全く同じ。

   みかんもサクランボも、日本の農家の品種改良の努力により、影響は皆無といっていいほどなのです。私が何度も申し上げたように、「自由化が品種改良を促し、競争力を強化した」のです。

つづく

コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アベノミクス新3本の矢・・・ちょっと待て、私は騙されない その4

2015年10月08日 | 新3本の矢

  前回は、毎年の物価上昇というものは収入が上昇しない者にとって、累積して国民を苦しめるものだということを数字で説明しました。消費税が典型で、その年の上昇分3%だけではなく、3%から5%になり8%になって重税感が累積して増すのと同じ原理です。これまでのところアベノミクス第1の矢、金融政策は不幸の連鎖でしかありません。

  では今回は第3の矢について、合意に至ったTPPの側面から見てみましょう。そもそもTPPは3本目の矢である成長戦略の一つとして位置付けられていました。1本目の矢が成長という的を射ていないで庶民を苦しめ、2本目の矢である財政戦略とは単なる累積債務の上積みでしかない。日本全体が3本目の矢に期待するところは大きかったはずです。海外投資家を中心に株式市場もそれを頼りに2万円を突破しました。しかしみなさんはすでに発表された成長戦略の中身をリストアップできますでしょうか。ほとんどの方はできないと思います。実際にこれといった成長戦略など何も出てこず、唯一残ったのがTPPです。その意味で私はアベノミクスの中でたった一つ評価できる点だと思っていますので、それをしっかり検証してみましょう。

  そもそも日本は貿易立国で、それは明治維新の開国以来変わっていません。そして世界のどの国も貿易で発展しこそすれ、衰退した国はありません。どの国にも自国の得意分野と不得意分野があり、得意分野を発展させ不得意部分を貿易で補うことで国民生活は大きく改善します。特に戦後の日本の発展は貿易抜きには考えられません。

  一方、貿易の自由化によりデメリットを受ける産業があります。典型的には農林・畜産業です。戦後数十年間、自民党政権はそこに票田を持っているため、岩盤規制を死守する側に居続けました。私はTPPは自民党が自らの地盤をあえて崩したと言う意味で、非常に画期的だと思うのです。

  産業振興の観点からは、岩盤規制を守ることで日本はすっかりダメな国になってしまいました。ここからは農林・畜産・水産業などに従事されている方には耳の痛い話になります。決して従事者の方が悪いのではなく、ひとえに自民党の戦後政策が長期にわたり大間違いを犯したのです。

  規制に守られ自由化しなかった産業分野はことごとく競争力を失い、補助金に頼るお荷物になりました。これは世界中の国で同じ道をたどっています。日本ではそれが財政破綻の大きな原因の一つにもなりました。特に問題なのはコメです。

  日本のコメは非常においしく価値ある産物だと私も思っています。しかし単純に価格競争力の観点からいいますと、世界の数分の1の競争力しかない代物になってしまいました。何故コメの競争力が数分の1、あるいはもうちょっと厳密に言えば8分の1しかないと言えるのか。それはコメの関税率が700%だからです。つまり海外のコメに対抗できる価格は8分の1という安価なので、今の価格レベルでは競争力も8分の1しかないのです。品質の問題は後で論じます。

  じゃ、もし農水省と農協を中心とした護送船団がなくて、昔からコメがある程度自由化されていたらどうだったか。日本はコメの生産をあきらめていたでしょうか。それを推定するのは難しいのですが、敢えてトライします。

  日本の消費者を満足させるコメはそう簡単には作れないと思います。しかし米作の気候条件は原産地である東南アジアが圧倒的に有利です。コメを扱う商社などがすでにコシヒカリを海外で作っているように、日本の優れた技術を移転させ品種改良することでかなりの程度は追いつけるでしょう。それはいわゆる長粒種のパサパサした外米ではなく、あくまで日本品種の東南アジア米です。その価格は品質向上・維持のためにかかる手間を考えると日本の8分の1というわけにはいかないでしょうが、その倍の4分の1くらいなら余裕で達成できそうです。それでも超高品質のブランド米は、相変わらず日本でしか生産できないでしょう。

  では日本で生産される普及米はどうなるのか。私は自由化は生産性の向上を促すため、かなりの程度東南アジアに対抗できることろまで価格を下げることはできたと思っています。それでももちろん、飛行機で種を撒くようなオーストラリアなどにはとても対抗できません。しかし国際価格の8倍はありえない。もっとずっと安く生産できているはずです。

  何故私がそうした考えを抱くのか。それは牛肉を考えるとヒントが出て来ます。コメと違い牛肉はもともと日本での生産量が少ないこともあって、以前から輸入されていました。関税率は90年代初めのウルグアイ・ラウンドまでは70%。その後は徐々に下がって現在38.5%になっています。A4、A5クラスのおいしい和牛を食べたい方は高い価格を払い食べ続けています。ブランド牛では一般価格のさらに2~3倍の価格、肉屋の店頭で100gあたり1,500円とか2,000円するものも普通に売られています。しかし一方ではアメリカ産やオージー・ビーフなどの普及品も数多く売られていて、特にひき肉などは外国産が大半を占めるくらいになっています。

