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ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

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大丈夫か日本財政17年版 その3 日銀保有の国債はどうなる、2

2017年05月27日 | 大丈夫か日本財政

  前回は日銀のバランスシートがいかに巨額か、数字をもってお示ししました。その大きさは、日本全体のGDPに匹敵するほどになっていると指摘しました。

  その記事に、Invest shiftさんから次のような質問がきました。ちょうどこの件が予定していた記事の内容そのものですので、以下に回答させていただきます。ちょっと難しい部分があるかもしれませんが、池上彰君にならい、なるべく「やさしく」を心がけました。

>日銀が債務超過になっても、日銀が国債を償還まで持ち続ければ何も起こらないような気もしますが、どうなのか気になります。

  残念ながらそうはいきません。理由は二つあります。まず簡単な回答から。

その1.もしなにも起こらないのなら、財政で行き詰った世界中の国はみんな同じことをすればいい

  ところがそんなことをして危機を食い止められた政府・中銀などありません。

その2.中央銀行が信用を失い、通貨が暴落する

  歴史はいつもそうした経緯をたどります。

  日銀を企業に読み替えて考えてみましょう。するとすぐに理解できます。

  企業が資産の減価により巨額の債務超過に陥ると、どうなるでしょう。ちょうど90年代はじめに資産バブルが崩壊した時の不動産会社などがそれです。

  サブプライムローンをしこたま抱えて倒産したリーマンもそうでした。信用を失い、資金調達ができなくなり、破綻しますよね。シャープは債務超過が見えたためにホンハイに売られてしまい、東芝はその解消のため、子会社を売却します。

  日銀の場合、東芝程度の債務超過ではなく、自己資本の何十倍もの債務超過になる可能性大です。

  よく国や中央銀行と企業は違うとか言い張る人がいます。国家は破綻しないとか、日本国には十分な資産があるとか言う人たちです。日本国に売却可能な資産は多くないということはこれまで何度も説明しました。今一つ大事なことを説明します。

  「日本国は違う」と言い張る人たちは、バランスシートとは何かの基本的知識に欠ける人たちばかりです。ここからが説明の核心部分です。

  日銀が国債を400兆円もバランスシート上にキープできる裏付けは、それをファイナンスできているからです。

  すみません、池上彰君にならい、やさしい日本語で言いなおします。彼は同じ慶応経済同期卒で、クラスは隣の隣なので、君と呼ばせていただきます(笑)。

  国債を資産として貸借対照表上に保有し続けることができるのは、それに見合う資金調達ができているからです。貸借対照表とは、左側が資産、右側が借り入れなどの資金調達です。資産合計と負債・資本合計は常に同じ数字でなくてはバランスしません。先週も掲げた日銀の17年3月末の貸借対照表を簡単に再掲します。

   資産           負債・資本

 国債  412兆       銀行券  100兆

 貸付金  44兆                     当座預金 343兆

 ETF   13兆        その他   39兆

   その他  21兆        資本・準備金 8兆

資産合計 490兆      負債・資本合計 490兆

 

  日銀の場合、国債を買うための資金調達の大部分は貸借対照表上の右側、負債の項目にある当座預金です。資産にある国債を412兆円保有するために、市中銀行から当座預金を343兆円受け入れ、プラス100兆円の日銀券を発行してまかなっています。

  343兆円はブタ積みと言われますが、日銀にとってはそれがなくなると同額の国債を売却しなくてはならなくなる、大事な資金調達源なのです。誰から調達しているかと申しますと、日銀に口座を持つことのできる市中銀行です。国債の売却は金利上昇につながります。そして当座預金がなくなるということは、市中銀行に預金を返済するということです。

  一方、銀行はみなさんのおカネを預金として調達し、企業に資金を貸し付けたり、投資をしたりします。本来国債に投資していた資金を、今は日銀の当座に預金としてブタ積みしているのです。日銀は市中銀行の当座預金をあてにして、それをもって国債に投資しています。よく言われる打ちでの小槌、お札を刷って国債を買っているのではありません。

  A銀行が日銀に国債を売却し、数兆円単位で当座預金を有している場合を考えましょう。日銀が価格の暴落した巨額の国債を抱えていたら債務超過となり危ないので、当座預金をとりあえずおろしておこうと思うはずです。

  そのままにしていてお金を取り戻せないとなったら、頭取を初めとする取締役は責任を追及され、個人で何兆円もの返済を強いられます。国債暴落に気づいたら役員連中はまずは日銀から逃げ出しておこうとしますよね。それが自己防衛です。

  当座預金が引き下ろされると日銀はどうなるでしょう。国債を保有する裏付けがなくなるので、暴落している国債をさらに安値で売却して、返済資金を調達する必要に迫られます。悪夢のような負のスパイラルが始まります。持ち切って沈んだままにすることなどできません。

  さらに、国債の売却は日銀の損失を確定させます。つまり帳簿上の評価損ではなく、実現損になってしまうのです。

  ここまではご理解いただけますでしょうか。

  預金者であるみなさんご自身のことをついでに考えておきましょう。

  みなさんがB銀行に1,000万円預金しているとします。もしB銀行の頭取がA銀行とは違い政府の意を受けて、日銀への当座預金を引き下ろさず心中しようとしたら、みなさんはどうしますか。私だったら即座に全額引き下ろしにかかります。当然ですよね。

  日本人のそうした自己防衛パニックは、73年のトイレットペーパー騒ぎや、それから20年以上たった90年代の平成の米騒動を思い起こせばすぐ理解できます。トイレットペーパーやコメでもそうなるのですから、ましてやなけなしのおカネとなれば、大パニックです。

  それだけでは済みません。国債暴落は市中銀行も郵貯も生保も同じように直撃します。どこもが取り付けに襲われ、同時多発パニックになります。

  きのうまで大丈夫と思っていても、金融機関の取り付け騒ぎは実に簡単に起こります。もしかするとこの記事を誰かがツイッターでばらまいただけで生じる話かもしれません。信用というのはそのような脆弱極まりない、カラス細工でできているのです。

  誰もがSNSを使う時代の新しいパニックは、あの超独裁者リビアのカダフィを一撃で倒したりするほど、威力抜群なのです。

  こうして理詰めで見てくると、裏付けのない虚構に支えられた日本国の信用など、ひとえに風の前の塵に同じだということがわかると思います。2020年のプライマリーバランス達成などどこ吹く風という安倍内閣、気を付けよう格付け会社と暗い道(笑)。


  ここまで一生懸命やさしく解説したつもりなのですが、それでも「そんなこたー、むずかしくてよーわからん」と言う人がいるかもしれません。でもそんな人ほど、実は簡単にパニクル人たちなのでしょう。Owlsさんが指摘されたとおりだと思います。

  以上が「日銀が国債を償還まで持ち続ければ何も起こらないような気もしますが」、ということへの回答です。

  Invest shiftさん、回答になりましたでしょうか。

つづく

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大丈夫か日本財政17年版 その2 日銀保有の国債はどうなる

2017年05月23日 | 大丈夫か日本財政

    日本のことに戻ります。前回は日銀による巨額の国債保有リスクに関して、金利上昇の及ぼすインパクトをシミュレーションしてみました。

  前回記事の一部を引用しますと、

日銀の保有する国債のポートフォリオの全体像は、

償還までの平均残存年限;8年5か月

平均クーポン金利;1.08%

保有残高は昨年12月末で410兆円です。

(前回の記事では、何故か16年12月末の数字が420兆円と間違っていましたので、ここで正しい410兆円に訂正させていただきます。すみません。)

平均年限8年5か月の金利がそれぞれ3・5・7%に上昇した場合、価格100の債券が、どれだけ安くなり評価損が出るかを計算しました。

        3%   5%    7%

価格     86.5%  74.7%  64.7%

評価損    55兆   104兆  145兆

  クーポン金利1.08%の国債価格は、8年5か月の市場金利が3%に上昇した場合、100の価格が86.5に下落します。減価分13.5%を金額に換算すると、それは55兆損をした、となります。同様に5%に上昇すると104兆円の損、破綻に近いと言われる7%なら価値の3分の1が毀損され、145兆円の損失と計算できます。

  では、そうした大きな価格の減価が日銀のバランスシートに与える影響を見てみましょう。それが今回のメイン・テーマです。

  まず日銀のバランスシート上、自己資本がどれくらいあるかを見ます。日銀のサイトで、バランスシートを見ることができます。今年の3月末で引当金と準備金の合計は、わずか7.7兆円しかありません。資本金という項目もありますが、わずか1億円なので端数にもならず、無視します。

自己資本比率で言えば、  7.7兆÷490兆=1.6%

  極めて低い自己資本比率しかありません。破たん寸前のリーマンでも3%でした。自己資本の額は7.7兆円ときわめて端数に近い数字です。金利が3%になっただけで評価損が55兆も出るので計算上吹き飛んでしまいます。47兆円もの債務超過となる。それが金利上昇による損失のインパクトです。

  日銀の場合、名目の資本金は昔から1億円と決まっていて、日銀のもうけは政府が吸い上げるのと、引当金と準備金に組み入れられるため、民間企業の自己資本はこの2つの合計額である7.7兆円になります。

  前回は触れませんでしたが、今一つ指摘されている問題があります。日銀は国債を無理やり買うために、価格を釣り上げて購入してきました。そのためオーバーパーの国債を多く買っています。オーバーパーでの購入とは、償還価格が100と決まっている債券を、103とか105とかで買うことです。するとその分は償還まで保有しようがしまいが確実に損失が出ます。その累積額を細かく計算した推定値は16年9月末で8.7兆円と計算されています。その後も購入を続けているので、10兆円くらいには達しているはずです。しかし金利変動による数十兆円の損失に比べれば、もののかずではありません。それでもオーバーパーによる損失だけで自己資本の7.7兆円は吹き飛びます。もっとも最近の国債発行は非常に低金利のため、逆に大したオーバーパーの価格を示さなくても買える状態ですので、低金利下ではこの分の損失はさほど大きくなりません。

  では、ちょっと興味ある比較数字を見てみましょう。それは日銀のバランスシートの比較です。いわゆる「異次元緩和」を引っ下げてクロちゃんが登場したのが13年4月ですから、その直前の3月末と4年後の現在、17年3月末の比較をしてみます。

          13年3月31日     17年3月31日  兆円

資産   国債    125兆         412兆    3.3倍

     貸付金    25兆         44兆

     ETF      0          13兆

         その他    14兆          21兆

資産合計       164兆         490兆    3倍

 

負債   銀行券    83兆                    100兆

     当座預金   58兆          343兆   6倍

     その他        17兆                     35兆

資本

      引当金    3.2 兆         4.5兆

      準備金    2.7兆          3.2兆

負債・資本合計       164兆         490兆

 

   異次元緩和のおかげで、わずか4年で資産合計が164兆から490兆と3倍になっています。490兆円とは、日本のGDP総額に匹敵します。もちろんそれに見合って負債・資本合計も3倍になりました。現在の資産の中身ですが490兆円のうち412兆、84%が国債です。

   一方の負債ですが、13年に58兆円だった当座預金は343兆円と6倍になりました。これが金融機関のブタ積みの数字です。世の中に出回っている日銀券はその間に83兆円が100兆円と、わずか17兆円、2割ほどしか増えていません。

  何度も申し上げてきた通り、日銀がいくら国債を買おうが、世の中におカネは出回らずブタ積みばかりという実態が、このバランスシートの比較に表れています。

   クロちゃんはこの後始末をどうつけるつもりなのか。先日の会見では記者が「もう打つ手がないのでは」と質問すると、つぎのように答えています。

  「国債の4割は買ったが、まだ6割は市場に残っているので、いくらでもやる手はある」

  いくらやっても無駄なのに、まだいくらでもやる手は残っているとウソブク。おそろしやクロちゃん。

   その一方、政府は2020年度にプライマリーバランスを均衡させるという目標を、できそうもないので先送りすると言い始めています。

  つづく

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大丈夫か日本財政17年版 その1 日銀保有の国債はどうなる

2017年05月14日 | 大丈夫か日本財政

  かわいいトランプちゃん、大きな墓穴を掘りまくっていますね。しゃべりすぎる犯罪者が自らボロを出し墓穴を掘るのを見ているようで、ほほえましい限りです(笑)。FBIの元長官コミーに対しても、「いいか、だまってろよ!」と毎日ツイートしています。そうすればするほどマスコミが喜ぶのにね。

  長官の解任理由を3日で完全に変更してしまったら、解任理由書を示しめして説明した報道官や副大統領が怒るもの当然です。その上「もう毎日のブリーフィングはしない」だとか、相変わらずのやんちゃぶりに、政権内部もだいぶいら立ちが目立ってきています。いつまで内部が持つのかも注目です。

  CNNでは著名批評家が、「アメリカ大統領に小学1年生が就いた」という批評を投稿していました(爆)。納得です。

 

  日本ではアベチャンが先走って、20年までの憲法改正を宣言し、野党だけでなく党内からも批判を浴びています。暴れる北朝鮮を使って改憲ムード高めようとするやり方が強引すぎるのでしょう。憲法学者のほぼ全員が憲法違反だという集団的自衛権を成立させてしまったのだから、それ以上何が必要なのでしょう。緊急性への対処は十分すぎるでしょう。

  と書くと、平和ボケとい批判が聞こえてきそうですが、この政権の三権分立の無視ぶりや違憲立法を見ていると、憲法などないも同然。改憲など全く無用にしか思えないのです。

   何度も申し上げますが、私は自衛隊を必要だと思うし、それに合わせたウソのない憲法を持つべきだと思っていました。しかし違憲立法をする安倍政権がいる限り、そのまま9条にさわらないほうがいいと思うようになりました。

  9条には、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」とあるのに、全く無視するのですから。「国防軍は持てる」などとしようものなら、空母どころか戦略核兵器だって保有しそうです。


  さて、言いたい放題言ったあとは、日本の話題に移ります。初回は日銀です。大利根決戦が終わったところで、私とクラスメートが話をした場面に戻ります。話題は日銀の黒田氏が18年に再任されるか否か、私の質問に大手金融機関のトップにいた友人が答えている話でした。

引用

私が友人に「こうした人事を見ると、黒田氏の再任は決まりかな?」と聞くと、彼は「今さら安倍さんも黒田氏を放り出せないよ。これまでのすべてを否定することになるしね」、と回答。

「じゃ、ますます緩和に突っ走るの?」。

「それしかないだろうな。そのつもりの人事だもん」

「出口はどうなるの?」。

「そんなものないよ。インフレさ。インフレで国の借金を実質帳消しにする以外に手はないだろう」。

「インフレで金利が上がったら日銀は大損して、信用を失うよね。保有国債の値洗いをしないことにするのかな」。

「もちろんそうさ。持ち切れば値洗いなしってことにするのさ」

「でも日銀は保有国債のポートフォリオを公表しているから、専門家はよってたかって値洗いしちゃうでしょ」。

「そうだな。でも、『だからどうした』って開き直るのさ(笑)。それを見た国債市場は売り一色になって、円も暴落だろうな。それが本格インフレの開始のサインだよ、きっと」。

  最後に私が「もっとも市場には売る国債も残ってないかも」というと一同爆笑で議論は終わりました。

引用終わり

  日銀は買える国債が少なくなったため、単なる国債の爆買いからイールドカーブ・コントロールなどという屁理屈をつけて国債の買いのペースをダウンさせています。しかし買っていることに変わりはなく、いまだに市場に存在する日本国債の価格変動リスクを市場から消し去ろうとしています。

  友人は価格変動リスクを覆い隠すため、日銀はきっとすべての国債を償還まで持ち切ることでリスクはないとしてしまうだろうとのことでしたが、私は債券の専門家なので、日銀保有国債の値洗いシミュレーションを簡便法でやってみます。

  値洗いシミュレーションとは、もし将来金利が上昇した場合、日銀はどれほどの評価損を抱えるかの試算のことです。

  シミュレーションに必要なのは、保有残高と保有国債の残存年限、利回り、さらに厳密には購入単価ですがそれだけは除いて計算します。このシミュレーションでは国債1本ずつの計算をするのは不可能ですので、すべて平均値を使い、国債の束を1本にまとめて計算します。結果は当たらずとも遠からずで、およその数字を把握することが可能です。

  まず日銀の保有国債の残高は、16年12月末の資金循環統計で長短国債合わせて420兆円です。その加重平均クーポン利率は公表されていないので、財務省が公表している残存国債全体の加重平均クーポン利率を適用します。日銀は長短国債をおよそ残存国債全体に合ったかたちで保有していますのでそれで当座の用は足ります。

  加重平均クーポン利率は1.08%です。長短すべての残存国債を合わせて加重平均しても、たったの1.08%とは驚くべき低さです。まだ過去の高い金利の分が残っているのに。そして同じく残存国債の平均年限は8年5か月です。これらの数字をもとに、保有国債全体をクーポン金利1.08%、年限8年5か月の1本の債券として価格変動をシミュレーションすることにします。

  8年5か月の1.08%の金利が、それぞれ3・5・7%に上昇した場合、価格100の債券が、どれだけ安くなり評価損が出るかを計算します。結果は以下のとおりです。

        3%   5%    7%

価格     86.5%  74.7%  64.7%

評価損    56.7兆  106兆  148兆

  数字の見方は、クーポン金利1.08%の国債価格は、市場金利が3%に上昇した場合、100の価格が86.5になる、というように見ます。減価分13.5%を金額に換算すると、それは56.7兆損をした、となります。同様に5%に上昇すると106兆円の損、破綻に近いと言われる7%なら価値の3分の1が毀損され、148兆円の損失と計算できます。とても恐ろしい数字です。

  では、次回はその評価損のインパクトが日銀のバランスシートに与える影響を見ることにします。

 

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日本につける薬の話 その2

2017年02月28日 | 大丈夫か日本財政

  今を去ること3週間ほど前に「その1」を書きましたが、今回はその続きで2回目です。何人かの方からコメント欄でも解説を依頼されていました。

   1回目の後は定年退職さんの「はじめての資産運用」のお話になり、そのまま3週間が過ぎてしまいました。この議論には多くのコメントをいただき、きっとみなさんのお役に立った重要な議論だったと思います。

   では本題です。日本の行く末ばかりでなく、みなさんの保有資産の将来の価値を減少させようという、捨ててはおけない重要なお話ですので、みなさんもしっかりと今後の議論の行方を見極める必要があります。

 1回目の記事を要約します。

   日経新聞が日曜版にフルページで、クリストファー・シムズ教授の財政理論(FTPL)をインタビュー形式で解説しました。ノーベル賞を受賞したプリンストン大学教授の理論が、日本経済一発逆転の切り札になりそうだと、内閣顧問の浜田宏一氏などが評価しています。

   まず手順について日経の記述を引用します。

   政府が財政支出を増やす

   企業や個人が将来の財政悪化を懸念する

   お金の価値が下がる

   インフレが発生する

  そのインフレで政府債務の実質価値を減らそうというものです。物価上昇がゼロ近辺だと、金融政策では限界があり、財政出動の番なのだそうです。

   そして政府は財政支出を増やしても、「増税はしません。インフレで借金を返します、と公約すればいい」、とあります。

「政府のトップが『インフレを起こす準備ができている。それを債務返済に使う』と言えば、人々の予想を十分に変えることができる」と教授は言っています。

   私は債券の専門家の立場から批判的見解を述べます。まず、一番大事なのは、

①  国債の価値を毀損してやる、と政府が言い放つのと同じ

こんなたわけたことを言う政府はいないということです。もしいたら、自ら「借用証書など破って捨ててやる」と言うような政府に、誰も金輪際金を貸さないでしょう。

  「投資家がいてこそ成り立つ国家債務の話を、投資家抜きで考える机上の空論にすぎない」

  これがまず債券の専門家からシムズ氏への一撃です。他の経済評論家や金融評論家からこの重要な批判は聞こえてきません。私が知らないだけかもしれませんが。

②   政府が財政支出を増やす

日本ではすでに20年以上財政支出を増やし続け、人々は十分過ぎるほど懸念をしています。いったいこの教授、日本が世界最悪の債務超過国で、しかも現在も赤字を垂れ流し続けていることをどの程度認識しているのでしょうか。ついでに日本の物価上昇率がゼロ近辺になったのは95年の話で、今に始まったことではありません。大丈夫かな???

  もし日本が世界の他の先進国並みの債務レベルで、最近物価上昇率がゼロ近辺になったならまだしも、日本と言う極めて特殊な超債務国に対するアドバイスとは全く思えないのです。  

  もしそれを十分に認識した上で言っているなら、ゼロインフレでGDP対比で240%にもなる財政支出をしてきた過程で、何故デフレを克服しインフレにできなかったのかを説明願いたい。金利政策も超緩和が続いていました。

③   企業や個人が将来の財政悪化を懸念する

「増税しないと言えば人々が消費に励む」なんてことが今の日本にあるわけがない。一方で国債価値が毀損されていけば、投資家=金融機関は破たんに瀕します。97年の金融危機を彷彿し、人々や企業は金融機関からカネを引き出しにかかります。

④   お金の価値が下がりインフレが発生する

このブログに集まっている方々は③と④の懸念から、ご自分の資産を守るためヘッジ方法をさぐり、ドルへ避難し、そして米国債投資こそが最も安全だと納得し、実行しています。

   インフレを助長することができたとしても、インフレとともに円は暴落します。そうしたヘッジの動きがすでに一般個人にまで徐々に浸透しています。

   さらに債券の専門家に戻ってコメントを続けますと、

「インフレで債務を帳消してみせる」と日本政府が宣言したとたん、シングルAをやっとキープしている格付けを、格付け会社は間違いなくダウングレードします。実質踏み倒し宣言なのですから。

   すでに日銀は国債発行残高の4割を保有していますが、それでも残りを保有する金融機関を中心とした機関投資家は売却に殺到します。もしそれをせずに保有を継続したりすると経営陣は株主から善管注意義務違反、あるいは背任行為で訴えられ、個人で損害賠償をすることになります。

   経営者が「政府に協力する」などと言う言い訳が通用したのは、ガバナンスなどなかった古きよきむかしの物語です。

  さらに、「日本と言う国は債務をインフレで帳消しにする国だ」というレッテルは、末代まで残ります。国がいったん信用を失うと、回復までに何年もかかるのです。ギリシャなどの南欧諸国が比較的早く回復したのは、あくまでユーロ圏の内にあり統合欧州全体の庇護を受けているからで、日本にはそうした後ろ盾は一切ありません。

   この教授はもちろん日本の現状と過去の経緯をよくわかっているはずです。なので14年の消費増税が失敗だったと評価しています。たったの3%の消費増税で大きく消費は落ち込み、その後3年も回復していません。賃金は名目で多少なりとも上昇しているにもかかわらず、消費増税を上回る実質上昇がないからです。

   だったら今後10年単位で2%のインフレ=増税が継続するとどうなるのか。賃金や年金の上昇がそれを上回り続ける保証がないため、消費増税直後と同じように人々の消費は毎年毎年落ち込みます。

   昨日のウォールストリート・ジャーナルは遂に、「日本の金融緩和策は失敗に終わった」と結論付けました。その一番の理由は「20歳から34歳のインフレを知らない若い世代は安全志向が強く、積極的に消費などしない」というものです。

 ついでに団塊の世代を代表して私から一言。

 「最もカネを持っている高齢者は若者より慎重で、カネを貯めこむことしかしません」、キッパリ!

   インフレを知っている団塊の世代さえ防衛本能に従っているほどなのに、誰が政府のインフレ宣言ごときで無駄な消費などするもんですか(笑)。

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日本につける薬のはなし その1

2017年02月03日 | 大丈夫か日本財政

  よのなかに かほどうるさきものはなし とらんぷ とらんぷと よるもねむれず

 

  かほどうるさきトランプから離れて、日本のことも書いていきたいと思います。

 

  日経新聞が日曜日にフルページで、クリストファー・シムズ教授の財政理論(FTPL)をインタビュー形式で解説しました。ノーベル賞を受賞したプリンストン大学教授の理論が評判になりつつあります。シーサイド親父さんは、

シムズ教授の物価水準の財政理論(FTPL)の内容が徐々に分かってきたところで、さっそくリフレ派の人たちが、そちらに移動している構図が見えてきました。

 と書かれています。

  特にアベノミクスの理論的支柱の一人である浜田宏一氏がそこに活路を見つけたようですので、クギをさしておきましょう。いや、彼はアベノミクスが功を奏さないので「自分は間違っていた」と認めたのに、また誤った理論で上塗りしようとしているので、年寄り見合ったお灸をすえておきたいと思います(笑)。

   なんのことだかわからない方が多いとおもいますので、まずは超簡単解説をしておきます。

  日経記事のタイトルは「インフレで債務軽減宣言を」。サブタイトルは「脱デフレ、金融政策では限界だ」です。

   タイトルだけでピンとくる方もいらっしゃるでしょう。そもそも金融政策だけで2年もすれば簡単にデフレから脱却できると高らかに謳いあげた連中が、失敗したので別の手を考え、それをまたぞろノーベル賞受賞者に言わせているということを。

 

  そもそも超緩和策の核心部分はクロちゃんが何度も言っていたように、みんなの「期待インフレ率」に働きかけ、みんなが「インフレになるかも」とその気にさせることでした。

  それに失敗したのに、今度も「インフレになるまで、徹底的に財政出動をするぞ」と政府に宣言させ、みんなをその気にさせろと言っているのです。

   財政出動の目標を従来からの景気回復とはせず、インフレによる債務削減にしようというのです。つまり「インフレが100%になれば、政府の債務は実質的に半分だ」、ということを目標にします。するとみなさんの現金・預金の価値も半分になる、恐ろしい政策です。

 

  そんなバカな、冗談じゃない、と言う反論に対してこのシムズ教授の用意した回答は、「いや、100%じゃなくて、2%までだよ」です。

   日経に出ている彼の言葉を引用します。まずは、

  「政府のトップが『インフレを起こす準備ができている。それを債務返済に使う』と言えば、人々の予想を十分に変えることができる」と言っています。さらに、

 「歯止めの効かないインフレは恐ろしいものだ。人々は物価が目標の2%に達して以降、3%、4%、5%と上がっていくのではないかと恐れる。しかし今では金融政策の進化で、インフレを抑制する手段が多くある。いざとなれば緊縮財政に転じることもできる」。

 

  私はこれを見て、「なんともおバカな政策だ」と即断しました。理由はたったひとこと。

 「ネタバレの政策に誰が踊らされるもんか!」

   人々はハイパーインフレにこそ恐れを感じますが、ネタバレ・インフレなど「どこ吹く風か」に違いありません(爆)。

   私は立派なノーベル賞受賞者をおちょくるつもりはないのですが、自分の理論に酔ってネタをばらし、人々をあざむけると思ったら大間違いです。

   今一度、この教授の考え方を日経新聞により解説してもらいます。ちょっと難しい言葉が含まれます。

   そもそも彼の考え方は、「物価水準の財政理論」に基づきます。英語ではFTPL、Fiscal Theory of the Price Levelの略です。数式はシーサイド親父のコメントにありますが、難しく、怪しいので省略し、以下に日経の記述を引用します。手順は、

①   政府が財政支出を増やす

②   企業や個人が将来の財政悪化を懸念する

③   お金の価値が下がる

④   インフレが発生する

インフレで政府債務の実質価値を減らそうというものです。 そして政府は、

「増税しません。インフレで借金を返しますと公約すればいい」、とあります。


   このブログに集まっているみなさんなら、そんな公約を宣言した瞬間に待ってましたとばかりに、政府をあざけるでしょう。何故ならみなさんは、

 「そんなこと言われなくたって、とっくの昔に財政リスクや円リスクには準備万端だよ」だからです。

   それでも浜田先生のお言葉にアベチャンが乗ったらどうなるか。次回はそれを債券の専門家の見方で見通しておきます。

つづく

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