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ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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アベノミクスとは何だったのか

2014年11月18日 | 2014年の資産運用
 昨日7-9月期のGDP統計が出ました。私含め誰もが低めのプラスの予想をしていましたが、まさかのマイナス1.6%と出て大きなサプライズになり株価も500円ほど下げました。消費税値上げ後の4‐6月期のマイナス7.3%に続くマイナスで、四半期のデータが2期連続でマイナスするということは、景況感の定義上は不況入りということになります。アベノミクスは2年を経て一時は成功したかにみえましたが経済の実態は不況に入ってしまいました。

  そもそもアベノミクスとは何かから見てみます。内閣府のHPに説明がありますが、それによると「3本の矢をもってデフレを克服し経済を成長軌道に乗せ国民の富の増大を図る」。そしてその結果税収も増え財政バランスを達成する、というものでした。ここまでの2年を3本の矢に従ってレビューしますと、

1.大胆な金融政策
 13年4月に黒田氏が1本の矢どころかバズーカ砲を発射し、「政策は小出にしない。できることはすべてやった」と豪語したものの1年半を経ても奏功せず、前言を翻し「できるものは何でもやる」と言いだし、2発目のバズーカ砲を発射しました。

  なぜ奏功しなかったのか。私がこれまで何度も言ってきたとおり「いくら国債を買ってもオカネは世の中には回らず、日銀にブタ積みされるだけ」だからです。その副作用は甚大です。赤字国債を日銀がいくらでも引き受けるので、金利と言う経済の体温計を失い財政規律などなきも同然になっています。2発の砲弾は天に向けて発射されていますので、いずれはクロちゃんの頭の上に落ちてきます。

2.機動的な財政政策
  失われた20年の最大の失敗は痛み止めのモルヒネを注射し続けたこと(財政出動)で、日本全体が中毒になってしまったことなのに、まだ同じことをしようとしています。今回のリセッション入りに対しても財政出動されるでしょう。その出動がまた「サプライズ」の規模になると、中毒ではすまされずショック死が待っています。

3.民間投資を喚起する成長戦略
  美辞麗句は数多く並びましたが、具体的な成果は上がっていません。


  では一応でも成果とカウントできるものは何か。必ずしも成功までに至っていませんが、一応上げますと、

1.デフレマインドの転換
  もしかするとアベノミクスは本物かもしれないと思い、財布のひもを緩める人が出てきた。しかし大多数の人は物価上昇が先に来たので実質収入が減少してしまい、消費は縮小している。

2.株価の上昇
  大企業のマインドも改善され、円安から業績が向上した。海外投資家を中心に日本株は大きく買われアベノミクス提唱前と比較すると2倍に上昇している。それが富裕層の財布を緩めるという資産効果を持った。

3.円安・物価上昇
  金融緩和最大の成果で、物価上昇に寄与した。しかし多くの人にとって収入増がない中での物価上昇はマイナス効果しかないし、自分の資産をドル建てで評価すると巨額の目減りが起こっている。円安で輸出数量が増えるはずが全く増えず、大きな見込み違いが生じているので、目標は達成できても不幸の連鎖でしかないとも言える。
  
4.大手企業の賃上げ

  アベノミクスへの支援という名目もあるため、利益が向上した企業では賃上げとボーナス増加を実現できた。しかし中小企業の社員、地方に住む自営業者、そして年金生活者も含め大多数にとっては恩恵が及んでいない。日本全体では物価上昇により実質収入がマイナスになってしまった。

 
  ではアベノミクス2年のここまでの総合評価を私なりの言葉で表現しますと、

1.物価上昇を先行させれば経済全体がよくなるというのは本末転倒の幻想だった

2.少数の株式投資家のみが成果を実感したが、大多数の国民にとっては不幸の連鎖が続いている


 もちろん最終結論はまだとしても、ここまでは株価を上げた以外に目ぼしい成果はないと言えます。それが今般の消費増税先延ばしと解散という強引な政局を招いたと言えるのではないでしょうか。
  
  次回は消費増税先延ばしに関するインパクトをみてみたいと思います。

つづく

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外貨建て資産比率をどう考えるか・・・運用下手さん、トモンガさんへ

2014年11月15日 | 2014年の資産運用
  円安は117円に迫るところまで来ています。私は120円程度を一つの節目と見ていることを以前お伝えしていますが、それに近づいてきてしまいました。節目とはそこまで行くということではなく、それを越えると大変なことになる可能性が強いという意味で申し上げています。


  さて、運用下手さんから「外貨建て資産の比率をどうすべきか」というご質問をいただきました。またトモンガさんより以下の質問もいただいていますので、こちらの本文で回答をさせていただきます。

>これから、かってのような円高は、ありえないのでしょうか?(自分でも半分、答えが分かっている気がします)。と同時に今からでもドル転遅くないのでしょうか?やっぱ何よりも、すべて円建てで考えてしまう考え方を変えなきゃいけないのでしょうか?

  トモンガさんへの回答は、「超円高には戻らないので今からでも遅くはない。すべてを円建てで考えると道を誤る」です。

  では運用下手さんのご質問にあった外貨建て比率をどうすべきかについて私の考え方を述べます。運用下手さんのプロフィール登録を見返しますと、40才代でかなりの金融資産をお持ちですね。そして今後それらのかなりの部分は住宅資金だとのことでした。

 私は著書の第1章で「自分の資産の棚卸をしよう」という提案をしています。その目的は、みなさんの本当の資産内容は手もとの金融資産だけではなく、社債保有に該当する将来に渡る給与国債保有に該当する将来に渡る年金収入も含める必要があるからです。

  「金融資産の何割を外貨で保有するべきか」などという単純なお話はファイナンシャルプランナーのおばちゃん達におまかせします。みなさんはせっかくこのブログで「本当のフィクスト・インカム考え方」に出会っていますので、それに基づく考え方を勉強していただきたいと思います。それは、

  「給与や年金などかなり確度の高い、しかも積もり積もれば莫大な円建て収入・資産があるのに、金融資産のみの3分の1だとか半分だとかを外貨建てにしても、今後に備えたことにはならない」というのが私の考え方です。(年金がどの程度安全かのお話は棚上げします。)

  簡便法としては、ご自分の将来の給与所得の総計、年金収入の総計を計算してみてください。それを現時点の金融資産に加算した上で合計額を出し、そのうちどれだけを外貨で保有すべきかを考えるのが妥当だと思います。私の主張は「当座の必要資金を残して、すべてを外貨にすべき」なのですが、例えば3分の1を外貨としても、多分保有する金融資産のすべてになってしまう方が多いと思います。すでに持家のある方ならなおさらです。

  給与・年金額の計算は単純合計ではなく、本来であれば私の著書にある「擬似国債」、「擬似社債」の考え方でいくべきですが、それは著書を参考にしてください。

  本当のフィックストインカムの考え方で資産を棚卸すると、普通のサラリーマンの方の円資産への偏りは大きすぎるということが理解できるでしょう。数値を大事にしている論旨であれば、当然こうした結論が導けるのです。

  とは言え、私の本をお読みいただいた方から「金融資産の適正な外貨比率は」との単純な質問はよく受けますし、個人的に相談されることが多いのも事実です。そして「必要資金を除いてすべてを外貨にしたところで、大した比率にはならない」と申し上げても、そこまで思い切った外貨シフトはなかなかできないことも理解できます。なんだかんださんから大胆な外貨シフトで成功しているというお話をいただきましたが、それでもそこまでは踏み切れないでしょう。
  
  それでも私は上記のように数値の裏付けを持つ持論を再度提示させていただきます。私の著書は3年前に出版されていて、原稿は4年前に書かれたものです。その時点と今現在を比べると何が違ってきたか、今一度確認してみてください。それは、

・米国債とドルに対する信頼は一段と増した

・円に対す疑念は一段と深まってきている


ドルへの投資の抵抗感は、3・4年前よりはるかに小さいはずです。

  円が再度力強く円高に進むことは長いトレンドで見ても、比較的短い視点でみても非常に考えづらいことです。何故なら

まず短い視点から考えれば、

・アベノミクスの失敗はすでに本人が認めた

・日銀のバズーカ砲は真上に向けて発射され、落ちるのは自分の頭上


さらに長期的視点に立てば、

・日本は財政破綻の大激震に向け、着々と歩みを進めている

・ホテルカリフォルニアからチェックアウトしつつあるアメリカ優位の展望を覆す材料はない


  目先の円ドル相場に目をつぶることができれば、長期的にはドルシフトは間違いなく成功すると思います。

  以上がとても大雑把かつ繰り返しのお話しではありますが、すべて数字に基づいて考える私に見えている将来です。

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検証 「円安は日本全体にはプラスだ」 by 黒田日銀総裁 その2

2014年11月07日 | 2014年の資産運用
 前回は日銀のクロちゃんの言った「円安は日本全体にはプラスだ」は、円資産の目減りを考慮すれば全くの間違いだと述べました。貿易収支だけ考えても、円安が収支をさらに悪化させる段階にまで日本経済は進んでいるのです。
  
 今回のバズーカ2号は、中央銀行が返済不能なまでに累積債務のたまった国の国債を買いまくるだけでなく、株式やREITも購入額を増やします。そして国民の大事な大事な年金まで援護射撃に使って自己主張を実現しようとしています。そんな政府・日銀のやり口に、みなさんも大いなる危機感を覚えていらっしゃるでしょう。

 私は3年ほど前から「2015年前後に経常収支が赤字化し、円安が進行する可能性がある」とみなさんにお伝えしてきました。黙っていてもそうなるのに、今回のクロちゃんはそれにプラスして赤字国債の実質引受や、株式投資に手を染めて日銀の資産の中身を劣化させようとしています。そうすれば円は徐々に信用を失い円安は自ずと実現できます。国や会社や家計そして個人も、悪になびくのはいとも簡単です。そして国も会社も家計も個人も、そこからの更生はとても困難で長く苦しい道になります。

 それが前々回に指摘した「ホテルカリフォルニア現象」です。クロちゃんは自分がそして中央銀行がオールマイティーだと信じていますので、ヤバくなったら自分がブレーキを踏めばよいと考えています。いかにも市場の恐さを知らない官僚的発想です。

円安が止まらなくなった場合、ブレーキをかけられますか?

 いままで円高に対していくら介入してもブレーキが効かなかったのと同様、円安に対しても経済全体の競争力の裏付けがなければ、介入などは無力なのです。

 そしてブレーキを踏み安くなりすぎた円を高く戻すということは、すべてを巻き戻すことですから、国債を売り、株を売り、REITを売ることで、金利の上昇を甘んじて受け、株の下落を受け入れることです。それをしても大丈夫なところまで日本経済をもっていけるというのは、大いなる幻想です。中央銀行が日本経済の競争力を取り戻すことはできないし、政府の成長戦略で競争力を取り戻すのも、ほとんど幻想です。それができるくらいなら、何故いままでの日本ではできなかったのか。はたまた諸外国で低迷した経済を何故政府と中央銀行によって成長路線に乗せることができなかったのか。アメリカにそれができたのは、先日の記事に描きましたように、アメリカは元々高い潜在成長力を有しているからです。

 現実の市場分析に戻ります。円安がさらに昂進した場合、株式相場はいつまでも喜んで上昇を続けるでしょうか。物価上昇は消費全体を減退させ、企業業績を悪化させます。トヨタなど一部の企業の好業績で日本経済の底上げなど決してできません。115円にタッチし始めた為替レートに対して、すでに昨日の株価は危機感を見せ始めています。

 日本の株式売買高の3分の2は相変わらず海外投資家が担っています。円安の急速な進行はドルを基準に株式投資の判断をする海外勢の足をひっぱります。国債に対する海外勢の買いの手も引っ込んでいきます。そのあとは、満を持して日本売りのタイミングを計っているヘッジファンドが頭をもたげる可能性があります。

 政府・日銀の一か八かの賭けが大成功を収めて、日本経済が資産バブルとともに大いなる成長を遂げれば、日銀がホテルカリフォルニアからチェックアウトできる日が来るでしょう。しかしそんな日は来ません。こころある人々は資産バブルなど望んでいません。ツケをバクチで解消することなど古今東西絶対に不可能なのです。


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