  コメもそのようにある程度輸入を自由化し、せめて数10%程度の関税というハンディをつけて生き残るようにできたのではないでしょうか。

  この話に対する反論はいつも「食料安保」という言葉をもってなされます。自民党農水族と農協の、ほほえましい合言葉です(笑)。

つづく

コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アベノミクス新3本の矢・・・ちょっと待て、私は騙されない その3

2015年10月05日 | 新3本の矢

  TPPがどうやら合意に至りそうです。めでたし、めでたし。貿易の自由化議論をすると必ず政府と業界から「国益は死守しなくてはならない」という言葉が出て来ます。私はこれを

「国益とは業界益。業界益とは消費者の損!」

と言い続けて来ました。TPP交渉過程での政府の対応ほど、いかに政府が業界の味方であって消費者の味方ではないということがわかるものはありません。

  私はごはんとともにパンが好きなので、バターが買えないことを大変不愉快に思っています。特に洋菓子を作るパティシェの方のご苦労は、ほんとうに大変だろうと同情します。自由主義の先進国でバターが買えない国があるなんて、とても信じられない。「ニュージーランド、頑張れ!」といつも思っていました。円安でバター価格が高くなってしまったのは仕方ないとしても、量は別の話です。飲用とバター用などの量的規制はあっても、不足だけは単なる失政にすぎないと私は思っています。バターを輸入すればいいだけの話だからです。「いや、そんな単純な話ではない」とくどくど説明する人がいても、私には説得力を持ちません。私にバターを売ってからにして下さい(笑)。


  さて、アベノミクスの「旧3本の矢」のレビューに戻ります。ここまで見てきたように、物価と消費の関係はかなり深いものがあり、賃上げなどにより収入が改善される以前に物価が上昇してしまうと、消費は落ち込まざるを得ない。するとアベノミクスの目標であるデフレの克服=インフレとは、単なる不幸の連鎖にすぎなくなってしまいます。

  前回の記事ではこの2-3年、賃上げの恩恵に浴しているのは大企業などの従業員ばかりで、その他中小企業従業員、自営業、年金暮らしの方などは、物価上昇に一方的に苦しめられている。恩恵に浴していない人達の比率は全労働力人口の4分の3にもなるという推定をしました。もちろん中小企業でも立派に賃上げをしている企業はあると思いますが、日本全体の動きを示す統計上は、わずかな賃上げにすぎません。

  賃上げの恩恵に浴さない人々にとってさらに深刻な話があります。このことはちゃんと議論する人がいないので、数字ヲタクである私がここでしっかりと解説しておきます。

  8月の総合物価指数の対前年上昇率は0.8%でした。すると年金受給者など、賃上げの恩恵に浴さない人達は買う量を0.8%減らさないといけない・・・のではありません。もっともっとです。それを解説します。

   消費者物価が日銀想定どおりに例えば2年連続で2%ずつ上がったとします。すると2年間の累計では、4.04%の上昇です。(1.02X1.02)。面倒なので4%とします。一方、賃上げのあった方々は毎年それに見合って2%ずつ賃金が上昇したとすれば、実質的には消費の量を減らさなくて済みます。

   ところが賃上げの恩恵に浴さない人達の話は全く違うのです。どう違うかを実際の物価上昇率で説明しますと、14年度の総合物価指数は3.4%の上昇でした。それが今年8月は0.8%と低迷しましたので、今年度平均でも0.8%だと仮定します。賃上げを毎年2%ずつもらった人にとって、2年前と比べると賃金は4%上がったので購買力も4%の上昇です。物価は14年度の3.4%と今年の0.8%を足すと4.2%なので、およそカバーできることになります。

   しかし賃上げの恩恵に浴さない人にとっては、去年は3.4%も損をし、今年は0.8%ではなく、3.4に0.8をプラスした4.2%も損をするのです。4.2%損をするという意味は、その分消費する量を減らさなければいけなくなるという意味です。年金受給者であってずっと増額がなければ、毎年の物価上昇はその年の物価上昇分だけでなく、過去の物価上昇の累計で効いてくるのです。「不幸の連鎖」がどんどん蓄積されることになります。

   これは消費増税ももちろん同じです。こちらのほうは累計数字がすぐわかるので、重税感を実感しやすい。最初3%で導入され、それが5%になり、さらに現在は8%とだれでも数字で実感できます。ところが物価上昇は常に現時点の前年比較でしかものを言わないので、本当の不幸度が数字では出てこないのです。

   アベノミクスは「トリクル・ダウン」を目指していたというお話を以前差し上げました。この意味するところは、物価が上昇すれば大企業を中心に企業収益が向上し、賃上げが可能になる。するとそれが中小企業などにも次第に波及し、遂には日本全体がデフレから脱却し、富が増大することになる。

  この話、小平時代の中国の「先富論」で聞いたことがあるお話です。先に豊かになれる人が豊かになれば・・・。発展途上国ならまだしも、今の日本では絵に描いた餅にすぎないことが、3年を迎えるアベノミクスをレビューすることで簡単に理解できるのです。

つづく

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする